剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

40 / 135
 えーと、シリアスゲージがまだ不十分でございます。

 とりあえず、ニートアルトリアネタ。

 前後編で最後になるので、お付き合いいただければ……。



【ネタ】ニートリアさん、続き(前編)

 現世歴2004年 2月 2日

 

『問おう。貴方が私のマスターか?』

 

 そんな言葉と共に、10年に及ぶ私の平穏な暮らし(ニートライフ)は幕を閉じました。

 

 まさか、未だに聖杯戦争でのサーヴァント契約が生きているとは、このアルトリアの目を以てしても見抜けなんだわ。

 

 などと『海のリ●ク』ごっこをしていても仕方ありません。

 

 状況が掴めない私の目の前では、今や『懐かしの』という表現が最も適切となった青のバトルドレスに白銀の甲冑という出で立ちのもう一人の私が、へたり込んだ燈色の髪の少年とマスター契約を結んでいました。

 

 そっくりさんやコスプレというチャチなものではありません。

 

 私のアホ毛が言っています、あれは別の世界の私であると。

 

 かくいう私はというと、ごちゃついた蔵の隅で母上から頂いた夕食であるスタミナ丼をもっきゅもっきゅと食べていました。

 

 まったく状況は解りませんが、これでも私は大人の女。

 

 自分の事を優先して騒ぐ、などという醜態は(さら)しませんとも。

 

 そうやって黙って静観していると、矢のような速度で外に飛び出す甲冑の私。

 

 外に目を向ければ、赤い槍を構えた全身青タイツの変人と刃を交えていました。

 

 なんとも血気盛んな事です。

 

 私ならば、間違いなく蔵の扉を閉めて引き籠ってますね。

 

 だって、闘いなんて面倒じゃないですか。

 

 ブリテン時代に嫌と言うほどやってきたのです、私人になってまで剣を取るなんて御免ですよ。

 

 そんな事を考えながら箸を進めていると、こちらに気付いた少年に声を掛けられました。

 

 どうも彼は外で闘っている外の私……面倒なのでクラス名で呼びましょう。

 

 セイバーと私が姉妹か何かだと思っているようでしたが、その辺は即座に否定しておきました。

 

 私の姉兄は兄上と姉上だけですので。

 

 しかし、少年がこちらを見て微妙そうな顔をするのは何なのでしょうか?

 

 今の私は青のジャージに短パンというパーフェクトなリラックススタイル。

 

 十年は愛用しているので、違和感などあるはずがないのですが。

 

 とりあえずお互いに名前を交換していると、外ではセイバーが敵がいるなどと言って塀を飛び越えようとしています。

 

 戦意MAXの彼女に対して、状況が掴めていないと言っていた衛宮少年は混乱中。

 

 どうやら彼は人死にを出すのが嫌なようですし、後々の事を考えれば一肌脱ぐべきでしょう。

 

 ちょうど空になった丼を、風の魔術で隠した剣を振り上げるセイバーの後頭部に向けて、しゅーと!

 

 丼はクワンッといい音を伴って直撃し、塀を飛び越えようとしていたセイバーは見事撃墜されました。

 

 しかし、私の全力投球にも傷一つ付かないとは、流石は『フェアリー・ブレイバー』が開発したアダマンタイト製。

 

 保温だけでなく耐久性もばっちりです。

 

 さて、その後は外から入って来たツンデレのテンプレのような黒髪ツインテールの少女魔術師、そして赤い外套(がいとう)を身に着けたアーチャーも合流して、衛宮少年の家の中で状況の説明会と相成りました。

 

 部屋に入る前に、セイバーから丼をぶつけた事で詰め寄られましたが、マスターからの指示だと少年を犠牲に追求を躱しました。

 

 我が事ながら、あのセイバーの相手をするのはきっとメンドクサイでしょうから。

 

 説明会でそれぞれの話を聞いてみると、今回の騒動はやはり聖杯戦争で、衛宮少年は巻き込まれただけであることが判明。

 

 まあ、かく言う私も巻き込まれたクチなのですが。

 

 聖杯戦争については、触り程度ですが少女魔術師こと遠坂凜から説明がありました。

 

 しかし、参加するにしても止めるにしても正式に話を聞かないと始まらないという事で、一行は監督役がいる教会へ向かう事が決定。

 

 で、とりあえずの方針が決まると、疑問の矛先はこちらを標的にします。

 

 隠す事でもないので、平行世界のアルトリア・ペンドラゴンであることを明かすと、何故真名をバラすのかとブチキレるセイバー。

 

 そういえば、聖杯戦争ではサーヴァントは本名を伏せる(なら)わしがありましたっけ。

 

 もう十年も前の事ですし、クラス名で呼ばれるのも最初の頃だけだったから、忘れていました。

 

 さて、私は正直に答えたというのに、彼等は微妙な表情を浮かべます。

 

 何か変な事でも言ったか? と首を(ひね)っていると、衛宮少年から『なんでジャージなのか?』という問いが。

 

 自宅で(くつろ)ごうとしたら事故で召喚された旨の事を話すと、衛宮少年だけが同情してくれました。

 

 どうやら衛宮少年はいい奴なようです。

 

 あと『なんとだらしない』と言っていたセイバーは絶対に泣かす。

 

 それから当然のように教会への同行を告げられましたが、そちらに関してはキッパリと断りました。

 

 だって、私はサーヴァントではありませんから。

 

 だから衛宮少年とパスも繋がってませんし、当然クラスだってありません。

 

 そもそも、まだ生きてますから英霊ですらない。

 

 今回の召喚だって、衛宮少年とセイバーに引き摺られた事故に過ぎません。

 

 あと『全て遠き理想郷(アヴァロン)』が不調なので帰れないと告げると、衛宮少年が離れに一部屋用意してくれました。

 

 まったくもってお人好しですが、そういったところも好ましく感じます。

 

 御礼と言ってはなんですが、彼等が留守の間はしっかりとこの家を守ってみせようではありませんか。

 

 これでも自宅警備員は十年のベテランです。

 

 キャメロットに勝るとも劣らない警備をお見せしましょう。

 

 

 現世歴2004年 2月4日

 

 

 衛宮邸で自宅警備員を始めて二日が経ちました。

 

 昨日は日付が変わってからの深夜帯が慌ただしかっただけで、後には何もありませんでしたね。

 

 とはいえ、一行で終わらせるのは少々アレですので、その辺を記す事にしましょう。

 

 あの夜、警備に着任して1時間ほどすると実家から封筒が届きました。

 

 中に入っていたのは手紙と小さな笛が一つ。

 

 手紙には母上の字で、私がニート脱却の第一歩を踏み出した事への喜びの言葉と『焦らずゆっくりと社会復帰すればいいのよ。がんばって』という温かい励ましが記されていました。

 

 ……これには某トリ野郎から『人の心が分からない』と言われた私も感激しました。

 

 正直、令呪三画使われるよりも効果があります。

 

 安心してください、母上。

 

 このアルトリア、衛宮邸警備の任を見事やりとげてみせましょう!!

 

 テンションが上がったところで、次に行きましょう。

 

 笛の方ですが、こちらは姉上からの礼装でした。

 

 効果は1度吹くとモードレッドが、2度吹くと姉上が、3度吹くと兄上が助けに来てくれるそうです。

 

 こんな設定の特撮番組がありましたね……。

 

 ちなみに、モードレッドに関してはお助けではなく、あの子の相手を依頼するときに吹くよう要請があるとのこと。

 

 姉上、出張した妹に子守を押し付ける気満々ですか……。

 

 ともあれ、家族からの生暖かい愛に悶絶することになったのですが、長い夜はそれだけでは終わりません。

 

 今度は日付が変わった午前三時。

 

 ネット仲間のオッキーとスマホゲームに熱中していたところ、教会へと(おもむ)いていた一行が慌ただしく戻ってきました。

 

 何でもバーサーカーと戦闘になり、衛宮少年が致命傷を負ったとか。

 

 これは私にとっても一大事。

 

 ここで家主である衛宮少年に昇天されては、連鎖的にこちらも住処を失ってしまう。

 

 母上からあのような応援の言葉を貰ったのに、今更『ダメでした♡』なんてどの面下げて言えるでしょうか?

 

 ワリと本気で危機感を感じた私は、魔術的加工で四次元倉庫となっているジャージのポケットから外傷用の霊薬を取り出し、大慌てで居間に向かいました。

 

 しかし、こちらの心配は杞憂と終わりました。

 

 現着した時には、衛宮少年が負っていた腹部の傷はほとんど完治していたのです。

 

 まるでビデオの巻き戻しを見ているように再生していく表皮を見ながら手を(かざ)すと、そこから感じるのは紛れもなく『全て遠き理想郷』の魔力。

 

 どうやら、衛宮少年は件の鞘に何らかの縁があるようです。

 

 私やセイバーを召喚できたのも、それが原因でしょう。

 

 怪我を負ったと聞いた時はヒヤリとしましたが、幸いにも家主は無事でした。

 

 そうして安心すると、今度は腹の虫が自己主張をはじめます。

 

 気がつけば、夜食にはちょうど良い時間。

 

 自宅警備員は(まかな)い付きが原則ですが、体調不良で倒れた雇用主にそれを求めるほど私も鬼ではありません。

 

 出来るニートは自炊だってお手の物。

 

 ポケットからバケツサイズのカップラーメンを取り出してお湯を注ぐと、流れるような動きで自室へと戻ります。

 

 夜食にカップ麺は定番。

 

 蒙古(もうこ)タンタン麻婆麺という新発売のフレーバーも個人的に当たりだったこともあり、容器はあっという間に空になりました。

 

 腹がくちくなれば、待っているのは夢の世界への誘いです。

 

 重くなった(まぶた)の示すままに、温い布団に入るとプツンと意識は途切れてしまいました。

 

 ひと眠りの後、昼過ぎに目を覚ましたのですが、衛宮少年はセイバーと外出中だったために家の中は無人。

 

 スマホを片手に留守番という警備員の本分を遂げた私は、部屋から出る事無く二日目を終えました。

 

 さて、日付が変わって本日です。

 

 目を覚ますと知らない天井が見えたのには少し焦りましたが、数分もしない内に思い出したので問題ありませんでした。

 

 いつもなら目を覚ます為に湯浴みの一つでもするのですが、ここは実家ではないので自重します。

 

 布団の上でスナック菓子を摘まみつつ日課であるスマホゲーのログインボーナス回収とお気に入りサイトの巡回をしていると、セイバーが不機嫌な顔で入ってきました。

 

 こちらを見るなり眉間の(しわ)をさらに深くした彼女は、苛立ちを隠そうともせずに朝食である事を告げると足音荒く出て行きました。

 

 なんとも礼儀知らずな。

 

 せめて、他人の部屋に入る時はノックの一つでも行うのがマナーだと思うんですが。

 

 ゲームの期間限定イベントの周回やSS読破などニートとしての予定は盛沢山なのですが、家主から食事に呼ばれたとあっては行かないわけにはまいりません。

 

 洗面台をお借りして顔を洗って居間へと到着すると衛宮少年にセイバー、アーチャー主従に(すみれ)色の髪の少女と栗色のショートカットの女性が卓を囲んでいました。

 

 私の事に関してショートカットの女性が衛宮少年に詰問をしていたようですが、別の事に気を取られていた為に内容は把握していません。

 

 私の関心事は朝ご飯……ではなく、菫色の髪の少女です。

 

 彼女を見た瞬間、私のアホ毛に備わった妖気レーダーがビンビン反応したのです。

 

 感じる妖気から察するに、彼女はかなり厄介な妖怪に憑りつかれている模様。

 

 脅威度の例をあげると、ウチの近所にある洞窟でチョコチョコ出てくる死回蟲とかいう肉食の芋虫くらい。

 

 ご飯を美味しくいただいた後、少女───サクラを我が警備室に引っ張り込みました。

 

 一体何事か? と目を白黒させるサクラに、メモにペンを走らせて筆談で用件を伝える私。

 

 憑りついている妖怪如何(いかん)では声に出して告げると察知される恐れがある、それを予期しての対策です。

 

 こちらの質問に彼女は目を丸くしていましたが、妖怪は守護的なものではない事や排除して問題ないかを問うと、首を何度も縦に振って肯定の意を示していました。

 

 言質が取れたのならば、あとは行動あるのみ。

 

 私は首に下げていた笛をまずは二度、そして一拍子置いて三度吹き鳴らします。

 

 犬笛と同じなのか音は出なかったものの、少しすると押し入れの襖が開いて中から兄上と姉上が現れます。

 

 姉上は普段通りのゆったりとした私服姿、兄上は少し土の付いた黒いツナギを着ていました。

 

 どうやら呼んだタイミングが悪く、兄上は農作業の最中だったようです。

 

 言ってませんでしたが、兄上は妖精郷に居を移してからNOUMINとなりました。

 

 誤字ではありませんよ。

 

 『農民』ではなく、『NOUMIN』です。

 

 普通に考えて、体長10mを超すワームを一日何十匹もズンバラズンバラ斬り殺す農民などいる訳がありませんから。

 

 そう言えば、ワーム肉の塩焼きが普通に食卓に並ぶウチは普通じゃないのかもしれません。

 

 美味しいんですけどね、ワーム。

 

 少々脱線しましたが、話を戻しましょう。

 

 何があったのか? と首をかしげる二人に事情を説明したところ、姉上は即座に結界を展開。

 

 返す刀でサクラを魔術で拘束すると、そのまま身体のスキャンを始めました。

 

 診断の結果、彼女は体内に複数の魔蟲に巣食われている事が判明。

 

 さらに一部の蟲は心臓などの主要な臓器にまで手を伸ばしており、このまま除去すれば命に関わるそうです。

 

 さて、普通であれば白旗を上げるような状況なのですが、私の目の前にいるのは妖精郷でも屈指のチート。

 

 サクラに自分たちの処置の手段を筆談で告げて承認を得ると、あっという間に蟲を排除してしまいました。

 

 具体的には、① 兄上がサクラを氣脈の操作で仮死状態にする(除去した際、出血等によるショック死や失血死を防ぐ為)。

       ② 兄上、因果を断つ事でサクラの中の蟲を除去。

       ③ 姉上の治癒魔術と霊薬によって、蟲に喰われた個所を治癒。

       ④ 仮死状態解除。兄上の気付けによってサクラは意識を取り戻す。

 

 という工程でした。

 

 オペ時間10分という某ドクターKもビックリのスピード施術によって、サクラは健康体を取り戻す事となりました。

 

 この施術の副産物として、霊薬の効果で蟲による凌辱の跡も消えた事は同じ女性として祝福しようと思います。

 

 この後、むこうに仕事を残していた兄上達はあっさりと妖精郷へ帰還。

 

 結界を察知して駆けつけた衛宮少年たちへの説明には苦心するハメになりました。

 

 いやはや、サクラの弁がなかったら私の工房(ヒッキー)たるこの離れを追い出されるところでした。

 

 ちなみに、話の流れからサクラとリンが生き別れの姉妹であること、そしてサクラが養子先から受けていた虐待を衛宮少年達は知る事となりました。

 

 全てを聞いたリンがサクラに行った『大回転エビ反り土下座』は、それは見事なモノでした。

 

 面白動画としてサイトにうPすれば、大賞間違いなしでしょう。

 

 ……不謹慎なのでやりませんが。

 

 どうしてサクラを助けたのか、ですって?

 

 そんなの、ナイスおっぱいだったからに決まってるじゃないですか。

 

 母上や姉上がいないこの現状、私の癒しが不足するのは目に見えています。

 

 となれば、その穴を埋める為にナイスおっぱいを提供してくれる人材は必要不可欠。

 

 ボリューム的には少々不足しているものの、彼女ならばガレスに通ずる癒しオーラも相まって、姉上たちと触れ合えない虚しさを埋めてくれることでしょう。

 

 あ、サクラ。

 

 別に変な意味で言っているわけではありませんよ。

 

 抱き枕的なモノになってくれて、人肌の恋しさを埋めてくれればそれでオッケーですから。

 

 

 現世歴2004年 2月5日

 

 

 え~、私の聖域たる衛宮家警備室(自称)の利用メンバーが増えました。

 

 件の人物は先日助けたサクラのサーヴァントであるライダーです。

 

 なんでもライダーのマスターを委託していたサクラの兄が盛大にやらかしたそうで、彼女の所業の影響で衛宮少年たちの通う学校は休校。

 

 ライダーもセイバーとアーチャ―に追い立てられ、()()うの(てい)でここに逃げ込んだそうです。

 

 一つ吉報があるとすれば、逃亡のドサクサにサクラの兄からサーヴァントの制御を行う書物を奪った事で、マスター権限が本来の形に戻った事でしょうか。

 

 サクラとライダー曰く『聖杯なんていらないし、外にいるとセイバーとアーチャーにライダーが殺されるので、ここで(かくま)ってほしい』との事。

 

 まあ、サクラに関しては滞在している間の癒し要員ですし、そんな彼女の頼みですから隠れさせるのは(やぶさ)かでもありません。

 

 さらに言えばサクラが食事を持ってきてくれるということで、こちらを見る度にしかめっ面を浮かべるセイバーに会わなくていいという利点もあります。

 

 ここはOKを出すべきでしょう。

 

 そんなこんなで居ついたライダーは、私の予備のタブレットを使ってネット小説を読み漁っています。

 

 彼女のお気に入りは、小さくて可愛い少女と姉妹ものの百合小説。

 

 どこか妙な業を感じるセレクトですが、こういった趣味はツッコミを入れると戦争まっしぐらです。

 

 そっとしておく事にしましょう。

 

 さあ、今夜は夜通しオッキーと古戦場周回です!

 

 

 現世歴2004年 2月7日

 

 

 今日も今日とて自宅警備員業務に勤しんでいると、セイバーが乗り込んできました。

 

 なんでも私の生活態度は目に余るもので『今まではシロウ(衛宮少年の事です)の言もあって見逃してきたが、それも我慢の限界だ!』とのこと。

 

 と言われたところで、私も『はい、そうですか』と生活態度を改めるつもりはありません。

 

 侵入者が無い為に気づかないでしょうが、私は24時間休みなくこの家を警備しています。

 

 もし、この家に許可なく立ち入ろうモノがあれば、情け容赦なく『アーサー三連殺』をブチ込むことでしょう。

 

 そもそも、私と彼女は並行世界の同一存在というだけで、実際は面識などない赤の他人です。

 

 家主の衛宮少年がOKを出しているのだから、彼女がこちらを諫める権利は無い筈なのですが。

 

 そう伝えると、彼女は顔を赤く染めて声を荒げます。

 

 しかしまあ、彼女も大概(たいがい)(あお)り耐性がありませんね。

 

 この程度の忍耐でよくブリテンの王が務まったものです。

 

 怒りでヒートアップしているセイバーと至極冷静な私。

 

 当然、生産的な会話などできるわけがありません。

 

 そうやって言い合っている内に、セイバーはこう言いました。

 

『貴様が私ならば、何故ブリテンを救おうとしない! 滅んだ祖国をそのままにしておけるのだ!?』

 

 この言葉で私はセイバーが何を胸に聖杯を求めているのかを察しました。

 

 『聖杯の(もたら)す奇跡によって、滅んだブリテンを救済する』

 

 愚か、まったくもって愚かです。

 

 亡国の王としての務めを果たした時に自身の王器の無さを痛感したけれど、よもや今になって再確認するとは思いませんでした。

 

 目の前の私は国を存続させることのみに心を裂き、滅んだ時の備えを全く行っていないのでしょう。

 

 だからこそブリテンを、祖国を救うという誓いを立てて、それを成そうとしている。

 

 その選択が残った民とその子孫の紡いだ歴史を、根こそぎ無かった事にするという事に気づかずに。

 

 二度と王になろうなどと考えないという戒めの意味も込めて、ここからは王という名の鋳型に嵌め込まれた彼女との会話を記す事にしましょう。 

 

───────

 

「セイバー。ひょっとして、貴女の聖杯に掛ける願いはブリテンの救済ですか?」

 

「最終目的はそれだが、正確には違う」

 

「というと?」

 

「私の願いは選定の剣の儀のやり直しだ。私は王に相応しい器ではなかった。だからこそ選定の儀をやり直し、よりブリテンを統べるに相応しい人物を王座へと迎えねばならないのだ」

 

「……まったくもって無駄な願いですねぇ」

 

「なんだと?」

 

「知らなかったんですか? あの選定の儀はマーリンによって仕組まれたもの、つまりはやらせです。アルトリア・ペンドラゴンのみが剣を抜くことができ、それ以外は絶対に剣を手にできない様に、仕掛けがされていたのですよ」

 

「馬鹿な!? 何故、そのような事を……!」

 

「『私』に王を名乗る資格を持たせる為です」

 

「王を名乗る資格……?」

 

「たしかに『私』は前王ウーサーの子です。しかし当時のブリテンはウーサーの崩御と共に旧ブリテンが解体されて久しく、前王の子を名乗る山師など掃いて捨てる程存在していました。『私』がブリテンの後継者として立つには、そういった山師達とは違うという証明が必要だった」

 

「その為の選定の儀だと」

 

「そうです。旧ブリテンの宮廷魔術師であったマーリン自らが予言と共に舞台を用意し、しかも選定の為の剣は正真正銘の聖剣です。そこまでお膳立てを整えれば、民も抜いた者を紛い物と笑う事は無い。あとは理想の王として生み出された『私』が民衆の前で剣を引き抜けば、ブリテンの中興の始まりというわけです」

 

「……それは本当なのか?」

 

「ええ。ブリテンの末期にマーリンがゲロしましたから。それよりも自分が滅ぼした国を救おうなんて、よく考えますね」

 

「何が可笑しい? 王ならば、国の滅びを回避しようとするのは当たり前だろう」

 

「それは滅びが確定しておらず、回避する方法があればの話でしょう。当時のブリテンではそれは当て嵌まりません。ましてや、1500年もの月日が流れた現代では猶更(なおさら)です」

 

「どういう意味だ?」

 

「当時のブリテンは神代から人理への世界の移り変わりに取り残された為に、急激な環境の変化の影響で作物が取れなかった。違いますか?」

 

「……そうだ」

 

「国家にとって食料の自己供給は最低限度の必須条件です。それを為せない時点で、その国は滅びを免れない。その原因が世界となれば、並大抵の奇跡では回避する事などできないでしょう」

 

「そんな事は言われずとも分かっている! だからこそ、私は騎士達に聖杯を探索させたのだ! 神の子の血を受けた聖杯ならば、ブリテンを救えると信じて!!」

 

「国家元首がそんな不確かな物に(すが)ってどうするのですか。そういう時に王が成すべきは、国体の維持と同時進行で亡国としての次に繋げる準備でしょうに」

 

「貴様、国を諦めたというのか!」

 

「ええ。実際、どう足掻いても国家の存続は不可能でしたから。穏健派の中にいたペンドラゴンの傍流に何があっても反乱軍として蜂起しない事を条件に、国家崩壊後の指揮権を任せていました。状況によってはブリテン人の権利が保護されるのならば、ローマ帝国の支配を受け入れる許可も添えてね」

 

「ローマ帝国の支配だと……!?」

 

「ブリテンの地は神秘を身に宿した古き民であるブリテン人が支配しているからこそ、世界の動きについていけなかったという可能性があったので。支配権が島外の民であるローマに移れば、島の時計も進み輸入作物も育つかもしれない。確証はありませんが、手段の一つとして考慮に入れるべき案だと思いますよ」

 

「…………」

 

「セイバー。どうして貴女はブリテンの滅びを受け入れられないのです?」

 

「自分が……ッ! 自分が身命を捧げた国家が滅ぶなど、受け入れられるワケがないだろうッ!!」

 

「気持ちは分からないでもないですが、王となった以上はそんなセリフは通りません。国家元首の座に就いた者は権力を行使する代償として国家を繁栄させる義務と、国が滅んだ際はその咎の全てを背負う責任があります。だからこそ誰よりも冷徹に国家を見つめ、その命脈が尽きると判断すれば『次』へと繋がる手を打たねばならないのです」

 

「なにが『次』だ!? 国が滅んでしまったら、『次』など何処にもないではないか!!」

 

「いいえ。たとえ国が滅ぼうとも、我々についてきた民は生きています。『次』とは民が生活していくための新たな基盤の事です。地位や名誉を失おうとも、それを確保する事が亡国の王に課せられた使命なのです」

 

「民……」

 

「民は国が無くとも生きられます。しかし、国は民無くば成り立ちません。だからこそ、国家は日々を生きる民達に重きを置かねばならない。しかし、セイバー。貴女のブリテンの救済はそんな民達の歴史を踏み躙る行為になりかねないのです」

 

「どういう……意味だ?」

 

「仮に聖杯でのブリテン救済が叶えば、歴史は大きく変わるでしょう。それは今現在も紡がれている歴史、貴女の民と子孫たちが必死に生きた軌跡の消滅を意味します」 

 

「……」

 

「セイバー。貴女にそれを行う権利があると思いますか? 仮にブリテンを救ったとして、世界に名立たる大英帝国と謳われた現在のイギリス以上の繁栄を約束できるのですか?」

 

───────

 

 このあと、セイバーは死人のような顔色で部屋を後にしました。

 

 『亡国の準備』なんて偉そうなことを言っていますが、ぶっちゃけると家族との妖精郷への隠居生活が楽しみだったので、早い内に国をたたもうとしていただけなんですよね。

 

 あと、話に出てたペンドラゴンの傍流ですが、奴に王座を押し付け……ゴホンッ! 譲渡の話を持ち掛けたのは、ヴォーディガーン討伐から間もなくだったりします。

 

 あの時は母上達が妖精郷に帰ると聞いてすぐだったので、ついて行く気満々でしたから。

 

 しかし、あのヘタレ野郎の青ビョウタン。

 

 「めんどくさいから嫌ッ!」(意訳)と、何度打診しても絶対に頷かなかったのです。

 

 奴にうんと言わせたのは、本当に滅亡寸前。

 

 反乱軍とサクソン・ローマ連合を相手にする少し前だったりします。

 

 野郎がもっと早く頷いていれば、私のニート生活がこんなに遅れる事は無かっただろうに……。

 

 今、思い出しても腹が立ちますね。

 

 何時か機会があったら、その辺の事も込めてケツにロンゴミニアドを突っ込んでやる事にしましょう。

 

 

 現世歴2004年 2月8日

 

 

 またしてもニート仲間が増えました。

 

 自宅警備隊三号に就任したのは、異世界の私ことセイバー。

 

 どうも昨日の会話で願いも心もへし折ってしまったらしく、今は死んだ眼でネット小説を読み漁っています。

 

 なんというか、見ているジャンルが全て異世界俺Tueeeeeモノだというのはどうなのでしょうか?

 

 時折聞こえてくる『こんな世界なら……世界に嫌われてさえいなければ、私だってやれるんだ……』という某クリプターさんのような呟きがとっても不気味です。

 

 しかし、これは困りました。

 

 彼女には家主である衛宮少年を護るという大切な使命があるというのに……。

 

 ほら、ツンデレ少女が『衛宮君がアインツベルンに攫われたーー!!』とか騒いでますよ。

 

 はてさて、これはどうすればいいのでしょうか?




 聖杯戦争も半ばなのに、一歩も外に出ていない。

 当然フラグも立つはずが無く、それどころか並行世界の自分のフラグもへし折った。

 果たして、ダメ人間量産機とかしたニートリアは嫁を手に凱旋することができるのか?

 次回『婚期を逃しました(ハナホジ)』

 お楽しみに。 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。