ようやく、ようやくFGOに足を踏み入れました。
以前に書いた短編とは設定がかなり異なりますが、その辺は目を瞑っていただければと。
ともかく、先は長いですが頑張っていきたいと思います。
剣キチが行く人理修復日記(1)
妖精郷日記 ■月◎☆日
ニニューさんからようやくミュータントミミズの調査結果が上がってきた。
このミミズ、やはりと言うべきか魔術による産物だった。
ニニューさんが言うには作成者はトンでもレベルの魔術師らしく、術で出現を抑制する事はまず不可能。
出現した場合は実力行使で刈り取るしかないらしい。
駆除に手間取る大型種も妖精郷各地で数を増やし始めているらしく『フェアリー・ブレイバー』も大忙しのようだ。
実働班であるガウェイン達の緊急出動も目に見えて増えてきたので、やはり親としては心配である。
そういえば、この前久しぶりに外に出ていたアルトリアがロボに変形合体したガウェインとガヘリスを見て腰を抜かしていた。
『どうなってるんですか、妖精郷!?』と騒いでいたが、この程度でたまげているようでは日々進化する陛下には耐えられないだろう。
前回のケテル・ザ・ビッグ戦の反省から陛下強化計画、通称『グレート・プロジェクト』も始動しているらしいし。
ともかく妖精郷始まって以来の害虫被害なので、早急に抜本的対策を立てねばならない。
農家的な立場からすると『飛び跳ねキャベツ』を始めとして、肥料にしたらとても作物の育成がいいので絶滅させるのは勘弁してほしいところではあるが。
妖精郷日記 ■月◎▼日
突然だが人類は滅亡してしまったらしい。
自分でも何を言っているのか意味不明なところではあるが、事実なのだから仕方がない。
この情報のソースはダヌー神と『フェアリー・ブレイバー』観測班である。
話はミユちゃんが家を訪ねてきた事から始まった。
ダヌーから新たな使命を受けたというミユちゃんに内容を確認すると、焼却された人理の修復だなんて無茶振りを受けたというではないか。
さらに詳しく話を聞いて行くと『何者かによって人類の歴史は焼却されてしまった事』『ある組織に属するごく一部の者を除いて人類は滅亡した事』そして『焼却された人類史に犯人が聖杯によって特異点を形成しており、それを正さないと人理の修復は出来ない事』とダヌーから伝え聞いた事を語ってくれた。
さすがにこれには家族全員度肝を抜かれてしまった。
正直言って、話が壮大過ぎて理解が付いて行かないくらいである。
その後、帰って来たガウェイン達からも同様の事実を『フェアリー・ブレイバー』が観測した事が伝えられた事で、図らずとも人理焼却案件の裏付けが取れてしまった。
しかも例のミミズ共から発せられる魔力が人理を焼き尽くしたモノと同じであるというではないか。
この二つの事実が示すところは、人理を焼却した何者かの次の狙いがこの妖精郷であるということだ。
これを聞いては俺だって黙っているわけにはいかない。
ようやくアルトリアも帰って来て、これから家族みんなで穏やかに暮らしているのである。
それを邪魔するのならば、首謀者とやらは斬刑に処さねばならん。
さらに言えば、成り行きとはいえミユちゃんはウチで育てた末っ子のようなものだ。
親代わりとして、こんな無茶な案件を一人背負わせるワケにはいかない。
神使の任務に
掛けられた布を取ってみると、そこにあったのは白塗りの鞘に納められた一本の倭刀。
水晶蜘蛛戦以来、『フェアリー・ブレイバー』に預けていたアロンダイトMKⅢだった。
どうやらニニューさんは俺が問題解決に乗り出す事を読んでいたらしい。
『父上、此度の件はかつてない程の災厄です。私達は妖精郷防衛の為に一緒に行くことはできません。どうか、お気を付けて』
『父ちゃんの事だから、オレは心配してないぜ。真犯人をバサッとぶった斬って、早くこっちを楽させてくれよな!』
『こちらの事は心配いりません。私とギャラハッドで家族の事は何があっても護りますので』
ガウェイン達の声に頷いて見せた後、俺はアロンダイトを手に取った。
今回ばかりは腕が
使えるものは全て使うべきだろう。
ちなみに今回に関しては姉御はお留守番である。
実は数日前に懐妊が発覚して、家族総出で祝った後なのだ。
妊娠初期の一番大切な状態である、お腹の中に居る新しい命の為にも無理は絶対にさせられない。
まあ、本人は『なにかあったら貴方を目印にして遠隔で呪いを掛けるから』と物騒な意味でヤル気満々だったが。
他にはモードレッドとアルトリアが同行を申し出てきた。
モードレッドは妹分のミユちゃんが困難に挑むのを黙って見ていられないようで『オレはミユのお姉ちゃんなんだから、手助けするのは当たり前!!』と、お袋さんの制止も物ともせずこちらに抱き着いてきた。
ニート全開だったアルトリアの方は『エクスカリバーの精に「ゴイスーでデンジャーな事が起こっているので働け」と言われました』と死んだ目で語っていた。
嫌なら無理しないでいいと声を掛けたところ、白と黒の聖剣の精霊がサラウンドで騒ぐのがキツかっただけで、同行自体は嫌でも何でもないとのこと。
あと、アルトリアはいつもの青いジャージ姿に同色の帽子とマフラー姿で参戦するらしい。
ちゃんと装備を整えるように言ったのだが、妹の弁ではあのジャージはサーヴァント時代に身に着けた礼装を変化させたもので、見た目はともかく防御力に関しては甲冑と同等なんだとか。
今回の装備に関しては、モードレッドが姉御とお袋さん特注の術式をこれでもかと組み込んだ騎士服、俺はいつもの黒ずくめである。
とはいえ、こちらの服に関してはお袋さんが手を加えたようで、防弾防刃コートの下が黒を基調にしたビジネススーツになっていた。
鏡に映った自分の姿がマフィアか頭に『ヤ』の付く自由業の人にしか見えなかったけれど、前歴がそうだったのだから仕方がない。
各種防御力が上がったし、見た目とは裏腹に動きも全く阻害しないのだ。
文句を付けたら罰が当たるだろう。
そういうワケで、俺達は問題解決の為に妖精郷を後にした。
目指すは話に出ていた人類最後の砦である『人理継続保障機関フィニス・カルデア』
人生最大規模の厄介事だが、産まれてくる子供の為にも手早く片付けるとしよう。
◇
みなさん、こんにちは。
自分の剣にニートを脱却させられるという、所有者にあるまじき状況に困惑しているアルトリアです。
エクスカリバーの精が発した『ゴイスーでデンジャーな事態』が人類滅亡とは、正直夢にも思いませんでした。
そんな未曾有の大災害から家族を護る為に私達は妖精郷を発ったのですが、人類最後の組織に着くはずの私達は何故か
周囲に目を向けると、変わり果ててしまったけれど見覚えのある街並み。
「ここは冬木市のようだな」
車両用の標識を睨みながら小さく言葉を紡ぐ兄上。
その言葉で私はここが二度に渡って聖杯を求めた舞台である事に気づきました。
高層ビルの残骸が立ち並ぶこの地域は、新都と呼ばれていた区画にあったビジネス街と見て間違いないでしょう。
建物が朽ちて人の気配と人工の光が絶えた所為で、冬木であると気づくことができなかったようです。
「どうして私達は冬木の街に……。それにこの惨状はいったい……?」
「ごめんなさい。ダヌー様が結んでくれたカルデアとの
「気にすんなって! 父上は縮地で訳の分からないところに行くのはしょっちゅうだから、こんな事は慣れっこだぞ!!」
へにょりと眉を下げながら困惑の表情を浮かべるミユをモードレッドが懸命に慰めています。
末っ子で甘えたがりのあの子がお姉ちゃんぶるとは、私の知らない間に随分と成長したようですね。
あと、父親大好きのモードレッドが兄上をネタにしているのは初めて聞いたので、思わず我が耳を疑ってしまいました。
さて、本音を言えば幼女二人の様子にほんわかと癒されたいところですが、そんな悠長な事を言っていられる状況ではありません。
こちらの周囲に赤錆の浮いた剣や槍、弓矢を手にした骸骨兵が集まりつつあるからです。
兄上は鞘に入ったままのアロンダイトを手に取り、モードレッドも腰に差した小太刀を鞘走らせます。
見ればミユ嬢も身の丈ほどある杖を構えて迎撃態勢を取っています。
いかに働かない宣言をしたニートとはいえ、子供達に荒事を任せて観戦するほど私は人間を辞めていません。
ここはモン●ンで鍛えたエクスカリバー二刀流を見せる時でしょう。
というワケで、開幕の一手は私が戴きました。
両手の聖剣からの魔力放出によって間合いを詰めた私は、左手のエクスカリバーで骸骨兵5体を切り裂くと返す刀で黒の聖剣を横薙ぎに振るいます。
甲高い音と共に刀身から迸った黒い魔力は、骸骨兵の一団を飲み込むとそのままビルの残骸を横に両断しました。
前回の聖杯戦争はいいトコ無しでしたが、こちらとてただ醜態を
オルタモードで使っていた砲撃に近い魔力放出。
聖杯からの無尽蔵に供給される魔力によって成立していたあれを、刀身に限界まで魔力を圧縮することによって低燃費で再現できるようになったのです。
さすがにあの時のようなカリバー百連発はできませんが、一撃の威力では黒い私に引けを取ることはないでしょう。
「伯母上、スッゲーーー!!」
目を輝かせつつ、宙を駆け巡りながら骸骨兵の首を次々と刎ねていくモードレッド。
あれって兄上が使うインチキ体術の一つ、軽身功じゃないですか。
ついにあの子も戴天流の門を叩いてしまったのですね……。
姪が常識人から逸脱するのを止められなかったとは、このアルトリア一生の不覚です。
「モーお姉ちゃんもすごいよ! 私も空を飛べるようになりたい!! 『マハラギダイン』!!」
ウチの養い子である事が判明した恩人ミユが呪と共に杖の先で地面を叩くと、そこから噴き出した猛火が津波のように広がって骸骨兵を飲み込みます。
いやはや驚きました。
あの子の魔術……いいえ、あれは神から譲渡された権能でしょうか?
ともかくミユの術の威力は一流の魔術師はおろか、並のキャスターすら凌ぐ代物のようです。
子供達がトンでもパワーを見せる中、常識破りに定評のある兄上はやはり一歩上を行っていました。
まず、私の目を
しかも明らかに射程範囲外の敵や遮蔽物に隠れている相手まで、何の前触れもなくスパスパ斬れていくのです。
言うまでも無いですがアロンダイトは鞘に収まったまま。
さすが我が家のMr.非常識、頭がおかしいレベルの剣技はさらに磨きが掛かっています。
さて、そうやって骨たちを蹴散らしていると敵陣の奥からサーヴァントの気配を感じました。
宙を舞い、朽ちた骨の残骸を踏み砕きながら現れたのは闇色のローブを纏った人影。
周囲を漂う黒い靄で少々見辛いですが、顔に付けた白い髑髏の面と異様に長い右腕は見間違えようもありません。
第五次聖杯戦争で私を倒したアサシンです。
「この気配……。あのサーヴァントは聖杯の呪詛に汚染されているようだな」
「ええ。気をつけてください、兄上。奴の右腕は触れずして心臓を破壊する呪いの手です」
「わかってるさ、お前の記憶を見させてもらったからな」
小さく口元を吊り上げながら目を鋭くする兄上。
殺る気満々のようですが、こちらとしては奴を兄上に譲る気はなかったりします。
思わぬ形で巡ってきたリベンジの機会、これを逃す手はないですから。
「ところで兄上。あのサーヴァントの相手、私に任せてもらってもいいですか?」
「……ああ。あれってお前が負けた奴か」
「はい」
「───わかった。その代わり、危なくなったら割って入るからな」
少し考える素振りを見せた後、兄上はアサシンに背後を見せて子供達の方に戻っていきました。
普段は全く隙がない兄上がああも無防備な姿を見せたのは私を信頼している証でしょう。
これはしくじるワケにはいきませんね。
「ギギッ……」
虫のような鳴き声と共に奇妙な角度に首を傾げるアサシン。
それを見据えながら、私は二振りの聖剣を構えます。
焼け焦げた空気に炎が燻る音が響く中、先手を取ったのはアサシンでした。
大きく前方に跳躍する事で空中からこちらの背後に回ると、奴は左手に持った黒塗りの短刀を放ちます。
しかし以前のように魔力が足りないならまだしも、肉体を取り戻した私にはそんな小細工など通じない。
迎撃するまでもなく魔力放出の余波で短刀を弾き飛ばすと、私は周りの瓦礫を吹き飛ばしながら反転。
強化された脚力を活かして一瞬でアサシンの真下に踏み込みました。
こちらが何らかの防護措置を取ると思っていたのか、身動きもせずに落ちて来る奴を見据えながら、私はニ本の聖剣を纏めて両手で握り締めます。
「食らえ! アルトリア・ホームラン!!」
そして野球の打者のように聖剣を思い切り真横に振り抜くと、正負の魔力が合わさった事でスパークしている刀身をどてっ腹に受けたアサシンは、バラバラになりながら空の彼方へと消え去りました。
さすが私、『実況パワフルプロ野球』で鍛えたミート力は健在です。
「このアルトリア、人生に於いて同じ相手に二度の敗北を刻んだ事なし!」
リベンジが成功した時に言ってみたかった台詞と共に、私はアサシンが消えた空に背を向けました。
うん?
兄上には連敗しているのではないか、ですって?
何を言っているのですか、兄上とは一度しか戦ってませんよ。
もし二度目があったなら、私はここに存在してません。
あと訓練はノーカンです、ノーカン。
「やるなぁ、ミユちゃん。それがダヌー神から授けられた権能かい?」
「うん、魔界魔法って言うんだって」
「あれ? 人類の技術で再現可能な神秘って魔術って呼ぶんじゃなかったか?」
「それって魔術師が勝手に言ってるだけなんだって。神様はそんな事気にもしてないから、昔通りに魔法でいいって言ってたよ」
「そういうもんか。モードレッドも軽身功が上手く使えるようになったみたいだな」
「へへっ、いっぱい練習したからな!」
そんな会話をしながら子供達の頭を撫でる兄上。
千年以上父親をやっているだけあって、その手の動きは熟練の技を感じさせます。
現に撫でられているモードレッドとミユも、ほにゃりと蕩け顔。
ああいうのを見ていると自分もやってもらいたくなるのが人の性というモノ。
私も頑張ったんだから褒められる権利はあるはずです。
「兄上! 私の二刀流はどうだったでしょうか?」
「あ~、引き篭もっていた割にはいい太刀筋してたぞ。あとは強化された魔力放出の反動を抑えきれるようになったら完璧だな」
なでれ!とばかりに頭を出してみると、苦笑いと共に兄上は頭を撫でてくれました。
むぅ……これはなかなかに気持ちいいですね。
絶妙な力加減で頭を刺激してくるから、何となく
「叔母上! 寝ちゃダメだぞ!!」
……はっ!
あまりの心地よさに意識が逝ってました。
「すみません、兄上」
「いいって、気にすんな」
気づかぬうちに兄上にもたれかかっていた身体を起こし、頭を振って眠気を飛ばします。
いやはや、あの撫で方はヤバイ。
例えるなら寝不足で美容室にいって、髪を切ってもらっている最中に眠ってしまうような感じです。
兄上は『撫でポ』ならぬ、『撫でラリホー』属性を持っているのかもしれません。
それはさて置き、戦闘も一段落したので私達は戦利品が無いかを調べたのですが、情報に繋がる物は得られませんでした。
といっても全く収穫が無かったわけではなく、骸骨兵の残骸からは呪詛で紅く染まった骨が、そしてアサシンの消えた空の下にはサーヴァントの霊核の破片と思われる刺々しい虹色の石を発見しましたが。
手に入れた品は単体だと使い道はないけれど、何らかの触媒にすれば優れた効果を発揮するみたいなので、一応取っておくことにしました。
さて、思わぬ事態から戦闘に巻き込まれる羽目になってしまったのですが、私達の目的はあくまでフィニス・カルデアという組織。
この変わり果てた冬木に用は無いのです。
なので、ミユの権能で再度カルデアを目指そうと思ったのですが、意外な事に転移できませんでした。
彼女が言うには、女神ダヌーが縁を結ぶ基点となった人物がここにいるとの事。
そういう事ならばと街の中を捜索する事となったのですが、私としてはこの滅んだ冬木はあまり気持ちのいい物ではありません。
聖杯戦争という形ではあるものの、二度もお世話になった街が無残に滅んだ様を見るのは精神的にクルものがあります。
というか、街の様子が聖杯の泥に漬けられた際に『この世全ての悪』から見せられた滅びとほぼ一緒なんですが。
自分の醜態及びマスター殺しというトラウマをゴリゴリ削られるので、正直早く帰りたい。
そんな私の切なる願いに反して、骸骨兵や黒染めサーヴァントはワラワラと湧いてきます。
骸骨兵はもちろん、サーヴァントも基本スペックが低いために割とあっさりカタが付くのですが、中には厄介な能力を持つ者もいます。
たとえばライダーのサーヴァント。
ラウンドシールドと片手剣を武器とし能力的には平凡なのですが、彼女の恐ろしさは別のところにありました。
それは呪詛による黒い靄でも隠し切れない超弩級の母性です。
いや、あれはヤバイ。
あの全力で甘やかしてあげようオーラはニートに特攻が入ってしまいます。
あの胸に顔を埋めてよしよしされたら、私は彼女に魅了されていた事でしょう。
彼女は間違いなく人を駄目にするサーヴァントです。
そんなライダーですが、私が彼女の色香にふらふらと引き寄せられていたところを、兄上がバッサリ逝った為に消滅と相成りました。
街の光景に削られたSAN値を癒してくれるかも、と思っていたところにこの仕打ち。
地面に突っ伏して『これが人間のやることかよぉぉぉぉぉぉっ!?』とガチ泣きした私は悪くない。
そんなこんなで街を徘徊すること二時間ほど。
ようやく私達は目標の人物と出会うことが出来ました。
シロウにどこか似た少女であるフジマル・リツカ。
ギャラハッドの面影を持つマシュ・キリエライト。
あとはショチョさんとどこぞの槍使いを連想させるキャスターがいたような気がしますが、その辺は置いておきましょう。
キャスターの方は出会い頭に『セイバーか!?』と火の玉を飛ばしてきたので、反射的にマッチョのバーサーカーに決めたアッパーレベルでブン殴ってしまいましたし。
ええ、正当防衛ですよ。
キャスターはビルの屋上くらいまで吹っ飛んだようですが、私は何も悪くない。
なので兄上、ゲンコツで頭をグリグリするのは止めてください(涙)