東を三振に抑えた後の成宮は、続く青道打者達にも見下ろしながらボールを投げていった。
「まったく、生意気な白髪の小僧やな…。」
ベンチに戻った東は、そんな成宮の投球を食い入る様に見ている。
「やけど、あの小僧の放るボールは本物や。今日の試合は1点勝負になりそうやな。」
成宮は東に続く青道の5番打者も三振に抑えると、マウンドの上で軽く舌を出していた。
「俺がフォーシームと思って振ったあのボールはなんや?カットボールか?」
東が首を捻りながら6番打者の結城と成宮の対戦を見ていると、成宮はチェンジアップで
結城を三振に抑えていた。
「それに加えてあのチェンジアップや。あれはアカン。ボールが来ないだけやない、
エグ過ぎる程に落ちよるわ。」
東が頭をガシガシと掻いていると、結城がベンチに戻って来た。
「去年までの俺だったら間違いなく打てんかったな。バット振ってきて良かったで。」
東はそう言いながらグローブを手に取ると、3塁手の守備位置へと向かう。
「高校通算50本まで後8本やったな…。今日で7本以下にさせてもらうで、白髪の小僧。」
3塁手の守備位置についた東は、青道の誰よりも声を出していくのだった。
◆
2回の裏も三者三振に成宮が抑えると、多くの者達が予想した通りに試合は投手戦となった。
3回の表までにパワプロは稲実打線から7三振を奪う好投を見せる。
対する成宮は8番バッターの御幸に連続三振を止められてしまったが、
パーフェクトは継続して8三振を奪っていた。
4回は双方共に三振を1つずつ奪って迎えた5回。
本日2度目となる4番バッターとの対決。
パワプロは原田をカーブで三振に抑えたが、成宮は東に甘く入ったカットボールを
三遊間に運ばれるヒットを打たれた。
だが、成宮は後続を抑えて追撃を許さない。
試合は進んでいき7回の裏。
3度目となる成宮と東との対決。
ワンボール、ツーストライクに追い込まれた東は、7球連続でファールを打つ粘りを見せた。
だが、7球目のファールとなったフォーシームとの緩急を活かしたチェンジアップに、
東のバットは空を切ってしまった。
パワプロと違い4回でノーヒットが終わった成宮だったが、ドラフト候補と噂される
東を抑える力投が球場に歓声を引き起こさせる。
東は悔しさのあまり、金属バットでヘルメットを被る自身の頭を叩いていた。
球場の雰囲気が稲実に流れて迎えた8回の表。
青道のマスクを被る御幸は、マウンドのパワプロの元へと向かったのだった。
◆
「パワプロ、大丈夫か?」
「ん?まだまだ行けるぜ!成宮との投げ合いは楽しいからな!」
パワプロの言葉を御幸は素直に頼もしく思う。
そんなパワプロを信じて、御幸は勝負を掛ける事を決断した。
「パワプロ、この回はスライダーを使うぞ。」
「おぉ!?ようやくか!待ちくたびれたぜ!」
パワプロの笑顔を見た御幸は勝ちたい、パワプロを勝たせたいと強く思った。
「パワプロ、俺達で流れを引き寄せるぞ!」
「おう!」
御幸はミットをパワプロのグローブと合わせると、キャッチャーボックスに戻る。
(俺にあのスライダーが捕れるのか?)
もしパスボールをしたりすれば、青道の皆の緊張感が無くなってしまうかもしれない。
(捕れるかどうかじゃない…、捕るんだ!)
御幸は打席に入った原田を一瞥すると、球場内に響く歓声が
聞こえなくなるほど集中するのだった。
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