いらない娘のいきつくところ   作:林屋まつり

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十七話

 

 時津風と春風、初月に頼んで、空き部屋に椅子と机、それと人数分のノートを用意してもらう。

 私と瑞鳳は秋津洲に昼食を届ける。その途中で屋上から提督が吊るされているのが見えた。残業を強要した事が秘書艦殿にばれたらしい。島風や天津風、夕立に鉄パイプで突かれてゆらゆら揺れている。

 ゆらゆら揺れる提督を見て瑞鳳がぽつりと、

「残業かあ、……なんか、不思議」

「そうか?」

「私のところ、…………ええと、時間って何も決められてなかったから。

 提督、指示とか何もしないでいなくなることもちょくちょくあって、何日も何もやらない。って事もざらにあったし、逆に忙しい時は寝る間なんてなかった時もあったし」

「それも極端だな」

「うん、寝てたらいきなり叩き起こされて出撃なんてのもあった。ここに来るまではぐっすり眠れることなんてほとんどなかったわ。

 深海棲艦はいつ襲い掛かってくるかわからない、っていえば仕方ないんだろうけど」

「そうか。どこも大変だな」

「ここも楽じゃないけどね。残業とか」

「そうだな。訓練も厳しいか?」

 問いに、瑞鳳は首を傾げて「え? 長門さん、訓練とかまだ?」

「ああ、……まあ、その、…………最初の、テストで弾薬を使いすぎてな。ストップがかかった。

 それで終わりだ。完遂さえできなかったのだから、随分と情けない終わり方だな」

「資材の管理、ものすごく厳しいよね。ここ」

「そうだな、……ん、瑞鳳も?」

 問いに瑞鳳は気まずそうに笑って、

「ええと、……ぎりぎりだったのが何度か」

「それで残業か?」

 軽い問いに瑞鳳は深刻に頷く。

「うん、まあ、最初の方はほんと、へとへとになっちゃってそれどころじゃなかったけど。

 少し慣れてきたら、ふらーって提督が来て残業って改善点をいろいろ教えられた事あったわ」

「それはよかったではないか?」

「うん、それはありがたいんだけど。

 ただ、各工程ごとに消費した資材まで全部並べられて、その時の艦載機の動きも映像で残ってたから、そこも全部チェックされて深夜残業。次の日は休みだったからよかったけど、起きれなかったわ。

 艦娘の訓練は結構気を遣ってるみたいよ。軍人として兵器の手入れは大切だからなあ、とか言ってたわ」

「兵器、か」

 思わずこぼれた言葉に瑞鳳は視線を背けて、

「たまに、そういうのよ。

 私たちの事を軍人、っていう事もあるけど、兵器っていう事もあるわ。区別する意味は、あんまりないと思うけど」

 苦笑。

「ま、別にばかにしている感じもないからいいけどね」

「提督の艦娘感か、私には軍人と言っていたが、」

 兵器、と言ってたのは古鷹か。……ふと、そういえば、

「提督は、……その、ひどい事とかはしていないか? 訓練が厳しいとかそういう事ではなくて」

「ないけど?」

 不思議そうな瑞鳳。思い出すのは、朝の会話で、

「いや、古鷹が提督を、人でなし、と言っていた。

 何か、そう評されるような事をしたのかと気になってな」

「人でなし、……って、…………ううん、そういうところは見た事ないけど。

 私も、まだ来て一週間くらいだし、……あ、けど」

「瑞鳳?」

 ふと、難しい表情を浮かべる瑞鳳。

「関係あるかわからないけど、……ほら、秘書艦さん。結構打撃入れたりするでしょ?

 他のみんなもそれにつられて、まあ、いろいろやってるけど」

「ああ、あれは秘書艦殿が元か」

 まあ、普通に考えれば艦娘が提督を蹴っ飛ばしたりはしないだろう。たぶん。

「うん、……あの、秘書艦さん。

 提督の事、見た目が悪いとか、おじさんだからとかそういう理由だけじゃなくて、本気で嫌いなんだって、嫌いだけど、平和利用のために仕方なく使ってるって言ってたわ。

 呉越同舟、っていうのが一番適当って」

「ああ」

 確かに、秘書艦殿は春風に対して有用だから利用している、といった。

 唯々諾々と命令に従う必要はない。その言葉を強調するための言い方だと思っていたが。

「秘書艦さんと古鷹さんは最古参で、提督が直接建造した二人だから、私たちの知らないところも知っているのかもしれないわ。

 その、そんなに嫌う理由とか人でなしっていうのとか」

「そうかもしれないな。……とはいえ、他の艦娘からは人望も厚そうだし、大丈夫だとは思うが」

「うん、それは信頼してもいいと思う」

 ともかく、瑞鳳の先導で訓練場へ。そこに積まれた資材を見かけ、

「あ、いたいた」

 資材をえっちらおっちら運ぶ秋津洲も見つけた。傍らにはクリップボードに視線を落としている山風がいる。

「あれ? 長門さん、瑞鳳さん」

「昼食だ」

 いくつか買ったおにぎりを掲げる。秋津洲は表情を輝かせるが、

「だめ、全部準備、終わってから」

 クリップボードから顔をあげず素っ気なく告げる山風。秋津洲は「かもー」と変な声をあげて肩を落とした。

「急ぎなら、お昼、あたしが預かる」

 つい、と手を差し出す。けど、

「いや、大丈夫だ」

 もともと今日は一日休みだ。明日に向けて訓練の意識合わせはしたいが、急いで戻るほどの事でもない。

「そう」

 山風はクリップボードから顔を上げる。が、すぐに視線を落とした。

「それは、第二艦隊の?」

「うん、秋津洲さんの、運用について、……秋津洲さんを中心にした、空輸メインの高速輸送艦隊、についての、上申。

 ただ、秋津洲さんだけだと効率悪いから、正規空母か、もう少し必要と思ってる。けど、空母ばかりだと危険だから、護衛艦隊も必要になるの。

 それだとコストパフォーマンスが、悪すぎるから、常設じゃなくて、緊急時の一時的な運用で考えてる。訓練の効率は良くない、けど、大規模な、艦隊決戦の真っ最中の資材確保には有益。その方向で上申する」

「艦隊の編成か。ここでは艦娘が考えるのだな」

 ここに来る前は提督の仕事だと思っていたが。私の言葉に山風は顔をあげて、

「最終決定権は、提督。

 けど、あたしたちの意見、有益だって、提督、言ってた。大切なのは、現場にいるあたしたちが、使い勝手のいい艦隊、だから。

 だから、こういう役割を果たす艦隊があると、いい、って思ったら編成案を出すように、してる」

 そういえば、私たちももともとは金剛の上申で決まったのだったな。

「そうだね。……うーん、そのあたりも勉強しないといけないかな」

「そうだな」

 まだ、試験運用の予備艦隊では遠い話だろう。けど、学んでおいて損はない。

「山風、それはどのように学んでいけばいい?」

 故にその方法を先達から聞いてみる。

「あたしは、少しでも、不安なところを、あげるようにしてる。

 大規模な攻勢があったとき、量、少なくても少しでも早く、資材が必要な時、どうしようか、とか。……けど、こういうの、臆病な考え方、だから。

 長門さんとかは、実際に任務を割り振られたら、どんなところが不便か、とか、それをあげてみるといい、と思う。金剛さんに言って、第三艦隊で、対応できる問題なら、金剛さんがなとかしてくれると思うし、第三艦隊で対応できないなら、提督が、基地の艦娘全体に声を飛ばして、対応を協議してくれる。

 もちろん、不要と判断されたら、それまでだけど。けど、」

 不意に、山風は小さく笑う。

「ちゃんと、資料作らないと、必要と思った理由とか、そのために、その艦隊を、どう運用していくか、とか。

 あたしも、漠然としたことを書いたら、必要性は認めてくれた。けど、その時一緒に考えてくれた、熊野さんと、鈴谷さんと、三人で資料の書き方、下手って、深夜まで残業、したの。資料の書き方講習。提督、厳しいから、すごく大変、だった」

「…………先にそっちか」

 資料の書き方など勉強した事もなかった。希望を書いたレポートは、……まあ、本当に希望だけだな。必要な事を最低限書いた、という事で見逃してもらえたのだろう。

「どれどれ」

 ひょい、と瑞鳳が山風のクリップボードを覗き込む。頬が引き攣った。

「…………艦隊に使う許容資材量とか、勉強、大変そうだね」

「大変でも、やらないと、だめ。

 危ない事を危ないままにしてたら、全体が危なくなる、から」

「そうだな。……瑞鳳、一緒に講習を受けよう。残業で」

「…………はあい」

 肩を叩くと瑞鳳は項垂れた。と、

「山風っ、準備終わったかもーっ」

「秋津洲さん。報告は正確じゃないと、だめ。

 終わった、かも、なら、確認やり直し」

「はっ、……口癖かもーっ?」

 淡々と告げた山風に秋津洲は大慌てで資材の方に戻っていった。

「あれ、口癖だよね?」

 瑞鳳の問い、山風はクリップボードから視線をあげず、

「今は、解ってる。……けど、現場、通信越しでそれやられたら、解らない。

 口癖だから仕方ありません、は、通じない。から、訓練中に直さないと」

「それもそうだな」

 さすがに、現場第一線で働く艦娘は厳しいな。

 

 秋津洲に昼食を届け、部屋に戻る。大きめのテーブルと椅子。テーブルにはノートと各艦の性能に関する書類が並んでいた。

「ホワイトボードがあればよかったんだけど。

 ここの扱いは個人用の部屋だからだめだって。テーブルも借りものだからあとで返さないと」

「まあ、仕方ないな。……給料も出るようだし、少しずつ充実させていけばいいか」

 少しずつ内装を充実させていく。それもいいな。

「さて、……では、明日の事について話をしよう。

 訓練の内容は不明だが、艦隊運用と言っていた。おそらく、艦隊戦の模擬戦だろう」

「そうだね。私たちは、」

 瑞鳳はノートに書いていく。艦娘の名前と、

「前が、駆逐艦。初月、春風、時津風、私はその後ろかな? で、……「ああ、後衛が私だ」」

 一番後ろ、長門、と文字を書き込む。

「私の役割は支援砲撃だな。

 具体的な動きは訓練をしながら調整になるが、後方からの狙撃をすることになる。それと、撤退時は殿を務めよう」

 もともとが足が遅く、硬い装甲を持つ戦艦だ。撤退の時は装甲の薄い駆逐艦たちの盾として動くべきだろう。「ですが、」

 じ、と春風が私を見据える。珍しい、強い視線で、

「わたくしたちを逃がすために囮になるとか。戦地に残るとか、そのような事だけは、絶対に、止めてください。

 逃げるときは、みんな、一緒にです」

「う、…………む、解った」

「ま、その時はロープ使って曳航かな。皆で無理矢理」

 時津風は口元に笑みを浮かべて告げる。けど、

「いや、それ、それは流石に無「それとも、あたしたちに僚艦を見捨てろっての?」」

 口元の笑みは変わらず、瞳は、睨むように鋭くなる。

「あんな思いするなら、沈んだ方がまし」

「わたくしも、同じです。

 一人で残すなんて、絶対に許しません。…………もう、いや、なのです」

 今にも泣きそうな表情で春風は告げる、と。

「わっ」「きゃっ」

「長門さん、忘れた?」

 瑞鳳が春風と時津風、二人を後ろから抱きしめる。

「ここにいるみんなは、捨てられたんだって。それがどんな辛い事か、身をもって知ってるのよ。

 今度は、そんな思いをさせる側に回れっていうの? それで生き延びて、その後、どんな思いで生き続けないといけないか、解るよね?」

「…………ああ、そうだな」

 救えなかった。か。

「誰も沈ませないって言ったの、長門さんだ。

 それは僕たちの、この艦隊の方針で、僕はそれが気に入ったから編成してくれた阿武隈さんにも感謝してるし、ここで頑張っていこうって思ったんだ。

 長門さんだけ旗艦だから特別扱いって思ってるなら、僕は提督にこの艦隊から外してくれるように上申する。艦隊の方針に逆らうような旗艦なんて信用できない」

 こくん、と時津風たちも頷く。

「解ってる。そんな事はしない。

 撤退は、悪いが一番足の遅い私に合わせてもらう。駆逐艦三人の砲撃はその時に使おう」

 もともと、そのつもりはなかったのだが。……いや、仕方ないか。

 みんなの境遇はわかっている。この手の話には敏感になって当然だ。旗艦として、その事も意識しないといけないな。

 どんな風に僚艦をまとめているのか、阿武隈に聞いてみようか。あるいは、鈴谷か。…………相談できる先輩がいるというのはありがたいな。

「とすると、砲撃より雷撃重視で考えてた方がいいか」

 ぽつり、初月が呟く。

「いや、僕は防空駆逐艦だから。

 雷撃よりは対空射撃や砲撃の方が得意なんだ」

 初月は自分の性能のうち、対空を示す。確かにそこが一番高い。それを活かせないのは、防空駆逐艦としては歯がゆいか。

「でしたら、わたくしと時津風さんが前線で雷撃を、初月さんは砲撃と銃撃による援護をしていただくというのはいかがでしょうか?」

「二重支援?」

「…………ええと、前線支援?」

「何とも中途半端な位置だな」

 困ったように笑っていた春風は初月の言葉に沈む。

「私はそれでもいいと思うよ。雷撃を決めるために近づくなら、近くで砲撃支援してくれる誰かがいた方がやりやすいと思うし。

 その場合、長門さんは雷撃対象じゃなくて周囲の護衛艦を砲撃すれば雷撃の成功率も上がるんじゃない?」

 瑞鳳の問いに時津風と春風は頷く。

「じゃ、初月は中途半端な場所決定ね」

「ええと、援護支援、お願いします」

「……………………せめて、前線支援にしてくれ。というか援護支援って意味通じないと思う」

 初月は項垂れた。あとは、

「とすると、私は艦上戦闘機を積んで制空権確保に注力した方がいい?

 この艦隊の主力は長門さんの支援砲撃と、時津風ちゃん、春風ちゃんの雷撃になるだろうし、私が制空権確保すれば初月ちゃんも砲雷撃戦に加われるでしょ?」

「そうだな」

 初月はさらさらとノートにペンを滑らせて、

「春風と時津風は雷撃中心、僕は対空射撃と、あと、砲撃での牽制をするのがいいと思う。

 瑞鳳さんに制空権の確保を任せて、隙があったら」

「ああ、私が砲撃を叩き込む。攻めは、そんな流れでいいか」

「それで、そこに至るまでどうするか、ですね。

 わたくしたちの艦隊は、速度差がありますから」

「ある程度は射程で補えるんじゃない?」

「ある程度はな。

 どちらにせよ射程に注意をしなければならないのなら、速度差は意識しなければならない。私を置いて先行したら砲撃支援が届きませんでした、では困るだろう?」

「そうですね。では、……長門さんの航行速度に合わせて接敵。

 射程圏内に入ったらわたくしと時津風さん、初月さんが先行して、対空射撃、雷撃。という流れでしょうか?」

「そうだな。もし艦載機がなかったら僕は砲撃で二人の雷撃を支援する。あるいは、」

 初月は視線を横へ、その先にいる瑞鳳は頷いて、

「駆逐艦の三人が出た時点で私は艦上戦闘機を飛ばすよ。

 それで制空権が確保できるなら、初月ちゃんは砲撃の支援をお願い。長門さんはそっちの結果を見て、艦隊の旗艦か、雷撃の邪魔をしようとしてる護衛艦か、そっちへの砲撃だね」

「ああ、そうだな。……いかに正確に砲撃をするか、か」

「そこは訓練あるのみじゃない?

 あたしたちだって艦隊戦でどのくらい動くか見えてないんだし」

 時津風の言葉に頷く。連動は訓練を通じて磨いていかなければならないな。

「それで、砲雷撃で撃破できればよし。

 出来なかったら時津風ちゃんと春風ちゃんは接敵と離脱を繰り返して雷撃。初月ちゃんは二人の離脱を支援、長門さんも支援砲撃だね。初月ちゃんは離脱支援に集中するとして、長門さんは旗艦撃破か離脱支援か、それはその時その時の判断で」

「艦隊戦はそれを繰り返すか」

 瑞鳳と初月の言葉に皆が頷く。それで勝利できればそれでいい、が。

「あとは、撤退だな」

 一番、気を付けなければいけないところだ。慢心して機を誤れば轟沈されかねない。その判断は、私が取らなければならないが。

「春風、時津風、二人が最前線だ。一番危険なところでもある。

 危ないと思ったらすぐに戻って欲しい。撤退するときは低速の私に合わせる事になる。その時は砲撃をしながらの撤退だから、動く事も出来ないほどぼろぼろになってからでは遅い」

「撤退しながら追撃する敵艦を順次撃破していくという戦い方もある。

 あるいは、遅滞戦術に勤めて僚艦が駆けつけるまで時間を稼ぐでもいいし、なんにしても、撤退すると決めてからもある程度戦える。それ前提で判断をした方がいい」

 初月の言葉に頷く。それが安全だろう。

「大まかに、このような流れでしょうか?」

 春風はさらさらとノートにまとめてくれた。

「そうだな。……さて、」

 みんなの意見はまとめた。あとは、

「この艦隊のコンセプトがこれであっているか確認しておこう」

「提督の所か?」

 初月の問い、それもいい、とは思うが。

「いや、この艦隊を編成した阿武隈の所だ」

 まずは彼女の所に行くべきだろう。

 

 事前に話を聞いていた。だから、迷うことなく彼女の部屋へ。戸を叩く。

「阿武隈、長門だ。相談したいことがある」

「はいっ? あ、ど、どうぞっ」

 皆と顔を見合わせる。……やはり、連合艦隊旗艦の戦艦、というのは、私が思っている以上に重いのかもしれないな。

 困ったものだ。

 扉が開く。

「あ、秋月姉さん」

「初月っ、と、皆さんも、どうしましたか?」

 ふむ。

「上官である阿武隈に教えを請いに来た。

 忙しいとは思うが、後輩を助けると思って時間を融通してはもらえないだろうか?」

 と、丁寧に頭を下げてみた。

「わ、わ、……い、いえ、そんな」

 で、わたわたする阿武隈。秋月はそんな旗艦を見て幸せそうにしている。

「……ああ、すまない。少し悪ふざけをした。

 が。ここでは私は後輩で、明確に階級として別れていなくても阿武隈は上官と思っている。だから、かつての連合艦隊旗艦だからと言って遠慮は不要だ」

「う、……うん。そうだよね。提督からも、言われてるし。しっかりしないと」

 確認するように呟く。そう、ちゃんとそう思ってくれるなら、あとは慣れてもらえばいいか。

「私たちが使っている部屋でいいか? よければそこで話を聞きたい」

「はい、OKです。あ、秋月ちゃんはどうする?」

「秋月も聞いておきます」

 というわけで、私たちは阿武隈、秋月と部屋に向かう。途中。

「そうだ。秋月姉さん。対空射撃について聞いておきたい。いいだろうか?」

「ええ、いいわよ。どんな事?」

「金剛さんから、波や風の動きを意識したら精度が上がったと聞いた。コツがあるなら聞いておきたい」

「コツかあ。…………ううん」

「難しいか?」

 難しい表情をする秋月に初月が問い。

「経験を積み重ねるのが大切だから、……ただ、やっぱり周りをよく見る事が大切よ。

 僚艦や敵艦、敵機だけじゃなくて、風、天気、波の状態も意識してね。秋月は出来るだけ周りが落ち着いた時を狙って、確実に落せるように意識してるけど、照月は風が強い日とかは艦載機の動きも乱れるから。そういう時に弾幕を張ると結構落とせるって言ったわね。

 そのあたりは初月の気質と、やり方次第だから、秋月も、アドバイスは難しいかな」

「うん、わかった。ありがとう。

 天気か、いろいろ、意識してみる」

「ええ、それがいいわね。

 もちろん、出撃するときはいつもいい天気とは限らないから、悪いなら悪いなりのやり方を考えてみる。……やっぱり、経験あるのみね。……ごめんなさい、初月。あんまり、いいアドバイスできなくて」

 秋月は肩を落とす。けど、

「いや、参考になったよ。ありがとう、秋月姉さん」

「私も勉強になるわ。防空駆逐艦の戦術とか」

「瑞鳳も?」

 不思議そうに問う時津風。

「そうだな。軽空母である瑞鳳にとって防空駆逐艦は天敵か。天敵の戦術を知ることは勉強になるな」

「うん、秋月ちゃんにはいつも助けられてるわ」

「あ、ありがとうございますっ」

 ぽんっ、と阿武隈は秋月の肩を叩き、秋月ははにかんで応じる。

「秋月姉さんは、第三の三艦隊なのか?」

「うん、照月と第三の三艦隊、と、第三の二艦隊を行ったり来たりしているの。

 秋月たち第三艦隊はそのあたり流動的なんです」

「他は違うのか?」

「はい、第一艦隊は、第一の一艦隊はほぼ固定で、あとは艦隊決戦の規模に応じて応援や入れ替わりがあります。

 第二艦隊は、主力の三艦隊は完全に固定です。遠征のために必要な資材は徹底的に削減、変動幅を低くするために入れ替わりは物凄く厳密に管理されているみたいです。

 第二艦隊の主力として認められる艦娘が、一艦隊組めるだけいれば、新しい艦隊を作るって話はあるのですけど、……あそこは厳しいですから」

「あたしたち第三艦隊は哨戒とか護衛とか、やる事がたくさんあるから流動的になりやすいんです。

 ある程度適材適所はあるけど、いろいろこなせるようになっておかないといけないです」

「主力艦隊は楽じゃないねー」

 時津風が肩を落とす。「やり甲斐がありますっ」と春風。

「あの、阿武隈さん。もしよろしければ第三艦隊の任務とか教えていただけませんか?」

「んー、いいけど、それよりは記録、見た方がいいと思うわ。主観抜きの記録を見て考える事も大切だし。

 本部に図書室があるから、…………どうする? そっちで話する?」

 図書室、か。

 時津風はあまり興味なさそうだが、初月はこくこくと頷いている。

 この基地の記録を見るのも勉強になるだろう。知っておいて損はない。だから、

「ああ、頼む」

 頷いた。

 


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