現代日本のオタサーの姫が、古代ブリテンのお姫様になったら 作:蕎麦饂飩
選択肢
・ええ、『わたし』は理想のお姫様ですから。
→・いやよ、『私』はまだお姫様を楽しみたい。
「いやよ、『私』はまだお姫様を楽しみたい」
この世界で『私』は折角お姫様になれたのに、意味のある世界に、価値のある世界に出会えたのに、
此処で手放してなるものですか。
お姫様になれれば他に何もいらないから、お姫様である事だけは止めたくない。
「そうかい。ではこの後どういうお話に持っていくつもりだい?
どちらにしろ、男である僕には君へどうこうする事は出来ないからね」
「決まっているわ。
ハッピーエンド、完全無欠のハッピーエンドよ。それ以外は絶対に認めないわ」
だからマーリン、あなたは私が描く物語を見ていればいいわ。
私は『わたし』を受け入れる優しい世界に愛されている。だから私だってこの世界に愛されるはず。
心の底からそう思っていた。
取り巻きの騎士の1人に試しに『私』の在り方を見せてみた。
すると、その騎士は酔いがさめたような顔をしていたので、少しからかってみただけという事にして誤魔化した。
そして他の騎士に試してみた時も、他の王に試してみた時も同じ反応だった。
それを繰り返していくうちに私もいい加減に気が付いた。
男達が求めていたのは『理想のお姫様』であって、『織田姫子』なんかじゃない。
私がお姫様でいられればいい様に、男達はお姫様が相手でいれば良かった。
――それならそれでいい。
『私』は『わたし』として『私』になる。
私が、わたしになる。
日本と、オーストリラリアとアメリカ。
この時代其処までの戦力や技術を持っていなかったハズなのに、驚異的な離島同盟の盟主として、
ユーラシア・アフリカと陸続きで無い諸島群を纏め上げ強力な海軍を構築した。
そして人間だけでなく、動物や妖怪、果ては神霊に準じる化身の様な者達も私達に対抗するべく団結してきた。
それにより、大ヨーロッパ帝国の進撃が停滞した。
私はその時にふとある事がよぎった。
衝突により流れを止められた水がどのように扱われるか?
私がまずいと思った時、暗黙の了解でギネヴィア妃を形式上の長とした女性達による反乱が勃発した。
ここで私を囲い込んで息の根を止めるつもりだと。
でも、ここで終わるようならそもそも今の今まで『理想のお姫様』をやってこれていない。
もしもの時のカウンターとして用意していたランスロットを差し向けてある。
義母が例え乗り気でなくとも、関係ない。
敵対組織の戦意を削ぐために必要な処置だ。
彼女達も神輿を壊されてはどうにもならないだろう。
少なくとも、今度は相手の動きが止まる。そこで逆に男社会と言うダムの枠組みで封じてやる。
それよりも侵略戦争だ。敵対者の抹殺と併合だ。
私が解決する度にスケールが大きくなっていく敵対者の反乱。
それは、ヨーロッパの表面積が増える分接する地域が大きくなるからだろう。
きっとそうだ。そうに違いないの。
だから、気にすることなく私はオーストラリア、日本、そしてアメリカ大陸を撃破させて支配させた。
そうすることで、世界が統一された。これで私に逆らう者はいない。
「アムル様!!」「アムル様!!」「アムル様!!」「アムル様!!」「アムル様!!」「アムル様!!」
「アムル様!!」「アムル様!!」「アムル様!!」「アムル様!!」「アムル様!!」「アムル様!!」
世界市民たちが統一言語で私の名前を称賛する。
素敵だった。最高だった。これがあるべき世界の姿だと思った。
その暫く後だった。
星の外側から良く解らない化け物がやって来た。
私を狙ってくる化け物を倒すために地球の人々が一丸となって戦い、少なくない犠牲を払ってそれを押し返した。
その暫く後、化け物は他の化け物と共にこの星へとやって来た。
でも、今までと違って私達の戦力は以前の戦争から増えて入っていない。
一回目の化け物撃退とは比べ物にならない被害を世界は受けた。
領土外の外敵の撃退故に、恩賞も与えられなかったが人々は私の為なので何とか納得したようだった。
第一、恩賞とかどうでもいいんじゃないかと思う。
それでも私を護り切ったのだからその意味はあったんだから。
そして、第3次異星漂着者撃退戦では敵対する化け物は4体になっていた。
それでも、それでも私を護る為に、男達はそれ以外を顧みず戦った。
そして道路は分断され、土地は荒廃し、本来護られるべき彼らの妻子は死んでいった。
そうして何とか勝利を収めた。
それでも、私を護り切ったのだから意味は十分にあった。
意味は十分にあった――――――其のはずだったのに
「どうして…ですか…?お父様――――」
3回目の異星の化け物達を追い払った後、アーサー王の聖剣が私を貫いていた。
どうして? 私は全ての男に護られるべきお姫様の筈なのに。
男が私を害する訳が無いのに。
私は幸せに生きるべきはずなのに――――
そんな私の疑問の一部を解消するように、アーサー王の隣にいたマーリンが呪文を呟くと、
アーサー王は女性と見間違うばかりの凛々しい王から、髪を下ろしたどう見ても美しい女性的な姿に変わった。
アーサー王は女性だった?
では私はどうやって?
いったいどういう事かわからない。何も考えられないし、考えたくも無い。
いや、そんなことはどうでもいい。
お姫様が悪い奴に狙われるのは当たり前。だからそれを正義の味方が助けに来るのも当たり前。
そのはずなのに、どうして
私は世界をまとめた。世界を平和にした。世界を救ったの。
だから私が救われても良いじゃない。なのに…
どうして?ねえ、どうして――――
世界を破滅させる事は無いが、世界を破滅させる要因を無限に呼び続ける厄災の姫の終焉。