『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

85 / 291
本日投稿2話目です


第83話

遂に始まった夏の高校野球選手権大会。

 

青道高校はシードなので第2回戦からの出場だ。

 

その第2回戦の先発は丹波さんだ。

 

緊張でもしているのか、動きの固い丹波さんは立ち上がりでコントロールに苦しんだものの、

クリスさんの声掛けと打線の援護もあってなんとか試合を作っていく。

 

丹波さんは6回を6失点で降板。

 

マウンドを降りる丹波さんの表情は苦虫を噛み潰したかの様だった。

 

7、8回を3年生の投手の人が0点で抑えて、9回のマウンドには純さんが上がる。

 

7回の猛攻で逆転していた事もあって、純さんはノビノビと投げて試合を締め括った。

 

そんな感じで第2回戦は9ー6で俺達の勝利だ!

 

そして迎えた第3回戦の相手は明川学園。

 

明川学園との試合の日に球場入りしようとしたその時、俺はシニア以来の

懐かしい声を耳にしたのだった。

 

 

 

 

「葉輪。」

 

どこか聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはシニア時代に一度だけ投げ合った事のある、

楊 舜臣の姿があった。

 

「あれ?楊か?」

「あぁ、そうだ。」

「そのユニフォームは…今日の試合相手の明川学園の?」

「日本の高校野球をする為に、語学留学を名目にして、俺は明川学園に留学したんだ。」

 

へぇ~、行動力のある奴だなぁ。

 

「そっか、それじゃ楊とは、これから3年間は高校野球で勝負出来るんだな。」

「いや、高野連のルールで、俺は2年の秋までしか高校野球の公式戦に出れないんだ。」

 

そう言って残念そうに首を横に振るけど、楊の眼鏡の奥の眼光は、

片岡さんの様に熱いものだった。

 

「明川学園の皆は、留学してチームに入ったばかりの俺にチャンスをくれた。

 その思いに応える為にも、俺はお前に投げ勝つ!」

 

鋭い視線で睨んでくる楊に、俺は笑顔を返す。

 

「おう!俺も負けないぜ!」

 

俺の返事にフッと笑みを浮かべた楊は、サッと踵を返して明川学園の人達の元に歩いていった。

 

「パワプロ、今の奴って…シニア時代にやった、台湾の楊か?」

「お?一也か。そう、その楊だよ。」

 

後ろから声を掛けてきた一也に振り向くと、そこにはアップルティーを飲んでいる一也がいた。

 

「パワプロ、今日の試合は投手戦になりそうだな。」

「それはキャッチャーとしての勘か?」

「あぁ、あいつがシニア時代からどこまで成長したかわかんねぇけど、苦戦すると思う。」

「ふ~ん。」

 

俺としては投げ合い大歓迎だぜ!

 

その後、先発として投げる為にしっかりとアップすると、

いよいよ明川学園との試合が始まったのだった。

 

 

 

 

青道高校と明川学園の試合が行われる球場に足を運んだ人達の多くは、

青道高校を応援に来ていた。

 

青道高校は『打の青道』として西東京地区では有名で、毎年優勝候補と呼ばれる強豪高校だ。

 

そんな青道が軸となる投手としてパワプロを有した事もあり、多くの高校野球ファンは、

今日の試合でどれだけの力を青道高校が見せるのか期待して応援に来たのだった。

 

だが、その多くの高校野球ファンの期待は裏切られる事になる。

 

それは1回の表のマウンドに上がった楊 舜臣が原因だった。

 

楊は立ち上がりから、丁寧にボールを投げ込んでいく。

 

ツーシーム、カーブ、フォークと多彩な球種で、

青道打線にゴロの打球を量産させていった。

 

楊のフォーシームは120km台後半と決して速くないが、時折高めに投げて

三振を奪う事で、青道打線に的を絞らせない。

 

楊のこのピッチングに、青道高校は3回の表終了まで、

ランナーを1人も出すことが出来ずにいた。

 

対して1回の裏のマウンドに上がったパワプロは、ノビのあるフォーシームとカーブ、

そしてチェンジアップのコンビネーションで三振を量産していった。

 

そして、パワプロも3回の裏までランナーを1人も出さないパーフェクトピッチングだった。

 

打たせてとる楊と、三振を奪うパワプロのピッチングに、

球場の多くの野球ファンは魅了されていった。

 

回は進んでいき5回の表。

 

ここでも楊が青道打線をノーヒットで抑えると、球場内の雰囲気が俄に変化していった。

 

強豪とダークホースの好ゲームに球場内のファンは、

ジャイアントキリングを期待し始めたのだ。

 

そんな高校野球ファンの1人が、5回の裏の主審の判定に野次を飛ばした。

 

パワプロがコーナーギリギリに投げ込んだ素晴らしいボールだったのだが、

その野次は強豪を贔屓するなと言ったのだ。

 

この野次は伝播していき、球場内の雰囲気を明川学園一色に変えてしまった。

 

主審は野球審判の資格を持つ優秀な人物だ。

 

故に判定は公正にしている自負がある。

 

だが人間である為、間違いが起きる可能性は0では無い。

 

球場の雰囲気に飲まれてしまうのは選手だけではないのだ。

 

そんな事が5回の裏に起きてしまった。

 

それまでストライクと判定されていた右打者のアウトコース低め一杯を、

ボールと判定されたのだ。

 

パワプロのボールを受けているクリスがマスクの奥で目を見開く。

 

ワンボール、ツーストライクに追い込む予定が、

ツーボール、ワンストライクになってしまった。

 

パワプロのコントロールなら、コースをボール1つ分内に寄せる事は出来るだろう。

 

だが、今のコースの判定が誤審なのか、ストライクゾーンが変わったのか判断がつかない。

 

クリスは迷った。

 

今のパワプロは楊と共に完全試合ペースを継続中だ。

 

ランナーを1人出すリスクを負って、主審の判定を確認するべきか否か…。

 

マウンドのパワプロにクリスは目を向ける。

 

そこには主審の判定に、不満を欠片も見せていない笑顔のパワプロの姿があった。

 

そのパワプロの姿を見たクリスはフッとマスクの奥で笑うと、パワプロにサインを出した。

 

そしてパワプロは四球でランナーを出すものの、依然としてノーヒットピッチングを続けて、

5回の裏を終えたのだった。




次の投稿は11:00の予定です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。