九番目の少年   作:はたけのなすび

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エイプリルフールネタ。



単発編
■■■くんの今日のべんとう【エイプリルフール】


 

 

 

 

「あの人たちは、もう……」

 

 朝、家の片付けを終えた後のことだ。

 居間のテーブルの上に、置きっぱなしの弁当箱を二つ見つけて、俺は額を押さえていた。

 

「忘れ物はないかって言ったら、無いって言ってただろ……」

 

 だのに揃って昼飯を丸ごと忘れるとは、変なところで似たものな人たちだなぁ、と思いながら、俺は腕につけた時計を見る。

 時刻は八時。走れば弁当を二つ届けることくらい訳ないだろう。俺の用事は九時からだから、普通に走ればまだ間に合う時間だった。

 あの二人の行き先はわかっているのだから。

 

「……よし」

 

 制服の上着を羽織って、弁当箱をカバンに詰める。

 十二月ともなれば、この冬木市も寒くなる。かと言って、コートを着ていては足が遅くなるので、普通に制服のままで走ることにした。

 白い息を吐きながら、坂道を下る。そのまま横断歩道を渡ろうとしたところで─────曲がり角から人影が現れる。

 

「とっ!」

 

 なんとなく気配はわかっていたから、ぶつかることもなく曲がり角の手前で止まる。

 果たして現れた金髪金眼の少女は、こちらを見て、ふんとふてぶてしく鼻を鳴らした。

 

「あら、アンタじゃない。朝も早くから、あくせくと忙しないヤツね。ごっ苦労さん」

「オルタ、またあなたはそんなことを……」

 

 もう一人現れたのは、金髪紫眼の少女。

 彼女らは二人共、双子以上に顔立ちが似ていて、同じ制服を纏っていた。

 紫の目の少女、ジャンヌはオルタをそうして咎めてから、俺の方を見た。

 

「しかし貴方も、あまり急いでいては危ないですよ。道を渡るときはしっかりと確認を、余裕を持って朝早く起きることもおすすめです」

「ああ、悪い。届け物の途中だったから……」

 

 昼飯忘れた人らがいて、と弁当箱三つが詰め込まれたために変形した学生カバンを叩くと、オルタは鼻で笑った。

 

「あいつらに昼飯作って、しかもお届けサービス?そういう物好きは、あの赤毛だけかと思ってたわ」

「オルタ!」

 

 ジャンヌに言われて、オルタは耳をふさいで大して上手くない口笛を吹いて誤魔化した。

 俺としては苦笑するしかない。

 さすがに穂群原のブラウニー先輩と同じと言われても困る。あそこまでのお人好しはそうそういないし、いてたまるかと思う。

 

「ま、俺はこれで。またな、ダルク姉妹。妹さんにもよろしくな」

「はい、ありがとうございます。リリィにもそう言っておきますね」

「ちょっ、待ちなさい!誰が姉妹よ、誰が!そもそもどっちが姉なのよ!逃げるなこら!」

 

 がおうと吠えたオルタとにこにこ微笑むジャンヌを置いて、俺はまた走り出す。

 その後ろから、ジャンヌの声が飛んだ。

 

「それと!今日の約束に遅れては行けませんよ!あの子、楽しみにしていましたから!」

 

 返事代わりに手を振って、俺は再び進むことにした。

 先に行くべきは、街の商店街である。そこがバイト先なのである。

 俺ではなく、昼飯を忘れた片割れの。

 数分も走れば商店街にはすぐ着いたが、商店街を通っても、店の大半はまだ開いていない。

 

「泰山か……。一回行くのもいいかもな、ガタイが良いほうの教会の神父曰く、麻婆豆腐が美味いって言ってたし」

 

 閉まっている飯屋の看板の一つを横目に見ながら走って、走って走って、俺は一つの魚屋に辿り着いた。

 運良く、探していた人物は店先で旗を立てていた。手にしているのは、青地に赤い文字で、大漁とでかでかと書かれている目立つ旗だった。

 

「ん?お、坊主じゃねぇか。どうした?」

「昼飯の届け物。弁当、忘れてただろ。ランサー」

 

 俺の気配に気づいてか、振り返ったのはよく目立つ青い長い髪を束ねた、俺より随分背の高い男である。

 バイトとして最近入ったばかりなのに、快活で馴染みやすく、魚を売るのも上手いと評判らしい。

 そして、俺が世話になっている人でもある。

 

「悪い悪い。いやぁ、朝ドタバタしてたから忘れちまってたぜ」

「だと思った。……それにしても、喧嘩翌日に親子揃って弁当忘れるなんて、似たもの親子だな、あなたたちは」

「っせぇ。そもそも、アイツがゲイ・ボルク寄越せってつっかかってきたのが原因だろうが」

 

 減るもんじゃないし、さっくり四の五の言わずに教えてやればいいのに、と思いながら、俺は弁当をランサーに渡す。

 

「おぅ、ありがとな」

「どうも。あ、中は衛宮センパイに習った通りに作れてるからな」

 

 そいつは助かる、とにやりと笑ったランサーは、思いついたのかちょっと待ってろ、と一度店に引っ込む。

 何だろうと首を傾げていると、すぐに出てきた。手には、鮭を一匹持っている。

 鱗に艶があり、目もそれほど濁っていない。ひとかかえもある、えらく立派な鮭だった。

 

「お前、これからあいつらんとこへ行くんだろ。これ、手土産ってことで頼むわ」

 

 ずしりと重い魚を手渡されて、俺は目を白黒させた。

 

「それで、鮭?何故に鮭?」

「良いのが入ったんだよ。心配すんな、俺の奢りだからな」

 

 鮭といえばフィン・マックールのほうでは、と思わないでもなかったが、確かにこれから行くところを考えれば、何かあったほうがいいのは確かだった。

 

「で、夜辺りに俺が酒持って行くって赤毛の坊主に伝えとけ。お前も、あの嬢ちゃんを誘って来ればいいじゃねぇか」

「……了解。じゃあ、またな、ランサー」

 

 これは絶対ケルト式酒盛りをするつもりだなぁ、と思いつつ、鮭を背負ってまた俺は走り出した。

 高校の制服を着た人間が、休みの朝からひと抱えもある鮭を一匹背負って走るのは目立つが、元々この冬木市には目立つ外見の外国人が多い。彼らに比べれば、俺は全然目立たないほうである。

 だから大丈夫というわけではないのだが、ともかく他に運び用もないのだ。

 商店街を抜けて、俺が次に向かうのは坂の上の住宅地。

 坂を下ったり上がったり、この街は全体的に土地の高さに差がある。疲れるときもあるが、体の鍛錬には良いから、良い街だと思っていた。

 そんなふうに進んで、見つけたのは広々とした武家屋敷だった。

 来るもの拒まずといったふうに、またもや門は開けっ放しである。この家を襲う戯けなどいるわけないとは思いながらも、家主には後で言っておこうと決める。

 門をくぐって、家の扉の横のインターホンを鳴らすと、どたどたと忙しない足音が近づいて来た。

 

「はいはーい!おはよー!……って、キミか!」

 

 がらがらと、勢いよく扉を開けた勢いで飛び出てきたのは、桃色髪の少年。

 俺の頭の横から顔を出している鮭を見たのか、元々大きな瞳がさらに見開かれるのを俺は見守った。

 

「おはよう、ライダー。朝早くから悪い。……届け物なんだけど、衛宮センパイはいるか?」

「いるよ。呼んでくるから上がっといてよ」

「いいよ、ここで。邪魔しちゃ悪いし、この後、行くところがあるから。あ、これは青いランサーからのお土産な」

 

 背中の鮭を下ろし、ライダーに鮭を渡す。

 

「立派な鮭だなぁ。さすが光の御子」

 

 でもこれは別の人の持ちネタじゃなかったっけ、と首をひねりながら、ライダーは取って返して廊下の奥へ消えた。

 ほどなく、黒いエプロンをつけた赤毛の少年がひとりだけで戻って来た。

 

「よ、衛宮センパイ。朝早くに悪い」

「おはよ、皆起きてるから大丈夫さ。それにしても、アイツの昼飯だって?」

「そう。昨日の夜に港でケルト式親子喧嘩して、帰宅して、で、その勢いのまま朝出たから、忘れたらしい。ちなみに、喧嘩の原因はまた奥義の継承云々」

 

 ケルト式親子喧嘩の何たるかを知る彼は、それを聞いて顔を引きつらせた。

 

「大変だなぁ、お前。自分の朝飯食ったのか?」

「あんたは、俺の母親か。ちゃんと食べてるよ。そっちこそ、同居人が増えて平気か?具体的に言うと飯代とか」

「ああ、ライダーはよく食う奴だけど、ジークは料理に興味があるし、今も朝飯の支度、手伝ってくれるてさ、結構楽しいぞ。それに……やっぱり、男が増えたからな」

 

 最後だけ声を低める衛宮センパイに、思わず苦笑する。

 衛宮家の人間は多いのだが、何故か男女比が極端で、少し前までは六対一や八対一の割合で男が少なかったのだ。

 居候が二人増えて六対三ならば、それは随分違うことだろう。

 

「そっか。ライダーもジークも男三人のほうが楽しそうだしな」

「え、ライダーもなのか?あの子は、女の子じゃないのか?」

「いや、男だが」

「なんでさ!?」

 

 驚く衛宮センパイだが、なんでさと言われても何でだろうな、としか返しようがない。ライダーに関しては、彼はそういう不思議なヒトなのだと受け入れるのが、一番楽である。

 ふと時計を見て、俺はそろそろ時間が迫っていることに気づいた。

 

「あ、もう時間が来るから俺はこれで。それじゃ、弁当は頼んだ」

「り、了解……」

 

 心なしか精神ダメージでも負ったような衛宮センパイに、俺はカバンから弁当を渡した。

 

「それと、さっきライダーに渡した鮭、あれは青いランサーからの土産だからな。今晩、あの人、酒持って押しかけてくるぞ。多分、喧嘩の気まずさをどうにかしたくて」

「なんでさ……。なぁ、お前とあの子は、今晩ヒマだったりしないか?」

「俺は空いてるが、あっちはなぁ……」

 

 知らない、というと衛宮センパイは、梅干しでもなめたような顔になった。

 

「俺だけかもしれないが、手伝いには行くよ。この家が壊れるのは、俺も嫌だから」

「助かる、じゃあな!」

 

 じゃあな、と衛宮センパイに手を振って扉を閉める。

 門をくぐるとき、庭の方から地響きの音がしたが、そちらには足を向けなかった。

 十中八九、蒼の騎士王に挑んでいる『彼』が、またもふっ飛ばされた音なのだろうと想像できたからだ。

 多分、朝に騎士王にああやってふっ飛ばされた後は、昼になれば街外れの城で狂戦士に挑みに行くのだろう。そのための弁当なのだ。

 

「あいつが親父殿を倒せるようになるのは、いつになるんだろうなぁ……」

 

 何年かかるのやら、と肩をすくめながら、今度は坂道をまた駆け足で下る。

 待ち合わせる場所は、穂群原学園の正門前。ただ、部活のものを買いに行くというだけだが、何となく、俺は俺の心が沸き立っているのを知っていた。

 到着時間は、八時五十分。

 十分前だというのに、校門前にはすでに佇む人影があった。

 その一人は、こちらの足音を聞いたのか、前髪を弄っていた手を止める。

 

「お、おはようございます!」

「おはようございます、先輩」

 

 そう、目の前に立つ彼女は、先輩なのである。俺よりひとつ歳上で、同じ美術部の先輩後輩。

 彼女のほうも後輩の俺に敬語を使うが、基本的に彼女は誰に対してもあの言葉遣いだ。

 朝に見かけた白と黒の聖女たちとよく似た、しかしどこか異なる顔を綻ばせて、先輩は手にしていた小さなコンパクトを制服のスカートのポケットにしまった。

 

「じ、じゃあ行きましょうか」

「はい、今日はよろしくお願いします。先輩」

 

 ぺこりと、弓道場での振る舞いに倣って頭を下げると、先輩は手を胸の前で振った。

 

「あ、き、今日はそんなに固くならなくてもいいんですよ。ほら、ちょっと買い物に行くだけですし、ね?」

「……そうですね。部活の一貫ってだけですよね」

 

 その通りなんだが、胸の奥で風船が弾けてしまったようだった。

 

「あ、えっと……でも、私はあなたと出かけられるのは嬉し……」

「え?」

 

 俺が反射的に聞き返した途端、先輩のほうが油の切れたブリキ人形のように固まってしまう。

 こちらもこちらで、朝から走り続けてもなんともなかった顔が、今更火照ってくる。

 頭の中でこのヘタレ、とあいつにげらげらと笑われているような気がして、俺は自分の頬を叩いてから、先輩の顔をちゃんと見た。

 

「……じゃ、先輩。改めまして、今日はよろしくお願いしますね。スケッチブックとかなんとか、そういうものを買う場所、俺、まだ知らないんで」

「はい!任せて下さい!」

 

 初っ端から慌ただしい俺の一日は、そんなふうに始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 

 

 スケッチブックに色鉛筆、写生用の鉛筆にと屋外スケッチがメインの気楽な部員とはいえ、揃えるものは多かった。

 途中で先輩が気になるというぬいぐるみショップに立ち寄ったりもして、結局買い物が終わった頃にはとっくに夕方になっていた。

 買った物が詰め込まれたカバンを担いで歩く俺の横で、先輩は何か気になるのか頬を両手で押さえていた。

 

「昼ごはんのお弁当のサンドイッチ、食べすぎたでしょうか……。太ってしまいそうです」

「そんなことないと思いますけど。親父殿とかあいつに比べたら、先輩は少食すぎです。っていうか、沢山食べてくれて俺としては嬉しかったですよ、あれ、作ったの俺だから」

 

 なんて、そんなことを言い合う。

 夕暮れの空の下、俺たちはそろそろ分かれ道に差し掛かっていた。

 

「そうなんですか?とっても美味しかったですよ」

「衛宮……先輩に教わったんです」

「なるほど。衛宮さんですか。あの人は確かにプロみたいですよね。私も、習おうかなぁ……」

 

 その流れで、今日の朝のことと、衛宮家酒盛り大会のことも思い出す。

 あの嬢ちゃんも誘えよ、というランサーの言葉までついでに思い出した。

 

「あ、せ……」

 

 俺が言いかけた、正にそのときだ。

 

「いた!ちょっとそこのアンタ!」

 

 急に背後から現れたのは、朝に会ったオルタ。

 ずんずんと近寄って来た彼女は、そのまま俺の腕を凄い力で掴んだ。

 

「見つけた!アンタもあの家に呼ばれてるんでしょ?さっさと来なさい!」

「は?」

「衛宮の家の酒盛りよ。あそこの家主と騎士王サマと、白いのと小さいのとジークと桃色騎士!揃い踏みしすぎなの!私一人じゃ嫌なの!あの、しあわせ空間は!」

 

 吠えたオルタの言葉で、事情はわかった。

 多分、ライダーがジャンヌに声をかけて、そのまま二人揃っては衛宮家で晩御飯でも呼ばれたのだろう。

 

「く、黒の聖女様、白い聖女様も小さい聖女様もいらっしゃるのですか?」

「そうよ!……って、ああ、あなたもいたのね。ちょうど良いから、あなたも来なさい!」

 

 二人まとめて道連れよ、というオルタの目は、金色の宝石を嵌め込んだように据わっていた。

 彼女の肩越しに、俺は先輩の方を見る。先輩も何だか困ったような顔して、結局俺たちはそのまま黒い聖女に引きずられて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 衛宮邸の畳の一室には随分大勢が集まっていた。

 家主の衛宮士郎に、その相方の騎士王セイバー。彼の弓道の後輩である間桐桜に、彼女の相方であるライダー・メドゥーサ。そして同級生の魔術師、遠坂凛。

 ここに、ご近所さんの藤村先生と居候中のジークとライダー・アストルフォと白いほうのジャンヌ、それから小さいジャンヌが加わる。

 これだけの人間が、ひとつのテーブルを囲んで鮭料理を楽しんでいるのだから、最早衛宮家は小さな宴会場になっていた。

 そして、この集まりの言い出しっぺである青いランサーと、彼に雰囲気の似た少年もいる。尤も、彼ら二人はテーブルを囲む他の面々と違って、縁側で並んで座るだけになっていた。

 

「衛宮センパイ、こんばんは」

「こんばんは」

 

 もう酒が入っているのか、騒いでいる藤村先生を躱して、先輩とオルタと俺は、ほくほく顔で鮭の切り身を食べている騎士王のさらに隣で、蜜柑を剥いている衛宮センパイの向かいに座った。

 

「お、結局来たんだな。二人とも」

「オルタに捕まったんで」

「こんばんは。お邪魔します、衛宮さん」

 

 先輩は小さくお辞儀して、その拍子に金色の綺麗な髪が揺れ、俺はまた目を逸らした。

 

「おう!やっと来たのか、坊主!」

 

 そして、腰を落ち着ける間もなくランサーが俺を縁側から手招きしているのが目に入る。

 四人に断ってから縁側に出ると、部屋の騒ぎの音がすっと遠のき、冷気が足から這い上がって来た。

 ランサーの横に座っている俺より年下に見える少年は、聞かん気そうな顔で腕組みをして無言だった。

 紅い目がふと、俺の方を見る。

 

「なんだ、おまえも来たのか。あの先輩とかいうのと、逢引きに行ってたんじゃないのか?」

「……あ、逢引きって誰が言ってたんだ、それ」

「そこのランサーが」

 

 実の息子─────コンラに指摘されて、ランサー────クー・フーリンは頭をかいた。

 

「おぅ。まァ、間違っちゃいねぇだろ」

「買い物に付き合ってもらってただけだ。変なこと言うな。あの人に迷惑がかかる」

「大体、その人に色恋沙汰のことは聞かないほうがいいぞ。それで腸ぶち撒けた英雄なんだから」

「……どっちのガキも、知ったように言いやがるな」

 

 次の瞬間、俺もコンラも凄い力で頭を握られて、髪を無茶苦茶にされた。

 

「やめろっての!クソ親父!ガキ扱いすんな!」

「やめてほしけりゃ、俺に勝ってみせろや。コンラ」

「上等だ!表出ろ!」

「ちょっと落ち着け!もう表出てるから!」

 

 すぐに戦装束になろうとするコンラを、俺は慌てて止めた。いくらなんでも、人様の縁側で騒ぐのはまずい。

 がるる、と狼の仔のように唸るコンラと、それを見ながら苦笑しているだけのクー・フーリン。

 コンラを何とか止めている俺の背に、声がかかった。

 

「あ、あの、皆さん?お料理、どうかなと思ったんですが……」

 

 皿とフォークを持った先輩が部屋の明かりを背に立っていた。

 コンラは先輩相手には何故だか静かになる。元のように縁側に腰掛けた彼の手の上に、先輩はアルミホイルに包まれた鮭の切り身の乗った皿を置いた。

 

「衛宮さんに聞いたら、コンラさんもまだと言うので。あの、良ければご一緒に」

「食っとけ食っとけ。赤毛の坊主の飯は美味いからなぁ。嬢ちゃんも食うんだろ?」

「は、はい!頂きます!」

 

 ランサー、コンラ、俺、先輩という並びで、縁側に座る。

 

「うま……」

 

 一口食べて、ついフォークを握ったまま呟くと、先輩とコンラと声が三人分重なった。

 

「美味いな、これ。なぁ、おまえもこの料理、作れないのか?」

「……すぐに俺に頼むんじゃなくて、たまには自分も料理をやってみろよ」

 

 えー、と料理を頬張りながら面倒くさげにコンラは鼻を鳴らした。

 

「それなら、わたしも衛宮さんに教わりたいです!こちらの料理、まだ知らないこともありますし……!」

 

 先輩はそう言う。

 ランサーは相変わらず、酒を片手にしていた。片頬に浮かんでいるのは、少し奇妙な形に見える微笑みだった。

 汁のよく染み込んだ料理を味わいながら、ふと足元に目をやると、高さの違う影が四つ、並んでいるのが目に入った。

 後ろからは、陽気な笑い声とおしゃべりの声が高くなったり、低くなったり絶え間なく流れていた。

 

「ノインくん?」

「あ、いえ何でもないですよ。レティシア先輩」

 

────ただ何となくずっと、こんな時間が続けば良いのに。

 

 何故か、そう思ってしまっただけなんです、と俺は隣の少女に言うことはなく、目を閉じて月を見上げるのだった。

 

 

 




ここだと彼は、美術部でのんびり絵でも描きつつ、先輩に料理でも振る舞いつつ、居候先の親子喧嘩に巻き込まれるのが日常。
尚、教会の神父は二人だったり。

以上、エイプリルフールネタでした。
尚、本編では大して触れていませんが、レティシアのほうがデミ少年より一つ歳上です。

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