剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました、FGO編9話です。

 プライベートの忙しさからなかなか筆を執る時間が持てず、気付けば以前の投稿からかなりの時間ががががが……。

 まあ、これも四月になれば緩和されると信じて頑張りたいと思います。

 さて、大奥イベントですが大人しくカーマを狙うか、ピックアップ2で村正が来ることを信じて待つか……。

 なかなかに悩みどころであります。


剣キチが行く人理修復日記(9)

 亡都と化したラ・シャリテ。

 

 瓦礫と屍だけが横たわるその場所は、今や国や時代を超越した英雄・豪傑達が火花を散らす戦場となっていた。

 

「そらそらそらぁっ!!」

 

 端正な顔に獲物を仕留めに掛かる猛獣のような笑みを張り付かせ、クー・フーリンは魔槍を振るう。

 

 紅い閃光と化した穂先が狙うのは病的に白い肌に色素の薄い金糸の髪を持つ貴族然とした男、バーサク・ランサーたるヴラド三世。

 

 しかし、音へと迫る疾さを持った刃は肉を()む事はない。 

 

 額、喉、心臓。

 

 エリンの大英雄が放った三点への刺突は一つを男の穂先が、他の二か所は彼の立つ地面から生えた槍によって阻まれたからだ。

 

「チッ!」

 

「フンッ!」

 

 舌打ちと共に間合いを広げようとするクー・フーリンに今度はヴラドの槍が迫る。

 

 地面を割るほどの踏み込みから放たれるのは鳩尾(みぞおち)への中段突き。

 

 構え、間合い、そして繰り出す型、全てが槍術の教科書のような一刺。

 

 先ほどクー・フーリンが放った連撃が神業なら、ヴラドの放つそれは基本にして極意。

 

 襲い来る刺突に槍を合わせた瞬間、甲高い金属音と共にクー・フーリンの手に鈍い痺れが走る。

 

 エリンの大英雄と呼ばれた男は、その腕っぷし一つとっても凡百の英雄とは一線を画す。

 

 その彼にして一合でここまでの衝撃を与えるのは、ヴラドの一閃には彼の全身の力が穂先一点に集中している証拠に他ならない。

 

 意に反して力が入りきらない両腕に顔を顰めるクー・フーリンだが、彼を襲う攻撃はここで終わりではない。

 

 止められたヴラドの槍、その柄から生えた新たな赤黒い槍が牙を剥いたのだ。

 

 空を裂いて伸びる二つの鉄牙が向かうのは、眼前に立つ獲物の心臓と喉。

 

 しかし────

 

「はぁっ!」

 

 裂帛の気合と共に咬み合っていたヴラドの槍を中心にして紅い魔槍が円を描く。

 

 クー・フーリンの手の動きに合わせて螺旋を巡る穂先は、勢いのままに新たな穂先を打ち砕くとヴラドの槍を大きく弾き飛ばした。

 

 武器を手放す事は免れたものの、穂先の勢いを殺しきれずにヴラドの身体が大きく泳ぐ。

 

 その隙を突いてクー・フーリンは刺突を繰り出したものの、それもヴラドの足元から生えてきた槍によって阻まれてしまう。

 

 攻守は一瞬の間に逆転し、魔槍の引きに合わせるようにヴラドは石突きを跳ね上げる。

 

 しかしクー・フーリンは身体を限界まで反らせることで紙一重で切っ先を躱すと、その勢いのまま宙へと舞う事で足元から突き出た二本の槍を回避した。

 

 豹を思わせる全身のバネで高く飛び上がると、二度三度とトンボを切って間合いを広げるクー・フーリン。

 

 間合いを外されたヴラドは小さく舌打ちを漏らしたものの追撃を掛けようとしない。

 

 下手に攻め入れば相手の紅い穂先の餌食となることを重々承知しているためだ。

 

 互いに刃圏を脱し無言で睨み合う両者は、構えを崩さぬまま相手に気取られないように上がり始めた呼吸を整える。

 

 戦端を開いてから数十合(やいば)を交えているが、お互い攻め倦んでいる状況だ。

 

 ヴラドからすれば、眼前に立つクー・フーリンは自分より格上の武人だ。

 

 天性の才と確かな技術によって繰り出される槍の数々は、どれ一つとっても絶技そのもの。

 

 その豹の如きスピードも相まって、自身の振るう泥臭く愚直な槍ではとても追い(すが)れるとは思えない。

 

 だからこそ、技量の差を埋めるために宝具の一端である『拷問魔城(ドラクリヤ)』の槍を使用しているのだ。

 

 『串刺し公』の逸話が昇華した彼の宝具は、オスマン帝国の兵や自国の貴族の粛正で血を吸った無数の槍を時に兵にまた時には城壁として使用する事によって、敵対する『侵略者』を滅するのが真骨頂だ。

 

 しかし、ヴラド三世が呼び出している槍の数は片手で足りる程度。

 

 これは本来の物量戦ではクー・フーリンを捉えきれないと踏んだ彼が、本数を切り詰める事で限界までその精度を引き上げる事を選んだ為である。

 

 攻撃に二本、防御に四本。

 

 一突三刺の疑似魔槍と自動防御の盾にと用いての策であったが、ここまでして五分に持ち込むのが精一杯なのだ。

 

 宝具を本来の形で使用していれば、穂先が血に濡れる前に自身の身体に穴が開いていた事だろう。

 

『このような益荒男(ますらお)が我が国にいれば、余もあのような最期を遂げる事はなかったかもしれぬな』

 

 臣下であった貴族からの暗殺によって生涯を閉じた護国の鬼将は自嘲で僅かに口元を釣り上げる。

 

 自身の心情はどうであれ、目の前に立つのは生前では(まみ)える事のなかった強敵だ。

 

 暢気(のんき)にノスタルジーなどに浸っていては、心臓に深紅の一撃を叩き込まれるに違いない。

 

 槍の間合いから少し離れた場所で油断なく槍を構えるヴラド三世。

 

 その姿を紅玉の瞳に収めながら、クーフーリンもまた思考を巡らせる。

 

 彼のヴラド三世への評価は『上手い』の一言に集約される。

 

 戦況の把握はもちろん、周囲の状況や攻守における機の見極め、危急(ききゅう)の際の咄嗟(とっさ)の判断など。

 

 速度を売りとするランサー同士の目まぐるしい戦いにおいて、男は常に最適解に近い答えを叩き出している。

 

 クー・フーリンが直感と野生をよしとするならば、ヴラド三世が重きに置くは経験と理合、そして戦術だ。

 

 冷静に自分と相手を俯瞰(ふかん)し、彼我の戦力を測定しながら常に良手を打ち続ける。

 

 そして一つの攻防を次への布石とし、相手に気取らせぬように勝利へと手を伸ばしていく。

 

 それは一介の戦士ではなく指揮官の戦い方だった。

 

 これで周りに生える槍を前面に出してその後ろに隠れるような軟弱者なら、クー・フーリンは『くだらねぇ』と一蹴していただろう。

 

 しかし、ヴラドは自身が率先して前面に出て得物を振るっている。

 

 彼が繰り出す槍術は泥臭く基本に忠実でありながらも、全身の力が一手に乗った剛撃だ。

 

 一流のシェフが手掛けたスープは、口を付けた者の脳裏に使用された材料をイメージさせるという。

 

 それと同じように、ヴラドの槍は受けたクー・フーリンに積み上げた年月や刻み込まれた信念をはっきりと伝えていた。

 

 彼が振るう(わざ)はオスマン帝国に人質として捕らえられていた時に鍛え上げたものだ。

 

 そこに込められていたのはいかなる困難も踏破してワラキアへ戻るという信念と、遠からぬ未来に侵攻を開始するであろうオスマン帝国から今度こそ母国を護るという覚悟。

 

 それは『キリスト教世界の盾』と称えられた護国の鬼将のあり方を如実に語り掛けていた。

 

「復讐に頭が(ゆだ)った嬢ちゃんとイカレ野郎に付き従う腑抜けかと思えば、なかなかどうして───」

 

 そう呟き、クー・フーリンは二ヤリと口角を釣り上げる。

 

 こことは違う世界線にて行われた第五次聖杯戦争。

 

 そこにも彼は参戦していたが、その目的は万能の願望器たる聖杯ではない。

 

 クランの猛犬と呼ばれた英雄が欲したもの、それは強者。

 

 己に匹敵する好敵手との全てを出し切れるギリギリの戦い、それこそが彼の求めるモノだった。

 

 聖杯探索の旅の目的が人理修復である以上、今回ばかりは私情を優先する気はない。

 

 だが、彼は(しつ)けられた犬ではないのだ。

 

 眼前に好敵手となり得る強敵が現れたのならば、それを我慢しろというのは無理な話といえよう。

 

「認めるぜ、ランサー。貴様は俺が全力を尽くすに足る相手だ」

 

「ほう。狂気を植え付けられた憐れな使い魔に対して、随分と過度な評価を下すではないか」

 

「ぬかせ。テメェ、狂気になんざ(ほとん)ど染まってねえだろうが。本当の狂気に染まってる奴ってのは、自分の事をそういう風には言わねぇんだよ」

 

「ふん。敵に見抜かれるようでは余の芝居も三流以下よな。───貴様の言う通り、余は狂気の大半をこの身に封じておる。アレに飲まれれば、この身は彼の怪物を肯定してしまうであろうからな」

 

 忌々しげに吐き捨てるヴラドの姿を見て、クー・フーリンの脳裏を掠める名前があった。

 

 『吸血鬼ドラキュラ』

 

 おそらく世界でもっとも有名な吸血鬼であり、そのモデルは眼前に立つヴラド三世だという。

 

 世界中知らぬ者はいないと言っても過言ではない知名度と彼らが持つイメージによって、眼前の男はいわれの無い怪物の名を背負う事となったのだろう。 

 

「なるほどな。だが、バーサク・サーヴァントの狂化ってのはそんな簡単に封じられるものなのかね?」

 

「おそらくは資質の差であろうな。所詮は三流魔術師にすぎんキャスターが強引に張り付けたモノ、狂気に慣れている者であれば御するのは苦ではない。扱いに苦慮するのはそうでない者だけよ」

 

「つまり、お前さんは生前から狂ってたってワケだ」

 

「ライダーやアーチャーがそちらについている以上、我らの真名も手にしていよう。ならば余が為した事を思い返してみるがいい。必要とはいえ3万を超える人間を串刺し刑にするなぞ、狂気に染まらねば出来る所業ではない。もし正気であれが出来るモノがあれば、そ奴こそが狂気の体現者よ」 

 

 そう吐き捨てると、ヴラド三世は再び槍を構える。

 

「言葉を交わすのはここまでだ。青き槍兵よ、決着を付けようではないか」

 

「いいぜ、幕引きと行こうじゃねえか」

 

 それを受けてクー・フーリンもまた魔槍を構える。

 

 ヴラドは半身となり穂先を中段に構える槍術の基本的な型。

 

 対するクー・フーリンは深く腰を落とした前傾姿勢で、穂先の方を短めに持った独特の構え。

 

 ヴラドの基本に忠実な構えを城塞とするならば、一方のクー・フーリンはケルティックスーツ越しに盛り上がった筋肉も相まって、獲物に襲い掛からんとする肉食獣を連想させる。

 

「ワラキア公王。『小竜公』ヴラド三世、参る!」

 

「赤枝の騎士、クー・フーリン。受けて立つ!!」

 

 大地を蹴ったのは両者ともに同時、しかし加速力ではクー・フーリンに軍配が上がる。

 

 まるで豹の如く左右にフェイントを掛けながら間合いへと飛び込んだ蒼い槍兵は、そのバネを活かしてヴラドの頭上から襲い掛かる。

 

 しかし、これまでの打ち合いでクー・フーリンのスピードに慣れ始めているヴラドが空いた左手を横に薙ぐと、それを合図として彼を囲うように闇色の槍の群れが生えてくる。

 

 クー・フーリンの初撃を槍群の一本を犠牲にして凌ぐと、ヴラドは未だ宙にいる獲物に向けて自身の得物を突き上げる。

 

 クー・フーリンを串刺しにしようとする切っ先は5つ。

 

 ヴラドの振るう得物に加えてその柄から生えた穂先とクー・フーリンの背面の地表から突き出た槍が2本だ。

 

 五つの凶器は咬み付かんとする顎のようにクー・フーリンへと迫る。

 

 脱出不可能かと思われたこの一手だが、蒼い槍兵は意外なところで活路を見出した。

 

 なんと他に先んじて迫るヴラドの穂先、刃ではなく平面部を蹴る事で反動を利用して距離を取ったのだ。

 

 空中の不安定な状態とはいえ英霊の筋力である。

 

 その一撃はヴラドに武器を落とさせる事は出来なかったものの、代わりに迫りくる顎の射程範囲からは逃れる事に成功する。

 

 そのまま地上に降りて体勢を立て直そうとするクー・フーリンだが、護国の鬼将がそれを許すはずがない。

 

 蹴られた反動で体勢を崩しながらも、ヴラドは力ある言葉を紡ぎ始める。

 

「地獄の具現こそ、不徳の報いに相応しい!『串刺城塞(カズィクル・ベイ )』!!」

 

 地面に突き立てた石突きを起点として、次々と地面から生えていく槍の群れ。

 

 それは槍衾の道を形成しながらクー・フーリンに追い縋り、彼の着地するであろう場所で無数の槍が密集した鋼の華が花弁を咲かせる。

 

 このまま重力に引かれれば、クー・フーリンは無数の穂先に全身を貫かれ百舌鳥の早贄よりも酷い末路を辿るだろう。

 

 だが、明確なる死を前にした蒼い槍兵の顔の浮かんでいたのは、見た者が身震いするほどの凄絶な笑みだった。

 

 戦いに生き、強敵を愛し、そして死の危険を前に魂を(たかぶ)らせる。

 

 古代ケルトの戦士、その象徴というべき英雄は死を打破せんと手にした紅い魔槍を宙へと放り投げた。

 

 そして────

 

「『蹴り穿つ死翔の槍(ゲイボルク)』!!」

 

 クルクルと回転しながら舞い上がる魔槍、その石突きをオーバーヘッドで蹴り抜いたのだ。

 

 クー・フーリンの強烈な脚力によって発射された槍は一瞬で音速にまで達し、主を置き去りにして地面へと(はし)る。

 

 そして着弾寸前で無数の(やじり)となると、絨毯爆撃(じゅうたんばくげき)の如く地上の鉄華を打ち砕いた。

 

 轟音と共に立ち上る土煙と打ち砕かれた無数の刃金。

 

 視界が悪く無数の破片が肌を刺す中、着地の為に体勢を立て直したクー・フーリンは、その瞬間目を見開くこととなった。

 

 何故なら彼の眼前に粉塵を切り裂いてヴラドが飛び込んできたからだ。

 

「もらったぞ、槍兵よッ!」

 

 大きく引き絞った右腕に(つが)えられた槍、その穂先はクー・フーリンの心臓へと狙いを定めている。

 

「チィッ!? ────来いッッ!!」

 

 しかし、クー・フーリンもまた大人しく刃に掛かる男ではない。

 

 地に付いた足を無理やり踏み切りにすると、全身のバネを使ってヴラドへ向かって突進。

 

 背後から主の後を疾る紅い閃光を手にすると、加速の勢いを乗せて突き出したのだ。

 

「「おおおおおおおおおおおおっ!!」」 

 

 片や『不義』・『堕落』の罪を処断する粛正の槍、もう一方は相手の心臓を食い破る呪いの魔槍。

 

 その二つが交錯した結果は────

 

 

 

 

 戦場の一角では歴戦の猛者が刃を交える一方、こちらではまったく戦場に縁のない者達が火花を散らしていた。

 

 エリザベート・バートリーとカーミラ、そしてモーツァルトとファントム・オブ・ジ・オペラである。

 

 序盤は街を震撼させるほどの竜氣を放つアルトリアの姿に動きを止めた面々であったが、その矛先が自分に向かないと判断すると再び争いを再開した。

 

 メインとなっているエリザベートとカーミラの戦いだが、これはある意味で先のランサー対決に匹敵する苛烈さを見せるとなった。

 

 拷問が趣味という苛烈な性格を持つ同一人物だけあって、互いが感じている嫌悪は筆舌しがたいレベルとなっていた。

 

 それゆえ槍や拷問具である鉄の処女などを使っていたのは最初の内だけで、カーミラがエリザベートの頬を張ったのを切っ掛けとして、武器を放り出して取っ組み合いへと発展。

 

 互いに無辜の怪物によって得た竜と吸血鬼のステータスを存分に発揮して、ビンタ・引っ掻き・髪を引っ張るなど完全なキャットファイトになってしまった。

 

 美女と美少女が鬼女の形相で放送禁止レベルの罵詈雑言を甲高い声で喚き合う様は、男性が持つ女性の幻想など塵も残さず打ち砕く程に(みにく)く恐ろしいモノだった。

 

 (かたわ)らで音波の応酬をしていたモーツァルトとファントムが手を止めてドン引きしたと言えば、その強烈さは理解できるだろう。

 

「すごいな、ありゃあ。絶対にお近づきになりたくない人種だよ」

 

「…………あれはクリスティーヌではない」

 

 雰囲気に呑まれて戦意を喪失した男性陣に、争いながらもそれを目ざとく見つけたキャットファイター達は抗議の声を上げる。

 

「ちょっと、アンタ! こっちが必死にやってるんだから真面目に闘いなさいよ!!」

 

「ファントム、手を休めてないで働きなさい。怠惰な豚に生きる価値はないわよ」

 

「なんてこった、理不尽に過ぎる」

 

「やはりこの世は地獄……」

 

 男たちが漏らした不平不満も彼女たちの眼光の前では塵芥に等しい。

 

 ちゃっかり瓦礫に腰かけて観戦ムードだったモーツァルトとファントムは、やれやれといった風情で腰を上げた。

 

「本当にしぶといわね、オバさん。しつこい年増は嫌われるって知らないのかしら?」

 

「下品な戯言で自分の価値を落とすのはお止めなさいな、小娘。ただでさえ色気の欠片もない乳臭い身体なのに、貴族の娘としての品位まで失ったら救いようがないじゃない、貴女」

 

 瞬間、周囲の空気がミシリッと軋みを上げた。

 

「マリア、僕も馬車の中にいればよかったよ」

 

 腫れた頬には引っ掻き傷が目立ち、髪もボサボサとなった二人の女が浮かべる凄絶な貌に、モーツァルトは思わず天を仰ぐ。

 

「───ッ、もう許さないわ! あの女、跡形も無く消し飛ばしてやる!! 音楽家、アンタも手伝いなさい!!」

 

「………仕方ない。僕が伴奏してやるんだからちゃんと合わせてくれよ」

 

 エリザベートからの雷鳴のような金切り声に耳の辺りを弄りながら応えるモーツァルト。

 

「ファントム、向こうのキャスターの宝具を封じなさい。私はあの小娘のトカゲ臭い血を一滴残らず搾り取ってやるわ」

 

「これもクリスティーヌの元に向かうため。多少の事は目を(つむ)ろう」

 

 仮面の奥から並々ならぬ眼光を輝かせるカーミラに粛々と答えるファントム。

 

 白磁の面から除く素顔に諦観が張り付いているように見えるのは気のせいだろうか。

 

「全ては幻想の血、けれど少女はこの箱に……『幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)』!!」

 

「歌え……歌え、我が天使。『地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)』!!」

 

 二人のアサシンクラスの呪によって現れたのは巨大な『鉄の処女』と呼ばれる拷問具、そして人骨で組み上げられた邪悪なオルガンだった。

 

 犠牲となった者達の怨念がベッタリと張り付いているかのような瘴気を纏った醜悪な宝具に、モーツァルトは不快げに表情を歪めて見せる。

 

「おいおい、悪趣味にも程があるだろ。まったく音楽性の乏しい奴はこれだから」

 

「このオルガンは歌姫となり得なかった偽物によって出来ている。これらの奏でる慟哭こそが、クリスティーヌの歌声を彩る最良の伴奏となるのだ」

 

「そんな薄気味悪いガラクタが吐き出すのは騒音と相場は決まってるんだよ! 僕が本当の音楽を教えてやる!!」

 

 言葉と共にモーツァルトが手にした指揮棒を振ると、彼の背後に天使のオーケストラが現れる。

 

「聴くがいい! 魔の響きを!『死神のための(レクイエム・フォー)「───あら、いいじゃない」」

 

 モーツァルトの指揮によって天使たちが音楽を(かな)で始めるのと同時に、演奏に負けない大きさの声が割り込んでくる。

 

 声のした方に目を向ければ、そこには巨大なアンプと化した城をバックに地に突き立った己が槍の上へ乗るエリザベートの姿が。

 

「オーケストラをバックミュージックにするなんて、これこそ私に相応しい舞台だわ! さあ、アゲていくわよ!!」

 

 アンプによって増幅されたモーツァルトの演奏が鳴り響く中、エリザベートは吸気の音が聞こえるほどに息を吸い込んだ。

 

 同時に演目の指揮者は天使たちの伴奏を放り出し、地に伏せて頭を両手で守りながら耳を塞ぐ。

 

「ミューミュー無様に鳴きなさい! 『鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)』!! ボエ゛ェ゛ェ゛ェ゛~♪」

 

 極上の音楽、天上の美声、その全てを地獄の底に叩き落とす極悪な音痴。

 

 なまじ歴史に名を刻むほどの稀代の音楽家の演奏と混じった為に不協和音は悪目立ちし、放たれた声は竜の血を引くエリザベートの竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)と相まって破壊音波と化した。

 

 それは大地を抉りながら文字通り音速で(はし)ると、立ちはだかる鉄の処女や人骨オルガンを瞬時に粉砕してその主達を吹き飛ばす。

 

 ぺんぺん草すらも残さない徹底した破壊の跡には、破壊音波の影響か何故か下着だけになったアサシン二人がグッタリと倒れていた。

 

「あれは……断じて…クリスティーヌでは……な………」

 

「認めないわ……あれが…私なんて……」

 

 怨嗟と何処かやるせなさの(こも)った末期の言葉を残して消滅するカーミラ達。

 

「さよならだ、変態仮面。恨むのなら、あのドラ娘の超絶音痴を知らなかった自分を恨むんだね」

 

 音波で殺されるというあんまりな最後に、一音楽家として哀悼の意を示すモーツァルト。

 

 両耳を(いじく)っていたその手には、少し変形した耳栓の姿があった。

 

「どう、今の最高のライブだったでしょ?」

 

「まったくだ。僕の演奏を殺人音波にするなんて、最高にクソッタレな音痴だよ」

 

「な……なんですってぇ!?」  

 

 満面な笑みのエリザベートに、この上ない皮肉を返すモーツァルト。

 

 その後、マリーの馬車に引き上げるまで、両者は槍と指揮棒を突き付け合っていたのは余談である。

 

 

 

 

 反逆の騎士とフランスの伝説的エージェント。

 

 二人のセイバーの対決はあっさりと決着がついた。

 

「…………! チッ、そらよ!!」

 

 アルトリアの莫大な竜氣に当てられる中、一瞬早く我に返ったモードレッドは赤雷となった魔力を乗せて、自身の愛剣をデオンに投げつけた。

 

 剣士が己が得物を投擲する。

 

 騎士然とした相手が取るとは思えない戦法に僅かに遅れるデオンの反応。

 

 それが勝敗を決定づけた。

 

 父であるアーサーを倒すべく生み出されたモードレッド、その身には騎士王と同じく竜の因子が宿っている。

 

 それが生み出す魔力が籠った剣は力任せに投げつけられた物でも、威力は並の英霊の攻撃とは一線を画す。

 

「くぅっ!?」

 

 瞬時に自己暗示によって肉体的リミッターを外したことにより、デオンは迫る凶器を辛うじて弾くことに成功する。

 

 しかし肉厚の騎士剣と細身のレイピアという得物の差も相まって、勢いまでも殺し切ることが出来ずに大きく体勢を崩してしまう。

 

 たたらを踏んで後退した彼が次に見たモノは、赤雷を纏いながら眼前へと迫るモードレッドの姿だった。

 

 立て続けに襲い来る二度目の奇襲、それを防ぐことが出来なかった麗人の胸にモードレッドの飛び蹴りが突き刺さる。

 

「がはっ!?」

 

 肺に溜まっていた空気を吐き出しながら宙を舞うデオン。

 

「じゃあな」

 

 そんな彼に向けて、再び剣を手にしたモードレッドは蹴りの勢いそのままに一撃を放った。

 

 胸を抉り取られたかのような痛みの中、咄嗟に掲げたレイピアも反逆の騎士の放った一刀によってへし折られ、袈裟斬りに身体を断たれたデオンは血塊と共に小さく息を吐いて消滅した。

 

 末期に漏らしたマリー王妃の名。

 

 実際に彼女と相対した時、自分はいったい何がしたいのかなど、狂気に侵された彼は最後まで悟ることは出来なかった。

 

「悪く思うなよ。テメエと遊んでる暇はねぇんだ」

 

 光の粒子となって消えた相手を一瞥し、全力で大地を蹴るモードレッド。

 

 怒れるアルトリアを見た時点で、彼女の関心はすべてあちらに向けられている。

 

 それに何かが入り込む余地など微塵も存在しないのだ。

 

 

 

 

 眼前で行われる十数度目になるランスロットとアルトリアの打ち合い。

 

 二刀流であるアルトリアは片手、対するランスロットは両手にも拘わらず、甲高い刃鳴を残して吹き飛ばされたのはランスロットの方だった。

 

 ぶっちゃけ、今のアルトリアはヤバい。

 

 実力的にはルーマニアの聖杯戦争にいたアキレウスやカルナのような大英雄と正面切って戦えるレベルだ。 

 

「伯父上」

 

 背後から掛けられた声に視線を向ければ、そこには息を切らせた甲冑姿のモーさんがいる。

 

「そっちは終わったのか?」

 

「ああ、あの程度の敵にチンタラ時間食ってられねぇからな」

 

 こちらの横に並ぶモーさんを一瞥してアルトリア達に視線を戻せば、弾丸のような速度で吹き飛ばされたランスロットがまたもや廃屋をなぎ倒しながら地面に叩きつけられていた。

 

「ぐぅ……っ!?」

 

 亀裂が入り始めたプレートメイルから破片を零しながら立ち上がる湖の騎士。

 

 その視線の先には傷一つない人型の竜が黄金の瞳で相手を睨みつけている。

 

「すげえな、ち……叔母上は。ランスロットの野郎が手も足も出ねえ」

 

「今のあいつはこっちのアーサー王伝説の終焉に描かれてる『ブリテンの魔竜』って呼ばれてる状態だからな」

 

 俺の言葉にモーさんはギョッとした顔でこちらを見る。

 

「なんだよ魔竜って!? あの人は騎士王だったんだろ!」

 

「ルーマニアでこっちのブリテンの終焉の一因にアルトリアの性別暴露があるって話したろ。その所為であいつは傾国の魔女のレッテルが張られてな、カムランの戦いの際には国内勢力の9割が離反したんだ」

 

「それで?」

 

「あいつは亡国の王の責務として、反乱軍と同時期に遠征してきたローマ・サクソン人混成軍7万人強をほぼ一人で殲滅した」

 

 今度は聖槍でホームランされてるランスロットの弾道を目で追いながら、俺はモーさんの質問に答える。

 

「そんな状態であの人は戦ったのか。国の殆どが敵に回ってるんなら、そんな奴等なんて見捨てて逃げればいいじゃねぇか」

 

「クーデターで起こった政府ってのは、その成り立ちの影響で政治的基盤が不安定になる。そもそも現政権よりも政治力に劣るから暴力に頼るんであって、歴史を紐解けばクーデター勢力が旧支配層より無能なんてのは良くある話だ。そして末期だったブリテンにはそんな政変が及ぼす影響を受け入れる余力は無かった。だからこそアルトリアは予め統治権を譲っていたペンドラゴンの傍流が民を導けるように、反乱勢力を討たなきゃならなかったんだ。侵略者であるローマも含めてな」

 

「…………」

 

「あいつを裏切らなかった供回りの生き残りの証言だと、カムランの丘でのアルトリアは今までの騎士王とはかけ離れていたらしい。鞘の加護によって敵の攻撃は一切が通じず、剥き出しの怒りと殺意で振るわれる聖剣と聖槍が(もたら)される破壊は狂える竜の如し。敵対する者には一切の容赦をせず、戦闘不能となった者や命乞いをしている者であっても区別なく抹殺したそうだ」

 

「その様と魔女のレッテルが合わさって『魔竜』なんて呼び名になったのか……」

 

「そいつの(のこ)した手記だと、戦いが終わった後の丘は人の手によるものとは思えない死体で埋まり、犠牲者の流した血は小さな川を作るほどだったらしい。で、その惨状を作り出したのが今のアルトリアだ」

 

 俺達がそんな会話をしている間にも、元主従の戦いは続いている。

 

 先ほどまでフェイントを織り交ぜながら斬りかかっていたランスロットだが、今は逆に距離を取ろうと動き始めている。

 

 黒く染まったアロンダイトの刀身に蒼い魔力を蓄積させているところを見るに、間合いを開けて通常の真名解放に賭ける腹なのだろう。

 

 身体能力に隔絶した差がある事に加えて、アルトリアは未来視レベルの直感を持っている。

 

 これ以上近距離で刃を交えるのを避けたい気持ちは分かるが、その判断は完全に悪手だ。

 

「愚かな、魔力放出で私に勝てるつもりか」 

 

 嘲りと共にロンゴミニアドを闇色の聖剣へと持ち替えるアルトリア。

 

 次の瞬間に戦場の空気を焼いたのは、矢継ぎ早に放たれる金と黒の魔力砲撃だった。

 

 活性化した竜の心臓をフルに使用した飽和攻撃、それを見たランスロットは蒼い光を称えた刀身もそのままに慌てて退避行動に移る。

 

 エクスカリバーやガラティーンもそうだが、聖剣の真名解放には溜めと時間が必要になる。

 

 だというのに高威力の魔力砲撃を釣瓶撃ちされては、とても極光など放てはしないだろう。

 

「どうした、ランスロット! 貴様が選んだ戦場なのに鼠のように逃げ回るだけか!! 貴様も聖剣の担い手ならば、反撃の一つも見せてみろ!!」

 

「くおぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 空を裂いて飛来する金と黒の光線を、聖剣の魔力を纏ったアロンダイトで辛うじて凌ぐランスロット。

 

 伸びた髪から覗く苦虫を噛み潰したかのような顔からは、『こんなはずではなかった』という焦燥がありありと読み取れる。

 

 何をもって奴がそう感じているのかは分からないが、俺からすれば目の前の戦況は当然と言えた。

 

 ランスロットに付けられた円卓最強という称号は間違いではない。

 

 ただし、これには人間の中ではという注訳が付く。

 

 種族の壁を取り払えば、奴の上にガウェインとガヘリス、そしてアルトリアが来るのだ。

 

 こんな言い方はしたくないが、アルトリアはマーリンが『最高の王たれ』と手を加えたデザインチャイルドだ。

 

 竜の因子、竜の心臓と言われる魔力炉心、女神の神性。

 

 生まれながらにして破格の能力を持っているあいつが、英雄とはいえ人間に後れを取る筈がない。

 

 人間が人外に挑むのに必須である技量も、あの二人ではほぼ互角だしな。

 

「すっげぇ……。どんだけ真名解放を連発してんだよ、叔母上」

 

「あれは放出した魔力を聖剣に乗せてぶっ放してるだけだぞ。真名解放は一度もしてないはずだ」

 

「マジかよ!?」

 

「ああ。あの状態のアルトリアが本気で聖剣ぶっ放したら、直線上数キロは焦土になるからな」

 

「なんだよ、それ。つーか、今の叔母上はどうなってんだよ?」

 

「怒りが限界突破した所為で竜の因子が過活性してるんだ。その為に竜の心臓の稼働率が上がって、生成される魔力の影響で能力が軒並み上昇してる。例えるなら逆鱗に触れられた竜と同じ状態だ」

 

 さらに言うと竜の因子に釣られる形で、お袋さんから受け継いだ神性も上がってるらしい。

 

 あの状態のアルトリアを姉御は『マーリンが理想とした神秘を以て国を統べるブリテンの守護者、赤い竜の完成形』って言ってたっけか。

 

 なんで俺がそんなことを知っているかと言うと、妖精郷に帰ってきてから一度アルトリアがブチキレた事があるからだ。

 

 原因は俺があいつのやっていたドラクエⅢのセーブデータを誤って消してしまった為。

 

 なんでもアリアハンでレベル99になるのを目指していたらしく、闇に葬られたデータでは56くらいは行っていたそうな。

 

 例の音楽と共に『お気の毒ですが冒険の書は消えてしまいました』というメッセージを見たアルトリアは『殴っ血KILL』なんて言語機能に異常をきたしたようなセリフと共に襲い掛かってきた。

 

 端的に感想を言わせてもらえば、妖精郷暮らしの錆が落ちるくらいには強かった。

 

 むこうも『俺なら死なないだろう』という信頼があったのだと思う。

 

 今やってる魔力砲撃はもちろんのこと聖剣に聖槍の真名解放だってバンバカぶっ放し、結局は堪忍袋の緒が切れたお袋さんの怒号が響くまで思う存分暴れまわったのだ。

 

 いやホント、咄嗟の機転であいつを周囲に民家の無い草原に誘導してなかったらシャレにならんところだったよ。

 

 騒ぎを聞きつけてフェアリーブレイバーの面々も駆け付けたしな。

 

 その後、泣いてお袋さんのベッドに引きこもったアルトリアの機嫌を直す為に小遣い叩いて最新ハードを買う羽目になったのだが、その辺は余談である。

 

「無様だな、ランスロット。その程度で円卓最強などと騙っていたのか、貴様は」

 

 

 魔力砲撃に嬲られて息も絶え絶えとなったランスロットに、ゴミを見るような視線を向けるアルトリア。

 

 片や纏っている鎧も半壊し剣を杖代わりにして辛うじて立つ騎士、もう一方はジャージ姿とはいえ傷一つない王。

 

 誰が見ても優劣は明らかなのだが、当然ながら互いに矛を収める様子はない。

 

「……まだだ! 貴方がどれだけ強大であろうと私は負けるわけにはいかない! アルガを倒し、何故グィネヴィアと我が子を手に掛けたのかを聞き出さねばならんのだ!」

 

 叫びと共に勢いよく地面から剣を抜き放つランスロット。

 

 何故、か。

 

 グィネヴィアに関しては姉御の報復以外に何の他意も無いんだが、あいつはいったいどんな疑問を持ってるんだ?

 

「私相手にその体たらくを晒しておいて、兄上を倒すなどと。相変わらず妄言を吐く事だけは一人前────!」

 

 アルトリアが言葉を切るのと同時に、あいつの背後に魔力が渦巻いた。

 

 瓦礫を巻き上げる魔力流の中から現れたのは、切っ先が刀身より広がった肉厚の剣を手にした白髪の男。

 

 気配からしてバーサク・サーヴァントの一騎で間違いない。

 

 恐らくは竜の魔女が令呪を使って送り込んできたのだろう。

 

「執行時間だ、首を垂れるがいい! 『死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)』」

 

 舌打ちと共に手にしたナマクラで次元斬を放とうとしたが、それよりも男が宝具開帳の呪を紡ぐ方が早かった。

 

 次の瞬間、アルトリアの周囲を暗闇が覆うとその頭上には巨大なギロチンが現れる。

 

 白髪の男が腕を振り下ろすのを合図に、金属が擦れる音を立てて滑り落ちる巨大な刃。

 

 タイミング的に見ても迎撃は不可能と思われた一手だが────

 

「邪魔だ」

 

 黒い聖剣を地面に突き刺したアルトリアが拳を突き上げると、甲高い金属音と共に首へと迫っていた刃は粉々に砕け散った。

 

「ば……馬鹿な!?」

 

「馬鹿な? 馬鹿は貴様だ」

 

 男が驚愕に目を見開いた隙を逃さずに懐へ飛び込むアルトリア。

 

 魔力放出によって一足で音の速さへと到達した勢いそのままに、翻った右足は空を裂いて男の胸元に食らいつく。

 

 ブリテン時代に護身用に教え込んだ少林拳の旋風腿。

 

 それも今のあいつが使えばサーヴァントすら殺めうる凶器と化す。

 

「──────人間用の処刑具ごときで竜の首が落とせるか」

 

 一撃で胸骨ごと胸の霊核を砕かれ、血ヘドを残して消滅する男。

 

 しかし、この攻防はランスロットへ千載一遇のチャンスを与える事となった。

 

 正眼に掲げられた黒い刀身に今まで以上に蒼い魔力が渦巻き、その余波は周囲の瓦礫を巻き上げる。

 

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)

 

 どうやら奴は自身の持つ最大奥義の一撃に賭けるつもりらしい。

 

「『縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 」

 

 裂帛の気合と共に頭上高く飛び上がったランスロットは、真名解放の魔力が内包されたアロンダイトを大上段から振り下ろす。

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)

 

 しかし、蒼光を纏った刀身はアルトリアの頭蓋を割る事はなかった。

 

 振り向き様に(かざ)した聖剣の鞘、それが生み出した絶対防御の結界が蒼の刃を容易く阻んで見せたのだ。

 

「馬鹿な! 湖の乙女である母上が手掛けたアロンダイトが何故!?」

 

「自分の剣が聖剣ではなくなった事にすら気付いていないとはな。罪無き者、しかもブリテン島と妖精郷を結ぶ管理者の縁者の血で穢れた剣なぞ、この結界が通すものか」

 

 言葉と共にアルトリアが右手を薙ぐと、甲高い音と共にランスロットの剣は大きく弾かれる。

 

「現世にあった『無毀なる湖光(アロンダイト)』はニュミェ殿の手によって打ち直され、兄上の愛剣となった。貴様はその薄汚い魔剣と共に沈むがいい」 

 

「あ…ああっ……!?」

 

 死に体となったランスロットの視界を染める黄金の光、それはブリテンの騎士全てが憧れた勝利を約束する王の剣が放つ輝きだった。

 

「『約束された(エクス)───勝利の剣(カリバー)』ぁぁぁぁっ!!」

 

 真名解放と共に放たれた剣閃は、ランスロットの身体を袈裟斬りに切り裂いた。




【ランスロ敗北記念】ランスロットによる剣キチ攻略





 ────祈れ


  

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