剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 またまた筆が乗りました。
 
 日刊ランキング1位……あ、ありえん。

 思わず『ゴルゴムの仕業か!?』と叫んでしまってすみません。

 皆様の応援、本当にありがたく思います。

 こんな拙作ですが、見てくれる方がいる限り全力で書き続けたいと思うので、どうかよろしくお願いします。

 今回の注意 本日も捏造の嵐が吹き荒れます。また鬼哭街は18禁です。

 ネタバレ 前回、円卓の騎士が一人死んでいます。


日記3

 三度目人生記(15年2ヶ月8日目)

 

 衝撃の事実を聞いて少々混乱気味のアルガです。

 王城の騒ぎからはや二ヶ月あまり。

 姉ちゃんとお袋さんも山での生活に少しは慣れてきたようだ。

 正直、生粋のお嬢様の二人に本格的ネイチャーライフを体験させるのは気が引けたのだが、その辺は我慢していただきたい。

 俺を乗せてくれたワイバーンの庄之助だが、乗り捨てたにも拘らずこちらが山小屋についた頃には、元気にファハンの肉をブラックハウンドと取り合っていた。

 黒ワンコといいこいつといい、完全に俺のペット状態なんですが。

 ファハンの襲撃が止んだら、エサはどうすんべか……。

 次にお袋さんの病気に関してだけど、精霊さんの飲み薬を飲ませたらあっと言う間に治ってしまった。

 ビンの底に残った薬液を調べていた姉ちゃんが死ぬほど驚いてたんだが、そんなに高価なものだったのかアレ?

 これはお袋さんから言われた事なんだが、俺と姉ちゃんは親父殿・ウーサー=ペンドラゴンの子供ではないそうだ。

 俺達の本当の父親は、お袋さんの前の夫であるゴルロイスという公爵なんだと。

 この人はウーサーの家臣だったのだが、お袋さんに一目ぼれした奴とペテン師の策略にハマって、領土に攻め込まれて戦死。

 そんでもって残されたお袋さんは、生まれたばかりの俺と姉ちゃんの助命を条件にウーサーと再婚したらしい。

 マジかー。

 そう言えば、俺の自我が戻ったのって一歳の誕生日だったよなぁ。

 その時には本当の親父殿は鬼籍に入ってて、お袋さんも略奪された後だったって事かよ。

 つーかウーサーの奴、どう考えても最悪じゃねーか。

 あのおっさんがペテン師の策に乗って、ホイホイ俺を廃嫡したのもコレが原因だったんだな。

 そりゃあ、お袋さんも塩対応になるわけだ。

 お袋さん曰く、この話は現役の貴族の間ではけっこう有名な事らしい。

 欲望のままに臣下を陥れ、その妻を奪ったウーサーの人望は底値を割っており、ブリテン終了の大きな一因となってるそうな。

 ウーサーの名誉云々に関しては自業自得なんでどうでもいいけど、本件が姉ちゃんの婚姻に影響しないかが心配である。

 

 

 三度目人生記(15年3ヶ月15日目)

 

 

 城の動乱から三ヶ月。

 そろそろ姉ちゃん達をロット王のところに送らねばならない。

 出来ればその前に一文を添えたいところだが、こんな人外魔境に郵便屋など来るわけがない。

 かといって俺がメッセンジャーとして行くのも、残された二人が心配だから却下。

 状況はどうあれ先ずは動くしかないと判断した俺は、姉ちゃんにその事を伝えた。

 すると、彼女はネビス山の山頂で魔術の儀式を行いたいと言い出した。

 なんでもお袋さんの実家に伝わるもので、婚姻前の女性の純潔を神に証明してもらうというモノだそうな。

 俺は剣を振るしか能が無いので、魔術の事などトンと分からぬ。

 しかし、それで姉ちゃんの結婚生活が明るい物になるのなら喜んで協力しよう。

 というワケで、ネビス山の山頂付近にある洞穴まで行ってきた。

 メンバーは俺達親子に加えて庄之助、そしてこの三年間子犬から育てたブラックハウンドのポチ・コロ・ゴンの三匹だ。

 お袋さんが言うには、この洞穴は女性しか入れないらしく、コロを除いた一人と三匹は入り口でお留守番だった。

 なぜか群がってくるファハンやワーウルフ、ユニコーンモドキに巨大ビーバーなどを、ぶった斬っては庄之助達のおやつにして待つ事しばし。 

 洞穴の天井をぶち抜く形で虹色の光が天に昇るのが見えた後、姉ちゃん達が戻ってきた。

 外からでも天井が崩れたのが分かったので、待っている間は本当に気が気じゃなかった。

 あともう少し出てくるのが遅れてたら、お袋さんの言いつけを破って突っ込んでいただろう。

 洞窟から出てきた姉ちゃんだが、儀式とやらの影響なのか少々容姿が変わっていた。

 明るい金色だった髪は銀に近いアッシュブロンドに、瞳の色は緑から金色へと変わり、肌もより白くなっていた。

 お袋さんも同様に変化していたので心配したのだが、本人からは問題ないとの返事。

 あと、一緒に入っていたコロは色が真っ白になったうえに身体が倍近く大きくなっていた。

 もはや虎レベルの猛獣である。

 本人達は大丈夫だというが、容姿に加えて気配まで変わっていては、さすがに心配は拭えない。

 そんな俺の心情に気付いたのか、姉ちゃんはこちらに近づくと、ガキの頃よくやったみたいに頬へ唇を落としてきた。

 唖然としながら何をするのかと問う俺に、いたずらな笑みと共に返って来たのは「身を護るお呪い」という言葉。

 ……なんか釈然としないが、まあいい。

 小難しい事はロット王の問題が終ってから考えよう。

 

 三度目人生記(15年5ヶ月11日目)

 

 

 この頃、身体の調子がすこぶる良い。

 特に氣の巡りは絶好調で、『六塵散魂無縫剣』は4発が超音速に達した。

 軽功術も快調で、某兄弟子が見せた残像分身も2体までならできるようになりました。

 今ならば、前世でやったように特殊装甲製の戦車も両断できるかもしれない。

 

 突然ですが、この度ネビス山を完全下山する事に致しました。

 理由は嫁ぐ姉ちゃんに『家族と離れたくないから、ロット王に仕官してくれ』と強い調子で頼まれたから。

 個人的には、外戚な上に男を連れて嫁に行くってのは拙いと思う。

 しかし、姉ちゃんはアルトリアと別れ、親父(と思っていた男)を亡くしたばかりだ。

 加えて城での出来事を思えば、その願いを蔑ろにするわけにはいかない。

 そんなワケで、荷物を纏めた俺達は一路ロット王の下へと出発したのだ。

 出発の際にお隣のギリーさんに使わない保存食を渡すと、代わりに手製の傷薬をくれた。

 しかし、『仲間になる日を待ってるよ』と笑顔で言ってたのは、どういう意味だろうか?

 それはさておき、ネビス山を出て約一週間、ようやくロット王の城にたどり着く事ができた。

 今回もご多分に漏れず賊やら魔獣やらが襲い掛かってくる、なんとも素敵な旅路だった。

 だが、剣が冴えまくる俺に加えて、今回はハウンド三兄妹に庄之助という強力なお供がいる。

 当然ながら馬車への危険は完全シャットアウトである。

 あと、例の儀式の影響からか、姉ちゃんの魔術の腕が格段に上がっていた。

 板金製の盾や鎧を容易くぶち抜く魔力弾に加え、火の玉や氷塊、雷撃など多種多様な攻撃が馬車からカッ飛んできた。

 お蔭で庄之助や三兄妹が馬車に近づこうとしません。

 他には道端にある石や木に防護障壁を張って、俺に斬ってくれと強請ってくるようになった。

 もちろんスパスパ斬れるんだが、その度に姉ちゃんは嬉しそうな顔をする。

 障壁を突破されてるわけだから、普通は悔しい顔をすると思うんだがなぁ……。

 

 三度目人生記(15年5ヶ月14日目)

 

 

 ロット王は普通にいい人でした。

 数ヶ月間音沙汰も無しだった俺達に、文句も言わずに旅の功を労ってくれたし、お袋さんの同居の面もいやな顔一つせずに快諾してくれた。

 俺の仕官に関しては二つ返事とはいかず、実力を測りたいと言って来たが。

 出された課題はオークニー領所属の騎士から選抜した、100人の猛者と組み手をして勝つ事。

 姉ちゃんとの約束もあるので、手加減なしで行かせて貰った。

 結果は被弾なし、全員一太刀KOの大勝利でした。

 確かに腕の立つ人もいたけど、絶好調な俺を止めるにはまだまだ足りなかった。

 この結果にロット王も納得し、騎士に取り立ててくれると言ってくれたのだが、その提案は辞退して一兵士として雇うようにお願いした。

 なんだかんだ言ったところで、俺は外戚な上に元王族だ。

 そんな奴が騎士なんて権力を持てる立場になれば、不要な揉め事の原因となるだろう。

 俺が求めるのは姉ちゃんとお袋さんが穏やかに暮らすことで、生臭い物は必要ないのだ。

 ……うん、騎士なんてめんどくさいし修行の時間が減るからヤダー! などと思っているわけではない。

 ないったらない。

 あと、姉ちゃんとの婚儀については、色々と準備があるので2ヶ月後と相成った。

 正直に言えば、親子ほど歳が離れた相手へ嫁に出す事に思うところはある。

 姉ちゃんが嫌だと言えば、今後どんなリスクを負ってでもトンズラするつもりだったのだが、姉ちゃんは笑顔で大丈夫と返した。

 まあ、本人がそう言うのであれば、こちらとしても口出しはすまい。

 あとは幸せな結婚生活になるように、陰日向にと支えるだけである。

 という次第なので、一日8時間の鍛錬時間の確保、おなしゃす!!

 

 三度目人生記(15年7ヶ月15日目)

 

 

 え~、今日は姉ちゃんの結婚式でした。

 元々美人なだけあって、花嫁衣裳の姉ちゃんはとんでもなく綺麗だった。

 勘違いの無いよう言っておくが、俺はシスコンでは無い。

 しかし、ロット王の様子がおかしかったのは気に掛かる。

 今日の彼は式から披露宴の間、ずっと動きがぎこちなかったのだ。

 例えるなら、過去世で見たアシモみたいだった。

 披露宴で話を聞いた時、持病の腰痛が再発しただけと言っていたが。

 ……ロット王も歳だし、腰をヤルと歩くのも辛くなるからなぁ。

 下世話な話だが、世継ぎを作るのに悪影響が出なければいいが。

 子供が出来なかったら、責められるのって女の方だし。

 おっと、そういう不吉な事は言うべきではないな。

 今日は晴れの日なんだ、日記の中でもしっかり祝うべきだろう。

 というワケで、姉ちゃんおめでとう!

 これからの生活がより善きものである事を祈ってるぞ!!

 

 

 

 

 豪奢な装飾と家具が備わった王の寝室。

 記念すべき結婚初夜なれば、王に見初められた花嫁が愛する夫に純潔を捧げる場となる寝台だが、そこには虚ろな表情で座り込む初老の男がいるだけだ。

 寝床を共にすべき花嫁は、燭台に灯された蝋燭の明かりが届かない闇の中から男を見下ろしている。

 その黄金の瞳に愛情はなく、代わりに宿るのは無価値な物に向ける冷徹な光だけ。

「今日の役目は終わりよ。体調を崩さないよう、早く寝てしまいなさい」

「はい……」

 モルガンが放った何の感情も滲まない無機質な命令を、この国の最高権力者である男は抵抗する素振りも見せずに従った。

 寝台を無様に膨らませる夫である筈のモノに一瞥もくれずに、モルガンは寝室を後にする。

 呼吸をするように展開した認識阻害の術式によって、花嫁が深夜に徘徊するというスキャンダラスな光景は誰の目にも留まらない。

 婚儀の少し前、心配する弟に笑顔を見せたモルガンであったが、元より彼女はロットなど歯牙にもかけていない。

 だからこそ、食事やお茶などで顔を合わせる度に相手に違和感を感じさせないよう暗示と洗脳の魔術を掛けて行き、予定通り婚儀の当日には己の操り人形に仕立て上げた。

 先程の言葉も、これから宿す子が生まれるまでは死んでもらっては困るという理由で、彼の身を案じてのモノではない。

 身に纏った己の魅力を引き出す衣装も胸に滾る愛情も、全てはただ一人の男の為だ。

 ようやく慣れ始めた廊下を進みながら、モルガンは二月前に行われた試合を思い返す。

 一国を代表するに恥じない100人の猛者達が居並ぶ前で、弟は楽しそうに笑っていた。

 騎士達全てが戦用の備えに身を包むのに対し、彼はいつもの黒尽くめに自ら削りだした木剣一振り。

 その光景は、幼き日に自分の心を奪ったあの仕合を思い起こさせた。

 そこから始まる100対1の大立ち回り。

 襲い来るは剣にはじまり槍に棍棒、斧や矢まで。

 その悉くを躱し、弾き、逸らし、時には武具を切断し矢を跳ね返す。

 数の暴力を真っ向から捻じ伏せる神域の技。

 沸き立つ怒号と悲鳴、巻き上がる土と血煙の中で舞うように闘うその姿に、彼女は己が女が煮えたぎるのを自覚した。

 思えば、それは当然の事だった。

 女神の裔である母から受け継いだ彼女の原初は、ケルト神話において死と破壊そして勝利を司る戦女神モリガン。

 なれば、彼の放つ人の極限へと至りし武技に心奪われないはずが無い。

 思えばブリテンの王城を出てから、いや彼が放逐されてからまるで天が味方をしているかのようにこちらの都合がいいように事が進んでいる。

 彼が神秘が薄れ行くブリテンの中において、未だに神代に近い環境を残しているネビス山を拠点に選んだ事。

 彼が湖の乙女と知己になり、母が罹っていた難病を癒す薬を入手していた事。

 そして彼が魔術において無知だった事。

 弟は自身の身体に何が起こっているのかをまだ知らないだろう。

 彼が氣功と呼ぶ技術。

 それは呼吸によって外部から生命エネルギーを取り込み、自身のそれと併せて練り上げる事で超常の力の発露とする、というものと見て間違いは無い。

 限りなく神代に近い環境で、そんなものを使い続けていれば人間のままでいられるワケがない。

 今のアルガは肉体の精霊化、東の大陸で言うところの『神仙』になりつつある。

 それを察したからこそ、モルガンはネビス山で儀式を行った。

 弟には純潔の証明などと言ったが、あれこそイグレーヌの血脈に代々受け継がれていた神降ろしの秘儀だ。

 女神の末裔たる血とネビス山という神代の環境があって初めて成功する大秘術。

 それを持って彼女は原初の写し身、すなわち神の分霊となった。

 全ては意中の男性と結ばれんが為。

 モルガンという少女のままでは、意にそぐわぬ婚姻で純潔を捨てる事になるだろう。

 そして、恋焦がれる男は無意識のままに人を逸脱しようとしている。

 ならば、どうすればいい?

 決まっている。

 己も人を捨てればよいのだ。

 女神となれば、自身が望まない限り子を成すどころか人と交わる事もない。

 同時に愛しい男に付いて行けずに嘆く事もない。

 気付けば目的の場所に着いていたモルガンは、古びた木の扉を前に16の生娘とは思えない淫蕩な笑みを浮かべる。

 儀式を終えた後にかけた呪い、それはアルガに告げた他にもう一つの効果がある。

 それは彼の『神仙』化を加速させる事。

 当初の見立てでは十年は掛かるところを、呪いによって3年に縮めた。

 何もせずにそれなのだから、今のペースで修行を続ければ、後1、2年で彼は人間ではなくなるだろう。

 しかし、彼が無防備に呪いを受けた時は、零れそうになる笑みを堪えるのが大変だった。

 その身に降りかかる如何なる攻撃も捌き切る彼でも、悪意の無い物に関してはそうでない事が証明できたからだ。

 音を立てないように扉を開けば、中には微かな甘さを含んだ爽やかな香りが漂っている。

 別に魔術の手が施されたものではない。

 何処ででも取れる睡眠導入と安眠効果があるハーブだ。

 しかし、身内の結婚式という慣れない行事に振りまわされた今日なら、その効果は十分に発揮される。

 母が気を使って焚いたとなれば、彼が警戒する事もない。

 ベッドを母に譲り、簡素なソファで気持ちよさそうに寝息を立てている弟を見て、モルガンははしたないと思いながらも自身の唇を舐め上げる。

 愛おしげに頬を撫でながら、彼女は細心の注意を込めてより深い睡眠に落ちる魔術を掛ける。

 普段の弟ならば気付くであろうそれが成功した事にモルガンは小さく息をつき、自身が纏う衣服に手を掛ける。

 男性を誘う為の薄手の布と少女の肌が奏でる微かな音。

 それが止んだあと、窓から薄く差し込む月明かりの下で彼女は生まれたままの姿を晒していた。

 ソファを小さく軋ませながら意中の男性の胸にしな垂れかかった彼女の脳裏に、ブリテン王城で掛けられた言葉が蘇る。

『次代を担う王女の純潔、それを奪う事が夫である証。ならば、ここで貴女を抱く事が私達の婚姻の証明となる』 

 ───なるほど。

 あの男はどうしようもない下種であったが、一つだけ良い事を口にした。

「……始めましょう、アルガ。私達の婚姻の儀を」

 蕩ける様な笑顔で意中の男性の胸にしな垂れかかる少女を夜闇が静かに包み込んでいった。

 






アルガ「この状況を打開したい。腕のいいマインスイーパーを頼む」



 注)ヤンデレ爆弾 効果 戴天流剣士特攻

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