『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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第87話

夏の高校野球選手権西東京地区大会の準決勝。

 

青道と稲実の試合は、2回の表に進んでいた。

 

2回の表の先頭打者は、稲実の4番である原田。

 

春季大会で、パワプロからホームランを打った強打者である。

 

そんな原田を迎えるにあたって、今日の試合でマスクを被っている御幸は、

マウンドのパワプロに声を掛けた。

 

「パワプロ、1回の裏に鳴が三者三振をやった勢いを断つ為に、原田さんを三振にするぞ。」

「おぉ!?いよいよスライダーのお披露目か!?」

「それはちょっと様子を見てからだな。」

 

早くスライダーを投げたいパワプロの様子に、御幸が苦笑いをする。

 

「出来れば終盤の勝負所で使いたいから、使わずに抑える様に組み立てるつもりだ。」

「ふ~ん。まぁ、リードは一也に任せて、俺は原田さんとの勝負を楽しむよ。」

 

そう言うパワプロの言葉に、御幸はパワプロの胸をミットで軽く叩いてから、

キャッチャーボックスに戻った。

 

御幸はキャッチャーボックスに座ると、入念にバットを振ってから、

バッターボックスに入る原田の様子を横目で探っていく。

 

(さて、1球目はどうするかな?)

 

御幸がサインを出すと、パワプロが頷いて投球モーションに入る。

 

1球目。

 

御幸が要求したのはインハイへのフォーシーム。

 

原田が反応してバットを振る。

 

ガキッ!

 

「ファール!」

 

原田が打った打球は、後ろにそれてファール。

 

これでワンストライク。

 

御幸は今の原田のバッティングの意味を考える。

 

(原田さんが狙っているのは真っ直ぐか?)

 

御幸は確認する為に、アウトローにボール1つ分外したフォーシームを要求した。

 

パワプロが投じたフォーシームが、要求通りのコースに投げ込まれる。

 

ガキッ!

 

「ファール!」

 

アウトローのフォーシームを踏み込んで打った原田の打球は、1塁線を切れてファール。

 

これでノーボール、ツーストライク。

 

原田を追い込んだ状況だが、御幸は原田の狙いに確信が持てなかった。

 

(どうする?1球外すか?)

 

横目で原田の様子を見ながら御幸は決断をする。

 

御幸がサインを出してミットを構える。

 

パワプロが独特な投球モーションでボールを投げ込む。

 

バシッ!

 

「ストライクスリー!バッターアウト!」

 

アウトローにバックドアとなるカーブがピンポイントで投げ込まれると、

主審が力強くストライクコールをした。

 

見逃し三振に倒れた原田は、御幸を一瞥すると黙してベンチに戻っていくのだった。

 

 

 

 

2回の表。

 

パワプロは原田を三球三振で抑えると、その勢いのままに三者三振で抑える。

 

そして迎えた2回の裏。

 

マウンドに上がった成宮は、打席に入った東をふてぶてしく見下ろしていた。

 

「あ~あ。折角クリスさん対策で新変化球を覚えて来たのになぁ。」

 

そう言いながらマウンド横のロージンバッグに軽く指を付けると、

フッと息を吹いて余分な滑り止めを飛ばした。

 

「まぁ、この人も右打者だしちょうどいいか。」

 

成宮は左手で帽子の鍔に触ると、原田のサインを見る。

 

そしてサインに頷いた成宮はゆっくりと投球モーションに入っていく。

 

1球目。

 

成宮が選択したのはアウトローのフォーシーム。

 

そのボールに東のバットが反応する。

 

キンッ!

 

東の打った打球は外野フェンスに直撃したが、ライト線を切れていてファール。

 

「うわぁ、馬鹿力。でも、フェアゾーンに入んなきゃ意味無いし。」

 

主審が投げたボールを受け取りながら、成宮はマウンドから東を見下ろしていく。

 

原田のサインに頷いて成宮がボールを投げる。

 

2球目。

 

成宮が投げたのは、インローのストライクゾーンからボール球になるフォーク。

 

東はこれを見逃す。

 

これでカウントはワンボール、ワンストライク。

 

「今のを見送るとか、面倒だなぁ。」

 

ワンバウンドしたボールに付いた砂を、原田はユニフォームで拭き取ってから、

成宮にボールを返球する。

 

ボールを受け取ってサインを見た成宮は首を横に振る。

 

原田はため息を1つ吐いてからサインを出し直す。

 

「そうそう、それだよマサさん。」

 

サインに頷いた成宮が、ゆっくりと投球モーションに入りボールを投げる。

 

成宮が投げたボールはインコースのベルト付近に入っていく。

 

甘いコースに投げ込まれたボールに、東はバットを振り抜く。

 

だが…。

 

ガキッ!

 

東の打球は3塁線のボテボテのゴロになってしまった。

 

打球を見た東が1塁へと駆け出す。

 

3塁線上を転がる打球を、稲実の3塁手が処理して1塁へ送球。

 

タイミングは確実にアウトだが…。

 

「ファール!」

 

3塁の塁審は打球が切れたと判断して、判定はファールとなった。

 

駆け足で打席に戻っていく東を見ながら、成宮は不満気に言葉を溢す。

 

「サード、一歩目が遅すぎ。」

 

成宮がそう愚痴るのだが、これは稲実の3塁手の怠慢では無い。

 

成宮が東に投げたのは、クリス対策として覚えた新変化球『カットボール』である。

 

東は得意なコースに来たボールを、フォーシームと認識してフルスイングしていた。

 

それ故に稲実の3塁手は強い打球を想定したのだ。

 

だが、実際はボテボテのゴロだった為、稲実の3塁手の一歩目が遅れてしまい、

打球は3塁線を切れてファールとなってしまったのだ。

 

「まぁ、いいけどね。どうせ三振で抑えるから。」

 

マウンドの成宮は原田のサインに自信を持って頷く。

 

成宮が決め球に選んだのはチェンジアップ。

 

シニア時代の海外チームとの練習試合の後に、パワプロの助言で握りを変えたものだ。

 

以前の握りではチェンジアップの制球に苦しんだ成宮だったが、今の握りにしてからは

しっかりと低めに制球出来る様になっていた。

 

そして、握りを変えた事で制球以外の副産物として緩急だけでなく、フォークの様な落差が

成宮のチェンジアップに持たらされていた。

 

成宮はそのチェンジアップをアウトローに投げ込む。

 

そして…。

 

ブンッ!

 

東のバットは空を切り、成宮は東を三振に抑えたのだった。

 

「はっ、チョロいね。」




本日は5話投稿します

次の投稿は9:00の予定です

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