【改稿版】ユグドラシルのNPCに転生しました。   作:政田正彦

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カルネ村の悲劇

 エレティカがカルネ村に着いた時には、既にデスナイトが到着しており、カルネ村は混乱の最中にあった。

 

 騎士達からしてみれば、楽な仕事だったハズがいつの間にか任務が伝説級のバケモノの討伐に切り替わっており、村人からしてみれば、ただでさえ絶望的な状況が一匹のモンスター乱入という絶望の上乗せが来たというような状況である。

 

 

 「……さて、私もお掃除をしなきゃ、ね」

 

 

 エレティカはそう言いながら、デスナイトの無双っぷりを見て「アレなら別に私が手をくださなくてもいいかも」と考えを改め、とりあえず盾でぶん殴られてピクピクしている騎士ゴミは異界門(ゲート)で拷問官、ニューロニスト・ペインキルの元に搬送し、ぶった切られてゾンビ化しちゃっている騎士カスは黒棺ブラック・カプセルでむしゃむしゃしてもらおう、ということにした。

 

 ……うん?あぁ、そうか、精神がヴァンパイアに寄ってしまっているのか。

 やけに人間への情とか、同族へ向けるべき感情が薄いと気付いたが、彼女にとってそれはどうでもいいこと・・・・・・・・だった。

 

 

 「お゛……お前、は……!?」

 

 

 はいはい、村々を襲う悪い騎士はしまっちゃおうね~とばかりに、驚愕に染められた顔の騎士の言葉を無視してゲートの中にぽいぽい突っ込んでいく。

 夏に虫取りをする少年が捕まえた虫を虫かごにぽいぽいしていくような気分である。

 このあたりにはもう居ないかな~と一旦ゲートを閉じると、物陰から悲鳴が発せられた。

 

 

 「うわぁぁぁ!!?人が、人が消え……!!」

 

 「あら、こんなところにまだ殺し損なったゴミ虫が……デスナイトったら、これは後で説教ですね」

 

 

 原作で物陰に隠れていた奴なんて居たのだろうか?と内心首をかしげていたが、描写されていないだけでこういう腰抜けが居ても不思議ではないかと考えた。

 

 強大な敵を前にした反応として正しいとも言えなくはない。

 

 ただ……腰抜けに変わりはないし、今エレティカに気づかれてしまったので、全くの無意味だった訳だが。

 

 

 一瞬、しまった!という顔で固まった騎士は、その隙をエレティカに突かれないハズもなく、その表情のまま宙に飛んだ・・・・・。

 

 そのまま、くるくると視界は回る。

 

 騎士はそれを困惑した気分でただ見ているしかなかった。

 

 

 

 空。

 

 今、何が起きた?

 

 飛んでる?

 

 死んだ?

 

 誰が死んだ?

 

 血だ。

 

 首がなくなった身体。

 

 俺の身体……?

 

 

 

 あれ、俺の身体……どこ……。

 

 

 それが、臆病者な騎士の最後の思考となった。

 奇しくも、この部隊で最も勇敢な者とほぼ同時に、それも同じような死に方で散っていったのだった。

 

 

 「デスナイト!エレティカ!そこまでだ!」

 

 少しして、騎士の数がだいぶ減った頃を見計らってそれは現れた。

 一人は、怪しい仮面をつけた男。

 もう一人は、黒い甲冑に身を包む女性……。

 

 仮面を着けた男の命令により、二つの絶望がぴたりと行動を停止する。

 

 二人を見て、おや?ご主人様は何処へ?と思ったエレティカだったが、考えてみれば彼はローブやフードをかぶっても手が鳥っぽいし、なにより羽根の部分はどう隠そうとしても盛り上がってしまい、どうしても不自然になるため、その異形を隠すことができそうにないという事を思い出し、恐らくぶくぶく茶釜様が居ないのもその為だろうと思った。

 

 恐らくは、この光景も遠くで見守っているのだろう。

 

 

 

 「さて、生き残った諸君には生きて帰ってもらう。そして貴様らの主……飼い主に伝えろ。「次このあたりに手を出したら、次は貴様らの国まで死を告げに行く」と。……行け!!そして確実に伝えるがいい!!」

 「う、うわあああーーーっ!!」

 

 

 エレティカは、脱兎の如く踵を返してなりふり構わず走り去る騎士達の後ろ姿を見て、今日、騎士達は多分人生でも1番走ることになるだろうなぁと、益体も無い事を考えていた。

 

 同時に、心のどこかで「虫けらにはお似合いの姿だ」とも。

 

 それに気付いて、やれやれと首を振った。

 どうやら精神はヴァンパイア寄りになってしまっているらしい。

 元同族に対して虫けらだのカスだのゴミだのはあんまりだろうと自身に突っ込みを入れた。

 

 「あ、貴方達は、一体……?」

 

 「申し遅れました……私の名はアインズ。この村が襲われているのを見て、助けに来たマジックキャスターです。ですから、もう安心……」

 

 「……たす、かった……のか……?」

 「でも……」

 「いや……」

 

 もう安心だ、と言いかけて、彼らの顔から未だに不安の色が残っている事に気付く。

 一拍考えてから、言葉を続けていく。

 

 「……とはいえ、無償で助けるわけではありません。事後承諾、という形になってしまって申し訳ないが……それなりの報酬を頂きたい」

 

 「……おお……!」

 「た、助かった……」

 「良かった……良かった……」

 

 「(金銭目的である、ということにしておいた方が、余計な心配をされずに済むという訳か……しかし、あの姉妹が怯えていたのはこの骸骨の顔。いや、異形の姿だったのか……)」

 

 驚いたという意味では、エレティカのあの姉妹に対する、優しく安心させるように微笑み話しかけていたあの対応の方が驚いたのですっかり印象として薄れてしまったが、そっちの方が大事だった……。

 

 ここでうっかりその事に気付かずにここに来ていたらどうなっていたことか。

 

 現地の村人と初の邂逅……どころの騒ぎではなかったかもしれない。

 

 危うく、村人VSスケルトン&バードマン&スライムというカオスな状態になるところだったと思うと、流れる筈のない冷や汗が流れる思いだった。

 

 「エレティカ、回復のアイテムは持っているか?」

 

 「はい。ご主人様……”ゴウン様”に賜ったアイテムは全て常時肌身離さず持っています。念のために」

 

 「そうか……では、肌身離さず持っている所悪いが、ソレで彼らの治療を頼めるか?」

 

 「それは良いですが……いえ、承知しました」

 

 先程まで、ハルバードを振り回したりゲートで騎士をしまっちゃおうねーした後なので、村人たちから恐れられているのでは?と思ったが、一瞥してそんな訳でもなさそうだと思い直す。

 理解が及ばな過ぎて怖がるという段階をすっ飛ばしてしまったのか?

 まぁ、それならそれで都合がいい。

 

 結果として、アインズが村長との邂逅、情報の提供を終わるまで、私はポーションによる村人たちの治療にあたった。

 

 

 

 「すみません……このポーション、貴重な物なのでは?」

 「お、俺、こんなもんに払える金なんか……」

 

 「いいんですよ。元より使いどころが無くて荷物を圧迫するだけの無用の長物でしたから。このポーションも、今必要としている貴方達に使われた方が本望というものです」

 

 聞きつつ、村人達は「なんと懐の広い方々なのだろう」と、涙を流しながら感謝の言葉を述べた。

 エレティカは内心で、「もう手に入らないかもしれないという考えは無いのだろうか?……まぁ腐る程なんてもんじゃない位あるし……大丈夫か」と呟いたが、無論心中にとどめて置いたので、それが誰かに伝わる事は無かった。

 

 

 

 「……俺のエレティカが天使過ぎて生きるのが辛い」

 「……それ、下僕の前では絶対に言わない方がいいわよ」

 「え?何で?」

 「…………」

 「……あっ、そ、そうか、あぶねぇ……」

 

 

 声優だけあって、既に下僕達の”キャラ”をなんとなく理解していたぶくぶく茶釜は、もし本当に弟が「生きるの辛い」とか言い出した日には「何がご不快な点がございましたか!?」「自害してお詫びを!!」とか言い出しそうである。

 ジトッと(ネチャリと?)有りもしない目で睨みつけられ、ようやくそれに気付くペロロンチーノ……いや、”ゴウン”であった。

 

 

 あれから、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜、モモンガの三人は名前を変えた。

 いや、正しくは変えたというより、ナザリック外でのみ、別の名を名乗ることにした。

 

 ペロロンチーノがゴウン。

 ぶくぶく茶釜がウール。

 モモンガはアインズである。

 

  理由は、その方が”アインズ・ウール・ゴウンの名を広める”という目的を遂行しやすいだろうと考えたためである。

 

 もしプレイヤー等がこの世界に居た場合、そしてアインズ・ウール・ゴウンを知っている場合、これだけでも気付いてもらえる可能性が高い。

 

 

 「(少し違和感があるけどね……ゴウン様とウール様って……まぁ、ご主人様はご主人様でいいか)」

 「ありがとねぇ。本当に……」

 「いえいえ」

 

 

 こうして、ナザリック外での名前を決めたはいいものの、ぶくぶく茶釜様は果たしてちゃんとウールの名を使う日が来るのだろうか?と益体の無い事を考えながら、けが人の口にポーションを流していく。

 

 

 エレティカは目の前の人間を見ながら、自分が彼らに対してどういう感情を抱いているかについて考えた。

 

 

 先程の騎士、いや、ゴミにも等しいカス共は、やはり、ゴミにも等しいカスとしか思えなかった。

 目の前の彼らはどうか?

 ゴミにも等しいカス……とは思えなかった。

 先程殺したカスと同じ、人間なのにだ。

 だが、かといって人間に友好的な感情を持ち合わせているかというとそれも違う。

 

 「(私のカルマ値は善寄りだった筈だけど……まぁ、それを言ったらセバスだって、悪人には容赦無かったような気もするし)」

 

 案外、生来容赦の無い性格だったのかもしれないが、今となってはどうでもいい事だ。

 流石に転生する以前から人を殺しても何も思わないような人間では無かったと思うが。

 

 結論として、エレティカは人間に対し「敵対する人間=救う価値のないゴミ以下の存在。友好関係にある者は=あまり興味が無い」という結論に至った。

 

 「(……いや?まてよ……?一つ、例外があった)」

 

 

 エンリとネムだ。

 

 

 よく考えてみれば私の彼女らに対する態度はかなり友好的と言っても良い。

 出来れば彼女らの両親も救ってあげたかったとすら思う程には。

 

 彼女らと、目の前の人間の違いは何だ?

 

 

 少女だったから?違う。

 

 可愛いから?全く無いとは言い切れないが、違う。

 

 彼女らが特別だった?

 

 

 「(……そうか、原作に深く関わるキャラクター……)」

 

 

 とるに足らない人間、その中にたった一握りの例外として、原作に登場する人間のキャラクター……今後登場する、漆黒の剣やンフィー、敵として登場するクレマンティーヌ、カジット、それから漆黒聖典を思い浮かべ、確信する。

 

 「(やはり違う。彼らは、私の中で、いや、人間の中で、例外の存在だ)」

 

 

 何故なら、彼らに干渉する、それはつまり、原作に干渉するのと同義だ。 

 もっと言えば、ナザリックの面々に干渉し、間接的に原作に干渉する事と同義。

 

 彼らは、エレティカにとって、「原作に干渉する為に必要な者達」である。

 

 

 「(まず漆黒の剣、彼らを救いたい……)」

 

 これから起こるであろう出来事を指を折って数えていく。

 

 「(ンフィー君が怖い思いをしないようにしたい……個人的にはクレマンティーヌさんも好きだから、生かしたい……カジッちゃんは……宝珠に操られているだけなんだとしたら、救うべきか……それに何より、妹、シャルティア……あの子も、洗脳なんてさせたくない。というか、絶対させない)」

 

 しかし、原作通りに進むと不幸な結末を迎える者が居ると知っておきながらそれを傍観する……それが自分に出来るとは思えなかった。

 

 だが一つ、無視できない問題がある。

 

 「(シャルティアサイドとモモンサイド、同時に介入するのは不可能という事……でも……なんとかして、救いたい……きっと、知っている私にしか、救えない)」

 

 

 「なんとかしないと……」

 

 

 ここに来て、彼女の行動指針が定まった瞬間であった。

 

 

 「た、大変です、村長!き、騎士風の男達が、村に向かって来ています!」

 「なっ……ど、どうして……どうすれば……!?」

 

 と、考えているうちに、原作が進んでいくようである。

 声をかけようか迷う暇も無く、背後からため息が聞こえた。

 

 「……モモ……ッアインズ様」

 「また、厄介事か……(ここまで関わってしまったんだ……こうなれば最後まで面倒を見るべきだろうなぁ)」

 

 アインズは、渋々彼らの話を聞き、指示を出した。

 その内心はおくびにも出さず。

 

 村長を残し、村人達が避難をしていると、漸く肉眼でその姿を捉えられる位置まで彼らが迫り始めていた。

 

 


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