剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

118 / 135
 お待たせしました。

 FGO最新話の完成です。

 対エルメロイ二世編ですが、一話で終わる筈が二話に伸びてしまいました。

 もう少しコンパクトにまとめようと思っていたのですが、なかなかに難しいモノです。

 あと、FGOですが今回の水着イベントはGOODです。

 QPがもりもり溜まって、金欠気味だった私には恵みの雨です。

 前半はありったけの理性で爆死を石総数の半分で納めました。

 あとはピックアップ後半に賭ける事にしましょう。


剣キチが行く人理修復日記(17)

 敵の術中に嵌ってから絶えず全身を襲う違和感に、黒の剣士アルガは舌打ちを漏らす。

 

 振るう剣の鈍さがもどかしい。

 

 勁による疾さを失った身体が酷く重い。

 

 打ち寄せる波のように絶えずこちらへ襲い掛かるローマ兵。

 

 本調子ならば機先を制して斬り伏せられる彼等と剣を打ち合わせざるを得ない我が身の未熟に奥歯が軋む。

 

 例えるなら、今のアルガは羽を毟り取られた猛禽であった。

 

 彼がこのような窮地に追い込まれた切っ掛けは数刻前に遡る。

 

 英気を養い、再び首都を発ったネロ帝率いる正統ローマ軍。

 

 女神ステンノから教えられた敵本拠へ向けて進軍する彼等であったが、その道程にそびえる敵の要塞に近づくにつれて連合ローマ軍からの攻撃を受けることになった。

 

 彼等の攻勢は奇襲ではあるものの散発的で、隊列の側面や最後尾を襲われたにも拘わらず大きな被害は出なかった。

 

 しかし、この攻撃の真の目的は正統ローマ軍へ打撃を与える事では無かった。

 

 正統ローマで客将として遇されているサーヴァント、その中でも火力の要を担う二騎の狂戦士。

 

 呂布奉先とスパルタクスを本体から引き剥がす事が連合ローマの狙いだったのだ。

 

 はたして連合ローマ軍の目論みは功を奏し、離脱する小隊を追って二騎のバーサーカーは戦線を離脱。

 

 しかも彼等を追いかけて、制御役であるアサシン・荊軻(けいか)とライダー・ブーディカまでもが本隊から離れてしまった。

 

 敵軍の取った明らかにバーサーカークラスを釣り上げるような戦術に、ネロ帝は襲撃者の背後に優れた計略家の姿を見る。

 

 戦力を削り取られた現状を狙ってくると防備を固める中、アルガはネロ帝に一つの案を提示する。

 

 それは彼が敵陣へ潜入し、件の計略家を暗殺するというモノだった。

 

 その危険度からネロ帝をはじめ自軍のサーヴァントの殆どが反対の声を上げる中、彼の策を支持する者もいた。

 

 それはセイバーの一騎であるモードレッドだった。

 

 彼女はルーマニアで勃発した聖杯大戦に()いて、アルガがアッシリアの女王セミラミスの宝具である空中庭園への潜入を成功させていた事を憶えていた。

 

 モードレッドの口から語られた実績によって反対の声は沈静化。

 

 ネロ帝は改めて、アルガへ標的の排除を命じた。

 

 こうして一人軍を発ったアルガは、立ち上る軍氣を辿る事で連合ローマの部隊の陣地を特定する。

 

 内部へ潜入し他者と接触しないように気を配りながら陣地を進んでいると、程なくしてアルガは陣頭指揮を執る男を発見した。

 

 時代にそぐわぬ黒のスーツ姿と気配からその人物がサーヴァントである事を見抜いたアルガは、彼がターゲットである事を確信。

 

 かつて凶手であった時の様に、音を殺しながらその背後へと近づいて行った。

 

 氣功と体術の合わせ技にして隠形の到達点の一つである圏境を見抜ける者は連合ローマ兵には居ない。

 

 故に、この暗殺劇は成功するかに思われた。

 

 しかし標的の首を刎ねようとした瞬間、何かが弾けるような音と共にアルガの身体に異変が生じた。

 

 経絡を巡っていた氣がその流れに逆らうかのように乱れ、同時に全身を倦怠感が襲ったのだ。

 

 即座に練氣を阻害された事に気づいて距離を取ったアルガであったが、その状態では圏境を保つことは出来ない。

 

 結果、彼は敵兵のど真ん中に姿を晒す事となってしまう。

 

「やはり、私を狙ってきたな」

 

 咥えた煙草を燻らせながら、眼光鋭く襲撃者を睨みつける軍師。

 

 彼の合図で、アルガの取り囲むように天幕や備品の影から伏兵が飛び出してくる。

 

 敵の用意周到さから策が読まれていた事に気づき、アルガは小さく舌打ちを漏らした。 

 

「────随分あっさりと気づかれたもんだ。これでも隠形には自信があったんだがな」 

 

「気付いたわけではないさ。不本意だがこの身はキャスターのサーヴァント、気配察知に秀でてはいないのでな。だが───」

 

 そこでいったん言葉を切った軍師は、吸気と共に咥えた煙草を炙る火の位置をさらに進める。 

 

「使い魔越しにその姿を見た時から、策を弄せば貴様が暗殺に出る事は読めていた。ならば、後は私という餌を中心に網を張ればいい。我が奇門遁甲は如何なる隠形も白日の下に浮かび上がらせる。それはかの英雄王すら暗殺せしめた貴様も例外ではない」

 

 紫煙と共に吐き出された答えにアルガの目は鋭さを増す。

 

 彼がかつて英雄王を暗殺した事を知るのは、並行世界で行われた第四次聖杯戦争に参加した者のみ。

 

 だが、当時参戦したサーヴァントの中に眼前の男は存在しなかったはずだ。

 

「今の貴様は翼を失った鴉同然。我が朋友(とも)の為にも、ここで討ち取らせてもらうぞ!」

 

 気合と共に一閃された羽扇を合図として、周辺のローマ兵が一斉にアルガへ襲い掛かる。

 

 統制された動きで四方から繰り出される槍の穂先と鈍色の刃。

 

 しかし、アルガもこの程度で容易く討ち取られるほど甘くはない。

 

 最も早く自身の身体に到達するであろう右の穂先を倭刀の束頭で抑えると、すかさず左側から襲ってきた男の脛骨を抜き手で粉砕。

 

 追撃する二条の殺意を紙一重で躱しざまに残った三人の首を刎ね飛ばした。

 

 そして緩んだ刹那の間を見逃さずに包囲を脱出しようと試みるが───

 

「させんっ!」

 

 それは軍師が振るう羽扇によって生じた火柱によって防がれた。

 

 間一髪で後方へ退避した為、アルガに今の一手でのダメージはない。

 

 しかし、その代償として包囲陣からの脱出は叶わなかった。

 

 (とき)の声を上げて再び襲い掛かるローマ兵達。

 

 アルガは四方から殺到する剣や槍の切っ先を時に歩法と体捌きで避け、押し寄せる敵を次々とを斬り捨てていく。

 

 不調など感じさせない程に淀みなく闘い続ける彼の脳裏に(よぎ)るのは、先ほど軍師から吐き出された一つの単語だった。

 

 奇門遁甲。

 

 中国道教に伝わる道術の中にある占術「式占」の一種だ。

 

 伝説によると黄帝が蚩尤と戦っていた時に天帝から授けられたとされ、紀昀(きいん)の『閲微草堂筆記(えつびそうどうひっき)』によれば、奇門遁甲の真伝は単なる占術ではなく呪術の要素も含んでいたと記されている。

 

 なるほど、道術とは神仙へと至る為に数多の先人によって研鑽された術理。

 

 遁甲や氣功術もまたその一部なれば、対策が備わっている事も納得がいく。

 

 彼は自身の不調が体内を巡る氣、その循環を狂わされた為である事を自覚していた。

 

 遠い昔、戴天流の師がお伽噺(とぎばなし)のように語っていた『術を以て天地を返す』とはこういう状態を言うのだろう。

 

 とはいえ、原因を掴んだところで現状を好転させるには時間が足りない。

 

 氣功術は神仙道に通じる術の一つであり、神仙道とは己という小宇宙全てを掌握する事を極意とする。

 

 その業を以てすれば随意筋は勿論、心肺を始めとする自律神経によって無意識に制御された部位。

 

 さらには血流や生命の根幹たる気脈やチャクラすらも意のままにする事が可能となる。

 

 俗に仙人は霞を食べて生きていると言われているが、その本質は大周天という練氣の業を用いる事で天然自然の氣を体内に取り入れ、それを循環させることで肉体を維持する事にある。

 

 故にアルガも乱された循環を正す事が可能。

 

 しかし、それには肉体の詳細な状態と通常を上回る練氣が必要となる。

 

 とてもではないが、片手間で行える作業では無い。

 

 それでも細い糸を紡ぐかのようにして、アルガは少しづつ乱れた循環に手を加えていく。

 

 殺意を導に群がる兵の刃を躱し、相手を斬り伏せるその僅かな合間を利用して。

 

 剣魔の刃は未だ折れず。

 

 狙いは違わず軍師の首のみ。

 

 

 

 その頃、正統ローマ本隊は予想だにしない敵の襲撃を受けていた。

 

 先ほどと変らぬローマ兵の小隊を退けると同時に現れた、(むくろ)の象に騎乗した禿頭の巨漢サーヴァントを中心として展開する不死者の群れ。

 

 それは征服王イスカンダルの終生の宿敵と言われた、勇猛なる古代ペルシャの覇者。

 

 アケメネス王朝ペルシャ最後の王ダレイオス三世と、その宝具『不死の一万騎兵(アタナトイ・テン・サウザンド)』によって召喚された古代ペルシャの勇士『不死隊アタナトイ』であった。

 

「くそっ!? 奴等ガワはゾンビやガイコツだが、中身は本物の英霊だぞ!!」

 

「しかも全員が狂化のかかった状態だ。とてもではないが、まともに相手などしてられん!───ランサー、混戦になる前に宝具で消し飛ばすぞ!!」

 

「あいよ!」 

 

 先遣隊を倒したエミヤとクー・フーリンは全力で後方に跳び、その身を宙に投げながらも自身の宝具を開帳する。

 

「―――我が骨子は捻じれ狂う(I am the bone of my sword)

 

「この一撃、手向けと受け取れ!」

 

 ドリルのような刀身の剣を矢に変えて弓へと番えるエミヤ、その横では空間が歪むほどの魔力を帯びた紅槍を振りかぶるクー・フーリンの姿がある。

 

「―――偽・螺旋剣(カラドボルグ)!!」

 

「―――突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

 二騎より放たれた赤と青の閃光は迫りくる軍団の鼻先へと突き刺さり、数百単位で兵共を吹き飛ばす。

 

 しかし不死者の群れは止まらない。

 

 まるで彼等全てが一つの弾丸と化したかのように、前面の被害など意にも介さずに突き進んでくる。

 

「クソッタレッ! 奴等、まるで堪えてねぇ!!」

 

「チッ、あの数の前では焼け石に水か」

 

 地に降り立って苦虫を噛み潰す二騎。

 

「次は私達に任せてください。ああいう軍勢を薙ぎ払うのはこちらが得手です」

 

「そういうこった。テメェ等は後ろに下がって馬車と兵の護衛でもしてな」

 

 そんな彼等に代わって前に出たのはアルトリアとセイバーのモードレッド、そしてリリィであった。

 

「いやはや壮観ですねぇ。あれを見ているとピクト人共を思い出します」

 

「なんと! あれが未来の私の敵になるのですか、師匠!?」

 

「いや、あそこまで酷くねーだろ。つーか、もう少し気合入れようぜ叔母上」

 

「わかってますよ。ワンクッション置いて、緊張を解そうとしただけです」

 

 軽口を叩きながらも各々得物を構える騎士二人にニート一人。

 

「さて、行きますよ二人とも」

 

「おう!」

 

「はい! 以前の師匠の様に、カリバーン十連発だって大丈夫ですッ!!」

 

「そこまで頑張らなくていいですよ、リリィ。それやっちゃうと剣が折れちゃいますから」

 

「ホント締まらねぇな、叔母上! ともかく、始めるぞ! 我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

「続いていきます! 勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!!」

 

 振り下ろされたモードレッドの剣からは赤雷が、そしてリリィからは黄金色の閃光が放たれる。

 

 それを見ながらアルトリアが構えたのは、聖剣ではなく聖槍だった。

 

「いきますよ、ロンゴミニアド! これぞ私が寝る前30分で考えた合体宝具! 超電磁タ・ツ・マ・キぃぃぃぃぃっ!!」

 

 突き出された聖槍が吐き出した暴風は先行していた二つの宝具のエネルギーを巻き込み、まるで地上に降り立った龍のごとく次々と不死者達を薙ぎ払う。

 

「なんだありゃあっ!?」

 

「さすが師匠、スゴイです!!」   

   

「物は試しでやってみたんですが、上手くいってよかった。やはりジャパニメーションは新技ネタの宝庫ですね。────とはいえ」

 

 驚愕に(おのの)くモードレッドに目を輝かせるリリィ。

 

 弟子からの称賛に締まりのない笑みを浮かべたアルトリアだが、次の瞬間には巻き上がる粉塵の向こうに移る影を見ながら顔を引き締める。

 

「薙ぎ払うタイミングが悪かったのか、全体の6割ほどしか持っていけませんでしたか。リリィ、モーさんは一旦下がりなさい。あとは私が限界まで敵を削ります」

 

「何言ってんだ、オレもやるぜ!」

 

「そうです! 師匠だけにお任せするわけには」

 

「モーさんが宝具を連発すれば、モードレッドへの負担になります。そしてリリィ。カリバーンは王の選定を行うための儀式剣、過度の魔力に耐えうるようには出来ていません。この役目は私が最も適任です」

 

 理論立ててこう言われては、モードレッド達も反論することが出来ない。

 

 生者とサーヴァント。

 

 本来であれば後者に傾くアドバンテージだが、今回ばかりは前者へ軍配が上がった形だ。

 

「後ろに下がった際にはジークフリートに声を掛けてください。もしかしたら、ダメ押しで宝具を撃ってもらうかもしれません」

 

 馬車の方へと下がっていく二人の気配を背中越しに感じながら、アルトリアは黄金と黒の聖剣を手に大きく息を吸った。

 

 

 

 

 アルガが自身を絡めとろうとする罠に抵抗する中、諸葛孔明の疑似サーヴァントであるロードエルメロイ二世ことウェイバー・ベルベットは、己が手の内にある獲物の様子を冷徹な目で観察していた。

 

 眼前の剣鬼は気づいていないが、彼はアルガと顔を合わせた事がある。

 

 彼が生きる時間から(さかのぼ)る事10年。

 

 冬木で行われた第四次聖杯戦争で、彼はライダークラスで召喚された征服王のマスターだった。

 

 当時は魔術師としても人としても未熟であったウェイバーは、ゴーストライナーの極致たる英霊を前に一歩も引くことなく闘うアルガへ心のどこかで憧れに近い感情を持つ事となった。

 

 もっとも魔術と剣という互いの分野があまりにも畑違いである事に加えて、生来のプライドの高さや当時抱えていた劣等感も起因して、素直にそれを現すことは無かったが。

 

 結局、彼の参加した聖杯戦争は3組もの主従の願いを叶えるという変則的な形で幕を閉じた。

 

 その後、ウェイバーは時計塔へ戻り講師として成功を収めていく事になるのだが、その中であっても彼がアルガを忘れる事は無かった。

 

 彼が仕えてもよいと思う朋友イスカンダルは、結局彼の剣士と剣を交える事は無かった。

 

 明確な優劣が付かなかった事も手伝ってか、ウェイバーは世界を放浪していた征服王から手紙が届くたびに、どうすればあの剣士に打ち勝てるかを考えるようになっていた。

 

 薄れ行く記憶の中からアルガの放った言葉を書き出し、そこから彼が使っていたのが東洋の氣であろうと仮説も立てた。

 

 『もう二度と会う事が無い相手に何をしているのか?』という自嘲はもちろんあった。

 

 しかし、それでもウェイバーはその行為を止めようとはしなかった。

 

 何故なら魔術師の血統としては歴史が浅く、教師としては有能でも魔術の実践者としては非才である彼にとって、修練の積み重ねで英霊をも超える力を手に入れた彼の剣士はある種の理想であったからだ。

 

 彼へ至るのではなく打ち倒す事を選んだのも、正攻法では長命であるアルガに追いつくことは出来ないと無意識に気づいていたからだろう。

 

「まさか、半ば妄想だった事を実行することになろうとはな……」

 

 新たな煙草に火を付けながら、ウェイバーの口元が皮肉気な笑みを描く。

 

 中国屈指の軍師である諸葛亮の依り代に選ばれただけでも異常であるのに、召喚されてみれば待っていたのはこの奇縁である。

 

 呼び出された直後、使い魔越しにアルガの姿を見た時は乾いた笑いが出たものだ。

 

 正直、共にいたのが朋友の若き日の姿であるアレキサンダーでなければ、如何なる手を使ってでも契約を破棄して逃げ帰ってるところである。 

 

 彼がここで陣と命を張るのは、召喚者に命じられた正統ローマ討伐の為ではない。

 

 偏に朋友が語った願いの為だ。

 

 戦端が開かれる前、アレキサンダーは敵将であるネロ・クラウディウスと話がしたいと言っていた。

 

 言葉を交わして彼女の考えを聞き、そしてその王道を知りたいと。

 

 かつての第四次聖杯戦争で、大王へと成長した彼は同様の目的で騎士王を酒宴へと誘った事がある。

 

 それを聞いたウェイバーは成熟する前とはいえ、傍らの少年が征服王である事に間違いない事を確信した。

 

 だからこそ、ウェイバーはアレキサンダーの進む道からアルガという死の影を取り除いたのだ。

 

 軍の大半を自分の傍に置き、大将であるアレキサンダーには随伴したサーヴァントが一騎とわずかな兵士しか残していない。

 

 カルデアの増援によって正統ローマのサーヴァントの数は劇的に増加しているが、それに関しては共に行ったダレイオス三世に任せるしかない。

 

 彼なら、アレキサンダーの願いが叶うまで時を稼いでくれるだろう。

 

 そう信じたからこそ、ウェイバーは自身が連合ローマ軍の中枢であると演出する事で彼の剣士をここに呼び寄せた。

 

 そんな彼にとって幸運だったのは、諸葛亮が道術に通じていた事だ。

 

 お陰でアルガ攻略に於ける最大の問題であった暗殺を防ぎ、さらには彼の術理の源である氣功術までもを封じる事が出来た。

 

 ウェイバーの支援によって、低級とはいえ英霊に匹敵するほどに能力が向上した連合ローマ兵。

 

 すでに500を超える同胞の屍が転がっているにも関わらず、恐怖など微塵も見せない彼等の攻勢に合わせてウェイバーも魔術を放つ。

 

 四方から襲い来る剣戟を縫うようにして、アルガへ牙を剥く風刃・落石・そして天をも焦がさんと沸き立つ火炎。

 

 しかし、それらのいずれもアルガの身体を捉える事はない。

 

 其の全てがこちらの思考を読まれているかのように躱され続けているのだ。

 

 攻め手からしてみれば理不尽極まりない光景であったが、ウェイバーは動じなかった。

 

 かつての聖杯戦争でアルガはアーサー王を無傷で完封してみせたのだ。

 

 ならば、諸葛亮の力を借りただけの小手先技など通用するわけがない。

 

 ウェイバーが期待しているのは相手の疲弊である。

 

 化け物が民衆に勝ち、英雄が化け物を倒し、そして民衆が英雄を殺す。

 

 歴史やお伽噺が指し示すように、いかに屈強な英雄といえど数の暴力には敵わない。

 

 クー・フーリンを始めとして、国家や民衆の刃に倒れた英雄は思った以上に多い。

 

 ウェイバー率いる連合ローマ兵の数は五千を超える。

 

 しかも、その全てが彼の支援で格段に能力が向上しているのだ。

 

 如何に超常の剣士とはいえ、この状況を覆すことは不可能であろう。

 

 そう考えながらもウェイバーは攻め手を緩めようとはしない。

 

 相手は上位の英霊すら上回る化け物、慢心や油断の代価は自身の首で支払う事になるだろう。

 

 しかし、そういうワケにはいかない。

 

 己の役目を全うするまで、彼は死ぬ事など許されないのだ。 

 




水着剣豪小ネタ

 2019年夏。

 娯楽の町、ラスベガスは危機に直面していた。

 本来なら『水着剣豪七色勝負』というイベントが楽しく行われるはずのこの舞台に、どこからか現れたならず者達が襲い掛かったのだ。

『ヒャッハー! あのカジノ、キャメロットって名前だぜぇ!!』

 ズラに生えたモヒカンを靡かせながら、下品な改造バイクを疾走させるのはガヘリス。

 世紀末野盗ルックが良く似合うワイズガイである。

『ぶっ壊せぇぇぇぇぇっ!!』

 その後ろからジェット機に跨ってノリノリで叫ぶのはガウェイン。

 普段の騎士っぷりはどこへやら、こちらもモヒカンのズラが良く似合う男である。

 余談だが、それを見ていた某マスターと盾子、そして彼女の所属する組織との会話はこうだ。

『あれってガウェインさんとガヘリスさん!?』

『きっと、アルガさんの方のお二人です。ですが、何故あんな蛮行を!?』

『というか、今の映像を見てこっちの騎士王様が気絶したんだけど!!』

 むこうはむこうで立派なカオスのようである。

 閑話休題。

 話を戻してカジノ・キャメロット側だが、彼等も伊達に円卓の騎士の拠点の名を使っているわけではない。

 開かれた入り口の奥から、不穏な空気を察知した太陽の騎士と湖の騎士が飛び出してくる。

 その二騎の姿は異様。

 筋肉でぱっつんぱっつんになった純白のバニースーツは、まさに害悪であった。

転輪する勝利の剣(汚物は消毒だぁぁぁぁぁぁっ!!)

『ぬわーーーーーっ!!』

 ナパームモードとなったガラティーンの一撃を受け、あっという間に火達磨になるランスロット。

『外道っ! カジノを盛り上げる可愛いうさぎさんに何という暴挙を!?』

『貴様のようなうさぎがいるか!』

『ぐはぁ!?』

 抗議の声を上げるも、寸毫の躊躇も無いガヘリスによって撥ね飛ばされる太陽の騎士。

 そこにバイクを乗り捨てたガヘリスが飛びつき、あっという間に技を掛けてしまう。

『ナパームストレッチ!!』

「ウギャーーーーーッ!!」

 某超人漫画の様な悲鳴を上げて地面に沈む太陽の騎士。

 すると、襲撃者がやってきた方向から三台目マシンが駆けてくる。

 現れたのは黒塗りのパトカー。
 
 その屋根に立っているのは、野盗ルックにホッケーマスクを被った男だ。

『『やれ、三男!』』

『憎しみの心にて、悪しき職場を断つ! 食らえ、父上直伝・空間斬!』

 鞘走らせた一刀によって、轟音を立てて地面へ落ちるカジノの看板。

 それと合わせるように、店の奥から傷付いた獅子王、トリスタン、ベティヴィエールが相次いで吹き飛ばされてきた。

『愚昧が、穢れも知らずに賭博場を開くなど笑止千万』

 次いで入り口から現れたのは、半ズボンタイプの黒い水着にランダの面を被った男。

 そしてバーテン姿のモリアーティであった。

『セキュリティもまだまだ甘い。数少ない子飼いの部下に任せているから、外の襲撃を陽動に潜入した私達に気付かないのだよ』

『ぐっ……』

『貴方達は、いったい何が目的なのですか!?』

 打ちのめされ言葉も出せない獅子王に代わり、二人を糾弾するベティヴィエール。

 その姿がバニーでなければ格好がついたであろう。

『俺が望むのは───天!』

 銀腕の騎士の必死の言葉を受けた仮面の男は、ゆっくりと蒼天へと指を突き上げる。

『て……天?』

『この地では【水着剣豪七色勝負】とやらが始まっているようだが、そんなものは手温い!』 

 男の一喝によって騎士たちはもとより、周辺に集まっていたやじ馬たちも言葉をなくす。

 それほどまで、男の放つ覇気と剣氣は凄まじいモノだった。

『参加資格は水着着用などと下らぬ事は言わん! 俺はこの地を席巻し、英霊最強決定戦を開くのだ!!』  

『ぐっ……そんな戯言、人理が許さんぞ……!!』

『ならば、人理と戦うまで』

 ルーラークラスとしての言葉を一蹴した男は、敗者と化した獅子王達に背を向ける。

『今よりこの施設は俺の物となった。もとより、裏社会の闇も知らぬ貴様にカジノを経営する資格なぞないがな』

『安心したまえ。君のカジノは私とMr.デスクィーン師匠でしっかりと守っていく。この街の闇に潜む連中とも話は付いている。数日有れば周りのカジノも私たちの手に堕ちるだろうさ』

 そう言い残すと、野盗ルックの息子たちを連れて仮面の男たちは店へと姿を消した。

 そして振動のあと、新たな看板がカジノを彩る事となる。

 その名は『カジノ・デスクィーン島』

 行われるのは『人間闘技場』のみというラスベガス一デンジャラスな賭場である。

『クソッ! 何者なんでィ、あの仮面ヤロウは!?』

 仮面の男たちが姿を消した後、獅子王達を介抱していた立香達。

 突如として行われた乗っ取り劇に、北斎は怒りを隠そうとしない。

『仮面の男については、名と超絶的な剣の腕しかわかりません。私は、あの男に傷一つ付けられなかった……』

 力なく俯く獅子王をトリスタンとベティヴィエールが必死に励まそうとする。

 ちなみに某太陽と湖の騎士は、受けたダメージが大きすぎたために座に還ってしまった。

『というか、むこうのガヘリスさん達が協力してるのを考えたら、あの仮面の人ってアルガさん確定だよね』

『ですが、闇堕ちしたアルガさんとモリアーティ教授が手を組んだら、このラスベガスが米国のヨハネスブルグとなるのは時間の問題です』

『英霊最強決定戦にも心惹かれるけど、私たちは水着英霊。彼の蛮行は止めねばなりません』

『そうだね。この特異点も修復しないといけないし』

『そうと決まれば、いざ出陣でィ!』

 こうして決意も新たにラスベガスの町へ足を向けるカルデア一行。

 果たして、彼等はデスクィーン師匠の野望を阻止する事ができるのか?

 続かない。    

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。