剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました。

 アポの続きを書こうとしたが、少々難航している為に息抜きで書いたモル子日記が先に出来てしまった。

 字数も思った以上に伸びてしまったので、先に上げようと思います。

 続きを待っていただいている方、もう少しだけお待ちください。

 PS・感想でリクエストがありましたので、纏めてみました。

 これからはモル子日記は正式投稿していこうと思います。


モル子日記(ブリテン外伝)
【悲報】モル子日記【纏めたった】(1)


 アプリーリス 3の日

 

 

 今日、弟が産まれた。

 

 お母様のお腹が少し膨らんだ頃から楽しみにしていたので本当に嬉しい。

 

 顔はおサルさんみたいだけれど、泣き声も小さな手も本当にかわいい。

 

 ほっぺたを突いていた私の指をキュッと握った時は本当に嬉しかった。

 

 お父様が授けた名前は『アルガ』

 

 あの子に相応しいいい名前だと思う。

 

 これからもよろしくね、アルガ。

 

 

 クィーンティーリス 12の日

 

 

 お父様が亡くなった。

 

 反逆の疑いを掛けて、お父様を殺めたのは君主であるはずのウーサー王らしい。

 

 お父様を貶めた理由は、お母様を手にしたいから。

 

 お母様は私とアルガを護る為に、ウーサーと結婚するらしい。

 

 ……悔しい。

 

 私もアルガも小さいからお母様のお荷物にしかなれない。

 

 おおきくなれば、大人になれば、お母様があいつのいう事なんて聞かずに済むのに……

 

 

 オクトーベル 15の日

 

 

 3歳になったアルガがビックリするようなものを見せてくれた。

 

 あの子は木で出来た剣で鉄を斬ったり、舞い落ちる木の葉に乗ったりできるのだ。

 

 私がマーリンから教わっている魔術とは全く違う力。

 

 あの子は将来歴史に名を残す剣士になると思う。

 

 あと、技を見せた後『どうだ、姉ちゃん!』とニッて笑う顔がとっても可愛い。

 

 お礼に魔術を見せると、目を丸くして驚いていたのも可愛かった。

 

 あんな反応を見せられたら、久しぶりに一緒に寝るのも仕方ないと思う。

 

 私の弟はサイキョーなんだ!!

 

 

 ユーニウス 22の日

 

 

 アルガが騎士と決闘をした。

 

 始まりは軍事顧問とかいう老人の指導にあの子が反発した事。

 

 天才であるあの子には凡百な教えは合わなかったらしく、珍しく強硬に反対していた。

 

 それに業を煮やしたあの男が、躾を名目に現役騎士との試合を組んでしまったのだ。

 

 どうせ自分の血を引かない連れ子のアルガが邪魔になってきたのだろうが、こんな常識外れな行動を取るとは思わなかった。

 

 お陰で良識のある諸侯や騎士は、軒並み今回の事を否定的に捉えている。

 

 意識や判断力が低下しているのだとすれば、例の効果が現れ始めている証拠と見ていいだろう。

 

 肝心の決闘だが、当然のようにアルガが完勝した。

 

 完全武装の騎士を相手に普段着に木を削りだした剣で対したあの子は、一刀の下に相手の剣と鋼鉄製の胸当てを斬り捨てたのだ。

 

 その姿を見た時、アルガがカッコ良くて顔とお腹が熱くなった。

 

 結婚するなら弟みたいな男の子がいいって言ったら笑われるかなぁ。

 

 

  ユーニウス 24の日

 

 

 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せな許せない許せない許せないい。

 

 アルガが追放処分にされた。

 

 理由は前の決闘であの男と軍事顧問の顔に泥を塗った事。

 

 それに加えてマーリンがあの子に『悪魔憑き』の悪名を被せたのだ。

 

 お母様と何度もあの男に撤回を求めたが、衛兵に遮られて顔を合わせる事も出来なかった。

 

 今までは苦しめる為にゆっくりと事を進めていたが、こうなったら容赦などしない。

 

 アルガを呼び戻すにはあの男が邪魔だ。

 

 マーリンの千里眼はお母様が防いでくれているし、勉強嫌いのあいつはこの島に伝わる原初のコレには気づくことが出来ない。

 

 お母様に頼んで儀式の進行を早める必要がある。

 

 私達家族を引き裂こうとする奴なんて、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 

 

ユーニウス 6の日

 

 

 アルガ分が足りない……。

 

 あの子を抱き枕にしていないから寝付きも悪いし、起きても無意識にあの子の笑顔を求めてしまう。

 

 さみしい。

 

 こんな生活に長く堪えられる気がしないので、早急にあの男を排除する必要がある。

 

 お母様に更なる秘術を学ばなければ…………。

 

 

セクスティーリス 10の日

 

 

 今日は耳寄りな情報を知ることができた。

 

 魔術には相手の位置を特定して手紙を送る便利な術があるらしい。

 

 さっそく修得してアルガと文を交わしたいのだが、生憎とこの術はお母様の一族の秘伝には無い。

 

 となれば、あの宮廷魔術師に教えを請わねばならないということだ。

 

 正直に言えば、あの子をハメたクズに頭を下げるくらいなら死んだ方がマシだ。

 

 でも、これ以上アルガ分を補充できないと私の精神が死ぬ。

 

 ここは断腸の思いで頼むしかない、か。

 

 ああ、吐き気がする。

 

 

セプテンベル 12の日

 

 

 ようやくあのクズを師事する日々が終わりを告げた。

 

 教鞭の端々でこちらを煽って来るあの男を何度殺そうと思った事か……。

 

 しかし我慢の甲斐あって、奴の持つ魔術の殆どを修得することが出来た。

 

 これでお母様に負担を掛ける事無く、あのクズの盗撮を防ぐことが出来る。

 

 取り敢えずはこっちを見ようとしたら眼球が爆発する呪いを仕込むことにして、まずはアルガと文通する事が先決だ。

 

 ああ、ようやくアルガ分を補給できる。

 

 

 ノウェンベル 18の日

 

 

 アルガとは一週間に一回の割合で文通をしている。

 

 この前はなんとローマで剣闘士の大会に飛び入り参加したらしい。

 

 外に出た所為か、あの子の無茶がこの頃加速しているような気がする。

 

 手紙で釘を刺そうと思っても、文章では効果が薄いような気もするし……。

 

 どうにかあの子と会う事は出来ないだろうか。

 

 あ、あの男に呪いかけるの忘れてた

 

 

 マーイウス 18の日

 

 

 今日、あの男の寝室にお母様が呼ばれた。

 

 ブリテンに嫁ぐ際に、お母様はあの男の子供の世継ぎを生むと魔術的契約を交わしている。

 

 それも、もし破れば私とアルガに呪いが掛かるタチの悪いモノだ。

 

 今まで行為に及ばなかったのはお母様が拒否していた事もあるけど、マーリンと奴が何かの準備を行っていた為だ。

 

 今の私の魔術の腕では、それが何かまでは調べる事が出来なかったが、どうせロクなものではあるまい。

 

 アルガがいなくなってから、ずっとお母様と一緒に寝ていた所為で一人寝のベッドが広く冷たい。

 

 明日はお母様を慰めてさしあげなくてはならない。

 

 ああ、こんな時にアルガがいてくれれば……

 

 セクスティーリス 23の日

 

 お母様が懐妊した。

 

 アルガの時はすごくうれしかったのに、今回はぜんぜん心が躍らない。

 

 きっとお腹の中の子があの男の血を引いているからだろう。

 

 お母様は『生まれてくる子に罪は無いから仲良くしてあげて』というが、それは難しいと思う。

 

 こんな時、アルガならどうするのだろうか……。

 

 手紙に書いてもいいが、嫌われるような気がして嫌だ。

 

 一緒に住んでいないって本当に不便だと思う。

 

  

 ユーニウス 19の日

 

 

 今日、妹が生まれた。

 

 名前は『アルトリア』

 

 お母様に似た金髪碧眼の女の子だ。

 

 あの男に似てなくて本当に良かったと思う。

 

 最初に見た時は、あの男への悪感情も相まって姉妹などとは思えなかった。

 

 でも私と同じ碧の目を見た時、差し出した私の指を掴んで笑った顔を見た時にそんな思いは霞のように消え去ってしまった。

 

 なんというか、アルトリアが妹だと理屈じゃない部分で理解したのだ。

 

 お蔭であの子の揺り籠に縋りついて『ごめんなさい』とボロボロ泣いてしまった。

 

 産後で体調が戻っていないお母様にも心配を掛けてしまったし、もっとしっかりしないといけないと思う。

 

 とりあえず、この子が産まれた事をアルガにも伝えないといけない。

 

 できれば、これを機に帰って来てくれると嬉しい。

 

  

 ユーニウス 22の日

 

 

 マーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺す

 

 

 ユーニウス 24の日

 

 

 落ち着いたので詳細を書く。

 

 最初の事件はあのクズが産まれたばかりのアルトリアを私達から引き剥がした事だ。

 

 『王の許可は取ってあるよ』などと宣ったので、あの男にはいつもの呪いに加えて全身の毛が抜ける呪詛もプラスしてしまった。

 

 お蔭でお母様が産後の肥立ちが悪い事も相まって伏せってしまわれた。 

 

 それから数日後、私の知らせを受けたアルガが四年ぶりに戻って来てくれた。

 

 これはいいのだ。

 

 逞しく成長したアルガに私もお母様も泣いて喜んだのだから。

 

 しかし、この後がふざけている。

 

 私達の為にアルトリアを取り戻しに行ったアルガを、あのクズ野郎は魔法で吹き飛ばしたのだ。

 

 しかも腹部に穴を開けるという大怪我を負わせたうえで。

 

 さらに片腕と目を潰された腹いせか、『アルガがアルトリアを殺そうとした』などというレッテルを張って、あの子を戻れない様にしやがった。

 

 何よりも許せない事は、クソッタレ野郎があろう事かお腹の中にいたアルトリアに竜の因子なんてモノを植え付けていた事だ。

 

 幻想種最強の竜種の因子などを植え付けられては、アルトリア本人はもとより母体であるお母様にも多大な負荷が掛かる。

 

 いくらお母様が女神の系譜だとしても、耐えきれるものではない。

 

 お母様の体調が良くないのもきっとこの所為だろう。

 

 また千里眼の逆探知(目玉爆裂は回避された)で奴を盗聴した際、アルトリアにこれを植え付けたのは理想の王なんてものに仕立て上げるほかに、お母様を殺める目論見があったのも判明した。

 

 理由はお母様がいてはあの男の手綱が執り切れない事と、後々アルトリアが王になった際、あの子に対して多大な影響を持つためらしい。

 

 これを聞いた瞬間、致死性の腐食魔術を奴の傷口に放った私は悪くない。

 

 でも、これではっきりした。

 

 アルトリアが産まれた以上、あの男はともかくマーリンにとって私達は不要な存在でしかないということだ。

 

 ブリテンの将来をあの男からアルトリアへ舵を切ったクズがどんな手段に出るか。

 

 しっかりと見極めて自分達の身は守らなくてはならない。

 

 …………本当ならアルガに助けてほしいけど、こんな事はあの子に言えない。

 

 知ったら間違いなくマーリンを殺しに行くだろうから。

 

 もしそうなったら、あの子の人生も終わりだ。

 

 だから、この話は私の胸の内に留めなくてはならない。

 

 そしてあの男が消えるまで、この伏魔殿でお母様と生き抜くのだ。

 

 

 ユーニウス 27の日

 

 

 アルガから手紙が来た。

 

 なんでもマーリンから受けた傷が癒えたので、山に籠って剣の修行をするらしい。

 

 奴がアルガに気を取られていたお蔭で覗き見る事が出来たあの闘いでは、脇腹に風穴が空く程の重傷を負っていたはずなのだが、そんな傷は2・3日で癒えるものなのだろうか?

 

 それに剣の修行で山に籠るというのもよくわからない。

 

 修行をするならば、剣の腕が立つ者達と闘った方がいいと思うのだが……。

 

 とにかく、あの子は放っておくと無茶をする傾向があるので、早急に動向を確認できる術式を完成させる必要がある。

 

 お母様に教えてもらった術式の中に精霊種の魂とパスを繋げるものがあったから、それを応用出来れば念話や感覚共有などもできるだろう。

 

 あの男の処理やマーリンの事もあるからどれほどの余裕があるかは分からないが、できうる限りこちらに力を割こうと思う。

 

 アルガ、それまで無茶はしないでね。

 

 

 クィーンティーリス 6の日

 

 

 お母様の体調が未だに優れない。

 

 やはり、竜の因子を宿されたアルトリアを産んだ影響が強いのだろう。

 

 お薬を調合してあげたいのだが、アルガの一件を盾に謹慎令が出されたので外に出る事も出来ない。

 

 マーリンから盗んだ魔術の中には空間転移もあるが、今の私の技術では成功率は五分五分。

 

 そう頻繁に使えるモノではない。

 

 それにこの魔術はいざという時の脱出手段として、マーリンの目から隠す必要がある。

 

 宮廷スズメ共の噂では、エスタス領主のカンベネット卿とノーサンバラント領のクラリアンス卿が離反の気配を見せているとか。

 

 お母様を奪った事に始まり、アルガの廃嫡やアルトリアをマーリンに預けての隠匿など。

 

 次代の育成という面において、奴等はことごとく失態を犯している。

 

 アルトリアが思惑通りに男子であったなら、アルガ廃嫡も王と血が繋がっていない事で正当性を主張できたのだろうが、こうなっては諸侯を納得させる事は出来まい。

 

 第四子を望もうともお母様はこの調子であるし、もしご健康であったとしても『子を宿すのは一度だけ』という契約があるから不可能だ。

 

 王家の存続を思えば側妃を娶って子を作るべきなのだろうが、先の冬に患った高熱によって奴の子種は絶えたらしい。

 

 ウーサー自身は敵対するヴォーティガーン王の仕業だとしているが、生憎とそれは私の仕込みである。

 

 屈強だったあの男が冬の寒さに後れを取ったとなれば、この呪いが精神だけでなく肉体にも手を伸ばし始めたとみていいだろう。

 

 常人ならば1年保たないと言われているモノを相手に、5年以上も肉体的影響を防いだことは称賛に値するが、それもここまでだ。

 

 これから待つ数多の病の苦痛の中で、お父様の無念とお母様の悲しみを噛み締めるがいい。

 

 

 セプテンベル 11の日

 

 

 マーリン、許すまじ。

 

 あの野郎、オークニー領主であるロット卿を繋ぎ留める為に、私を降嫁させる約束を取り付けやがった。

 

 たしかに私も13歳、婚約者の一人もいておかしくない歳だ。

 

 しかしである。

 

 それが35を超えた脂ぎった親父だというのはどうなのか。

 

 以前王宮で見かけたロット卿は、かなりお腹が出ていたように見えた……。

 

 御髪も随分と薄くなっていたようだし、ハッキリ言って私の趣味ではない。

 

 私の好みはスラリとしていながら、鍛え抜かれた勇敢な殿方なのだ。

 

 取り敢えず、マーリンの馬鹿には障壁突破を付与したガンドを叩き込んでおいた。

 

 本来なら岩をも穿つ威力があるのだが、奴には顔を張られた程度の痛みしか与えられなかった。

 

 『いきなり、なにをするんだい』と抗議の声を上げていたので、『魔術の訓練ですわ、お師匠様』と心にもない言葉を並べて言い訳しておいた。

 

 今回の婚約は宮廷スズメ達からも同情の声が上がっていたし、問題にされる事はあるまい。

 

 あの男もマーリンも早く死ねばいいのに。

 

 

 マーイウス 18の日 

 

 

 ようやく例の術式が完成したので、アルガに施すことにした。

 

 2年ぶりに会ったアルガは身長も伸びてたし、身体も細身ながらも刀剣のように鍛え抜かれていて、私的にかなりストライクだった。

 

 ロット王じゃなくてアルガが婚約者だったらいいのに、と思ったのは姉として明かす事の出来ない秘密だ。

 

 ふと疑問になって、どうやって王宮に潜り込んでいるのか聞いたところ、『気配を殺してるから、目撃されても人とは認識されない。もうちょっと極めたら自然と合一して透明になると思う』という答えが返って来た。  

 

 アルガ、キミのお話はお姉ちゃんにはちょっと難しいみたいです。

 

 お母様に関しては、あの子には伏せておいた。

 

 知れば絶対に助ける方法を探そうとするだろうし、神秘が残るこのブリテンでそんな事をすればどんな危険が伴うか分かった物ではない。

 

 それにあの子はマーリンの情報操作の所為で、ブリテンでは王子殺害未遂の悪魔憑きの悪名がある。

 

 山にいれば捜査の手は伸びないし、今回のように侵入を前提にしていれば見つかる事はないだろう。

 

 しかし、お母様を癒やす術を探す過程はその限りでは無いかもしれない。

 

 ウーサーの命脈も徐々に弱まっているし、奴が死ねばお母様も私も宮廷から解放される。

 

 本格的な治療に関してはその後で、今は私が調合する投薬治療で行くとお母様が決めているのだ。

 

 正直に言えばアルガの協力を得られれば助かるけど、諸事情もあるしお母様がそう決めているのであれば、私が横槍を入れるのは難しい。

 

 監視目的で私達に付いている侍女を暗示で操って、薬草集めをさせるのにも限界があるので早くその日が来てほしいものである。

 

 

 マーイウス 21の日 

 

 

 アルガに施した術式が順調に作用しているようだ。

 

 念話はもとより、あの子との感覚共有も問題なく作用している。

 

 一日の終わりにあの子と話をするのは、私の日課にして数少ない癒しだ。

 

 ただ、あの子の使う武術はなんなのだろうか?

 

 感覚共有を試していた際に、山に住むと言われている巨人であるファハン達を討伐している場面に出くわしたのだが、そこから感じたモノはとても異質だった。

 

 読心術とはまるで違うのに、相手が行動に移るよりも早くその意図を感じ取る事が出来たり、思考に先んじて身体は動く癖に、それはあの子が望んだ技となっている。

 

 正直、自分でも何を言っているか分からない。

 

 でも、2つだけ分かった事がある。

 

 一つはアルガの振るう剣はあの子が考案したものではなく、長い歴史が蓄積され明確に体系化された技術であるということ。 

 

 いくらあの子が天才でも、十年程度で剣術や体術、さらには氣功だなんて生命力操作の技術まで、独自に編み出せるワケがない。

 

 そして剣を振っている時に感じた『もっと、もっと』という渇望のような感覚、あれがアルガを剣の道に走らせる源泉となってるのだろう。

 

 思えば、私はあの子の事をあまり知らない。

 

 あの剣や氣功と呼ばれる技術をどうやって知ったのか、そして何故そうまでして剣にのめり込むのか……。

 

 何故だろう。

 

 知らないと後悔する様な気がする。

 

 

セクスティーリス 18の日

 

 

 先日、ロット卿が治めるオークニーを伴って独立を宣言した。

 

 有力諸侯がブリテンを離れるのは、これで10人目。

 

 最初は鎮圧だの出兵だのと囀っていた宮廷貴族達も、ここまで離反が続けば言葉を発することもなくなる。

 

 その代わりに目端が利く者は独立した諸侯へと鞍替えをはじめ、残っているのは今までうだつの上がらなかった下級役人達だ。

 

 当然、その能力も国家を回すには到底足らないために、ブリテンに残された国土は荒れ始めているそうだ。

 

 まあ、私には関係の無いことである。

 

 父を殺めて母を縛りつけ、弟妹を引き裂いた国など、滅びればよいのだ。

 

 とはいえ、私達も王族の端くれであることには変わりない。

 

 このまま国が立ち行かなくなれば、こちらも処刑場の露となる可能性がある。

 

 私とお母様だけならそれでもよかったが、アルガとアルトリアがいる事を思えば、流石に拙い。

 

 私達が処刑されると知れば、アルガが突撃を掛けてくるのは想像に難くない。

 

 そうなれば、アルトリアを除く一家纏めて冥界行きだ。

 

 というワケで、私はロット卿改めロット王との婚姻を受け入れた。

 

 あの御仁は、宮廷でお母様に色目を使っていたから、私はその代わりか何かなのだろう。

 

 だけど、私が彼の妻になればアルガを迎え入れる事も、アルトリアを取り戻す事も可能かもしれない。

 

 家族みんなで過ごす事ができるなら、好きでもない男と肌を合わせる程度、なんて事はない。

 

 私ならきっとできる。

 

 きっと……

 

 

ノウェンベル 21の日

 

 

 今日、アルトリアの居場所が分かったので、アルガに様子を見てきてもらうように伝えた。

 

 色々と厄介な身の上であるあの子を頼るのは気が引けるけど、城を出ることができない私達ではアルトリアの今を知る術が無い。

 

 それにアルトリアの様子を知れれば、床に伏せったままのお母様の気も紛れるだろうし。

 

 役に立たない姉で申し訳ないが、恥を忍んで頭を下げたところ、アルガは二つ返事で承諾してくれた。

 

 こちらも時間が許す限り、こっそり感覚共有を繋いでサポートするつもりだったのだが、いきなり出鼻を挫かれた。

 

 足が要るなと呟いたあの子は、何故か釣り竿片手に河へと趣いたのだ。

 

 川縁に座って釣り竿を垂らして待つこと数分、糸が沈むと同時にあの子が竿を引くと、出てきたのはなんと深緑の毛を持つ馬だったのだ。

 

 歓声を上げながら二発、三発と馬の顔を殴りつけたアルガは、馬がグロッキーになると素早く背に使い古した鞍を結びつけた。

 

 唖然となっている内に聞こえたアルガの独り言によると、馬は『ケルピー』という妖精であり、この河に糸を垂らすとちょくちょく釣れるらしい。

 

 そして、ケルピーは鞍を着けるといい乗馬になるそうだ。

 

 ……おかしい。

 

 私が伝え聞いたケルピーは、背に乗せた人間を河に連れ込んで、内臓を貪り食らう怪馬だったはず。

 

 鞍を着ければ言う事を聞くのはあっているが、当然河でなんか釣れないし、ああも簡単に殴り倒せるモノではないはずなのだが……。

 

 

ノウェンベル 23の日

 

 

 アルガが旅立ってから二日。

 

 私はあの子の事を甘く見ていたのかもしれない。

 

 ある時は襲撃してきたワームを両断し、またある時は遭遇した小鬼達をなで斬りにする。

 

 魔猪は突進を躱すと同時に肚を掻っ捌き、どこに潜んでいたのか分からない巨大な竜種は、足の腱を断ち切った上で頭を剣で貫く。

 

 ……妹の様子を見に行くだけなのに、どうしてあの子は英雄譚顔負けの大冒険をしているのだろうか?

 

 それよりもショッキングだったのは、あの子が倒した幻想種を何の迷いもなく食べていた事だ。

 

 私も感覚共有していた所為で、ワームの肉を味わってしまった。

 

 見た目はゲテモノのくせにクニュクニュとした歯ごたえで脂は甘く、岩塩と香草を付けて焼いただけでも宮廷で出されている料理よりおいしかった。

 

 正直、新しい世界の扉を開いてしまいそうだった。

 

 明日からご飯に満足できなくなったらどうしよう……。

 

 

ノウェンベル 25の日

 

 

 旅も5日目を経過した。

 

 政治や公務などほとんどない軟禁同然のお飾り王女なので、お母様と一緒にいるのとアルガの様子を見る時間は事欠かない。

 

 ここ数日、あの子が幻想種を食べる時は感覚共有しているのは私だけの秘密である。

 

 この旅を見ていて思ったのだが、アルガは思った以上に清潔である。

 

 剣の鍛錬や幻想種との闘いの後は、決まって水辺を探して汗を流している。

 

 基本的には沸かしたお湯に布を浸して身体を拭い、白い泡立つ石を使って頭を洗うのだが、水質が綺麗な場所では水浴びもする。

 

 ただ、その時見てしまったのだ。

 

 あの子の裸を。

 

 細身ながらも研ぎ澄まされた身体に思わず見とれてしまったのだが、思えばこれがいけなかった。

 

 あの子の……なんというか、うん……アレもそのまま目撃してしまったわけだ。

 

 えっと……何なの、あれ。

 

 私が知ってるアルガとは全然違った。

 

 昔、一緒にお風呂に入った時は小指くらいだったのに、今は大きな蛇の頭みたいになってた。

 

 見た瞬間、「はわわわわわっ!?」と変な声を出してお母様を心配させたのは痛恨のミスだ。

 

 殿方のモノってみんな、あんな凄いのかな?

 

 なんだか身体が熱くて眠れなくなりそう。

 

 モルガンはどうしたらいいのでしょう、お母様ぁ……。

 

 

ノウェンベル 28の日

 

 

 先日ようやく、アルガはアルトリアと出会う事が出来た。

 

 とはいえ、素性を明かすことなくただ姿を見ただけだが。

 

 赤子だったアルトリアは、私やお母様そっくりの愛らしい少女へと成長していた。

 

 あの男に似てなくて、本当に良かったと思う、

 

 本当なら私達の下に連れ帰りたいとアルガは思っていたようだが、マーリンやあの男の介入を危惧してか、アルガはアルトリアをそのままにした。

 

 あの男はともかく、マーリンはアルトリアの事を監視している可能性が高いので、この判断は正解だと思う。

 

 その後、あの子は帰路に就いたわけだが、またしても妙な事に巻き込まれていた。

 

 水を求めて立ち寄った湖で頭と尾がヘビ、胴体は豹で尻はライオン、足は鹿という怪物に襲われたのだ。

 

 旅の友であるケルピーが犠牲になった事で私は思わず悲鳴を上げてしまったが、こちらの心配とは裏腹にあの子は怪物をバラバラに斬り殺してしまった。

 

 見た感じはかなり強力な幻想種だったと思うのだが、あの子の剣の腕はどうなっているのか?

 

 獣を屠ったアルガが馬を失ったと途方にくれていると、今度は豪華な甲冑に身を包んだ謎の騎士が襲ってきた。

 

 騎士は相当に腕が立つようで、通常よりも太さが三倍はありそうな槍を小枝のように振り回していたのだが、これまたあっさりとアルガの一刀で首を刎ねられてしまった。

 

 転がった兜から出て来たのは、王冠を被った精悍な中年男性の顔。

 

 そういえば、どこかの王が奇妙な獣を探して旅をしていたと風の噂で耳にした事がある。

 

 たしか名をペリノア王とか…………。

 

 弟がドえらい事をしたように思えたが、これはきっと気のせいだろう。

 

 だいじょうぶ、だいじょうぶ。

 

 せーとーぼーえー、せーとーぼーえー。

 

 

 マルティウス 4の日

 

 

 マーリンが王宮から離れた。

 

 どうやら、病床にあるウーサーに見切りをつけたようだ。

 

 奴から言わせれば、アルトリアが産まれた時点でウーサーの役目は終わったといったところだろう。

 

 奴の顔を見る事が無くなったのはせいせいするが、その分アルトリアに手を伸ばされていると思うと素直に喜べない。

 

 それはともかく、ウーサーが長くない以上、こちらも本腰を入れて脱出の準備に取りかかる必要があるだろう。

 

 幸い、お母様の容態も投薬治療が功を奏して快方に向かっている。

 

 あとは隙を見てロット王に保護を求めれば、この国の崩壊に巻き込まれる事もないだろう。

 

 お父様が亡くなられて十年余り、ようやく私達は自由になれる。

 

 再び家族みんなで暮らせるようになるのも、もうすぐだ。

 

 

 ユーニウス 15の日

 

 

 ようやくウーサーが死んだ。

 

 典医は原因不明と言っていたが、死因はこちらが仕掛けた呪いで体の抵抗力が下がった事によって複数の病が併発した事だ。

 

 死病が幾つも身体を蝕んでいたのだから、さぞ苦しんだ事だろう。

 

 奴の死に様はこちらの思惑通りなのでいいのだが、全てが計算通りに進んでいるわけではない。

 

 ウーサーが最後の最後まで生にしがみ付いた事で、予想していた死期に大幅なズレが生じてしまったのだ。

 

 まさか、魔力の大半が減衰してしまう月のモノが来るまで粘るとは思わなかった。

 

 お蔭で、脱出の為の計画も修正しないといけない。

 

 なにか宮廷内に不穏な空気が流れているようだし、悠長にしている暇はなさそうだ。

 

 万が一の事を考えて保険を掛けておこうと思うが、今の魔力ではそれもどれだけ効果があるか……。

 

 取り敢えず、打てる手はすべて打っておくに越した事は無いだろう。

 

 明日も何事も無く、この日記を付ける事ができますように。

 

 

 ユーニウス 17の日

 

 

 この気持ちはどうすればいいのだろうか。

 

 私は人ならぬ恋をしてしまったようだ。

 

 ブリテン王宮で過ごした最後の日、この身を苛んでいた予感の通りに私とお母様は暴漢に襲われてしまった。

 

 どういう手段で手懐けたのかなど知りたくも無いが、有力諸侯が独立したことで成り上がった下級役人が二十以上の騎士達を伴って私達を手籠めにしようとしたのだ。

 

 幸い、なけなしの魔力を絞り出して送ったアルガへの念話(と言っても、ほぼ通じていないに等しい状態だったらしいが、あの子はそれを嫌な予感と感じ取ってきてくれたのだ)が功を奏して、お母様も私も下種共に汚される事はなかった。

 

 しかし私達を助けに来てくれたあの子の雄姿は、胸の中で燻っていたこの想いを自覚させる切っ掛けになってしまった。

 

 思えば、あの子が王宮を出て行く事になった決闘、あの時のアルガの剣を見た時に私はあの子への思慕を募らせていたのだろう。

 

 しかし、この想いが望んではならぬものと無意識に分かっていた私は、弟への愛情だと言い聞かせて心の奥底へ封じようとしていた。

 

 けれども、その誤魔化しはもう通用しない。

 

 何故なら、私は自覚してしまったのだから。

 

 私はアルガを愛している。

 

 弟でも家族でもなく、一人の男性として。

 

 だから、アルガが欲しい。

 

 倫理や常識などを盾に姉として接していては、いつかあの子は別の女を愛してしまう。

 

 そんな事になっては、私はきっと耐える事など出来ない。

 

 ああ、アルガ…………。

 

 私は貴男が欲しい。

 

 その身体も心も愛情も全てが。

 

 欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しいホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイ!!

 

 …………けれど、焦ってはいけない。

 

 あの子は剣の事を除けば、酷く常識的な感性を持っている。

 

 姉の私が異性として愛情を向けていると知れば、もしかしたら離れて行ってしまうかもしれない。

 

 それだけは、それだけは絶対に避けないといけない。

 

 その為にはあの子が私から離れない為の鎖になるモノが必要だ。

 

 あの子は私たち家族の例に漏れず情愛が深い。

 

 それを思えば、繋ぎ留めるに最適な手段は幾つか思いつく。

 

 あと、あの子に拒絶される事なく、幸せを掴むためには理解ある味方が必須だ。

 

 諸々の条件を思えば、この位置にはお母様が付いてくれるのが好ましい。

 

 幸い、アルガが湖の乙女から入手していた霊薬によって、お母様の病気は完治する事が出来た。

 

 女神の系譜たるお母様も、近親婚となれば眉を顰めるのは想像に難くない。

 

 しかし、私の本心を打ち明けた上で『想いの無い男性に抱かれたくはない』と情に訴える事と、お母様から聞かされた一族の使命を使えば説得は可能かもしれない。

 

 今までアルガの行動を見てきたが、あの子は例の大役を担うのに十分すぎる素養がある。

 

 少なくともロット王などとは雲泥の差であろう。

 

 ともかく、これからはこの想いを封じるつもりは無い。

 

 私は必ずアルガを手に入れる。

 

 他の誰にも、あの子の隣は渡さない。

 

 渡してなる物か……ッ!!

 

 

 ユーニウス 19の日

 

 

 ネビス山での日々はなかなかに刺激的だ。

 

 妖精や精霊、魔獣と言った幻想種が普通に闊歩しているのだから。

 

 宮殿では全て侍女がやってくれた家事全般も、ここではお母様と2人で分担して行っている。

 

 時折ブラウニー達が手伝ってくれるので、報酬として果物とナッツをお返ししたりするのだ。

 

 私生活の全てを監視されていた王女とは違い、ここでは私は自由だ。

 

 アルガやお母様と暮らすのは本当に楽しい。

 

 でも、この暮らしに満足してはいけない。

 

 私にとって最優先すべきはアルガと結ばれる事。

 

 その為にもどうにかしてお母様を説得する材料を集めねば……。

 

 

ユーニウス 25の日

 

 

 この頃、アルガの様子がおかしい。

 

 と言っても、行動や性格が変わったわけではない。

 

 なんというか、幻想種に近い気配を感じるのだ。

 

 少し前までは私達と変わらず普通だったのに、これはいったいどういう事なのか?

 

 もしかしたら、このネビス山のせいかもしれない。

 

 この付近の環境は最後の神秘が残るといわれているブリテンの中でも特に神代に近いと言っていい。

 

 私もここに来てから勘が冴えたり魔力の総量が上がったりと不思議な変化に事欠かないのだ。

 

 だがしかし、あの子の変化はそんなレベルではないと思う。

 

 本人に確認しても、氣功の練りが良くなったくらいの返事しか返ってこない。

 

 もしかしたら、私の気のせいなのだろうか……

 

 一度お母様に聞いてみる事にしよう。

 

 

クィーンティーリス 8の日

 

 

 アルガから言われて、ロット王の事を思い出した。

 

 ここの生活が楽しくて、一瞬たりとも思い出すことが無かったのだ。

 

 まあ、むこうとの婚姻など保身の為の一手でしかないので、山暮らしを続けるなら無視しても構わない。

 

 私はそう思うのだが、アルガは違うらしい。

 

 どうやらあの子は私達が落ち着いたら、オークニーまで送っていく気らしい。

 

 あの子からロット王との婚約の話をされると、とても胸が痛くなる。

 

 ……わかっている。

 

 あの子に他意はない。

 

 純粋にオークニーに嫁げば私は幸せになれると思っているのだ。

 

 こちらの気持ちに気付いていないのだから、これは当然のこと。

 

 『優しい弟を持って幸せ』と喜ばなければならない。

 

 でも……無理だ。

 

 アルガ以外の男と情を交わしたくない。

 

 体を重ねるなど、持っての他だ。

 

 そんな事になるくらいなら、私はきっと死を選ぶだろう。

 

 だから、アルガ。

 

 私が他の男のモノになるのを喜ばないで……

 

 

クィーンティーリス 12の日

 

 

 少し前にアルガの様子がおかしいと書いたが、その事をお母様と共に確認した結果、とんでもないことが判明した。

 

 あの子の体が人間から高位精霊に変化していってるのだ。

 

 お母様が言うには、あの子が氣功術を神代に近い環境であるこの山で使用していた事でその体の構造が人間を逸脱つつあるのではないか、ということらしい。

 

 このほかにも私達の中に流れる女神の末裔の血が関係している可能性もあるらしいが、なんにせよこれは由々しき事態だ。

 

 あの子が精霊になってしまったら、ただでさえ高いハードルがさらに踏破困難になってしまう。

 

 それに、あの子は永遠に若いままなのに私だけが年をとって老いていくなんて事にも……。

 

 そんなのは嫌だ……

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

 

 何とかしないといけない。

 

 しかし、変化の兆しが現れているアルガを止める事はできない。

 

 無理に干渉してアルガに何かがあったら、私は耐えられない。

 

 こうなったら悠長に迷っている暇は無い。

 

 お母様に全てを打ち明けて、仲間に引き込むしか……

 

 

クィーンティーリス 18の日

 

 

 お母様がこちらの協力者になってくれた。

 

 説得には当初の予定通り、意中の男性以外に抱かれたくないという情に訴える他に、アルガがいかに私達の一族の使命に適正があるかを説明した。

 

 私達の一族の使命、それはこのブリテン島を管理し、星の流れに応じて神秘の徒や幻想種達を妖精郷へと誘う事。

 

 その為に女神の系譜たる女は適正がある男を伴侶に迎え、島の管理者としての責務を共に果たしていくのだ。

 

 そして、あの子が持つ管理者としての適正はずば抜けて高いと私は見ている。

 

 アルトリアの様子を見に行った時もそうだが、あの子は異様なまでに幻想種との遭遇率が高い。

 

 聞けば、城を放逐された頃から様々な幻想種とであって来たらしい。

 

 精霊や巨人、魔獣に妖精、果ては竜種まで。

 

 いくらブリテンとはいえ、神代が終ったこの世界で竜種に出会う事など普通はありえない。

 

 なのに、あの子は庄之助を初めとして多くの竜と相見えている。

 

 これは先代だったお父様の血か、それともあの子特有の才能なのか?

 

 それに穏健派であり幻想種を説得していたお父様では、対話が不能なモノや凶暴な相手は手に負えなかった。

 

 しかし、アルガの剣の腕があれば、そんなモノ達も十分に対処が出来るだろう。

 

 何より、あの子自身が精霊へと昇華しつつあるのだ。

 

 管理者の役目を任せるに、これ以上の逸材などいるはずが無い。

 

 こんな感じで説得を重ねた結果、お母様もこちらに引き込む事ができた。

 

 これは大きな進歩だ。

 

 なにしろ味方につければ頼もしい事この上ないが、反対に回るなら最大の障害となりうる人なのだから。

 

 何にせよ、これで外堀の大半は埋めることができた。

 

 あとはじっくりと腰を据えて城を落とせばいい。

 

 




 小ネタ ホワイト・ローズ

ぐだ子  『アーサーの霊衣が手に入ったので、お披露目します!』
プーサー 『ありがとう、マスター。これは良い衣装だ』
リリィ  『凄い! 良くお似合いですよ、アーサーさん!』
ヒロインX『なんというか、正統派の王子様という感じですね』
ぐだ子  『そういえば、アルガさんっていつもそのコートだよね』
剣キチ  『ん? まあ、そうだな』
ぐだ子  『偶には気分を変えて着替えてみませんか?』
剣キチ  『アーサーみたいな服にか? さすがに俺には白は合わんよ』
リリィ  『でも、違う服を着た兄さんも見てみたいです!』
ヒロインX『たしかに、兄上はブリテン時代もその服でしたからね』
プーサー 『師範、着飾る事で女性を説得するのは難しいと思いますよ』
剣キチ  『そうみたいだな。仕方ない、何か適当な服が無いか、ダヴィンチちゃんに聞いてみるか』

(三十分経過)

リリィ  『遅いですね、兄さん』
ヒロインX『兄上は身一つで来てますし、カルデアは雪山の中ですから。衣服一つにも手間取っているのかもしれません』
ぐだ子  『う~ん、無理を言わなけれな良かったかな』
プーサー 『どうやら戻って来たみたいだよ』
剣キチ  『すまん。何やかやと合わせていたら時間がかかった』
リリィ  『…………』
ヒロインX『…………』
プーサー 『…………』
剣キチ  『どうした?』
ぐだ子  『アルガさん、それってもしかして『ロイヤルブランド』?』
剣キチ  『ああ。なんか男女一つづつ作ってたらしいから、男性用を仕立て直してもらったんだ。この手の服を着たのは久しぶりなんだが、やっぱ似合わないか?』
リリィ  『えっと、なんというか……』
ヒロインX『すごく、マフィアか殺し屋です』
プーサー 『いえ、似合ってますよ。裏社会の凄腕的な雰囲気で』
剣キチ  『ああ、うん。そう言うと思った』
ぐだ子  『なんというか、目つきの鋭さと雰囲気で『その筋のヒト』に見えてるんじゃないかと……』
剣キチ  『うーむ、マフィアも殺し屋も鉄砲玉も経験してるし、そっちの感想も的外れってワケじゃないんだよなぁ』
ぐだ子  『経験あるんだ!?』
ヒロインX『そんなの聞いた事ないですよ!?』
剣キチ  『言ってなかったからな。ま、長く生きてりゃなんでも経験するってこった』
リリィ  『う~ん……』
プーサー 『どうしたんだい、リリィ』
リリィ  『いえ、二人を見ていると既視感というか何というか……すみません、二人共並んで立ってくれませんか?』
剣キチ  『ああ、いいぞ』
ヒロインX『二人並ぶと、なおさら雰囲気の差がわかりますね』
ぐだ子  『例えるなら王子様とSPだね』
剣キチ  『SPは経験ないな。どっちかというと要人を狙う方だったし』
プーサー 『師範に狙われるなんて、ゾッとしませんね』
リリィ  『あ! わかりました!!』
ぐだ子  『なにが?』
リリィ  『アーサーさんと兄さんから感じる差って、騎士王さんと黒い騎士王さんにそっくりなんですよ!!』
ぐだ子  『なるほど。言われてみれば、アルガさんってアーサーにもよく似てるもんね。髪や肌、目の色からアーサー・オルタに見えても仕方ないかも』
剣キチ  『まあ、世界がどうこうって事を置いとけば、一応遺伝学上はアーサーも異父弟になるみたいだしな。似てるかもしれんわな』
プーサー 『そういえばそうなるんですね』
剣キチ  『次は新宿らしいし、これにコート着て出てみるか』
ぐだ子  『私と被るからヤメテクダサイ。あと、ヤクザって言われても違和感ZEROすぎるから』

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