いらない娘のいきつくところ   作:林屋まつり

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二十一話

 

「……さすが、…………だな」

 第三の三艦隊との演習終了。結果は敗北だった。こちらは全員轟沈終了。対して阿武隈達、第三の三艦隊は、こちらに合わせて五人。阿武隈と天城が中破で、他の三人は小破。

 演習用の近海近く、砂浜でぐったりする私たち、対し、

「お疲れ様ですっ、はいっ、飲み物ですっ」

「ああ、ありがとう」

 クーラーボックスに入れた飲み物を配る大鳳。受け取り一口。ほう、と一息。

「それで、大鳳。

 第一艦隊としてはどう?」

 大鳳と一緒にこちらの演習を見ていた高雄が問う。問いに、大鳳は困ったように眉尻を下げ、一息。

「あの艦隊戦通りの運用なら、第一艦隊の方針とは違います。

 これから大幅な変更があるとは思えないので、無理でしょう」

「そうね」

 …………そうか、第一艦隊は無理か。

 いや、それでいいと思う。確かに演習、戦っていてそれは感じていた。……だから、それでいいんだ。うむ。

 と、言葉を交わす二人は、最後に、ぽかんとした表情で演習を見ていた提督に視線を向ける。提督は頷いて、

「荒潮君の艤装、肩ひもが赤じゃなくなったんだなあ。

 あの外見でランドセルを背負っているみたいで、不思議な感じがしたのだがなあ」

「うふふ、司令官。あんまり変な事言ってると暴れちゃうわよ~」

 のんびりと応じる提督と、ひょい、と提督の後ろから顔を出す荒潮。高雄と大鳳はジト目。

「そうかあ、暴れられたら困るなあ。葛城中将の所の朝潮君みたいになるのかなあ」

「あれは、暴れるじゃなくて発狂してるのよお~」

「そうかあ。……そうだなあ。

 高雄君、大鳳君。その見解で間違いないよお。長門君たちはこのまま第三艦隊だなあ。大鳳君はこの事を古鷹君に報告しておいてほしいなあ。高雄君。鈴谷君と相談して秋津洲君の艦隊の必要資材を見積もっておいて欲しいなあ。

 荒潮君、阿武隈君に長門君の艦隊、まずは哨戒を中心で考えておくように伝えておいてねえ、阿武隈君から金剛君と相談してもらって欲しいなあ。秋津洲君の艦隊の必要資材の見積もりを見て、輸送の護衛をどの程度組むか判断するよお。第二艦隊とすり合わせが出来るまではそれで頼むよお。鹿島君への訓練内容もそれで伝えておいて欲しいなあ」

「「了解」」

 大鳳と高雄が頷く。

「長門君たちは今回の訓練に対して、見つけた課題点を提示だよお。

 荒潮君たちもだよお。阿武隈君は金剛君と長門君たちの艦隊の方向性を検討してもらうから、…………ふむん。そうだなあ、荒潮君中心でまとめて欲しいなあ。お昼を挟んで1500までにまとめて、それから反省会だなあ」

「ええ~、私、そういうの苦手なのよ~」

「苦手でもやらないとだめだよお」

「はーい、もう、仕方のない司令官ね」

 やれやれ、と肩をすくめる荒潮。提督は頷いて、

「そういうわけだから、長門君たちも、演習の反省点を提示して反省会だなあ。

 そうそう、荒潮君。ついでに議事録も頼むよお」

「もーっ、何でもかんでも私にやらせないでよっ」

「ふむん、……じゃあ、仕方ないなあ。私がやるから何もやらなくていいよお」

「…………解かったわよ。やるわ。……もう、司令官、死んじゃえ」

「それはまだ無理だなあ。ごめんなあ」

 ぽつりとこぼした物騒な言葉に提督は笑って応じて歩き出した。高雄と大鳳も苦笑して後に続き、荒潮は溜息。

「もうぅ、やる事がたくさんじゃないっ!

 金剛さんと阿武隈さんにお話してえ、鹿島さんにも、……で、それからみんなと書類作ってえ、会議してえ。議事録つけてえ、……はあ」

 大仰に肩を落とす荒潮。確かに、随分といろいろ押し付けられたな。

「報告くらいは私やろうか? 阿武隈さんと、鹿島さんに」

 私同様転がっていた瑞鳳が声をかける。対して、荒潮はひらひらと手を振って、

「ありがとうございます。けど、大丈夫よ。

 少しくらい忙しい方が気も紛れるわ」

「そう?」

 瑞鳳が頷く。荒潮は視線を向けて「阿武隈さん、……は、いないか。秋月ちゃーんっ」

「なんですか?」

 荒潮に呼びかけられて、演習に付き合ってくれた秋月がこちらへ。

「今回の訓練で司令官にいろいろ連絡とか押し付けられちゃったのよお。

 で、反省点の書類作成、お昼食べ終わったら先行で進めておいてくれないかしらあ? 阿武隈さんは金剛さんと別件があるからあ、天城さんと最上君でねえ」

「それ、最上さんに言ったら怒られますよ」

「あらあ、ごめんなさい。秘密にしておいてねえ」

 くすくすと荒潮は意地悪く笑う。

 さて、いつまでも寝転がっているわけにはいかない。立ち上がる。

「まずは昼食か?」

「そうよ。お仕事前に英気を養っておかないと。

 意地悪な司令官のせいで演習後の午後まで大忙しよ」

「相変わらずですね」

 くつくつと笑う秋月。初月は首を傾げて、

「提督は、……その、何か差別でもしているのか?」

「ちょっと違うわ。私は悪い娘なの。だから、司令官は意地悪なのよ。

 初月ちゃんは大丈夫よ。みんな、いい娘だもの」

 けらけらと、荒潮は楽しそうに笑った。

 

 昼食を終え、一通り問題点と思われるところのたたき台を作る。荒潮に指定された会議室に入る。

 と、

「眼鏡?」

 荒潮は眼鏡をかけていた。くい、と軽く手であげて、

「似合う? 秘書艦さんとお揃いなのよ」

「秘書艦さんは、眼鏡をかけていらっしゃるのですか?」

 春風が首を傾げる。確か、なかったと思うが。

「伊達よ。とっても可愛いの。

 思わず私も欲しくなっちゃった」

「そうですか、……ええ、そうですね。お似合いだと思います」

「荒潮は無駄にえろいねっ」

 時津風はけらけらと笑い。的確すぎる指摘に思わず頷いてしまった。

「ありがと。褒められたと思っておくわ」

「といっても、男性なんて達磨さんしかいませんけどね」

 柔らかく微笑む天城に荒潮はけらけらと笑って「ほんと、ざーんねーん」

「荒潮、始めますよ。天城さんもあまり悪乗りしないでください」

「最上さんは、いらっしゃらないのですか?」

 春風の問いに荒潮は頷いて、

「運良くか悪くかわからないんだけど、ちょうど第二艦隊の熊野さんと神風ちゃん、それに鹿島さんも引っかけられちゃってねえ。

 熊野さん、阿武隈さん、金剛さん、鹿島さん、神風ちゃんでちょーっと集中的な会議をすることになったのよお。で、議事録つけるっていう名目で引っ張り込まれたの」

「そうか」

「会議の結果は後で阿武隈さんから話があると思います。

 初月、気になると思うけど今はこっちに集中して」

「ん、もちろんだ」

「それじゃあお勉強かあ。あたしあんまり好きじゃないんだよなー」

「あははっ、私もよ。気が合うわね」

 握手などを交わす時津風と荒潮。で、

「荒潮っ」

「はいはい、ごめんなさい。秋月ちゃん」

「荒潮ちゃん。これが終わったら今日のお仕事は終わりだから、頑張りましょう」

「はーい」

 さて、天城は一息。

「では、今回の訓練についてですね。

 事前に提督から、いくつかの留意点を指摘されていましたが、まず、春風さん」

「はいっ」

「航行の軌道が不安定です。最前線を走る時津風さんに注意を向けすぎています。

 僚艦を気にかけるのはいいでしょう。ですが、訓練中、それも、まだ練度が低い今の段階では、まずは自分の成すべき事を成さねばなりません」

「…………はい、精進します」

 春風は肩を落として頷く。これは、私たちの中でも出た事だ。

「僕も、後ろから見て危なさそうなら声をかけるようにしないと」

 自戒するように初月は呟く。けど、秋月は初月に視線を向けて、

「初月、今回の演習でもそれに気を取られていたわね? 天城さんの艦載機、もっと落せたはずよ?」

「…………ぐ、」

 ぐうの音も出ず黙る初月。春風も小さくなる。

「それとお、時津風ちゃん。

 ちょーっと航行に曲芸が入ってたわよ? 忘れちゃだめよ。貴女が連携をしないといけないのは、」

 荒潮は、ちらり、春風に視線を向けて、

「貴女より一つ足の遅い、旧型艦なのよ。貴女が主導で連携をしていかないとだめじゃない」

 荒潮の指摘に時津風は肩を落として「……うん」

「ごめんな「謝っちゃだめよ。春風ちゃん」」

 肩を落とす春風に、荒潮は切り込むように口を開く。強いての無表情、眼鏡の向こうから刺すような視線で、

「それは今の貴女の練度では仕方のない事。そもそも地力が違うのだから無理に矯正しても壊れるだけよ。

 連携するときは性能の高い方が低い方に合わせて、旗艦が全体のバランスをとるの。弱い事に甘えてはだめ。けど、弱い自分を責めるのもだめよ。自分の出来るところを考えていきなさい」

「…………はい」

「うん、そうだね。ごめん、春風。あたしあんまり見えてなかった。

 荒潮もありがと、気を付けるよ」

「ええ、気をつけなさい」

 荒潮は謹直に応じる二人に穏やかな笑みを見せる。天城はそちらを見て一息。

「瑞鳳さんは駆逐艦の三人が雷撃距離に踏み込みやすいように、制空権確保を確実にするために艦戦でそろえた、というのもわかりますが、流石に偏りすぎです。

 軽空母では正規空母の艦載数には敵いませんし、敵艦隊の戦力は未知数です。

 僚艦の戦力を十分に把握したうえでの選択ならともかく、新造の艦隊で偏った選択は避けましょう」

「……はい」

 天城の指摘に瑞鳳は項垂れる。

「それと、長門さん」

「う、うむ」

「立ち位置、位置取りでかなり戸惑っていたわね。

 水雷戦隊旗艦の戦艦なんてほとんどないだろうから、不慣れもあるし仕方ないのだけど。ただ、旗艦である以上そんな事をいつまでも言ってられないわ。

 訓練はその勉強にしばらく集中した方がよさそうね」

「……了解した」

 駆逐艦の艦娘に説教されるとは、……とも思うが、非常に的確だ。素直に受け入れよう。

 かたかたとキーボードを叩く荒潮は苦笑。

「そうねえ、こちらの評価だと。

 長門さんたちの艦隊、個々の能力は、100点満点中、70点。思ったよりは高かったわ。けど、連携は40点。不仲によるぶれはないけど、それぞれの性格のかみ合わせに注意が必要ね。

 性格や経験の問題があるから、これは数を重ねるしかないわね」

「長門さん、鹿島さんには砲撃の訓練ではなく旗艦としての勉強を意見具申しましょうか?」

 秋月の問いに頷く。確かに経験や勉強は必要だ。まずはその方向で訓練をしていきたい。

「そうだな、頼む。

 阿武隈からもいろいろ教えてもらおう」

 まずはそこからだな。艦隊としての役割は支援砲撃だが、旗艦として巧く動けなければそれ以前だ。

 それから、こちらの感じた事を報告し、意見を聞いてみた。もっとも、おおよそ先に荒潮たちがあげた指摘と重なる事が多いが。

 

 会議も終わり、議事録提出のために私と荒潮は提督の執務室へ。

「んーっ、これ提出したら今日のお仕事は終わりね~」

「ああ、そうだな。夕食まで少し時間はあるか」

「長門さんはどんな事して過ごしてる? まだ、新人さんだったのよね?」

「僚艦と話してようと思っている。……そうだな、荒潮は?」

「姉さんにちょっかい出そうと思ってるわ。

 この基地の朝潮姉さんは、まだいい娘だから、……ふふ、一緒に遊ぶの楽しいのよ」

「この基地? ……ああ、同一艦か」

 同じ艦船を基礎として複数の艦娘がいるとは聞いている。どこかに、私ではない長門もいるだろう。

 ん? ……まだ?

「この基地の外にはいい娘ではない朝潮がいるのか?」

 この基地の、といった以上はそういう事だろう。問いに荒潮は困ったように、

「ええ、葛城中将の秘書艦も朝潮姉さんなの。

 私とお、春雨ちゃんと、潮ちゃんで一月くらい研修に行ってたのよねえ」

「む」

 他の中将の所に、か。

「それは興味深いな。勉強になったか?」

「それはもちろんよ。……頭おかしくなるかと思ったわ」

「…………それは、高評価なのか?」

 しんみりとした表情でそんな事を言う荒潮。

「そんなものよ。逆に葛城中将の所の娘がここに研修に来た時、地獄に堕ちたと思ったとか言ってたわ。

 長門さんも、頑張ってね」

「鋭意努力しよう」

 まだここの訓練もほとんど受けていない。…………地獄か。

「責任あるところだし、訓練が厳しくなるのも解るのだけどね~」

「休憩がしっかりとれているのは救いだな」

「杜撰だと極端になりがちだし、それよりはましよね」

「そうだな」

 暇を持て余すのも、困るな。

「そうそう、それで、葛城中将の所の朝潮姉さんだけど。

 そうねえ。……ここの秘書艦さんにも劣らないわよ。大本営の中枢に所属する娘は流石に違うわあ」

「そうだろうな」

 確かに、秘書艦殿は艦娘としては非凡な能力を…………ん?

「大本営の、中枢」

 ふと、その言葉に違和感。……確か、昨夜秘書艦殿は大本営中枢に関わるなら、といっていた。中将の秘書艦なら大本営の中枢にいる者と関わる事もあるだろう。そう思っていたが。

「荒潮。どういうことだ? 艦娘が、大本営を動かしているのか?」

 所属する、というのなら、つまりそういう事になる。

「あ、……あー」

「あーらーしーおー」

 しまった、と。そんな表情で口を閉ざす荒潮と、いつの間にか後ろに立ち、にたり、笑う秘書艦殿。怖い。

「なーにー、言ってるのよー?」

「あ、あはは、ごめんねー、秘書艦さん」

「もうっ、いきなりそういう事を言ったらだめじゃないっ!

 これだから悪い娘は油断できないのよっ! あとは長門さんの訓練の結果報告でしょっ! その前にちょっとお説教っ!」

「あっ、あんっ、痛いっ、痛い痛いっ、耳っ、秘書艦さん、乱暴は、や、め、て、ね? ……いたたっ? 抓っちゃだめえっ!

 意地悪されるより優しくしてくれた方が、好、き。……いたたたたっ? ちょ、ほんと痛いわっ! な、長門さーん、報告はお願いねー」

「あ、ああ」

 気になる事はあるが、秘書艦殿の剣幕を見ると聞くに聞けない。なんとなく部屋に引きずり込まれる荒潮を見送って、私は執務室に向かって歩き出した。

 

「そうかあ、……そうだなあ。

 まあ、荒潮君は悪い娘だからなあ。困ったなあ」

 のんびりと相槌を打つ提督。

「悪い娘、か」

「基本的には皆いい娘だけどなあ。中にはいるんだよお。荒潮君みたいな悪い娘も。

 ふむう、……けど、まあ仕方ないなあ。みんながみんないい娘であることを要求するのはただの傲慢だからなあ。悪い娘には悪い娘なりに付き合うしかないなあ」

「そうだろうな」

「それと、議事録だけど了解したよお。それで、長門君。

 結果はおいて、まず、この艦隊でやっていけそうかなあ? 性格的な相性で答えて欲しいなあ」

「ああ、生活面では問題ない。が、議事録にもあるが艦隊の連動に入ると少し崩れるな。

 荒潮たちにも指摘されたが訓練を重ねれば問題ないと判断している」

「そうかあ、水雷戦隊の旗艦は阿武隈君が得意だから、今度演習は見学をしておくといいなあ。鹿島君には伝えておくよお。

 他の娘たちは、……ふむん。初月君と春風君は周りに気をかけすぎている。なあ、時津風君が少し突出気味なのは意識すれば抑えられるけど、二人はしばらく一緒に訓練をすれば戦術面での信頼感も出てくるだろうなあ。訓練を重ねるようにしていけばいいと思うよお」

「解った。ああ、そうだな。

 瑞鳳については?」

「少し資材を気にしすぎている印象があるなあ。前に使いすぎたからいろいろ指摘したのがこじらせたみたいだなあ。

 長門君、瑞鳳君は一度第二艦隊の、……ふむん、龍鳳君がいいかなあ。演習の程度とそれに応じた想定必要資材についてお話を聞いておくように伝えて欲しいなあ。限度を認識すれば、あとはそれで抑える事を目標に技術を磨けばいいだけだからなあ。上限が不明だから節約を意識しすぎるのであって、明確に規定されればそれを超えなければいいっていう安心感も出るだろうからなあ」

「む、そうだな。伝えておく」

「連携について多少問題が出るのは想定通り。個々の能力は十分だよお。

 ただ、長門君は先に旗艦としてのお勉強だから、砲撃訓練は控え目にしてもらうよお。僚艦のみんなから離れてお勉強の時もあるから、お勉強内容の共有についてはちゃんとやるようになあ。

 テストケースでもあるから実戦レベルに持ち上げようと焦らなくてもいいけど、しっかりと基本は抑えておきなさい。運用が高度になればなるほど周りもアドバイスが難しくなるから、自分で十分に考えられるように基礎はしっかりマスターが大切だなあ」

「了解した。異存はない」

 提督の話はいろいろと勉強になるな。

 と、

「提督さんっ、……と、長門さんもおったか?」

「浦風か」

 扉がどばんっ、と開いた。浦風が威勢よく入ってきた。

「今回の訓練の報告書じゃっ、目え通してな」

「うむむ? 鹿島君は忙しいのかなあ?」

「鹿島さんだったら谷風と磯風と、浜風とお話じゃけえ。うちが代表で報告に来たんよ」

「そうかあ、ありがとうなあ」

「まあ、長門さんがお先ならうちはあとでもいいけえね。

 提督さん、ゆっくりやって大丈夫じゃ」

「いや、こちらの要件は終わった」

「……………………ふむん。浦風君。次の訓練相手は長門君たちにしてみようかなあ」

「お?」「ん?」

「浦風君たち、浦風君と磯風君、谷風君、浜風君の駆逐隊だよお。

 実際に演習してみると長門君も駆逐隊の動きが見えてくるだろうからなあ。どうかなあ?」

 ふむ。

「長門さんたちと演習? ……あ、けど、大丈夫なん? 資材の管理、ここ、厳しいんじゃないの?」

「ふむん。入れられるよお。山風君には私からお話するから大丈夫だよお。

 それに、浦風君たちもまだ訓練中だからなあ。新人の長門君たちと切磋琢磨してほしいなあ」

「な、長門さんと切磋琢磨は、「かつての連合艦隊相手には荷が重い、そんな弱音を出し尽くすための訓練だよお。浦風君」…………そう、じゃな」

 困ったように視線を泳がせていた浦風は、こくん、と頷く。

「そうじゃっ! 実際に外出たら何が出るかわからんけえねっ! 戦艦の深海棲艦と遭遇戦になっても諦めることないよう、メンタル叩き直さんとなっ!

 おっしゃっ! 胸を借りるよっ」

「いや、私たちも新人を集めた新造の艦隊だ。

 どちらが上という事もない。どんな結果になろうとも、正々堂々全力で訓練に臨もう」

 頷き、浦風と握手を交わす。「ふむん」と提督は頷いて、

「長門君は僚艦のみんなと、さっきのお話をしてきて欲しいなあ。

 それが終わったら改善点として記録して、今日はお休みでいいよお。浦風君、時間があるなら、訓練の報告は鹿島君とのお話が終わってみんながいるときに聞こうかなあ。その時に長門君たちとの演習についてもお話するからねえ」

「了解じゃっ」

 と、扉がどばんっ、と開いた。

「ちぃーっす提督っ」「提督、いるかも~?」

「いるよお。秋津洲君の編成に関する事かなあ?」

「うん、相談とか確認点をあげてみたから、……って、あれ? お話中? いいよ、鈴谷たち今日はこれで上がりだし、待ってるよ」

「あ、あたしも一緒に聞きたいかも? 聞くだけでいいから、だめ、かも?」

「いいよお。

 浦風君、みんなを呼んできてねえ。鈴谷君、書類を見せてもらおうかなあ」

「はーい。じゃ、よろしくー」

 鈴谷が書類を差し出したところで、扉がどばんっ、と開いた。

「はいはーいっ、提督っ、連絡だよー。って、大所帯っ?」

「村雨君は荒潮君と雷君にお説教されてみるといいんじゃないかなあ?」

「なんでっ? うぁあん、村雨が悪い娘だからって差別だー」

 いきなり説教をされて来いと言われてめそめそし始める村雨。にしても、

「賑やかだな」

「一日のお仕事が終わる時間だからなあ。報告とかで賑やかになるんだよお。

 ふむう、女の子にたくさん構ってもらえて嬉しいなあ。おっさんにとっては幸せな時間だなあ」

「……これ、セクハラ? ねえ、セクハラ? 殴っていい?」

「はいはーいっ、村雨は有罪に一票っ」

「よっしっ」

「村雨君の一票は重たいなあ」

 じりじりと距離を詰める鈴谷に提督は苦笑。と、扉がどばんっ、と開いた。

「お説教終わったわっ」

 荒潮が部屋に入って来た。来て、首を傾げた。

「私、ひょっとして来た意味ないかしらあ?」

「まあ、一応報告は終わった。荒潮、今日の仕事はこれで終わりなのだろう?」

「ええ、ありがと」

「それじゃあ、荒潮君も悪い事考えてないでさっさと休みなさい」

「はーい、あ、村雨ちゃん。お仕事終わった? 終わったなら一緒に遊びましょ」

「はいはーいっ、ちょっと待っててねっ、提督に連絡して後片付けしたら終わりだから」

「じゃあ、後片付け手伝うわ。先に行って待ってるわね」

 軽く手を振って執務室を出る荒潮。そして、入れ替わりにさらに別の娘も入ってきた。確かに報告などで忙しい時間かもしれないな。

「では、私も失礼する」

 なら、長居しても邪魔だろう。一礼して執務室を出た。

 


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