プライベートの密度が増して、なかなか時間が取れない日々。
目次の整理とか、色々あるのになぁ……。
とりあえず、ボチボチやっていきたいと思います。
人理修復記 20日目
やって来ました、第二特異点ローマ。
今回は俺一人がハブられるという事も無く、全員無事に同じ場所へ転送された。
成功実績も少ないレイシフトを相手に無茶な注文を付けたにも拘わらず、二度目にして欠点を補正してくれたスタッフには感謝である。
さて、ローマ市街近郊の丘陵地に現れた俺達だが、そこで意外な人物と出会う事になった。
それは第五代ローマ皇帝ネロ・クラウディウス。
彼女(史実とは違って女性だった)は、自身が率いているローマ軍と同じ装備を付けた敵を相手に、ほぼ一人で首都への侵入を防いでいた。
義を見てせざるは何とやらという言葉に従って彼女の助太刀に入ったのだが、敵兵を退けた後に現れたのは何とサーヴァント。
ネロ帝が叔父上と呼んだ男、第三代ローマ皇帝カリギュラは雄たけびを上げながら自身の姪に襲い掛かった。
死者が黄泉返るという信じがたい現実に呆然と立ち尽くすネロ帝。
しかし、彼女を庇うようにカリギュラの前へ立ち塞がる者がいた。
そう、ミユちゃんのサーヴァントであるマルタ女史である。
突進の勢いを込めてフルスイングで右拳を振るうカリギュラであったが、それは眼前の聖女に対しては悪手であった。
岩をも砕く剛拳をヘッドスリップで躱した彼女は右のカウンターで相手の頬を撃ち抜くと、返す刀で放った左拳で耳の裏を強打。
そして三半規管を揺らされて崩れ落ちるカリギュラの身体を突き上げるように、強烈なアッパーを顎に叩き込んだのだ。
打つ瞬間に身体が大きく沈んだのを見るに、最後の一撃はガゼルパンチだったのだろう。
暇潰しの為に貸した『はじめの●歩』から技を盗むとは、さすがは竜を沈めた聖女。
フィニッシュブローを叩き込まれたカリギュラはリング……もとい、地面に大の字に沈むとそのまま霊体と化して撤退していった。
余談だが、このKO劇にマルタ女史の事をいたく気に入ったネロ帝が彼女を自分専用の拳闘士にスカウトしたのだが、あえなく袖にされていた。
言うまでもない事だが、彼女はあくまで聖女であって格闘家ではないのである。
襲撃の後、首都ローマにあるネロ帝の宮殿へと案内された俺達は、そこでこの特異点で起こっている異常について耳にする事となった。
なんと、この世界にはローマ帝国が二つ存在するというのだ。
一つはネロ帝が治める正統ローマ帝国。
もう一つは、カリギュラを始めとする過去のローマ皇帝たちが率いる連合ローマ帝国。
現在は連合ローマの侵攻によって正統ローマは国土の半分を失っており、ネロ帝配下の総督や将軍でも彼等の進撃を止める事は叶わず、先遣隊が首都に迫るほどに追い詰められている状態だ。
この情報に際して、所長とロマンは連合ローマこそが特異点の原因であり、目撃された歴代皇帝はサーヴァントではないかという仮説を立てた。
この後、戦線を突破してきた連合ローマ軍による首都への波状攻撃を防ぐことになったのだが、何人犠牲になっても夕方まで攻め続けた彼等はガッツ溢れすぎではなかろうか。
しかし、彼等はいったいどんな精神的支柱があって、あそこまでの忠義を見せているのか?
連合ローマ兵の目の澄み方を見る限り、洗脳などに引っかかってるとは思えない。
同僚はおろか自分が死ぬ間際であっても顔色一つ変えさせない程のカリスマ性。
それを植え付ける事が出来る者が歴代皇帝とやらにいるのだとしたら、相当厄介な事になりそうだ。
人理修復記 21日目
昨日の襲撃の後に話し合った結果、俺達は客将という形で『正統ローマ軍』へと組み込まれる事となった。
因みに最高権力者である総督の座に就いたのは立香ちゃん。
本来なら最年長の俺が就くべきなんだろうが、生憎とこっちは最前線で段平を振り回すという仕事がある。
ブリテン時代から指揮官適性ゼロは伊達ではないのだ。
朝早くに補給の為の霊脈を確保するためにエトナ火山に向かった俺達は、
そこにマルタ女史とミユちゃん合作の悪霊除けの結界を張った後にローマへと帰還した。
行った場所が場所なのでサーヴァントを護衛にして子供達は置いて行ったのだが、帰ってみればモードレッドとミユちゃんが何故かネロ帝に気に入られていた。
当人曰く『美少年はよい! だが、美少女はもっとよい!!』との事なのだが、生憎とウチの娘は双方共にまだ幼女である。
いかにローマ皇帝といえど、過度のお触りはご遠慮いただきたい。
話を戻そう。
こちらの所用が済んだ事で、当初の予定通りにガリア奪還の最前線である野営地へと
秦の始皇帝を暗殺しようとした刺客、
人中の呂布と謳われた三国時代最強の武将、呂布奉先。
ローマに反旗を翻した剣闘士、スパルタクス。
そしてブーディカと言う女性。
言うまでも無く全員がサーヴァントである。
クラスを付け加えておくと、呂布とスパルタクスがバーサーカー。
あと荊軻がアサシンでブーディカ女史がライダーだという。
さて、この中で最も厄介だったのは意外な事にブーディカ女史だった。
このブーディカ女史、マシュ嬢の話ではブリテンの英雄らしい。
イケニ族という部族の女王でローマによる度重なる圧政に反旗を
そんなワケなので、ウチの一家がブリテン出身だと知った彼女のスキンシップは凄かった。
最初に接触していた立香ちゃんとマシュ嬢を抱きしめていた彼女は、アルトリアとリリィがアーサー王だと聞くと全力全開のハグ。
お袋さん並みの母性と包容力を持つ彼女(愚妹いわく『おっぱいも母上並みでした』とのこと)の抱擁によって、危うくアルトリアの労働意欲が浄化されてニートに戻るところだった。
モードレッドとミユちゃんに関しては、子供が前線に出ている事に忌避感を示したものの人類の現状と神使の使命、そして護衛として俺達がいる事を話すと『がんばってるんだね!』と感極まって再びハグ。
この際、アタランテが尻尾を膨らませて威嚇していたのは見なかったことにする。
俺は妻帯者ということで、ハグは勘弁してもらった。
99%俺達の様子を見ているであろう身重の姉御に余計なストレスを与えたくないし、万が一にも返しが飛んで来たらシャレにならん。
ウチの嫁さんはちょっぴりヤキモチ焼きなのである。
自己紹介が終わると、互いの実力を知るという名目で手合わせを行う運びになった。
伝説で万夫不当と言われた呂布の力を試せるかと胸を躍らせたのだが、残念なことに俺は立香ちゃんから出場停止命令を受けてしまった。
理由は『本気になって殺しちゃったら困る』との事だが、なんとも失礼な話である。
空気はしっかり読める男だぞ、俺は。
まあ、手合わせ自体は互いの手の内を探り合う程度のものだったので、不完全燃焼を抱えないで済んだ事を思えば参加しなくて正解だったかもしれん。
手合わせの後で軽いディスカッションがあったのだが、荊軻と呂布は俺も伝説を浅く知る程度なので、当たり障りのない挨拶に留めておいた。
最後のスパルタクスだが、やはりと言うべきかルーマニアでの記憶を持っていた。
バイキンマンのお面程度では誤魔化せてなかったらしく、止めを刺した相手であるのは一目で看破される事に。
とはいえ、その事について責められることはなく、代わりに「君は圧政者かね?」という謎の質問を投げかけてきた。
自分の今までの行動パターンを顧みて「う~ん、反逆者じゃね」と答えを返したところ、「共に圧政に抗おう!!」と何故か気に入られてしまった。
あの厳ついマッスルに加えて張り付いたような笑みが恐ろしい男ではあるが、ルーマニアのような謎の怪物にならなければ実害はなさそうなので、この件については様子見という事にしておこう。
ブーディカ女史曰く『風呂に浸けておけば大人しい』らしいし。
最後にブーディカ女史が甲斐甲斐しく、子供達の面倒を見てくれていた事を付け加えておく。
食事の用意に添い寝まで、姉御がいないので滅茶苦茶助かってます。
いや、ホントすみません。
人理修復記 22日目
野営地で英気を養った俺達は、一路ガリア奪還に向けて歩を進ませる事となった。
それはいいんだが、地中海辺りから漂ってくる神氣はいったい何なのか?
聖杯で神霊が降ろせるなんて話、姉御は言ってなかったんだが。
この件は脇に置いておくとして、今日の本題であるガリア奪還戦に入ろう。
最初に本作戦の編成と配置について説明する。
俺を除くマスターはマリー王妃の宝具であるガラスの馬車に。
その護衛としてマシュ嬢、エイリーク殿、そしてグンヒルドさんが付く。
第一部隊はブーディカ女史とスパルタクス、第二部隊に呂布と荊軻、第三部隊としてクー・フーリンとエミヤ、第四部隊がマルタ女史、ジークフリート、アタランテのファフニール・バスターズ。
第五部隊にアルトリアとリリィにモーさん、そして第六部隊に俺とアンリ・マユ。
最後に総大将としてネロ帝が最前線に立つ形である。
この人員配置を決める際、色々と揉めて大変だった。
まずはネロ帝についてだが、言うまでもなく彼女は正当ローマの大将である。
万が一にも討たれれば、その時点で俺達の負けは確定してしまう。
なのでローマ軍幹部や俺達はガラスの馬車に控えるように説得したのだが、彼女は頑として聞き入れなかった。
「そなた等の言葉が正しければ、我らの前に立ち塞がるのはこれまでローマを栄えさせた偉大なる先達たち。いかに精強なローマ兵といえど、彼等に対して切っ先を向ける事には迷いが生じよう。それ故に余が先頭に立たねばならん! 彼等の正当性を示す光として、そして勇者たちの背を押す追い風として! それが皇帝の責務なのだ!!」
そう高らかに宣言するネロ帝からは、国を背負う者としての覚悟と王氣をまざまざと感じた。
王時代のアルトリアを思い出して無意識のうちの頭を撫でてしまったが、他意はないので悪く取らないでほしい。
うん、決して『背がちっちゃい』なんて考えていないとも。
ネロ帝の事は仕方ないとして、次に不満を口にしたのはクー・フーリンとエミヤだ。
この二人、どうも相性の悪い腐れ縁らしく、同じ隊には入れてくれるなとマスターである立香ちゃん達には事前に口にしていたようだ。
にも拘わらずペアを組む事になったので、互いにそれをチャラにしようと悪あがきが凄かった。
クー・フーリンは俺達の役目が兵を率いない遊撃隊と知るとアンリ・マユに代われと詰め寄るし、エミヤはエミヤでアタランテとトレード交渉する始末。
結局マスター達の堪忍袋の緒が切れた事で、いい大人が子供に怒られる結果に終わったのだが、今思えば代わってやってもよかった気がしないでもない。
こんな紆余曲折を挟んで、ガリア奪還戦の火蓋は予定通りに切って落とされる事となった。
前述したが、俺とアンリ・マユの役目は兵隊無しの遊撃ポジ。
俺は昔から戦場では単独行動が常だったし、相棒の悪神様にしてもボッチがデフォなので問題はない。
とはいえ、こういった大人数の白刃戦なんてブリテン時代以来である。
腕が落ちているかもという不安はあったのだが、任せられていた範囲の敵を殲滅できたので正直ホッとしている。
しかし、ああしてローマ兵を相手にしていると昔の事を思い出す。
剣闘のメインイベントに飛び入り参加して、当時最強と言われた剣闘士の首を刎ねた事。
運が悪かったのは、倒したのが当時の皇帝ホノリウスのお気に入りだったことだ。
今考えれば当たり前なんだが、入れ込んでいた剣闘士が8歳児に負けたなんて完全に皇帝のメンツを潰す行いである。
しかも当時のローマ帝国は対外的に剣闘を禁じていた事もあり、非公式では生き残っていたとはいえ剣闘の興業などそうあるものでは無かった。
楽しみを台無しにされ、顔に泥を塗られた皇帝が怒り狂うのも当然といえよう。
そんな状況を逆手に取って、ローマ正規軍を市街戦と暗殺の練習台にした当時の俺も大概ヤンチャくれである。
結局、丸二日追い掛け回された末にトンずらした訳だが、あの騒動のお陰で勘を取り戻せたことを思えば、少しくらいローマに恩返しをしても罰は当たるまい。
閑話休題。
さて、今回の合戦に関してだが『世界斬り』はもとより『次元斬』や『空間斬』といった広域殲滅技の出番はなかった。
早々に乱戦状態になってしまった上に、兵士はどちらもほぼ同じ装備。
周りへの影響も然ることながら、フレンドリーファイアが怖すぎて撃てたものでは無いからだ。
聖剣ブッパが基本パターンのアルトリアすら自重しているのに、こちらがやらかしては兄の沽券にかかわる。
なので、使った技はガレスのゲームからパクった『漸毅狼影陣』……だったか? が精々である。
某動画にハマっているウチのサーヴァントは、この様子を『残像を纏わせながら超音速で4人同時に斬り殺すその姿は、まごう事なき変態』と称していた。
事実なので反論しなかったが、いくら何でも変態呼ばわりは酷いのではないだろうか。
暴言による悲しみを癒すために兵に紛れていたゴーレムを、『ア●と雪の女王』に出てくる雪ダルマのオ●フにリ・デザインした俺は悪くない。
こちらの割とどうでもいい所感は置いておくとして、ガリア争奪戦はネロ帝が敵将であるカエサルを討ち取った事でこちらの勝利に終わった。
ネロ帝の剣は武術よりも舞踏に近いもので、我流ながらになかなかの虚剣(ダイナミックな動きをフェイントとして、相手の隙を突く剣)だったと思う。
俺のような一芸特化の剣士には及ばないが、世間的に見れば十分に一流の域にあるのではないだろうか。
体躯の小ささから来るリーチやパワーの不足も、あの大剣の刀身の長さと遠心力で補っているようだし、機会があるなら一度手合わせしたいものである。
最後に────あの百貫デブがカエサルとかウッソだろぉ!?
人理修復記 23日目
現在、俺達はガリアの野営地にいる。
これもネロ帝が戦後処理に追われて動けない為だ。
連合ローマの襲撃によって以前までここを治めていたガリア総督は戦死。
行政府や都市部もかなりの被害を受けている為、その復旧作業の段取りに大わらわとなっているようだ。
後任の総督については、再度の襲撃の事も考えてブーディカ女史が内定している。
告げられた当初は乗り気ではなかったようだが、短期限定である事に加えて難民等々の被害者を見捨てる事ができないという理由で引き受けてくれた。
経験的にはウチのニートの方が豊富なんだろうが、あの子にはむこう十年はモラトリアム期間を設けるつもりなので敢えて何も言わなかった。
さて、こうしてガリアで足を止めていると、やはり地中海から漂ってくる神氣が気にかかる。
神代が終わって以降、神が現世に降りることはほぼ無くなった。
ブリテン時代だって、神に逢ったのは姉御の本霊の姉妹であるネヴァンとマハくらいである。
まあ、妖精郷に移ってからは割とゴロゴロしていたので珍しくないんだが。
ストーカー兼通り魔な某全身タイツ師匠とかな。
そんな神が現れたという事は、よほどの大事かロクでもない要件と相場は決まっている。
普段なら我関せずと放っておくところなのだが、生憎と今は戦争の真っ最中だ。
妙な騒ぎを起こされたり、向こうの身柄を連合に抑えられるのは勘弁願いたい。
仕方がない。
ここは俺がひとっ走りして処理するべきだろう。
全員で行った場合、どんな被害を被るか分かったものじゃないしな。
人理修復記 24日目
久々の単独行動である。
昨晩、ネロ帝に事情を話して地中海へ飛ぶ許可を得たのだ。
事情を知った彼女は『生の神を見てみたい!』とゴネていたが、相手の不興を買って権能を振るわれる危険性と連合ローマに身柄を押さえられる可能性について
というか、一国の総大将がそんな寄り道したらアカンがな。
それから子供達の事をアルトリアとモーさんに任せた俺は、神氣を辿って地中海へと足を延ばしているワケだ。
しかしあれだ。
こうして単身旅していると武者修行をしていた頃を思い出す。
この特異点は神秘もそれなりに豊富で、ヨーロッパ本州を旅していた頃に環境がかなり近い。
思わず羽目を外したくなる時もあるが、その辺は要自重である。
特異点とは不安定な物、アロンダイトが無いからと言って前回のような惨劇が起こらない保証はないのだ。
というワケで、明日は神氣の出所である島に上陸する。
船?
そんな物はいらん。
内家剣士にとって、海とは駆け抜けるモノなのだ。
人理修復記 25日目
神事案、処理完了である。
サクッと海を渡って島へと足を踏み入れた俺を迎えたのは、少々特殊な
彼女の名はステンノ。
ギリシャ神話に出てくるゴルゴン三姉妹の長姉。
有名な蛇怪メドゥーサの姉と言えばわかるだろうか。
彼女は神霊でありながら、どういう訳かサーヴァントとして現界していた。
男性が理想とする偶像として生まれた為に本来なら戦う事ができない彼女が、そういった形で力を得る事になるとは少々皮肉な話である。
ステンノは人間の勇者を待ち望んでいたそうだが、生憎と現れたのは姉御を嫁に持つ俺である。
期待外れという感情を隠そうともしない彼女であったが、女神の嫉妬を買うのがどれだけ危険かを理解していたようで、こちらに妙なちょっかいを掛ける事は無かった。
とりあえず、こちらの要件である『正統ローマ帝国』による保護を申し出てみたものの、やはり色よい返事は得られなかった。
基本人間が嫌いな事に加えて、本人曰く隠れるのは得意だそうなので、この特異点が終わるまで島で身を隠すつもりらしい。
彼女に関して不安が無いワケではないが、首に縄をかけて無理やりにというワケにもいかん。
当人が行きたくないと言っている以上、その意思を尊重すべきだろう。
もちろん、どんな結果が訪れたとしても自己責任という事で。
交渉結果は芳しくなかったのは残念だが、降臨した神霊が無害である事も確認したので帰ろうとしたところ、ステンノから妙な提案があった。
この先の洞窟に宝が置いてあるので持って帰れというのだ。
ぶっちゃけ超怪しいのだが、ここで断った所為でヘソを曲げて連合ローマに協力されても困る。
万が一致死性の罠が仕掛けてあった場合は洞窟ごとぶった斬ればいいやと考え、俺はステンノの提案に乗る事にした。
洞窟の中で大量発生したスケルトンを撫で斬りしつつ進むことしばし。
やっぱり罠かイタズラかなと半ば諦めていたところ、俺は意外なお宝を発見することになる。
なんとそこには天然物のキメラがいたのである。
ブリテン時代に一度だけ食ったことがあるのだが、キメラの肉というのはマジで美味い。
さらには尻尾の蛇は蒲焼、ヤギの頭は兜煮、喉袋も毒を抜けば珍味になるし、骨からは出汁まで取れるという無駄の無さである。
現世から神秘が失せた所為で、天然もののキメラは絶滅してしまった。
それを思えば、洞窟の最奥にいたモノは正しく失われた秘宝と言えるだろう。
というワケで、自然の恵みに感謝の意を込めながら容赦なくキメラを〆た俺は、鮮度が落ちる前に解体精肉を行い、毛皮にモツ、骨に至るまで全てを四次元倉庫に保管した。
モードレッドやミユちゃんにもこの味を教えてやれるのは本当に嬉しい。
子供に美味い物を食わしてやるのって、親父の甲斐性の一つだと思うんだ。
なんてホクホク顔で出てきた俺を迎えたのは、愉悦顔のステンノだけではなかった。
彼女の横には第一特異点で知り合った竜の娘エリザベート嬢、そしてメイド服を着た半人半獣の娘が横にいたからだ。
『私の用意した秘宝はどうだったかしら?』と尋ねてくるステンノに『神サイコー!』と応えた俺は、ここでナイスな恩返しを思いついた。
せっかく貴重な天然物のキメラを用意してくれたのだ。
イベント主に味わってもらわない手はないだろう。
というワケでクッキングの時間です。
半獣人のタマモ・キャットなる少女は料理の心得があるとの事なので、ギャラハッドが育てた『にっかりニンジン』を餌に助手へと徴収。
ちなみにこの『にっかりニンジン』形は円柱なのに妙に本体の切れ味が良く、謎の退魔能力を備えていたりする。
味に関してはメロン並みに甘みが強く、青臭さも薄いのでデザートの代わりも務まる優れモノだ。
あと、βカロチン多め。
ワイバーンに続いで野外調理なので、蛇の蒲焼やヤギ頭の兜煮といった手の込んだモノは除外。
実食者が女性という事も考慮して、献立は無難な物にした。
いきなり調理を始めた俺達を訝しげに見るステンノと、前回で味を占めたのか襟元にナプキンを付けて準備万端のエリザベート嬢。
そんな二人の視線を受けながら出来上がったのが、キメラ肉のハラミステーキである。
ミディアムレアの絶妙な火加減で肉のうま味を中に閉じ込め、出汁ポン酢と擦り下ろしたドリル大根を混ぜた和風ソースでサッパリといただく。
相手は女神である事を考慮して、ガーリックなどの匂いが強いモノは一切使っていない。
付け合わせは『にっかりニンジン』のソテーにアスパラのバター炒め、そして薄く焦げ目が付く程度に焼いたパンだ。
いつの間にやら用意されていた純白のクロスが掛かったテーブルに、高級感漂う食器。
そこに料理を盛りつけてみれば、なんということでしょう、アッと言う間に夕陽を見ながら砂浜で採る風情溢れるディナー席の出来上がりである。
因みに付け合わせにパン、食器にテーブルまで全てキャットの仕込み。
アウトドア野郎飯を淑女好みの夕餉に変えるとは、あの狐? ネコ? ともかく出来ておるわ。
匂いに釣られた淑女二人も席に付き、いざ実食と相成ったのだが、ここで少々問題が発生した。
肉の材料を聞いたステンノが『こんなゲテモノ料理、私の口に合う訳がない』と食うのを拒否したのだ。
メインターゲットにNOを突き付けられたのには参ったが、ここでまたしてもキャットが動いた。
『お残しは許さないのだワン!』と、高速で切り分けたステーキの一枚をフォークに刺し、ステンノの口に突っ込んだのである。
あの女神の性格なら即座に吐き出して文句を言うところだが、彼女は恍惚の表情を浮かべながら口の中にあるモノを咀嚼してしまった。
こうなれば、しめたモノである。
あとは優雅な仕草で食欲のまま肉を口に運ぶステンノを見ているだけでいい。
もう一人のお客であるエリザベート嬢だが、彼女はキメラ肉である事を告げられても臆することなく喰っていた。
『お父様。私、また禁断の味を知ってしまったわ……』などと蕩けた顔で言っていたところを見るに、今回の料理も及第点をマークしていたのだろう。
あ、俺達も飯は食ったぞ。
まかないで作ったステーキ丼だったけど。
こっちは匂いとか気にする必要がないので、ガッツリガーリック醤油で攻めた。
味の方はキャットにも好評だったと付け加えておく。
こんな感じで食事も終わりを迎えると、皿の上のものを綺麗さっぱり胃の腑に収めたステンノは、
『私にこんなゲテモノ料理を食べさせるなんて……いつか後悔させてやるわ!』
と涙目になるほど悔しそうな表情で紙屑をこちらに投げると、一目散に洞窟へと駆けて行った。
投げられた紙屑には連合ローマの本拠の位置が記されていた。
あれが現世で有名なツンデレという奴なのだろう。
……多分。
ステンノの姿が消えると、それに続いてエリザベート嬢もまた席を立った。
『今日の料理も悪くなかったわ。次のディナーも期待してるわよ、シェフ』
と言い残して、島の奥へと消えていくドラ娘。
なにやらシェフ認定されてしまったが、面倒な事に発展しないだろうか?
最後に残ったタマモ・キャットだが、彼女は俺と共にローマに行く事を選んだ。
曰く、『もらったニンジンが一級品だったから、あと二回くらいは調理助手を引き受けてやるのだワン』との事。
家に帰ったら、ギャラハッドにニンジンが謎の獣娘に好評だったことを伝えてやろう。