IS-最強の不良少女-   作:炎狼

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お久しぶりです。


デート シャルロット・デュノアの場合

 IS学園では、数週間後に控えているキャノンボール・ファストが迫っている。そのため、中には休日返上でISの調節に追われている生徒がチラホラを見え始めている。特に専用機持ちはそれが顕著だ。

 

 だが、そんな専用機持ちであっても、まったくISの調節をせず、休日を普通に過ごしている女生徒が一人、IS学園正門前で端末を開いてダウンロードしたアプリで遊んでいる。

 

 ゴツめのブーツを履き、相変わらずの黒のダメージホットパンツ。淡いオレンジ色のTシャツの上からは白の七分袖のシャツを羽織っている少女は、鳴雨響である。

 

 今日彼女は、二度目のデートの約束を果たすためにここで待ち合わせをしている。相手はと言うと……。

 

「響ー」

 

 やんわりとした声が聞こえ、彼女がそちらを見るとブロンドの髪を短いポニーテールに纏め、下は紺のサブリナパンツ、上はやや長めの水色のノースリーブのブラウスを着たシャルロットが駆けてきた。

 

 手元にはやや大きめのトートバッグを下げている。

 

「お待たせー」

 

「そんなに待ってねぇさ。つか、このやり取りはこの前セシリアともしたな」

 

「そうなんだ。でも響って結構早い行動をするよねぇ。不良なのに」

 

「これでも私は時間には堅実なほうだぜ? あぁでも、地元だとルーズになるが」

 

 シャルロットと並んで歩きながら響はモノレールに乗るために駅を目指す。

 

 今日は少し前に約束したデートの二回目なのだ。一回目はセシリアと、二回目となる今日はシャルロットと出かけることになっているのだ。そして三回目はラウラと行く事になっている。

 

「今日はどこ行くんだ? セシリアと同じでその辺はお前に任せてっけど」

 

「始めに行くのは動物園。電車を乗り継いで行くよー」

 

「水族館の次は動物園ね。まぁデートの定番だわな」

 

「最初は水族館もいいかなぁって思ったんだけど、セシリアが行ったって言ってたからね。被るのは響も嫌でしょ?」

 

「ああ。でも、だったら悪いな。余計な気を使わせたみたいで」

 

「全然いいってば。僕も動物園行きたかったし。それに、行こうとしてる動物園は動物を触れるところもあるみたいだし。面白そうだったよ」

 

 シャルロットは満面の笑顔を浮かべる。その表情に決して作りはなく、彼女が心底行きたがっているのを物語っている。

 

 彼女の微笑みにつられたのか、響も微笑を浮かべる。

 

「じゃあ動物園行ってみますか。シャルロット」

 

「えー、シャルロット?」

 

 響の言葉に微笑を浮かべていたシャルロットが少しだけ拗ねた表情を浮かべた。最初響は首を傾げそうになったが、すぐに思い出し方を竦める。

 

「わーったよ。行こうぜ、シャル」

 

「うん!」

 

 二人だけの秘密ということで、決めたシャルロットの呼び名。どうやらシャルロット嬢は二人きりの時はこの呼び方でないと機嫌を損ねてしまうらしい。

 

 

 

 

 

 

 モノレールから電車を一回乗り継いでやってきたのは、この辺りでは一番大きな動物園だった。日曜日ということもあり、家族連れもいれば、カップル、友人同士など様々な人がいる。

 

「想像はしてたけど混んでるもんだな」

 

「だねー。でも中はかなり広いみたいだから大丈夫だよ。ほら、次は僕達の番だよ」

 

 僕達の番というのは、チケット売り場の順番のことだ。少し待っていると、前のカップルがはけ、響たちの番となった。学生証を提示してから高校生料金でチケットを購入すると、二人はそのままゲートを潜って園内へと入っていく。

 

「どの辺りから見ていく?」

 

「近くから回る感じでいいんじゃないかな。えっと、一番近いのはジャイアントパンダかな」

 

 パンフレットを見たシャルロットが進行方向を指差した。響はそれに頷くと、彼女に手を差し出す。

 

 シャルロットもその意図が理解できたようで、笑顔で手を握ってきた。二人は手を握りながらまず最初の動物であるパンダを見に行った。

 

 

 パンダの前には多くの人がいたものの、見れないほどということはなかった。そういえば、一年くらい前にここのパンダが子供を出産しただなんだと騒いでいたなと思い出しながら響は強化ガラスで囲われているパンダを見やる。

 

 熊のような巨体のわりにどこか可愛らしく見えるのはその模様というのもあるのだろうが、仕草も見ていて面白い。

 

 でん、と座りながら竹やら笹やらを食べている姿は中々可愛い。

 

「かわいいなぁ、僕パンダって初めて見るんだよー。響は?」

 

「ガキの頃に親父に連れてってもらったときが最後だなぁ。だから二回目だ。しかし、こうしてみるとパンダって結構面白いよな」

 

「面白いって?」

 

「外見は殆ど熊のくせして、あの色合いだけで普通の熊とは扱いの差がすげぇ。しかも漢字で書くと大熊猫だぞ? 猫の要素どこだよって感じでなんか笑えてくる」

 

「あー、なるほどね。確かに言われてみると不思議だったりするかも。けどさ、そういう意外性もあるから人気なんじゃないかな。響みたいに」

 

 シャルロットはどこか悪戯っぽい微笑を浮かべている。それに対し響は頬をかきつつ溜息をつく。

 

「私みたいにって……。私はそんないい人間じゃないんだが」

 

「そんなことないよー。だって響は実際に人気があるじゃない。ファンクラブまであるし」

 

「まだ存続してたのかあの奇妙なファンクラブ……。まぁ、人から好かれるのは悪い気はしねぇけど、なんだかなぁ」

 

「はいはい。細かいことを気にしてたらキリがないよ! それじゃあ別の動物も見に行こう!」

 

 グッとシャルロットに腕を引っ張られながら響はパンダの檻をあとにする。

 

 ……細かいこと気にしてもしょうがねぇか。

 

 

 

 

 

 パンダから始まった二人の動物園めぐりは、肉食獣のエリアにきていた。響を見ると先程よりは目が輝いている節がある。

 

 それを不思議に思ったのか、シャルロットが彼女に問う。

 

「響、嬉しそうだけど。もしかして肉食獣系好きなの?」

 

「ああ。子供の頃から草食よりも肉食派なんだよ。恐竜もそうだな。とは言っても草食が嫌いなわけじゃないけどな」

 

「なるほどね。ふふ、そっか、肉食派かぁ」

 

 シャルロットは響の様子が可笑しかったのか、クスクスと笑った。

 

「あんだよ」

 

「ん、あぁごめんごめん。別に変に思ったわけじゃないよ。ただ、響らしいなぁって思っただけ。響って動物だとよく肉食獣に例えられない? ライオンとか」

 

「ふーむ……。そういえば、そうだな。妹とか幼馴染からはライオンって言われたことがある。あとはトラとか、豹とか……あ、凶犬って言われたこともあるな」

 

「最後のはちょっと意味合いが違うと思うけど……。そういうところは響って分かりやすいから面白かったの。このエリアに入ったときから目が爛々としてたしね」

 

「だから、嬉しそうってわけか。参ったな、ポーカーフェイスには自信があったんだが」

 

 眉間に皺を寄せた響はうーむと唸った。どうやら自分でも気付かない内に気分が高揚していたらしく、そこを見事に見抜かれてしまった。

 

「ちなみに聞くけど響はどの肉食獣が好きだったりする?」

 

「狼だな」

 

「へぇ、理由とかは?」

 

「そうだなぁ。ライオンとかと比べてもすっげぇかっこいいんだよなぁ。すらっとしたフォルムとか、凛々しい顔立ちとか……うん、最高だ」

 

 珍しく興奮気味の響。シャルロットもその様子が珍しいと思ったようで、しばらく彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「眼光が鋭い感じもいいし、白でも黒でもそのかっこよさは損なわれない。群れの中でもしっかりと地位を確立していく様も人間らしくて面白い。んで、狩りのときのリーダーが部下を連れて動物を狩る感じは、軍隊の作戦を見てるようだしなぁ。あとは、まぁあれか、狼って神聖なものって感じで神々しく扱われることもあるだろ。その辺もライオンとかとは違うなって思ってんだよ。だから私は狼が好きなわけ」

 

「……なんか、こんな力説する響を初めて見たよ。つまり、どんなところを取っても響は狼が大好きなわけだね?」

 

「ああ。ってわけで、ここにも狼がいるみたいだから早速見に行こうぜ!」

 

「え? ちょっ!?」

 

 シャルロットの了解を得ずに響は走り出す。

 

 シャルロットが提案した動物園であったが、結局そんな彼女よりも楽しんでしまう響であった。

 

 

 

 

 

 動物園を大方巡り終えると、時刻は昼過ぎの午後一時。響とシャルロットは園内にある広場のベンチに腰掛けていた。

 

「ふいー、結構面白かったな」

 

「だねー。途中で餌をあげる体験とかも出来たし。っと、そうだ。僕達もご飯にしようか」

 

 シャルロットは持ってきた大きめのトートバッグからバスケットを取り出した。彼女がそれをあけると、中にはサンドウィッチやおにぎりが詰まっていた。

 

「おー」

 

「そしてこっちのお弁当箱には、こんなのもはいってまーす」

 

 得意げな顔で彼女があけた弁当箱には、卵焼きやから揚げなどの定番のおかずが入っている。

 

「さすがにうまいもんだなぁ。けど、準備とか大変じゃなかったか?」

 

「全然平気! 料理は慣れっこだからね。夏休みに遊びに行った時に妹さんから響の好物も聞いてきたし。準備はバッチリだよ!」

 

「ハハハ。ありがとな、シャル。さぁて、そんじゃあ早速頂いてみますかね」

 

 手渡されたアルコールタオルで手を除菌してから、響はサンドウィッチを口に運ぶ。

 

 口に入れて噛み締めると、甘辛さのあるソースとチーズにハム、レタス、トマトがちょうどよく口の中で合わさり、なんともいえない美味さが口の中に広がる。

 

「んー、美味い美味い」

 

「よかったー。そのソース、自作してみたんだけど口にあったようでよかったよ」

 

「いやホントに世辞なしで美味いってこれ。いっちゃあ悪いがセシリアがこれを超えるには、まだまだかかりそうだな」

 

 しみじみと言った様子でサンドウィッチを食べる響だが、シャルロットは苦笑い気味だ。

 

 

 ちょうどその頃IS学園では……。

 

「はっくしゅ!」

 

 小さなくしゃみがアリーナの一角で響いた。

 

「どうしたセシリア、風邪か?」

 

「いえ、大丈夫ですわ。ラウラさん。誰かが噂してるのかもしれません」

 

 ラウラに対して答えたセシリアの前にはキャノンボール・ファストで使用する高速機動用のパッケージが置かれている。ちょうど調節の最中だったのだ。

 

「ラウラさんはキャノンボール・ファストではどのような調節をするのですか?」

 

「私はシャルロットと同じ、スラスターの増設だ。ブルーティアーズのようなパッケージはないのでな」

 

「では、この後調節が終わったら試運転も兼ねて手合わせをしてもらってもよろしくて?」

 

「かまわないぞ。私もちょうど試したかったところなのでな」

 

 ラウラとセシリアは模擬戦の約束をした後、それぞれの愛機の調節に戻って行く。ただし、二人の頭の中では同じことが考えられていた。

 

 ……響さん今頃はシャルロットさんとデートですわねぇ。

 

 ……お姉様は今頃シャルロットとデートか……。

 

 

 

 

 

 動物園で昼食を済ませた響とシャルロットは、その後適当に園内を巡った後、二時半ごろに園を出た。

 

 そのまま二人は近くの繁華街へと向かい、服を見たり、小物を買ったり。クレープなどの甘いものを食べたりしながら二人の時間を過ごした。

 

 しかし、楽しい時間というのはあっという間であり、IS学園の門限が迫っていることに気が付いた二人は、きた時と同じように電車とモノレールを乗り継いで学園へと戻ってきた。

 

 時刻は午後六時。前回セシリアと行った時よりは三十分ほど早い帰りとなったが、楽しめたのでよしとしよう。

 

「くぁ~。帰って来たなぁ」

 

「少ない乗り継ぎだったけど、やっぱり遠く感じたね」

 

「だなー。でも、たまには離れた所もいいもんだな。じゃあさっさと寮に戻ろうぜー」

 欠伸をしながらいう響にシャルロットは返答しながらも、彼女を呼び止める。

 

「ちょっとまって響。渡したいものがあるんだ」

 

「うん?」

 

 頭の後ろで手を組んだ状態で振り向くと、シャルロットが小さな小包を出していた。手で誘われたので近寄ると、「はい」と手渡される。

 

「これは?」

 

「見てからのお楽しみ。ほら、あけてみて」

 

 促された響は小包を開ける。中は柔らかいスポンジのような素材で出来ている。そしてその中心に、鎮座するように入っていたのは、三日月と狼を象ったネックレスだった。

 

 三日月は三日月として、狼は狼としてそれぞれ別々にリングに通されているが、重なっている状態の統一感は見事なものだ。狼も非常に細かく象られていて、複雑だ。

 

「おー、かっこいいなこれ。いつの間に買ってくれたんだ?」

 

「動物園のあとで繁華街に行ったでしょ。その時響が見てないところで買ったんだよ。どう? 気に入ってもらえたかな?」

 

「気に入る気に入る! これはなかなか好きなヤツだぜ。狼のことも入れてくれたわけだな」

 

「うん。あとは響のISの夜天月もね。だから三日月と狼。ちょうど二つがあわさったやつがあってよかったよー」

 

 シャルロットは満足げに笑った。それに対し、響は小さく笑みを浮かべると、彼女の体を引き寄せて軽めのハグをした。

 

「うわっぷ!?」

 

「さんきゅーなシャル。大切にする」

 

「う、うん。そうしてくれると僕もうれしいかも……」

 

「おう。よーし、そんじゃあいい気分だしこのまま二人で飯食うぞー! そんでその後も夜中まで遊ぶぞー!」

 

 シャルロットから離れた響は満足げに笑いながら寮へと足進める。

 

 急に抱きつかれたシャルロットはというと、しばらく呆然としていたが、パッと意識を取り戻すとやや頬を赤らめつつも彼女に言う。

 

「もう。そんなので明日の朝大丈夫ー? 学校だよー?」

 

「大丈夫だっての。ほれ、早く行こうぜ!」

 

 ネックレスを貰い上機嫌の響はシャルロットの手を引いて寮へと戻っていく。シャルロットも振り回されている感はありながらも、どこか満足そうである。

 

 

 

 

 が、そんな幸せそうな二人を見つめる禍々しい視線が二つ。

 

「……見ましたか、ラウラさん」

 

「ああ、見たともセシリア……」

 

 セシリアとラウラ、それぞれの瞳には光がなく、二人の背後はやや時空が歪んでいるようにも見える。

 

「……帰って来たと思ったら二人でイチャイチャと……」

 

「……これは許されんな……」

 

「ええ、これは絶許ですわ……ッ!」

 

「ああ……。うん? だが待て、セシリア。お前は先週お姉様とデートだったではないか。ならばシャルロットを責められないと思うのだが」

 

 正気に戻った様子のラウラが言うと、セシリアはビクッと体を震わせた。どうやら図星、というかそのことを棚に上げていたようだ。

 

 その様子にラウラは彼女から視線を外し、鼻で笑う。

 

「フン……」

 

「ら、ラウラさん!? 今鼻で笑いましたわね!!」

 

「幻聴だろう。それよりも私は二人と夕食をとって来る」

 

 セシリアを軽くあしらい、ラウラはずんずんと進んでいく。その様子にセシリアは一瞬呆けた表情をするが……。

 

「ま、待ってくださいな! わたくしも行きますわ!」

 

 すぐにラウラの後を追って響達の下へと急いだ。

 

 

 

 

 デート シャルロット・デュノアの場合。 完。




お久しぶりです。
約2年ぶりですかね? いやー、長らく放置しておりました……。最近読み返して「書かねば」と思い至り書きました。

今回はセシリアに引き続きシャルロットとのデート回です。とは言ってもそんな長くなかったですけどね。デートの話は所謂小話程度なので……。本命はキャノンボール・ファストですな。

セカンドシフトも温めておいたものがあるので、キャノンボール・ファストでお披露目できると思われます。はい。

長らく放置していて申し訳ありませんでした。特に、この作品の更新を待っていただいた方には、申し訳ないかぎりです。

では、これからもよろしくお願い致します。
誤字などあったら遠慮なくお申し付けください。確認はしていますが、それでも見つけられない場合がございますので(なんというふてぶてしさ……)

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