徒然なるままに脳内のネタを書き連ねてきたこの話も気づけば100話を迎える事が出来ました。
これも読者の皆様の温かい感想やご指導ご鞭撻のお陰でございます。
この場を借りて厚く御礼申し上げます。
さて、100話を超えた事に伴い、以前より感想で要望があった目次を章区切りで整理しようと思います。
最新話が分からなくなるという意見も考慮して、次回の投稿から最新の物には副題の横に『NEW』と付けるつもりなので、何卒ご理解のほどをよろしくお願いします。
人理修復記 15日目
数日のインターバルを挟み、本日カルデアは二度目の英霊召喚を行った。
第一特異点で手に入れた聖晶石の数は高位召喚5回分。
カルデアに現存するマスター全員が召喚するに十分な数だが、俺とアルトリアはパスさせてもらった。
サーヴァントの召喚はカルデアの戦力増強の他にも、特異点に向かうマスターの安全確保という一面も持っている。
その観点からすれば、単独で英霊と渡り合える俺とアルトリアは多くの英霊を必要としないのだ。
ならば、浮いた分で立香ちゃんか所長の護衛を厚くする方が有意義な使い方といえるだろう。
話を戻して召喚方法だが、手ぶらの相性召喚だった前回とは違って此度は第一特異点で得た聖遺物を使う。
冬木の聖杯戦争と同様の特性を持つカルデアの召喚式なら、聖遺物を触媒にすれば高確率でそれに
第一特異点で結んだ
発案者の所長が誰からも聖遺物を貰っていない事に関しては、誰も触れようとはしなかった。
まあ、あれだ。
司令官だった彼女は現地の英霊と深く関わっている暇はなかったのだろう。
そんな感じで始まった儀式だが、トップバッターも前回に続いて立香ちゃん。
彼女が金属片をサークルに置いて詠唱を行うと、膨大な魔力と共に現れたのは竜殺しの英雄ジークフリートだった。
どうやら立香ちゃんの持っていた金属は、ファヴニール戦で欠けたジークフリートの鎧だったらしい。
『これからよろしくね、ジークフリート!』
『ああ。よろしく頼む、マスター』
笑顔と共に立香ちゃんが差し出した手をしっかりと握り返したジークフリートは、主と共に次の召喚者の為に席を譲った。
次の召喚者はミユちゃん。
自身の髪を結っていた白いリボンを触媒に召喚を行うと、現れたのは彼女にそれを託したマルタ女史だった。
とはいえ、万事
なんと召喚されたマルタ女史はジャンヌと同じルーラークラス、しかも身に纏っていたのは聖衣ではなく大胆な水着姿だったのだ。
『え、なんで水着なの!?』と自身の身体をペタペタ触りながら驚く聖女殿だが、マスターであるミユちゃんはそんな彼女の様子などお構いなしだ。
『マルタお姉ちゃん!!』と歓声を上げて飛びつくと、コアラのように両手足を巻き付けてガッチリとしがみ付いた。
そんなマスターの姿に落ち着きを取り戻したマルタ女史は、優しくミユちゃんを地面に降ろすとリボンを結びなおしてやりながら控えの方に歩いて行った。
余談だが、彼女の為にさりげなく上着を用意していたエミヤはやはり紳士だと思う。
次に召喚に挑戦したのは我が家の末娘だったのだが、呼び声に応じた英霊は言うまでも無くアタランテだった。
もっとも召喚術式の最中に逆立った緑の短髪が見えたり、『ちょっ!? 姐さん、呼ばれたのオレ──────イデッ!? イデデデデッ!?』という不穏な声が聞こえたのは空耳ではないはずだ。
『……アーチャー・アタランテだッ! よく呼んでくれたな、モードレッド!!』
とドヤ顔で現れた彼女だったが、服はヨレヨレだったり妙に息を切らせていたりとイマイチ締まらなかった。
『アタねーちゃん、よく来たな!!』
そんな残念さも気にせずにモードレッドが満面の笑顔で両手を広げれば、残像を残しそうなスピードで跳び付いて至福の表情と共に抱き上げるアタランテ。
ウチの娘が好きなのはいいのだが、もう少し構い方を考えていただきたい。
とりあえず、末娘のイカ腹に頬ずりしまくっていた不審サーヴァントの頭にハリセンを落とした俺は、以前から気になっていた事を口にした。
お前さん、ウチの娘のどこがそんなに気に入ったの?
それに返ってきた答えは『可愛いのはもちろんだが、仔獅子のような雰囲気がツボにはまった!』というものだった。
なるほど、たしかに彼女の頭と臀部には獅子の物と思われる耳と尻尾が付いている。
ウチの娘はどちらかというと犬っぽいのは置いといて、そういうシンパシーを感じれたのならば好意も持ちやすいのかもしれん。
当のモードレッドはライオン扱いが気に入ったようで、『大きくなったら剣獅子って名乗るか!』と早いか遅いか分からない厨二病を発症させていたが。
さて、次は英霊に聖遺物を貰えなかったボッチの出番である。
本来は俺達もここに入るのだが、二人揃って棄権した為に行うのはオルガマリー所長だけだ。
鼻息荒く詠唱を終えた相性召喚で彼女が引き当てたのはランサー。
それも第四次聖杯戦争で矛を交えた二槍の騎士、ディルムッド・オディナだった。
召喚直後は所長が女性である事から愛の黒子による魅了を恐れていたディルムッドだったが、『この状況で恋愛なんぞにうつつを抜かしてられるかッッ!!』という所長の一喝で無事に復調。
契約を結ぶ際に、人理修復が成るまで騎士として彼女に仕える事を誓うのだった。
以前の聖杯戦争では鉄火場で刃を交えただけなので人となりは把握していないが、少なくとも武人としては高潔なのは間違いない。
伝説を見るに女が絡むと途端に面倒臭くなるのが玉に瑕だが、所長が主ならばそんなトラブルは起こらないだろう。
最後の余り一回だが、これは立香ちゃんが召喚する事となった。
所長曰く『自分よりも無鉄砲なマネをする藤丸の方が護衛は必要』だそうな。
そんな彼女が百合の花を模したペンダントで呼び出したのはマリー王妃。
『マスターさん、また会えて嬉しいわ!』
歓喜の声を上げながら召喚陣から飛びついてくる王妃を真正面から受け止める立香ちゃん。
小柄で可愛い顔をしているのに、相変わらずの漢前っぷりである。
まあ、お蔭で俺とエイリーク殿は柱の陰で目を光らせている清姫嬢のけん制に忙しかったんだが。
ようやく爆弾騒ぎが収まったのに火事とか勘弁である。
こうして二度目となる英霊召喚は大したトラブルも無く幕を閉じる事となった。
初回に比べれば数は少ないものの、カルデアの戦力は確実に充実していっている。
この調子で行けば、魔術王の首に此方の刃が届くのも夢ではないだろう。
人理修復記 16日目
サーヴァントの数も増えてきたので、みんなを巻き込んで一風変わった鍛錬を行ってみた。
今回実施したのは『共食い』と呼ばれていた特殊な模擬戦。
室内や市街地など遮蔽物の多いフィールドを舞台に5人で行うバトルロイヤルで、主に多対一の状況に慣れる事を目的としている。
前回の第一特異点では、敵は一国をほぼ掌握している状態だった。
最初の一発目でこうなのだから、一国を相手取る状態も想定しておくべきだ。
さて、この『共食い』だが一つ変わった特徴がある。
それは計4回行われる模擬戦の中で、回数が進むごとに五感を一つづつ封じていくことだ。
例を挙げるなら最初は万全な状態、二度目は目隠しで視覚、三度目は耳栓で聴覚を封じるといった感じである。
実はこの『共食い』、前世の上海の修行時代にやらされたものだったりする。
その時の目的は、極限状態にあっても確実に『意』や気配を読み取れるようになる事。
本来は全ての五感が途絶えた状態で臨む6回目まで用意されており、封じる方法も道具では無く氣脈操作。
使われる武具も全て本物で、脱落者に待っているのは死だけだった。
もちろん今回はそこまでする事は無い。
参加者が使用するのは模擬刀だし、急所に当たった時点で被弾した者のシミュレーターは停止するように設定している。
五感を封じるのも『意』を読み取る事を目的にしているワケではない。
残り6つの特異点、その道中ではこちらがベストコンディションで戦える機会はそう多くないだろう。
夜戦や洞窟内など視界が効かない場所。
火山近辺などの嗅覚が使えない状態。
海上や巨大生物に相対した時のように騒音で耳が聞こえない状況。
そういった事態に陥った際、より柔軟に対応できるようになる事が目的なのだ。
そんな訳で最初の2戦は模範演技も兼ねて最も慣れている俺も混じって行い、後の4回はサーヴァントだけでやってもらった。
この訓練に参加したサーヴァントの中でも抜きんでていたのがクー・フーリンだ。
なんとサーヴァントのみの模擬戦に於いて4戦3勝。
初戦はジークフリートに譲ったものの、二戦目に視覚・三戦目で聴覚が封じられると他の者の動きが鈍る中、唯一身のこなしに陰りを見せる事無く勝ち抜いて見せたのだ。
本人曰くコノートとの戦争で多対一の戦いに、そしてゲッシュを破った際の呪いなどでハンディキャップマッチに慣れているからとのこと。
あとは生前によく暗殺者に狙われていたそうなので、その辺の気配の察知にも敏感なのだという。
なかなかに興味深い話である。
さすがはアイルランドの大英雄といったところか。
そういえば、ルーマニアで俺の圏境を見破ったカルナも槍使いの大英雄だったな。
奴へのリベンジの前哨戦として、クー・フーリンに模擬暗殺を仕掛けてみるのもありかもしれん。
閑話休題
他の面々はというと、クー・フーリンを除けば大体大差はなかったりする。
二戦目の視覚に関してはまだまだ戦う事が出来たのだが、三戦目で聴覚を封じられると殆どの者が目に見えて失速。
嗅覚をアウトにした四戦目では、クー・フーリン以外はまともに動ける者はいなかったのだ。
まあ、五感の内3つが使い物にならなくなる状態なんて普通なら体験できないだろうから、彼等がそうなるのも仕方が無いと思う。
余談だが3感を封じられた状態で頼りになるのは、実は味覚だったりする。
口を小さく開いて丸めた舌先を少し突き出すようにすると、触覚よりも鋭敏に空気の流れを感じる事ができるのだ。
他にも異臭や空気中の有害なモノを察知するセンサーにもなったりする。
食文化が発達した今では舌を楽しませるアクセントとなっている苦みや辛みだが、本来は人体に悪影響を及ぼすモノというサインとして感じるものなのだ。
故に、空気に晒した舌がそれらを感じ取った場合は、何らかの毒物が周辺に散布された可能性を考えねばならない。
そんな感じで前世に於いてこの修行を課せられた際は、自分の舌先には本当に助けられた。
さて、そんな参加者の中でも少し気になったのがモーさんとジークフリートだ。
モーさんは三戦目以降は冷静さを欠く場面が時々見られた。
こういう場面では逸る心を鎮め、残された感覚を鋭敏に研ぎ澄ます事が要求される。
しかし、モーさんは心の焦りのままに魔力放出を全開にして暴れまわってしまったのだ。
これでは周りに自分の位置や心理状態を宣伝しているようなものである。
三戦目・四戦目で真っ先に脱落してしまったのはこれが原因だ。
とはいえ、彼女に関してはあまり問題視していない。
不慣れな環境で対処までは上手くいかなかったものの、アルトリア譲りの直感で自身に向けられた攻撃は察知できていたからだ。
五感を封じられた状態というのは多大なストレスが掛かるものだが、それに関しては場数を踏むしかない。
しかし状況に慣れる事さえ出来れば、モーさんはクー・フーリンと首位を争う事ができる位のポテンシャルがあると俺は見ている。
一方のジークフリートに関しては、彼の宝具に由来した癖が原因だ。
ファヴニールの血を浴びた事により一か所を除いて無敵の身体となった彼は、攻撃への対処を回避よりも防御に重点を置くようになっているらしい。
実際、躱すタイミングが微妙な場面では早々に回避を放棄して、防ぐためにその場で踏ん張っている光景がよく見られた。
無意識の癖か、それとも意図的にそうしているのか。
どちらにせよ、これが彼の命を危険に晒すのは間違いない。
第一特異点を見るに、人理修復の道程では古今東西の英霊が時代を超えて召喚されると思っていいだろう。
ならば、ジークフリートの肉体を真正面から撃ち貫く武器の持ち主が現れないと、どうして言い切れるだろうか。
己の武具を信頼するのはいい事だが過信はするべきではない。
あくまで防具は命を守る最後の砦であり、攻撃が当たらないに越したことはないのだから。
技量に関しては何の問題も無いので、この辺の意識改革ができれば大丈夫だと思われる。
先に断っておくが、別に教導するなんて偉そうな事は考えていない。
ここに集ったのはいずれも歴史に名を遺した傑物ばかり。
こちらが気付いたことを少しアドバイスすれば、早々に改善してくれるだろう。
これでも1600年以上も武に生きてきたのだから、そういった視点が役立つなら積極的に使わないとな。
人理修復記 17日目
昨夜からウチの娘たちが妙な事をし始めた。
モードレッド曰く、他のマスターやサーヴァント達の部屋にお泊りをして親交を深めようという試みらしい。
思えばこの二人、ウチでは一人寝なんて殆どしたことが無い甘えたちゃんである。
姉御(この時は俺も一緒)・ガレス・お袋さんのローテーションで一緒に寝るのが常だった為、神使の仕事を始めた当初はミユちゃんが一人で寝ると夜泣きするなんて苦情がダヌー神から来たこともあった。
第一特異点で俺と離れていた時は、アルトリアやマリー王妃、立香ちゃんと一緒だったらしいし。
昨日の獲物はマシュ嬢で、今日はマルタ女史のところに突撃するのだとか。
姉御お手製である仔ライオンの着ぐるみパジャマに身を包んだ二人には、迷惑を掛けないようにと言い聞かせておいたが果たして大丈夫だろうか?
とりあえず、明日はマシュ嬢とマルタ女史には礼を言っておくとしよう。
話は変わって、今日は久々に妖精郷にいる家族と連絡を取った。
第一特異点攻略があったので、腰を落ち着けて家族と話すのは久しぶりである。
とりあえずは姉御とお腹の子ども、後はウチの家族に妖精郷の警護を務めている息子たちの無事を知れてよかったと思う。
あと、画面越しではあるが生まれて初めて親父殿と対面した。
お袋さん曰く『線の細い学者肌の穏やかな人』だったらしいが、今やごっつい装甲に覆われたロボなので面影もへったくれもない。
話してみれば確かにお袋さんの言う通りな人のようで、開口一番『親としての責務を果たせないばかりか、小さい時から苦労を掛けて本当に申し訳ない』と謝られてしまった。
まあ、人に比べて波乱万丈な幼少期だったと思うが、こっちも割と好き勝手してきたので苦労したとは思っていない。
そう答えると『本当に立派に育ってくれた……』と目からオイルを流していた。
二ニューさん、芸が細か過ぎである。
そこから冬木や第一特異点の話になったのだが、今回の黒幕を聞いた親父殿はデュアルアイを明滅させながら苦い声を上げていた。
曰く、ソロモンは現代に存在する魔術のはじまりとなった人物であり、姉御でも魔術勝負では勝てないとのこと。
お袋さんの一族由来の秘術であれば魔術とは根本的に異なるのでワンチャンあるが、それでも圧倒的不利は否めないらしい。
俺でも勝てないか?と尋ねてみれば、フェアリー・ブレイバーのデータ通りなら可能性はあるかもしれないそうだ。
もっとも、その後で単独特攻とかするなよと釘を刺されてしまったが。
親子初の会話としては何とも実務的な始まりになってしまったが、ここから先はブリテン時代の事など思い出話に花を咲かせることが出来た。
親父殿は故人だったのに妙に俺の事に詳しかったので理由を尋ねてみたら、なんと姉御が俺に関する過去の出来事を映像データで記録していたらしい。
旧ブリテン崩壊までは姉御たちと過ごした時間は短かったと思うのだが、一体いつの間に撮ったのだろうか?
まあ、この手の話題は『愛』の一言で片づけられてしまうのはいつもの事だけどな!
妖精郷の現状としては、今のところミュータントミミズ共の襲撃も収束しているそうなので、こちらとしても一安心。
子供達も勿論だが、親父殿は『フェアリー・ブレイバー』の最強戦力である陛下の相棒である。
戦況が激化すれば、矢面に立つ危険度は跳ね上がっていくのだ。
長年未亡人だったお袋さんの為にも、絶対に無理はしないでほしい。
カルデアに貼り付けになる必要も無いので、ヤバくなったら幾らでも応援に行くし。
長年の兼業農家経験のおかげでミミズ狩りならお手の物なのだ。
是非とも遠慮なく頼っていただきたい。
人理修復記 18日目
今日の朝、お袋さんから荷物が届いた。
中に入っていたのは、俺と娘達の衣類を始めとする生活必需品一式。
出発する際にはバタバタしていた所為もあって持ち込める物が限られていたので、この心遣いは本当にありがたい。
一張羅は付与された浄化魔術で清潔さが保てるからいいとしても、下着に関しては手持ちではローテーションがキツくなってきたところだったのだ。
それとモーさんがいる事を伝えた為か、彼女がルーマニアで好んで着ていた洋服と同じものが入っていた。
姉御お手製の礼装になっているらしく、戦闘にも十分耐える逸品だとか。
早速モーさんに渡してみると『デザインまで完璧にコピーとか、器用すぎるだろ母上……』と呆れながらも嬉しそうに受け取ってくれた。
礼を言っといてくれとの事だが、そういうのは本人が直接伝えるのがマナーである。
さて話は変わるが、我がカルデアには大飯喰らいが二人いる。
ウチの愚妹とそのサーヴァントである。
アルトリアが良く喰うのは知っていたが、よもやリリィまで同じとは思わなかった。
並行世界の同一人物だからって、そんなところまで似んでもいいがな。
とはいえ、家族を飢えさせないのも家長の務め。
小難しい理屈など関係ないのである。
そんなワケで、俺は食材確保の為に第一特異点であるフランスへと飛んだ。
幸いにも修復された第一特異点と繋がりがあるようなので、狩るのはもちろんワイバーンだ。
妖精郷ならともかく、フランスではワイバーンは人里に悪さをする害獣。
少々過剰に狩ったところで感謝されはすれ、クレームが来ることはあり得ない。
とりあえず60匹ほどの肉を確保したところで、荷物持ち兼解体要員で連れてきていたエミヤからストップが掛かった。
いくらアルトリア達が健啖だとしても、これだけあれば三週間は保つだろう。
しかし、こうして食糧問題に突き当たると竜の魔女の事が惜しいと感じてしまう。
彼女にはワイバーンを召喚する能力があったというし、聖杯の化身でなければ竜肉精製マシーンとして貢献してもらうところなんだが。
うーむ、残念。
人理修復記 18日目
今日はマリー王妃のお茶会に参加した。
俺のような武辺者が王族と同じ卓に付くなどと最初は遠慮していたのだが、そんなこちらの様子を見ていたアルトリアが『兄上だって元王族じゃないですか』と口を滑らせたのだ。
6歳で城を叩き出される奴なんてノーカンだと返したものの、同席した面々の興味を反らすには遅すぎる。
楽しい話題を期待する周りの圧力には抗えず、オークニーに居つくまでの放浪時代の事を話す事になってしまった。
いや、最初は俺の経歴なんて面白くもないって、回避を試みたんだよ。
けど、ホストの王妃や立香ちゃんを初め、妹やリリィにモーさん、さらには執事役のエミヤまでもが期待に目を光らせていては、さすがに逃げようが無い。
結局、楽しい話題を期待する周りの圧力には抗えず、オークニーに居つくまでの放浪時代の事を話す事になってしまった。
とはいえ、自分語りなんて似合わないのは嫌というほど自覚がある。
何とかならんかと思い悩んでいた俺は、先日荷物と共に送られてきたあるモノの存在を思い出した。
そう、親父殿との会話に出てきた姉上の映像記録である。
一度見てみたいと思ったので親父殿経由で貸してほしいと頼んだところ、姉御はわざわざ複製して送ってくれたのだ。
王妃に断って自室に戻った俺は、中身の整理もそこそこに置かれた段ボールから魔力が込められた水晶が収められた化粧箱を取り出した。
蓋にデカデカと貼られた『愛のメモリー』なるテプラーは見なかったことにしておく。
中から記録の中で最も古いモノをチョイスして王妃の部屋へと舞い戻ると、俺は再生媒体を兼ねた水晶を起動させた。
少しの間を置いて、照明を落とした部屋の壁に映し出されたのは懐かしいブリテンの光景。
記憶とすり合わせたところ、流れているのは姉御に頼まれてエクターに預けられたアルトリアを見に行く道中の記録だった。
エミヤの『野良で竜種がいるなどとは……いったいどうなっているのだブリテンはッ!』という悲鳴や、モーさんから『巨人に魔獣、それにグロい邪妖精って、オレ達の故郷はこんな魔境じゃねーよ!!』なんてツッコミが入ったが、残念ながらこれはノンフィクションである。
その一方で立香ちゃんを始めとするホスト達にはアクション映画を見ているようだと好評を頂いた。
個人的には未熟だった自分を見るのは懐かしいやら恥ずかしいやらと複雑な気分だったが、お茶会の余興として皆が楽しんでくれたなら良しとしよう。
あと千数百年越しに意外な事実が発覚した事を付け加えておく。
円卓の騎士の一人だったサー・ラモラック。
彼が探していた父親の仇とは、なんと俺だったようだ。
それに気づいたのは、記録映像が森の中にある泉の畔で『唸る獣』という魔獣の退治をしているところを映している時だった。
奴を倒した直後に正体不明の騎士に襲い掛かられたのだが、返す刀で首を刎ねたところ地面に落ちて兜から転がり出た頭部を見たモーさんがこう叫んだのだ。
『ぺリノア王じゃねーか!?』と。
このぺリノア王、上記の通りラモラックの父親であり、モーさんの世界では円卓の騎士の外部顧問を務めていたそうだ。
他にもモーさん世界の騎士王を決闘で打ち負かしてカリバーンが折れる切っ掛けを作ったり、ロット王を討ち取ったのも彼なのだとか。
因みに彼の最後はロット王の無念を晴らそうと付け狙っていたガウェイン達による暗殺らしい。
なるほど、並行世界のあいつ等は元凶たる騎士王ではなく、直接手を下した下手人の方を仇と見ていたのか。
確かに衝撃の真実ではあるものの、知らされた側としては対応に困ってしまう。
償いも何も原因は辻斬りかましてきた向こうにあるし、何より時が経ち過ぎている。
今のところ思いつく責任の取り方は、こちら側のラモラックやパーシバルが召喚されたら真実を伝えて仇討ちに応じてやる事くらいだ。
俺も妻子がある身なので、無抵抗で首を差し出すワケにもいかん。
万が一その時が来たら、お互いに悔いが残らないよう正々堂々・全力全霊で相手をする事にしよう。
人理修復記 19日目
今日、第二特異点が発見された。
場所は西暦60年のローマ。
年代的には第五代皇帝であるネロの治世だそうだが、前回のフランス同様に現地の状況を掴むことは出来ていない。
今回のメンバーだが、オルガマリー所長の出撃は見送られることとなった。
これはカルデアの最高責任者である彼女が何時までも現場に立ち続けるのは如何なものか、というダヴィンチちゃんの判断によるものだ。
所長本人としても組織としての観点ではダヴィンチちゃんの方が正しいと分かっているのだろう。
不満を露にするものの、騒ぎ立てるようなことはしなかった。
戦力の逐次投入が悪手なのは確かだが、現状においてカルデアは人類最後の砦。
レイシフト先でマスター達が虜囚になる事や、マスター不在の際にカルデア本部を強襲される可能性を考慮に入れれば、何らかの保険は掛けておかねばなるまい。
しかし、ローマか。
剣闘の大会に飛び入り参加したり、そこで当時の皇帝のお気に入りだった剣闘士を斬り殺して指名手配されたり、さらには追いかけてきた軍団を相手取って市街戦を繰り広げたりと、ガキの頃はヤンチャしたものだ。
さすがに今回は自重するつもりでいるが、さてどうなる事やら。