【改稿版】ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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戦士長との邂逅

 「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフである。この近隣を荒らし回っている帝国の騎士達を討伐する為に、王のご命令を受け、村々を廻っているものである」

 

 装備は不揃いであるものの、所々の装飾や色のイメージで統一されているその騎士……いや、戦士達を率いる者、エレティカは初の戦士長との邂逅に、そういう印象を抱いた。 

 

 「王国戦士長……!」

 

 「ん……?」

 

 王国戦士長、と聞いてカルネ村の村長が驚きの声を漏らした。

 そして、それを敏感に感じ取ったアインズは、ガゼフという人物の、”王国戦士長”肩書きから、漠然とではあるが、「多分この王国の戦士の中でも相当に上位に位置する者なのであろう」と推測した。

 

 「カルネ村の村長だな……横に居る者達(・・)は一体何者なのか、教えてもらいたい」

 

 対してガゼフは、対面する黒いローブを纏い、怪しげな、怒っているようにも泣いているようにも見える仮面を被り、表情の一切が把握出来ない男。

 そして、その傍らに随伴するように一歩引いたところで佇む、黒い甲冑の、胸部の形状からして恐らくは女性と思われる、ハルバードを持つ騎士。

 同じく、その対になる位置に、一見、赤黒い血を思わせるドレスを身にまとい、不気味な形のハルバードを持つ、不自然な程真っ白な肌の少女が、その外見の年齢からは考えられない程妖艶な笑みを浮かべそこに佇んでいた。

 

 「こちらは……」

 

 「それには及びません。初めまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウンの一員……今はアインズと名乗る者です。この村が襲われて居る所を助けに来たマジックキャスターと、その伴をする者達です」

 

 村長に被せるようにアインズがそう告げる。

 そして言い終わると同時に、ガゼフは驚いたように軽く目を見開き、馬から降りた。

 

 「この村を救っていただき、感謝の言葉もない!」

 

 と、感謝の言葉を伝える為に。

 

 内心「怪しい奴め!ついてこい!」みたいな展開になったら、等と考えて居た節もあり、戦士長だというのに随分簡単に信用し、そして感謝を述べるのだなとアインズは思っていた。それが彼の性格故か、あるいは戦士長といえど、この国ではそこまでの権力を持っていないのかまでは分からないが、”虫程度の親しみ”が沸くのを感じる。

 

 「戦士長!周囲に複数の人影!村を囲むように接近しつつあります!」

 

 そこに、一人の戦士がガゼフの元にそう報告を告げ、それがアインズやエレティカ達の耳にも入った。

 

 

 「(やれやれ……なかなか帰れそうにないなあ)」

 

 

 思えばただこの世界の住人の戦闘レベルが知りたかったが為にした行動だったが、こうも事が大きくなっていくとは思わなかったのもあり、疲れを知らないハズの体が重くなったように感じた。

 

 

 そして、それから数分後。

 

 

 村の倉庫にあたる場所にて、身を潜めながら相手の姿を確認すると、報告通り、村を囲うようにして、それは現れた。

 

 「(アニメではそこまで意識して見ていなかったから分からなかったけど、たしかに、この世界のマジックキャスターの水準を考えると、あの数はそれなりに驚異かもしれないわね……)」

 

 今見えるだけで少なく見積もっても二十人以上のマジックキャスターで、見えないのを含めると、記憶では百人以下の構成員で、それぞれ第三位階の魔法を使えるとかなんとか。

 

 そんな一人前のマジックキャスターをこれだけの数を揃えるというのはなかなかに骨が折れる事だと一人考えていた。

 

 原作では居るような居ないような連中だったが、そう考えると大したものである。

 

 今後出会うであろう一人前の冒険者チームのマジックキャスターを百人集めましたと言えばそれがどういう物か分かるだろう。

 

 

 そんな事を考えながら一人頷いていたエレティカだったが、「どうせ死ぬ」という彼らの未来が決定している以上、「死人について考えても無駄か」と興味をなくした。

 

 しかしただこうやって突っ立っているだけで終えるつもりはなく、彼女はあることに関しては介入をするつもりである。

 

 といっても、唯一彼女がやれること、やる必要がある事と言えば、彼らを一通り回収し終えた後、情報を聞き出すために拷問する時に訪れる。

 彼らは情報の漏洩を阻止する為に、ある一定の条件で情報を吐露してしまいそうになった場合、強制的に死に至る魔法が掛けられている。

 それを彼らが知っているかどうかは定かではない……もしかすると本国が彼らを覗いていた事すら知らない所から、それ自体知らないのかもしれない。

 

 まぁ、重要なのは彼らが知っているかどうかではない。

 拷問する側としては、情報を聞き出す前に死んでもらっては困るのだ。

 

 「(だから私は、彼らが拷問にかけられる際、手を加える必要がある)」

 

 まぁ具体的には……最初からニグンを拷問するのではなく、念の為に雑魚から拷問にかけていった方が良いのではと言っておくとか……。

 

 管轄外(?)なので怒られるかもしれないが、いざ拷問して「ほら見ろやっぱり念の為に雑魚からにして良かっただろう」となればそれで良いのだ。

 

 そんな事を傭兵NPCであるエレティカが進言する事自体に違和感があるのだが、そこにエレティカは気付かない。

 

 

 「……ではこれをお持ち下さい」

 

 「?……君からの品だ!有り難く頂戴しよう」

 

 

 等と彼らの明日を考えている内に、話し合いは済んだらしい。

 

 

 ……そこで、はたとガゼフとエレティカの目が合った。

 

 

 ガゼフは、初めて落ち着いて彼女を見た。

 

 初見ではとても戦いが出来るような、この心の広く、そして強いアインズの伴として、あまりに幼すぎるのではないか、と思ったが、考えてみれば、自分の身長よりもある大きなハルバードを持っているというのに重そうな素振りも辛そうな素振りも無く、今も全く同年齢の少女を思わせない笑みで微笑んでいる。

 

 恐らくは彼女もアインズと同様、秀でた才の持ち主であり、ともすれば筋力、あるいはハルバードの扱いに秀でたタレントの持ち主か何かなのかもしれないなと結論づけた。

 

 とはいえこの幼い子供が戦いの場でハルバードを振り回す事に思う事が無いわけではないので、要らぬ世話だと分かっているが、彼女に話しかけることにした。

 

 「君も、村を救ってくれてありがとう……しかし、その歳で戦いの場に出るのは辛くないのか?」

 

 そう聞かれたエレティカの反応はというと、「ガゼフってやっぱ渋くてカッコイイなあ、前前世じゃこんな筋肉隆々でゴツい人あまり見ないし」等と考えていた為、考えてもいなかった自身への問いに一瞬困惑する。

 

 そして口から出た答えは、「いえ、大丈夫ですよ。私、こう見えてすっごく強いですから」というものだった。

 

 100%事実であるのにも関わらず、その態度とセリフから、子供が見栄と威勢を張っているようにしか聞こえなかった。

 

 おのれ……私がヴァンパイアで無ければこんなことには。

 

 

 

 ガゼフはそれを聞いて、その態度から本当か嘘かわからなくなり、曖昧な笑みを浮かべ、子供とはいえ村を直接的に村を救ったのは彼女とアインズが制御するデスナイトであると聞かされていたのを思い出した。

 

 「そうか、それは頼もしいな」

 

 ガゼフはそう笑いかけながら、その場を後にした。

 

 ちなみにもう一人の黒い甲冑の女騎士とも目が合ったが、彼女からは初対面であるというのに異様に冷たい目線を向けられていたので話しかけるのは止めようと考えた。

 賢明な判断である。

 

 

 「アインズ様、私はこのままアインズ様の御身をお守りするということでよろしいのでしょうか?」

 

 「うん?このままでいいぞ。それとも何か問題があったか?」

 

 問題、と聞いてアルベドがキッと「アインズ様に問題などあろうハズがない!」とエレティカに殺気を向けるが、それを受け流し、「いえ、早期解決を求むのであれば私が出て行ってあの小蝿を叩き落としてきた方が早いのでは?」と言った。

 

 それに対し、アインズは「まさかこいつも(人間嫌い)なのか?」と疑い、「お前も人間は嫌いか?」と問う。

 

 「いえ、人間そのものが嫌いという訳ではありません。純粋に、ご主人様の敵なら排除すべき者であり、味方、あるいは何かしらの役に立つのなら、レベル1の人間でも生きる価値が存在すると考えております」

 

 

 それを聞いたアルベドが「はぁ?」とでも言いたそうに首を傾げて怪訝そうに見つめるので、エレティカはそんな事があるのかは別として、と付け加えた。

 

 アインズは聞きながら「エレティカにとって人間かどうかが重要なのではなく、敵か味方か、それ次第であるという事か。まぁ主人を守る傭兵と考えるなら……それらしい答えではある」と思う。

 

 一応、「敵だと判断した場合なら良いが、出会って間もない人間に悪感情を持たれるような事はするなよ?まぁエレティカなら心配ないと思うが」と釘を刺しておいた。

 

 まさか、「あなたは味方ですか?それとも敵ですか?」とハルバードの切っ先を首元に突きつけたり……しないとは思うが、ナザリック勢の影響を受けているのなら十分ありえると思えたからである。

 

 「で、奴らの処分についてだが……まぁたしかに早期解決にはそれが一番だが、今回はあのガゼフとかいう、この王国最強の戦士の実力とやらを見せてもらう絶好の機会だからな……この世界のレベルの水準がこれで明らかになるという訳だ」

 

 「成る程!流石はアインズ様ですね」

 

 まぁそうであるのは知っていたがと内心で零しつつ、エレティカは全力でヨイショした。

 

 

 「……(あれ?まてよ?よく考えたら俺がわざわざ出て行くまでも無いのではないか?)」

 

 

 エレティカの「私が殲滅して来ようか」という案を「いや、相手の実力が見たいから」と却下したものの、考えてみれば、「相手の実力が見たいから」と伝えてさえおけば良いのではなかろうか。

 

 敵の実力が見たいのなら、「手加減して実力を引き出してから殺せ」と命令すればいいのだ。

 無論ユグドラシルでは考えられない事だが、ここはゲームではないのだから可能なはずである。

 

 見たところあの天使達ではまかり間違っても、天地がひっくり返ろうがエレティカには敵わないというのはナザリックの者なら誰でも分かる事実。

 

 であるならここは、わざわざ”上位者”である自分が出るのではなく、部下であり、下僕である彼らに仕事を与えてやるというのもまた上位者たる自分の努めと言えるのではなかろうか。

 

 そして、冷静で、強く、恐らくはこの仕事をこなせるであろう者が今、目の前に居る。

 

 急に見つめられたからかきょとんとして首を傾げているが。

 

 決意するまでにそう時間は掛からなかった。

 

 アインズは、友人にメッセージを繋ぐ。

 

 

 

 『……ペロロンチーノさん、ちょっといいですか?』

 

 『……はい?』

 

 

 

 

 

 数十分した所、場所が変わって、戦士長サイド。

 

 

 アインズが魔法でそれを覗くものの、それは「お世辞にも高いとは言えないレベルの戦いである」という印象しか抱けない。

 

 唯一特筆すべき点があったとすれば、戦士長の放った”武技”というらしい、スキルにも似た技の数々。

 

 「(あれはユグドラシルには無かった……この世界特有の戦闘技術ということか)」

 

 にしては、相手側は使役するモンスターがユグドラシルと同じものであるというのは一体どういう事なのだろうか。

 

 偶然で異世界にユグドラシルと同じモンスターが居るなんてことが果たしてあり得るのか?

 

 

 考えている内にも、戦況は変化し……いや、進行していくというべきか。

 一時はその武技でもって天使達を打倒していたガゼフだったが、何度倒しても数が減らない天使に、徐々に体力を奪われ、傷も数を増やしていき、戦況は悪化する一方であった。

 

 「お前を殺した後、村人達も殺す。無駄なあがきを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに、苦痛なく殺してやる!」

 

 そうニグンが言い放つと、ガゼフは「フッ」と嘲笑する。

 

 「……何がおかしい?」

 

 「フッフ……愚かな事だ……あの村には、俺よりも強い御仁が居るぞ……!!」

 

 「ハッタリか?……天使達よ、ストロノーフを殺せ」

 

 そして、指示に従い、天使達が動き出す。

 

 万事休す、ガゼフは死を覚悟した……だが。

 

 

 『では行ってまいります』

 

 

 

 

 

 瞬間、目の前には天使達とそれを使役する敵の姿、ではなく、死屍累々、いや、全員怪我を負っているものの生きている仲間達の姿、つい先刻避難したはずの村人達、そして村を救ったというマジックキャスター、アインズ(・・・・)とその伴をする黒い女騎士の姿であった。

 

 「こ、ここは……?」

 

 「ここは村の倉庫です。仲間(・・)が魔法で防御を貼っています」

 

 そうアインズが応える。

 ガゼフは彼を見て、ある違和感に気づく。

 

 そうだ、ここを出る前に一言二言だけ会話した、あの少女の姿がないのだ。

 

 「……あぁ、エレティカは今、あの者達の始末に行っていますよ」

 

 「なっ!?」

 

 顔色から彼の疑問に答えるアインズ。

 ガゼフはその言葉に思い当たる節が脳裏に浮かび、先程アインズから貰った、妙な形のアイテムを懐から取り出すと、それは役目を終えたとでも言うように、光の塵となって空気に溶けていった。

 

 「……まさか、いや、それは一体……!?」

 

 「心配ご無用ですよ」

 

 とはいえ、少女である。

 見た限り、成人もしていない、幼い少女だった。

 

 「……あの娘を、見かけ通りの者だと思ってみているなら、今すぐやめた方がいい。……あれは、彼女は、貴方の何倍も強い」

 

 激高しそうになった頭が、アインズの言葉によって冷水を浴びせられたように冷えていった。

 それ程までの説得力が、その声色に現れていたからだ。

 

 これは直感でしか無いが、多分彼は本当の事を言っている。

 

 リ・エスティーゼ王国の戦士長がたかが旅のマジックキャスターの伴である少女に劣るなど、一体どうして信じられようか。

 

 だが、実際、村を救ったのは誰であったか?

 アインズ殿は彼自身が使役するデスナイトとエレティカという少女の手で救ったのだと言っていた。

 この村の村長、そして他の村人から話を聞けば多く出てくるのはアインズ殿の名前、そして次いで多かったのが彼女の名前である。

 

 主な功績を挙げていると思っていたデスナイトはちょろちょろと名が挙げられるだけ。

 

 もしかすれば、あの少女は外で番犬の如く鎮座する大いなる死の騎士よりも強いという事なのではなかろうか。

 

 であるなら、認めざるを得ないだろう。

 恐らく、彼女は、俺よりも強い。

 

 

 そう彼の脳が結論付けた瞬間、既に体力の限界を超えていた戦士長は、フッと力が抜けバタリとその場に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「誰だ、お前は?」

 

 「ごきげんよう、スレイン法国の皆様。私はエレティカ・ブラッドフォールン。君命に従い、貴方達に絶望をお届けに参りました」

 

 

 戦場には、ガゼフと入れ替わるように、ハルバードを持つ華麗な令嬢(絶望)が現れた。


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