いらない娘のいきつくところ   作:林屋まつり

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八話

 

「ふむう、……そうかあ。そうなったかあ」

「すまない。引き取ってもらっておきながら、成果は出せなかった」

 執務室。私は、阿武隈と鹿島に付き添われて提督の所へ。

 金剛の言ったことを含めての成果報告。訓練の中断と、それ以前の、精神的、心構えとして、旗艦からの不許可。

 情けない終わり方だ。対して提督は鷹揚に微笑んで、

「いいんだよお。……ふむう、それより、金剛君には嫌な事を押し付けてしまったかなあ」

「はい、本当ならあたしが言うべき事です」

 しゅんと肩を落とす阿武隈。提督は「ふむう」と頷いて、

「金剛君はお節介さんだからなあ。きっと、阿武隈君が言いずらそうにしているとでも思ったんだろうなあ。違うかなあ?」

「…………はい」

「そうだなあ。阿武隈君はいい娘だからなあ。ちゃんと怒れるようにならないといけないなあ。…………ふむう? 阿武隈君の改善点だなあ」

「はい、考えてみます」

 真面目に頷く阿武隈。けど、提督は首を横に振って、

「考えるだけじゃあだめだよお。阿武隈君はいい娘だけど、ちょっと気弱さんなところがあるからなあ。一人で考えると、悪い方向に考えちゃうかもしれないなあ。

 そうだなあ。…………ふむう」

 提督は沈黙。悪い方向に考えるという事に自覚があるらしい、阿武隈は俯いて提督の言葉を待ち、

「どうして言い難いと思ったのか。その時どう思ったか、ノートに書いてまとめて欲しいなあ。

 これは訓練だからちゃんと書かないとだめだよお。悪い事を言ったら長門君に暴力を振るわれると思ったとかでも、どんな些細な事でもしっかり書いておきなさい。自分の考えを客観視するのは大切な事だからなあ」

「わ、解りました。……どう、思ったか。…………うん」

 こくこくと、阿武隈は納得したように何度か頷く。その様子を見て提督は満足そうに頷き、

「鹿島君、明日の朝に阿武隈君のノートを回収してきなさい。阿武隈君は時間いっぱい使って、片手間にでもいいから考えておくようになあ。それと、金剛君にも怒らないとなあ。気が回るのは美点だけど、ちょっと困るなあ」

「金剛さんはっ「阿武隈君の仕事を奪い取ったなあ」…………はい」

 顔を上げた阿武隈はまた俯く。提督は悔しそうに拳を握る彼女を見て、

「阿武隈君、旗艦は怒る事、叱責する事も仕事だよお。

 そして、どんな仕事にだって訓練は必要だよお。その訓練の機会を奪った事、提督としては看過できないなあ。一言言ってやらないとならないなあ」

「はい、……あたしも、言い難い事でも、ちゃんと自分で言わないといけないことは言うように、頑張りますっ」

「ふむう、それがいいなあ。

 さて、それと長門君」

「あ、ああ」

「まずは金剛君の決定通りだなあ。

 不服とは思うが、こればかりは譲れないなあ」

「…………わかった。私も、考えが甘いのだろう」

 民の負担の上に成り立っている。それは理解していなければいけないのだろう。だが、考えていなかった。無思慮と言われても仕方ない。

「僚艦を沈めたくない。その気持ちはわかるよお。

 けど、それに怯えて成すべきことを成さないのは困るなあ。……ふむう、その意味でも金剛君の具申は了解しようかなあ。

 長門君、その編成でしばらく訓練をしてもらうよお。その過程で、やっていけそうならそれでよし、無理なら、…………また考えないとならないなあ」

「わかった」

 頷く、と。提督は阿武隈に視線を向け、

「阿武隈君、昼食終了までに一度金剛君と話し合って、午後から訓練中の艦娘から何人かピックアップしてくれるかなあ?

 結果は阿武隈君が報告に来るんだよお。突っ込むからちゃんと答えられるようになあ。

 鹿島君、部屋の再編成は頼むよお。榛名君には、……私が話しておこうかなあ」

「「はい」」

「では、二人はお仕事を頼むよお。

 それと、長門君」

「ああ」

「長門君を支援砲撃要員として、一撃離脱の水雷戦隊。

 どういう運用をしていきたいか、希望だけ、報告書にまとめておいて欲しいなあ」

「わかっ、…………希望、だけ?」

 どのように運用すべきか、それならそれでいい。水雷戦隊としての戦い方を書き連ねていけばいい。その知識はある。もちろん、支援砲撃についてもだ。

 が、希望だけ、と。提督は言った。

「そうだよお。なんでもいいよお。

 どんな希望でもいいから、書き出しておきなさい。なあに、艦隊運用なら任せて欲しいなあ。私はこれでも提督だからなあ。格好いいんだよなあ。阿武隈君」

「え? 提督、おでぶさんだし、格好いい要素なにもないと思います」

「ふむう、さっそくさっき言ったことを実践したなあ。成長したなあ」

 しんみりと応じる提督。阿武隈は首を傾げて、

「そ、そうですか? あの、当たり前のことを言っただけ、です」

「…………私は、当たり前のように何の要素もないんだなあ」

「その、叱責はないのか?」

 俯く提督に気になったこと。問いに提督は頷いて、

「いいんだよお。新人さんだからなあ。

 まずは出来る事、どんな娘かを把握する事だよお。その後どういう風に訓練をして、どんな結果を残すか。叱責するとしたらそのあとだなあ。

 まあ、長門君が意図的に他の娘に迷惑をかけるなら話は別だがなあ」

「そうか、……その、そういってくれると、有り難い」

 いきなり期待外れだ、と罵られなかった。正直言えば、安心した。……そうだ。

「提督、教えて欲しい事がある」

「なにかなあ?」

「提督にとって、艦娘は兵器か?」

 問いに、阿武隈がかすかに息を呑む。提督はのんびりと笑って、

「それは古鷹君の考え方だなあ。言ったのは金剛君かなあ? 古鷹君の影響を受けたかなあ。

 ああ、私の考えはねえ。艦娘は軍人だよお。守るべきもののために命を懸けて戦場に立つ。そんな娘であって欲しいなあ。その戦場が、文字通りの戦いの場か、あるいは、戦いにいく誰かを助けるための役割なのか。あるいは、別の事か。

 それは、その娘が決める事だがなあ」

 

「希望、…………か」

 食堂にて、渡されたノートを前に溜息。

 駆逐艦や軽巡洋艦の持つ高い速力と一撃必殺の雷撃。それを使用した一撃離脱の戦術。

 そんな事を書き連ねる事の意味はないだろう。提督がわかっていないとは思えない。

 だからこそ、希望、といった。

 可能なら、自分が矢面に立ちたいのだが。

 それこそが戦艦の役割だから、などというつもりはない。だだ、……目の前で誰かが沈むところは、もう、見たくない。

 それなら、いっそのこと「ちぃーっす」

「ん、ああ、鈴谷か」

 第二の二艦隊旗艦、だったか。彼女は。

「あ、ごめん。お勉強中?」

「いや、…………そうだな。

 鈴谷、少し意見を聞きたい」

「OK、付き合うよ」鈴谷は私の前に腰を下ろして「それで、どうしたの? 訓練の反省?」

「ああ、それもあるが、」

 そこで鈴谷に訓練のいきさつを話す。「ふーん」と鈴谷は頷く。

「ま、鈴谷も金剛さんや提督の意見には大体賛成かな。

 やっぱやる事やらないのはまずいっしょ」

「そうだな。期待を背負っているのならなおさらだ」

「すぐに考え改めろ、なんてさくさく割り切れるとは思えないけどね。

 ってか、割り切れないから、しばらく訓練って事になったんだと思うよ」

「ああ、わかっている。

 それにしても、提督の意図だが、……希望か。運用としての最適解とは違うのだろうな」

 強調したという事はそういう事だろう。だから、よくわからない。

 なんの意図をもってそんな事を命じたのか。……もちろん希望を書き連ねるならいくらでも出来る。駆逐艦たちに前線を任せるくらいなら、私がそこに立った方がいい、と。そう書けばいい。

 けど、問いの意図も解らぬまま答えを書くのも、違う気がする。

「長門さんの希望って、えーと、沈めたくない、んだよね?」

「ああ、僚艦が沈むならこの身で砲撃を受けた方がまだましだ」

「…………………………………………ふーん」

 私の言葉を聞いて、鈴谷は、一瞬冷めたような視線を向ける。が、すぐに、

「ま、それなら簡単っしょ。…………あー、けど、こりゃ鈴谷お手伝いできないわ。ごめん、長門さんが自分で考えなきゃいけない事だと思う」

「う、……む、そうか」

 提督は言っていた。旗艦は叱責も仕事だと。それと同じ、こうして考える事も仕事なのだろう。

「そだねー、……じゃあ、ヒントになるかもしれない、って事でいい?」

「ああ」

「鈴谷さ、ここマジで気に入ってるの。鈴谷が旗艦してる第二の二艦隊も、山風が旗艦の第二艦隊全体、も、この基地も、ね。

 もち、いろーんな理由はあるよ。提督は優秀だしさ、みんなも頑張ってる。鈴谷たち艦娘がやらないといけない事、それに向かって基地全体が動いてるし、そのために、艦娘はそれぞれの役割を全力で取り組んでる。

 気を抜いていいところは徹底的に気を抜いて遊ぶし、逆に手加減できないところは提督に渋い目で見られても頑張ってる。ほら、山風だって食事中、ずっと書類見てたっしょ?」

「ああ、それは、いいところだな」

 頷く、と。鈴谷は我が意を得たり、と笑った。

「じゃあさ、長門さん。

 割り振られた役割を果たして、長門さんが好きになれるのって、どういう艦隊?」

 

 夕刻、私は鈴谷とともに執務室へ。

「すまないな、付き合わせてしまって」

「んー、まあいいよ。鈴谷もお話するの楽しかったし。

 どっちかっていうと、邪魔しちゃった?」

「いや、そんな事はない」

 確かに、提督の意図はわからないままだ。……だが、それでも鈴谷と話が出来てよかった。

 そして、鈴谷だけではない。

「鈴谷は部下から好かれているな」

 第二の二艦隊、鈴谷の僚艦たち。

 彼女たちも一緒に話をしてくれた。皆、とても仲よさそうだった。

「そりゃあ、鈴谷旗艦だしねっ」

 どや顔の鈴谷。彼女に笑みを返して、一息。執務室の戸を叩いた。

「入っていいよお」

「失礼する」

 提督だ。彼は書類に視線を落としていたが、顔を上げる。

「おやあ、鈴谷君もいたかあ」

「ちぃーっす、あれ? 秘書艦さんは?」

「雷君なら、」提督は、不意に私に視線を向けて「長門君の、僚艦とお話をしているよお」

「そうか」

「ふむう。阿武隈君はちゃんと考えてくれたみたいだねえ。ちょっと空回り気味なところはあるけど、頑張っていろいろ考えてくれるところはいいところだなあ。

 そうだなあ」

「提督っ、鈴谷もいいところちょっち聞きたいなっ!

 ほらっ、鈴谷褒められると伸びるタイプじゃんっ」

「鈴谷君はおっぱいがおっきいなあ。褒めるともっと大きくなるのか「うりゃぁ!」」

 鈴谷跳躍。そのまま飛び蹴りをしんみりとした表情で頷く提督に叩き込んだ。

「セクハラ許すまじっ!」

「……………………鈴谷君は格好いいなあ」

 机に仁王立ちしてどや顔の鈴谷に提督はおおらかに笑う。

「まあまあ、長門君。

 というわけだから、僚艦とは今夜会っておいてねえ。お部屋の準備もしてあるから、地図は渡しておくよお」

「ああ、ありがとう。……僚艦の資料は?」

 渡されたのは部屋の場所だけだ。もっとも、

「それは直接会っての方がいいなあ」

「そうだな」

「とりあえずはなあ。駆逐艦の娘三人と軽空母の娘の一人。で考えてるよお。

 それ以降は、金剛君たち第三艦隊から聞いてほしいなあ」

「……なんだー、提督が教えてくれるんじゃないの?

 提督の話マジ勉強になるから聞いておきたいんだけど」

 どこからかメモ帳を取り出して鈴谷。私も、出来れば提督から話を聞きたいが。

「これは第三艦隊の事だからなあ。まずはそこで話を聞いた方がいいなあ。

 鈴谷君、興味があるなら阿武隈君に話を聞いてきなさい。彼女は一通り把握しているからなあ。金剛君でもいいけど、ここは阿武隈君だなあ。

 ちょっとテンション上がるといっぱいいっぱいになって変な事言いだしたりするから、鈴谷君、お話には慣れさせてあげて欲しいなあ」

「そいとこ可愛いよね。旗艦としてどうよ、って思う時あるけど。

 ま、りょーかい」

「わかった」

「ただ、そのあとで私の意見も聞きたいなら、……ふむう。言ってくれれば話す時間を作るよお。

 夜に寮に入ると雷君に殺されかけるがなあ。鈴谷君の部屋に匿ってもらおうかなあ」

「え? 絶対やなんだけど。てか提督を部屋に入るとかあり得ないんだけど」

 本気で嫌そうな鈴谷に提督は遠くを見た。

「ふむう、……それで長門君、宿題は終わったかなあ?」

 のんびりと呟く提督。けど、

「すまない。……ほとんど案は出なかった。

 これが、その、レポートだ」

 もっとも、レポートというのもおこがましい、ほぼ白紙に近い。

 ただ、目の前の誰も沈んでほしくない、そんな、当たり前で具体性のない願望を書いただけ、これでは何にもならないな。

 それを受け取った提督はレポートを見て、頷く。

「うむう、わかったよお。これでいいよお。

 お疲れさまだねえ」

「は?」

 これで、いい?

「意外そうだねえ。どうしたのかなあ?」

「い、……いや、具体性も何もない、ただ、思った事を漠然と書いただけではないか?

 そんな出来損ないのレポートに意味はあるのか?」

「長門さん」

 不意に、傍らから声。「ん?」と振り返る、と。

「ちょーっぷ」

「いたっ?」

 鈴谷にチョップされた。

「ほんっ、とっ! あったま硬いしっ!

 意味あるに決まってんじゃんっ! 旗艦がこうしたい、こういう風にやっていきたい、そんな願いを表に出さないでどうするのっ!」

「あ、……え?」

「どう戦うかとか、砲撃されたらどう僚艦を守ろうとか、そういう事ばっか考えてたんでしょ?

 自分が矢面に立つとか、そんなの旗艦一人で決める事じゃないっしょっ! それは僚艦のみんなと決める事っしょっ! 旗艦一人が先走ってどうするのっ」

「……そう、か」

 頷く、と。提督も満足そうに、

「そういう事だよお。長門君。

 旗艦は最強でなくても、最良でなくてもいい。それが条件なら鈴谷君は旗艦にはなれないよお。他、うちの艦隊の多くの旗艦は挿げ替えないといけないなあ。

 旗艦はねえ。こうしたいああしたい、そんな理想論を胸を張って口に出して、僚艦のみんなと共有できる、それが条件だよお。強さとかは艦隊のみんなに対して評価すればいいなあ」

「そーそー」

「鈴谷君はたまにぼけたりするからハラハラするって高雄君も言ってたなあ」

「…………ば、ばかじゃないんです。鈴谷、ばかじゃないんです」

 ぶつぶつとそっぽを向いて呟く鈴谷。……ああ、僚艦の高雄か。

「高雄君もだけどなあ。鈴谷君が旗艦をしている第二の二艦隊は、鈴谷君より性能のいい娘も、能力も高い娘もいるよお。その意味なら旗艦は高雄君だなあ。鈴谷君は、……ふむう、悪い言い方をすると下っ端だなあ」

 下っ端、と。……けど、鈴谷も自覚はあるらしい。苦笑して頷く。

「けどなあ。いつでもみんなで楽しくやっていこうって、大変な時でも、辛い時でも、大好きな僚艦のみんなと笑顔で乗り切ろうって言って笑ってくれる鈴谷君が、誰よりも旗艦にふさわしい、って、みんなが言っているよお。

 旗艦の能力が低くても僚艦のみんなで補えばいい。旗艦が失敗しても僚艦のみんなで支えればいい。けど、僚艦のみんなを認めて、背中を押して、励まして引っ張るのは旗艦にしかできない。だから、第二の二艦隊、鈴谷君よりも能力の高い娘も含めて、みんなが鈴谷君を旗艦として認めているんだよお。それを、提督である私は拒否できないなあ」

「あ、……あはは、そ、そこまで言われると、…………その、照れる、んだけど」

 困ったように笑う鈴谷。けど、提督は「ふむう?」と首を傾げて、

「照れるのはいいけど、それよりも誇りなさい。

 鈴谷君が大好きな仲間だって言ったみんなは鈴谷君の事が大好きで、みんなを引っ張る旗艦として認めているんだよお。私のことは信頼しなくてもいいし、嫌いでもいいけど、そんな僚艦の思いは信じてあげて欲しいなあ」

「ん、もっちろんっ! 鈴谷みんなの事信じてるしっ! そう思ってくれてマジ嬉しいしっ!

 あ、けど、提督の事は信頼しているし、嫌いでもないよっ、尊敬しているのはホント、信じてねっ」

「ふむん、それはもちろん、部下の気持ちを信じられないほど落ちぶれちゃいないなあ。

 ふむう、鈴谷君にそう言ってくれると嬉しいなあ、よかったなあ。提督冥利に尽きるなあ」

 提督は嬉しそうに応じる。そして、私は羨ましいと思った。

 性能ではなく、能力だけでなく、その思いで僚艦に好かれ認められる旗艦。それは、何よりも大切な事だと思うから。

「そういう事だよお。

 長門君の艦隊が成す、……いや、艦隊に期待する戦果はこちらが提示するよお。けど、それさえ守ってくれれば、あと、どう戦うかは君たち次第なんだよお。

 そして、どう戦うかは僚艦のみんなと相談をして決めないといけない事。けど、その方針を決めるのは旗艦である君であり、」

 提督は、私が出来損ないと言ったレポートを、大切そうに触れて、

「ここに書かれた願いだよお」

「わかった」

 出来損ないと思っていたレポート。……ああ、本当は、大切な事だったのだな。

「そりゃさ、長門さんの願い通りに何でも行くってわけはないよ。戦場に行くんだもん。轟沈する可能性は絶対にゼロじゃない。

 けど、それを可能な限りゼロにするために訓練したり僚艦と相談したり、いろいろやっていくんだよ。

 だから、」

 にっ、と鈴谷は笑った。

「旗艦はね、みんながいるから大丈夫っ、これだけでいいのっ! あとの事は僚艦のみんなでやっていけばいいんだからさっ」

「……ああ、そうだな」

 皆と一緒に戦う。そのために訓練をし、言葉を交わして作戦を練る。これでいいか。

 そして、その方針を旗艦が掲げる。確かに、これは旗艦しかできない事だ。

「と、言うわけで、これをもって胸を張って僚艦に会いに行くといいよお。宿題はちゃんとやったなあ。

 けどなあ、長門君。私は一つ怒らないといけない事があるなあ」

「……ああ」

 それがどんな事かはわからないが。だが、それでもいい。この人は提督として信頼できる。なら、それが叱責であっても糧に出来る。

 そう確信し視線で促す。提督は頷いて、

「持ってくるのが遅すぎだなあ。

 さぼったとは思っていないし、鈴谷君たちからもいろいろお話を聞いた。たくさん悩んだ結果、だとは思ってるよお。

 けど、深海棲艦は待ってはくれない。時間は有限という事はちゃんと認識しないといけないなあ。さっきまでの長門君には難しというのはわかるけど、それでも、旗艦として時間がかかるのは改善してほしい事だなあ。

 拙速がいいとは言わないけどなあ。意識はしておくといいなあ」

「肝に銘じておこう」

 頷く、だから提督は立ち上がる。厳かな表情で指を一本あげて、

「めっ」「きもっ」

 提督は崩れ落ちた。

 


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