いらない娘のいきつくところ   作:林屋まつり

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四話

 

 午後も、工廠や訓練場などを見て回ったが、総じて好感が持てる基地だった。

 艦娘の雰囲気も明るく、訓練は厳しい眼差しで真剣に取り組んでいる。工廠などの設備も奇麗に整理されていた。

 戦うためだけではない。時間があったからと自主的に掃除をする艦娘もいれば食堂で談笑している艦娘もいる。

「いいところに来れたようだな」

「うふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ」

 案内についてくれた鹿島は嬉しそうに笑って応じる。

 と、

「あら? 提督さん」

「提督?」

 最低限の案内は終えたという事で本部に到着、執務室の近くにもそもそと動く提督がいた。

 …………やはり、人は見かけにはよらないものだろうか? のんびりと顔を上げる達磨体型の提督を見て思う。

「ふむう。鹿島君かあ。

 長門君も、いろいろ見て回ってるみたいだねえ。来たばかりでお疲れだとは思うけど、……ごめんなあ」

「いや、これから暮らしていく場所だし、早めに見て回れて良かったと思っている」

「そうかあ」

 私の返事に好ましそうに目を細める。

「それで、提督さん。

 何をしていたんですか?」

「ふむう、実はなあ。

 私のお昼ご飯、低カロリーだからって、雷君がシイタケを用意してくれたんだよお。有り難くいただいたのだけど、お腹空いてなあ」

「…………それは、単品か?」

 問いに提督は頷く。……頷いた。いや、それでいいのか?

「食堂で普通に食べればいいと思うのだが?」

「うーむ。そうなんだがなあ。それもした方がいいんだがなあ。

 みんなの様子を見るためにはそういうところに顔を出すのが一番なんだけど、」

 提督は、ぺちんっ、と腹を叩いた。

「美少年でもない私が食堂にいたら、食欲失せないかなあ。そうでなくとも、上官がいると緊張するかもしれないからねえ。

 ああ、おゆはんはそっちで食べるようにしてるよお。おゆはんの後は基本的には寝るだけだからねえ。少し食欲失せても大丈夫、……だったら、いいなあ」

「いや、そんな事はないと思う」

「そうかあ、雷君は私と一緒にご飯を食べると、食べた物が脂っぽくなるような気がしてげんなりするって言ってたんだよなあ。

 私は、そんなに脂っぽいかなあ」

「あ、ああ、…………まあ、そうだな」

 非常に残念ながら、脂っぽい。

「まあ、提督さん。おでぶさんですからね。

 けど、うふふ、大丈夫ですよ。みんな大体慣れていますから、気にしません」

「そうなんだよなあ。最近は足柄君に、二日酔いした後私に会うと胸焼けするとか言われるくらいになったからなあ。

 まあ、そういうわけでおゆはんは私も食堂に行くよお。その時は、まあ、すまんがよろしくなあ」

「ああ、解った」

 頷く、と提督は満足そうに頷き返して、

「おゆはんはゆっくり食べるから、今はお腹を空かせておこうかなあ。

 それで、どうしたんだい、二人とも、案内の真っ最中かなあ?」

「はい、ここで最後です」

「そうかあ、それはよかった。……ふむう、どうかなあ。

 長門君の感想も聞いてみたいし、時間いいかなあ?」

「む、解った」

 そういえば、挨拶の時はろくに言葉を交わしていなかった。提督となる人だ。会話の機会はあった方がいい。

 頷く、と提督は笑って「鹿島君は?」

「うふふっ、私も同席させてもらいます。

 よろしいですか? 提督さん」

「もちろんだよお」

 そういってのたのたと歩き始める。執務室へ。

「あっ、鹿島さんっ、長門さんっ、案内は終わったのっ?」

「あ、……ああ、それは?」

 執務室にある巨大な机。そこには五つ、将棋盤が並んでいる。

「ん、しれーかんの部下さんの少将さんたちの動きよ」雷は桂馬を手に取って「三島少将がちょっと突出気味なのよ。だから、代わりに誰が行けばいいのかなーって」

 ぱちんっ、と駒が置かれる。盤上を見れば他にもいくつかの駒。相対しているの深海棲艦のイメージか。

 手すきの提督を援軍に向かわせる。それを決めているのかもしれない。

「三島君はまだ功を焦っている感じがするからねえ。

 ふむう、若いっていうのはいい事なんだけど、面倒だなあ。やっぱりいいのは威厳のある中年だよなあ。そうだなあ」

 雷は淡々と将棋盤から駒をどかして、のんびりとしたどや顔の提督の頭頂を打撃した。

「しれーかんにあるのは贅に、……バルジだけじゃないっ! 威厳なんてどこにもないわよっ!

 第一っ! たとえどんなに格好いいおじさまでもだめよっ! 可愛い男の子じゃなくちゃだめなのよっ! ねっ?」

「あ、……い、いや、あまり年齢にこだわる事は、ないと思う」

 話を振られても困る。ともかく、提督はのんびりと起き上がった。

「もう案内は終わったのね? それじゃあ、ちょっと待ってて、お茶入れてくるからねっ」

 言うなりじゃらじゃらと錨に繋がった鎖の音を鳴らしながら部屋を出る。提督はのんびりと座って、

「さあ、座っていいよお」

「はい、失礼しますね、提督さん」

「では、失礼する」

 執務室内のソファに腰を下ろす。「それで、どうだったかなあ? 長門君。やっていけそうかい?」

「ああ、大丈夫だと思う。とても好感の持てる基地だった」

「そうかあ、そうだよなあ。艦娘の皆には感謝しないとなあ」

「好適な雰囲気を維持しているのは提督の手腕によるものではないか?」

 何人かの艦娘に、提督についても聞いてみた。そして、総じて好意的な返事だった。

 信頼されている。この雰囲気はそれが理由でもあるだろう。

「命の危険にさらされている真っ最中に、明るい雰囲気は出せるかなあ?」

 問われて、私は首を横に振る。

「そうだよねえ。ある程度平穏が確保されていればこそ、安心感があって穏やかに過ごせる。

 確かに私は作戦を立案したり、指揮はしている。けど、平穏を確保しているのは、戦っている艦娘、じゃないかなあ?」

「む、……確かに、それはそうか」

 目の前にいる提督に限らず、人は深海棲艦とは戦えない。なら、実働という意味では、ここの安全を確保し明るい雰囲気をもたらしているのは戦っている艦娘、なのだろう。

 けど、

「いや、それでも、その状況を作り上げ、こうして維持しているのは提督の手腕によるものだ」

 隣で鹿島もこくこくと頷く。

「そうだったらいいなあ。けど、私は戦ってくれる艦娘たちに感謝をしているんだよお。感謝しているみんなが、不安を感じることなく頑張れるように、頭を捻ったりしてなあ。

 艦娘はちゃんと指揮をしてくれて、万全の状態で戦わせてくれる私に感謝をしている。…………してくれていれば、嬉しいなあ」

「ええ、もちろん、皆、提督さんにはとても感謝をしていますよ」

 鹿島はにっこりと笑顔で応じる。「ふむう」と、提督は頷いて、

「お互いにそんな風に思っているから雰囲気も明るくなる。

 私はそうじゃないかなああ、って思っているが、どうだろうなあ? こればかりは私一人じゃあ解らない事だからなあ」

「ああ、そうかもしれないな」

 お互い、感謝をして信頼していればこそ、か。

「さて、今後だけどなあ。まずは、長門君。いろいろ希望はあると思うけど。どの艦隊に所属するか、どんな役割を担うかは、こちらが決めさせてもらうよお。

 他の娘との連携もあるからねえ。こればかりはこっちの意見を通させてもらうよお」

「解った。異存はない」

 拠点の重要性は聞いているし、これだけの規模だ。新人がしゃしゃり出ていいところでもないだろう。

 任せられた役割を全うする。それがどんな役割であっても、だ。もちろん第一艦隊として主力を担いたいが、それはそう認められてからでいい。

 と、じゃらっ、と音。振り返る。

「はいっ、紅茶を持って来たわっ!」

「あら、ありがとうございます。秘書艦さん」

「ありがとう」

 かちゃかちゃと、カップに注がれた紅茶が置かれる。

「雷君、私にもあるかなあ?」

「しれーかんにはお湯を持って来たわっ! はいっ」

 どんっ、と大きな湯呑が置かれた。お湯か。

「お湯かあ。ありがとうなあ。味がないなあ」

「ただのお湯だから仕方ないわねっ!

 あっ、そうだっ、長門さん、もともとの僚艦だけど、一応こっちで引き取れるように話は進めてみるわ、ただ、他の少将で人手が足りなさそうならそっちに行ってもらう事になりそう。

 一緒にいたい気持ちはわかるけど、人手不足なところの補てんを優先しないと、だからこればっかりは我慢してね」

「もちろんだ。いや、調整してもらえるだけでも有難い」

「別の基地に所属する場合でも、会う機会は作れると思うし、定期的に少将はこっちに来ることになっているからなあ。

 その時に一緒に来てもらうようには頼めるし、ふむう。まあ、いつか会う機会は作れるよお」

「感謝する」

 それなら、よかったな。

「ただ、山風が三人分の資材とかいつ余力をもって確保できるか計算しているみたいだから。とりあえずはその結果待ちね。

 こっちもあんまり余裕は持てないから、山風でもいつ確保できるかはまだちゃんとしたことは言えないのよ。使用実績もないしね」

「ああ、解った。いや、会える機会があるならそれで十分だ。気長に待つとしよう」

「そういってくれると助かるよお。

 同じ部屋は、榛名君だったかなあ?」

「はい、もう挨拶は済んでいますよ。提督さん。仲良くやっていけそうでしたよ」

「そうかあ、それならよかったよお。

 部屋割りは、所属で変わったりもするけど、今夜のうちにいろいろと聞いておくといいよお。けど、榛名君はお話好きだから、巧くブレーキをしないとなあ。夜更かしされるのも困るからなあ」

「そうか」

「そうなのよっ! 前もしれーかん、榛名さんと長い時間お話してたのよっ! それで夜眠るの遅くなっちゃったのっ!

 もうっ、しれーかんは忙しいんだから、ちゃんと寝ないとだめよっ!」

「そうだなあ、スタンガンで強制的に眠らされたなあ」

「……それは、眠るとは違うのではないか?」

「ふむう、雷君に簀巻きにされて動けないまま、ばちばち放電するスタンガンを持ってこられたときは、……驚いたなあ。部屋が真っ暗だったからなおさらなあ。

 雷君、笑顔でじっくりとスタンガンを押し付けてくるからなあ」

「…………あ、ああ、そうだろうな」

 ……いかん、真っ暗な部屋で放電するスタンガンを片手に笑顔で佇む雷を想像してしまった。怖い。

 ふと、山風といえば、

「艦娘ともよく言葉を交わすのか」

 山風もいろいろ教えてもらったといっていたし、話をする機会を作るようにしているのかもしれない。

 艦隊運用に関して意見具申できるように、その知識を教えて欲しいものだ。

「ふむう、……そうなんだよねえ。みんなの雰囲気も見て取れるし、直接話した方が言いやすい事もあるからなあ。そういう機会は作った方がいい、と思うんだけどなあ」

 提督は腹を叩いた。ぺちんっ、と音。

「おでぶさんなおっさんと話をしてもなあ。

 私がいけめんじゃないって哀しそうにしていた娘もいてなあ。ごめんなあ。おでぶさんなおっさんで」

「い、いや、……まあ、大丈夫だ」

「そういうわけで一部の艦娘には見苦しい思いをさせているけど、それでも意義はあるからなあ。出来るだけ話はするようにしているよお。

 ただ、私も多忙でねえ」

「ええ、相談したい事とか、意見があったら私たち秘書次艦にしてくれれば、提督さんには通すようにするわ。

 あと、直接お話したければこっちに声をかけて、提督さんのスケジュールは把握しているから、時間を取るように伝えておくわ」

「わかった。いや、資材の管理など学びたい事も多い。

 時間が取れたらで構わないが、是非教授をして欲しい」

「それなら、勉強会を開いているから参加をしてみるといいなあ。

 資材の管理は、第二艦隊でよく勉強しているし、主催する山風君のお話はとても勉強になるよお」

「第一、第二、第三の各艦隊で最低月に一回、皆で勉強会を開いているわ。

 時間はずらしているから自分の所属する艦隊以外の勉強会も参加できるし、とっーても勉強になるわよっ」

「そうかっ」

 それはいい事を聞いた。今度確認してぜひ参加をさせてもらおう。

「あっ、もちろん雷たち秘書艦も勉強会やってるからねっ、どーんと参加していいわよっ」

 鹿島も笑顔で頷く。秘書艦、か。

「どんな勉強会だ?」

「今は、経営学についての勉強会よっ!」

「…………それは、ちょっと、考えさせてくれ」

「そういうわけで、話したいことがあったら遠慮せず、けど、すぐにスムーズに時間を取れる事は期待せず、でいて欲しいなあ。

 そのあたり秘書次艦や榛名君、か、まあ、同じ部屋の娘と相談をして欲しいなあ。手紙を書いたり、聞きたい事をノートにまとめておいたり、伝え方はその娘次第だからなあ」

「ああ、解った」

 提督は、ぺちんっ、と腹を叩いた。

「どうなんだろうなあ。やっぱり、おでぶなおっさんだと直接話をするのは嫌なのかなあ」

「いえ、てい「いやに決まってるでしょっ! 可愛い男の子じゃないとだめよっ! おでぶさんなおっさんなんて論外よっ!」」

「そうかあ、……長門君。見苦しいから会って話もしたくないっていうのなら、…………うむう。

 秘書次艦のみんなを通してくれると嬉しいなあ。鹿島君たちには申し訳ないが、こればかりはお仕事と思って割り切ってくれると、嬉しいなあ」

「そうねっ、脂たっぷりだけど仕方ないわねっ! お仕事はちゃーんとしないといけないわねっ!

 というわけで、長門さん。しれーかん、見苦しくて視界に入るのもいや、っていう気持ちは痛いほどよくわかるから、何かあったら雷たちをたーくさん頼っていいからねっ」

「あ、ああ」

「ふむう、……とすると、こっちに誘ったのはだめだったかなあ。

 ごめんなあ、長門君。君のお話を聞いておきたくて無理をさせたなあ。新人さんの長門君にとっては新しい上官だし、断りにくかったかもなあ。これも、ぱわはら? かなあ」

「いや、大丈夫だ。見苦しいとは思っていない」

 まあ、確かに肥満だが。……達磨か。そうだな、達磨体型と思えばそれでいいのかもしれない。

「そういってくれると嬉しいよお。ただ、伝えたい事があればちゃんと言って欲しいなあ。

 私が気づかず、皆に我慢を強いていることもあるかもしれないからねえ。それがストレスに繋がって、コンディションを落とされるのはそれこそ大問題だからねえ。その面では新人さんの意見は貴重なんだよお。

 ただ、」

 提督は困ったように鹿島に視線を向けた。

「職責がら、どうしても我慢してもらわないといけない事も、あるなあ。ごめんなあ。鹿島君」

「いえ? 特に何も、私は職務に不満はありませんよ?」

「そうかあ、秘書次艦は基本的に毎日私と顔を合わせているからなあ。

 毎日おでぶさんなおっさんと顔を合わせて、不愉快な気持ちにさせているかもしれないけど、こればかりは仕事だからなあ。雷君、秘書次艦のみんながストレス溜めているようなら、いつか気晴らしにお出かけとかしてきてねえ」

「わかったわっ! 可愛い男の子がたっくさんちやほやしてくれるところを調べておくわねっ」

「いえ、それはいいです」

「わかった。いや、気遣いは感謝する。

 気づいたことは書き留めておこう」

 と、どばんっ、と扉が開いた。

「Heyっ! テイトクっ、第三の一艦隊、帰投したヨっ!」

「金剛、か?」

 豪快に扉をあけ放ち、金剛が顔を出した。

「ごめんなあ、金剛君」

「どうしたんデス?」

「うむう、今、みんなでお話をしていたんだよお。

 それでなあ、あまりストレスはためないように、って言ってたんだけど、金剛君、おでぶさんなおっさんと顔を合わせて、ストレスに感じてないか不安でなあ」

 のんびりと伝える提督を見て、金剛は「HAHAHAHAっ」と乾ききった笑顔を見せた。

「テイトクのDARUMA体型見てると、金剛型一番艦金剛がテイトクに抱くBurningLoveも一瞬でFreezeネ。

 けど、ストレスには感じてないヨっ! テイトクは上官としてすっごく有能ネっ! それで十分、縁起物のDARUMAと思えば、それでOKっ!」

「そうかあ、私じゃあ金剛君のらぶにはふさわしくないかあ」

「おでぶさんなおっさんなんだからとーぜんデショっ、ふさわしくなりたかったら三十歳くらい若返ってイケメンになって腹へっこましなヨっ!」

「上官命令でらぶにふさわしいと思って欲しいなあ」

「セクハラ許すまじっ!」

 謎のポーズをとりながら変な事を言う提督を雷がファイルを縦にして殴った。ぐわんぐわん揺れる提督。

「ん、長門、デス?」

「ああ、本日付でここに所属する事になった。

 よろしく頼む」

「新人さんネっ!

 ワタシは第三艦隊旗艦、金剛デスっ! ヨロシクデスっ」

「ああ、よろしく頼む」

「さて、楽しいお話を続けたいところデスガまずはお仕事デス。

 哨戒任務、無事終了デスっ、緊急の報告はNothing、ワタシも含めて補給は終了っ、一晩寝れば体力も回復して明日のお仕事はno Problemっ!

 今は三の三艦隊が警戒線で監視をしているところネ。こちらは明日の0800には交代デスっ、第三の二艦隊が遠征の護衛任務終了次第引き継ぎネっ」

「ふむう、了解したよお。…………んー、ふむう。

 雷君。遠征の経路はどうかなあ?」

「……哨戒任務を引き継ぐなら短めの経路の方がいいわね。山風が事前に提案したののうち、最短経路のにしましょ」

「んー、その方がいいデス? 第三の二艦隊は夜偵載せたちとちよがいるから、夜間護衛の全体的な負担が軽くなる、って思ってましたケド?」

「そっち、練度はどの程度? 慣れているならスムーズに行けると思うけど」

「もちろん、バッチリ、バッチコーイ、デースっ!」

「そうかあ、……そうだなあ。それもそうだなあ。

 金剛君、資材の確保は通常通りの経路。敵艦隊を発見したら遅滞防衛での後退。雷君、第一の二艦隊は警戒待機のレベル引き上げ。敵艦隊発見の報が入ったらすぐに出撃できるように準備かなあ。

 哨戒はそれ前提だから、……ん、索敵を最優先で頼むよお。交戦そのものは遅滞戦術。積極的な交戦は第一の二艦隊に丸投げするつもりでいいからねえ。

 遠征の護衛任務終了直後に一度状況の報告。燃料に不安があるならすぐに戻れるように警戒線は下げた方が無難だなあ。……と、いう感じでどうかなあ?」

「……むー、了解デス」

「不満そうだねえ」

 頬を膨らませる金剛に困ったように声をかける提督。彼の指示は問題ないと思うのだが。

「不満、じゃないケドサー

 テイトクのいう事は正しいヨ。ワタシの判断なら安全圏。けど、すぐ戻れるように警戒線下げるのも、気遣い嬉しいデス。ケドー

 けど、やっぱり深海棲艦を近づけるのは面白くないデス。……むう、判断が甘かったかもしれないデス。判断の根拠をまとめて報告書作ってみるので、テイトク、あとで添削をよろしくネ」

「うん、そうだねえ。わかったよお。雷君はいいかい?」

「ん、解ったわ」

「ふむう、……山風君にはこの事を話しておかないとなあ。山風君は頑張り屋さんだから夜更かししちゃうかもなあ。

 熊野君にちゃんと見ているようにお願いした方がいいなあ」

「テイトクが自分でやりなヨー」

「そうなんだよなあ。前に自分でやって山風君にあとで報告したら、山風君が不機嫌になってなあ。

 頬っぺた膨らませて鉄パイプでお腹をつついてくるんだよなあ。熊野君は見かけるたびに、とぉぉおう、とか叫びながらお嬢様キックするしなあ。山風君の機嫌が直るまで」

「提督も大変だな」

 確かに有能なようだが、なぜ、扱いがぞんざいなのだろうか? 太っているからか。

 思わず漏れた呟きに、提督は重々しく頷く。

「長門君、確かに提督のお仕事は大変だよお。

 けど、艦娘のみんなが頑張っているのだから、弱音は吐いてられないなあ」

 おそらく、格好いいと思われる雰囲気なのだろう。

「Hey、テイトクーっ、言ってることは格好いいけどサー、おでぶさんなおっさんがキメても滑稽なだけネーっ」

 フランクに「HAHAHAHAHAっ」と笑いながら金剛。

「……………………鹿島君、私はどうすればいいんだろうなあ」

「ええと、提督さ「諦めが肝心よっ! だっておでぶさんだもんっ! その時点でなにもかもだめだめのだめったらだめなのよっ! どれだけ格好いい事言っても滑稽なだけなんだからっ!」」

「私は、だめかあ。……みんなすまないなあ。私は、だめだめさんなんだよお」

 俯いて動かなくなる提督。雷と金剛が神妙な表情で合掌。

「え、えと、……そ、それじゃあお夕食に行きましょうっ! ちょっと早いけどそうしましょうっ!

 提督さんも、ねっ」

 お葬式のような雰囲気になったので、鹿島の提案には全力で頷いた。

 


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