日曜日、響は外出届を出してIS学園前の駅のベンチに座りながらセシリアを待っていた。
彼女の装いは下はホットパンツに上は薄き色のタンクトップに上に半袖のジャケットを羽織っていると言うものだ。そして髪は珍しくポニーテールに結わいている。
「はぁ……まぁデートするって行ったのは私だけど、セシリアと二人っきりのときに言うべきだったな。来週にはシャル、再来週にはラウラとは……」
先日セシリアとデートの約束をした際にシャルロット、ラウラにも頼み込まれ、結局二人とも別の日にデートをすることになったのだ。
……暇だからいいんだけどよぉ。
「なんともなぁ……」
響は足を投げ出すようにダラリと投げ出すと何もない虚空をぼんやりと見上げた。すると、階段を上がるコツコツという音が聞こえ響はそちらに目を向ける。
それとほぼ同時に階段から白の七分袖の豪奢なワンピースと、その上から青が基調のチェックのストールを羽織ったセシリアが現れた。
彼女は駅の構内をきょろきょろと見回すと、ベンチに座っていた響を見つけ駆け寄ってくる。
「お待たせしました響さん」
「いんや、待ってねぇよ。つか約束の時間の五分前だ、十分だろ」
響が肩を竦めてみるとちょうどアナウンスが聞こえ、モノレールがホームにやってくることを知らせた。
「うし、んじゃ行くか。今日はお前の好きなところなら大体は付き合ってやるよ」
「はい! ありがとうございます!」
響が立ち上がり、セシリアはごく自然な動きで彼女と腕を組んだ。
「おい、セシリアあちいから……」
「えー、だって響さん何でも付き合ってくれるんじゃないですの?」
「……へいへい、わかりましたよ。お嬢様」
響はやれやれと言った様子で言うが、セシリアはとても嬉しげな笑みを浮かべていた。
街までやってきた響はセシリアに手を引かれるがままに彼女に従っていた。やがて彼女が立ち止まりセシリアが響に告げた。
「まず初めはここですわ」
「水族館か、そういや久しく来てなかったっけか」
「喜んでいただけました?」
「喜ぶも何も、今日はお前が主役だろ。お前の行きたいところなら何処だっていいさ」
響が肩を竦めながら彼女に悪戯っぽい笑みを見せると、セシリアは一瞬頬を赤く染めたがすぐに響の手を引っ張って水族館の中へ入っていった。
水族館の中は多少薄暗かったが、青っぽい照明と水が反射してなんとも幻想的な雰囲気を発していた。
二人は歩きながら壁に埋め込まれている小型の水槽の中に入っている小魚や、タツノオトシゴ、クラゲなどを眺める。
「へぇ……クラゲってけっこーいろんな種類のやつがいるんだな」
「ですわねぇ。でもこうやって見るとあのゆっくりとした動きがなんとも心が落ち着くといいますか……」
セシリアはぽわわーんと笑顔を見せており、響も周りの水槽で泳ぐ魚達を見ながら何処となく心がゆったりとするのを感じた。
やがて二人は小型の水槽が並ぶエリアから今度は一番大きな水槽、所謂大水槽があるエリアへ到着した。
「ほえー……でっけ」
「大水槽ですから。中で泳いでいるのは……イワシですかね?」
「そうだな、ちっさいし。つーか一緒に鮫とか泳いでるけど喰われたりしねぇのか?」
「どうなんでしょう? そこは新しく入れるんじゃないんですの?」
「まぁそうなのかもなぁ。じゃねぇとすぐに全部食われちまいそうだし」
響は肩を竦めて小さく笑うと大水槽の中を優雅に泳ぐイワシや他の魚達を見やる。銀色の身体に光りが反射してキラキラと光って、まるで宝石のような輝きを持つ魚の群れはとても美しかった。
また、中に入っているのは魚だけではなく、ウミガメやエイなどもゆったりとした動きで泳いでいる。
二人はひとしきりそれらを見終えると、今度は魚類ではなく海洋性哺乳類、ホッキョクグマ、セイウチ、オットセイなどがいるブースへ向かった。
「そういやホッキョクグマの肌って黒いんだよな」
響は水際でぐたーっとしているホッキョクグマを見やりながら呟いた。
「そうなんですの?」
「ああ、妹から聞いたんだけどな。しかも白く見える毛って本当は透明らしいぜ」
「それじゃあたくさんの透明な毛が集まって白く見えているんでしょうか?」
「どーなんだろーな。その辺はわかんねぇや」
そんなことを話しながら次の水槽を見やると、そこにはラッコが泳いでいた。
「ラッコは結構グルメですわね」
「まぁそだな。アワビとか食ってるし、つーかあんなもんばっか食ってよくふとらねぇよな。貝類って結構高カロリーだった覚えがあるんだが」
「確かに……羨ましいですわね」
「でも寒いところに住んでっからしょうがないのかねぇ」
「あぁなるほど」
他愛ない話をしつつ二人は順路どおりに足を進めていく。やがて薄暗い館内から日光が溢れる外の展示にやってくると、そこにはペンギンの群れがいた。
展示されている脇には『コウテイペンギン』とあった。
「ペンギンの腹ってなんか触ってみたくね?」
「少し気になりますね、どんな感触なのか」
「私が思うに結構やわらかいと思うんだよな」
「そうでしょうか? 氷の上を腹ばいになって滑りますから結構硬いのでは?」
そんな議論をしながらペンギンを観察していると、館内アナウンスが聞こえた。どうやらこれからイルカショーが始まるようだ。
「響さん、急ぎましょう!」
「ん、おう」
響が頷いたのを確認するや否やセシリアは彼女の手を引いて会場まで急いだ。
会場に着くと、休日と言うこともあって家族連れが多く見られ、席は殆ど埋まっていた。
「こりゃ立ち見だな。セシリア、お前はそれでも平気か?」
「はい。見ることが出来れば満足ですわ」
セシリアも柔和な笑みを見せると、それと同時にショーが始まったようで拍手が沸き起こった。
最初は飼育員もプール内に飛び込んでイルカと協力した演目のようで、片足をイルカの口先に当ててイルカに押してもらったり、プールの真ん中で立ち泳ぎをしている飼育員の真下からイルカが急浮上して大きく飛び上がったりなどの大技もあった。
技が繰り出されるたびに歓声と拍手があがっていた。響とセシリアも同じであり、普段あまり驚くことを見せない響もイルカが繰り出す技の数々に舌を巻いていた。
セシリアも子供のように楽しそうな様子で時折軽く拍手を送っていた。
水族館から出た二人は街中のカフェで向かい合いながら話をしていた。
「イルカってやっぱり頭がいいんですね」
「だな。飼育員のサインもしっかり聞いてたし」
セシリアは紅茶、響はコーヒーを飲みながら話していると、ちょうどそこへウェイトレスが二人が注文した品を持ってきた。
それらがテーブルに置かれ、ウェイトレスは軽く頭を下げて戻っていった。
響の前にはチョコレートパフェ、セシリアの前にはストロベリーパフェが置かれ、二人はそれを食べ始めた。
「この後どーすんだ?」
「このあとは街中を適当にぶらつこうかと思います。今日は水族館が目当てでしたので」
「そうかい」
響がスプーンで生クリームをすくってそれを一口口に入れると、まるでそれを待っていたという風にセシリアの目がキュピンと輝き、彼女に言った。
「響さん、せっかく味が違うのですからそちらもくださりますか? わたくしもさしあげますから」
「んー? まぁそだな、いいぜ……ホレ」
彼女は言いながら生クリームとチョコレートアイスをスプーンで掬うと、セシリアにずいっと向けた。
セシリアは頬を綻ばせると、それにぱくりと食いつき、味わうようにスプーンを舌で舐めた。
……ほわぁ……最高ですわぁ。
若干変態的なことを妄想しながらも、セシリアはスプーンに乗ったアイスと生クリームを舐め取ると、しっかりと味わってからそれを嚥下した。
「大分食うのに時間かかったな」
「あ、あまりにも美味しくてつい」
「ふーん、んじゃ私ももらいますかね」
響はスッと流れるような手つきでセシリアの前にあるパフェを掬うとそれをそのまま口に入れた。
セシリアはそんな彼女の姿を見ながら心の中でグッとガッツポーズをした。
……やりましたわ! これでどちらも間接キス成立ですわ!!
すると、そんな風に内心で喜びを露にしているセシリアに響が問う。
「そういやお前はあのキャノンボールなんたらってのには出るんだっけか?」
「あ、はい! 響さんは結局どうするんですの?」
「私は楯無に出なくてもいいけど会場の警備をしてくれって頼まれててな。当日は応援は難しいだろうが、見れる時は見るさ」
「そうですか……戦うことが出来ないのは残念ですが、わたくしがんばりますわ」
「ああ、がんばれ。そんでセシリア、お前さんまだあのチビに負けたこと気にしてるだろ」
瞬間、セシリアの顔に緊張が走る。しかし、やがて観念したように彼女は自分の感情を吐露した。
「はい……。どうしても拭いきれないものがあって……いままで狙撃で負けたことなんてなかったものですから」
「この前も的外してたしな」
「み、見ていたんですか!?」
「見てたって言うよりも見えたんだよ。楯無に呼ばれてアリーナに行ってたらたまたまお前が練習してたの」
響はカラカラと笑うが、セシリアは恥ずかしかったのか顔を真っ赤にさせてしまった。
「でもよ、そんなに急がなくてもいいんじゃね? 人間なんざホイホイ強くなれるわけじゃねぇんだから。それよりもまずお前はあのガキに負けたってことをいつまでも気にするのをやめろ」
「気にしてはいけないんですか?」
「いけないわけじゃねぇが、いつまでも過去に起こったことを気にしてちゃ前に進めやしねぇ。だから、過去は過去で踏ん切りをつけろ。今は目の前のことだけに集中しろ、それに私が知ってるセシリア・オルコット嬢は最高のスナイパーだぜ? 一度や二度負けたくらいでメソメソしてんじゃねぇよ」
クールな笑みを見せた響にセシリアは一瞬見とれてしまったが、すぐに意識を戻すと、大きく頷いた。
「そうですわね。いつまでもうじうじしていては、わたくしらしくありませんものね」
「ああ、お前はちょっとぐらい御転婆で高飛車な方が似合ってるよ」
「た、高飛車って……」
「なぁに動揺してんだよ。最初のお前なんかまさにそれだったじゃねぇか。高飛車で人を見下しまくった挙句一夏に精神的に負けた高慢なお嬢様」
「も、もう! そのことは言わないでください!」
セシリアは少しだけ頬を膨らませてプイっとそっぽを向くが、響はそんな彼女をみて小さく呟いた。
「やっぱお前はそういう顔したほうが可愛げがあるな」
「? 何か仰いましたか?」
「いいや、なんも」
彼女の問いに響は肩を竦めると再びパフェを食べ始めた。
午後六時半。
響達はデートを終えてIS学園の校門前に到着していた。
「今日は楽しかったですわ」
「まぁ私もいろいろ回れてよかったよ。っと、そうだセシリアお前に渡すもんがあった」
響は言うと懐から小さな紙袋を取り出し、その袋を破くと中身をセシリアの手のひらに乗せた。
セシリアがそちらに目を落とすと、手のひらには水の雫のようなものが型取られたネックレスがのせられていた。
「これは……」
「ブルーティアーズの和名は確か「蒼雫」だったからな。今日トイレに行った途中でアクセサリーショップで買って来た。安物だからお嬢様にはいらなかったか?」
響は肩を竦めて笑うものの、セシリアはふるふると頭を振って彼女に告げた。
「いいえ、とても嬉しいですわ。大切にいたします」
「そういってもらうとこっちも買った甲斐があるな。そんじゃさっさと寮に戻ってメシに行くとするか」
「はい!」
響に言われセシリアはもらったネックレスを握り締めながら彼女についていった。
その後、二人は夕食を済ませ今日一日を語り合った。
しかし、そんな彼女等の背後で妬ましさ全開のオーラを出していた二人がいたのは言うまでもない。
はいお待たせしました。
今回はせっしーとのデート回です。とりあえずこれでメンタルケアは終了。
そしてタイトルにもあるようにこのデート、シャルロット・デュノアの場合、とラウラ・ボーデヴィッヒの場合と後二回続きます。
そのあとはキャノンボールファストで夜天月セカンドシフトですかね。
ではでは感想などありましたらよろしくお願いします。