『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です


第81話

「久し振りやな、片岡さん。」

「お久し振りです、松本監督。」

 

練習試合の2日目、片岡は遠征してきた大阪桐生高校野球部監督の松本 隆広と話をしていた。

 

「うちは館に投げさせるつもりやけど、青道さんは誰の予定ですか?」

「葉輪に胸を貸して貰おうと思っています。」

 

松本は片岡の言葉に、面白そうに笑みを浮かべた。

 

「噂の怪物君のピッチングを見れるんなら、うちも館の尻を叩かないけませんなぁ。」

 

そう言うと松本は、恰幅の良い顎を撫でながらニコニコとした笑みを片岡に向けた。

 

そんな笑みを向けられた片岡だが、表情は変わらずに松本の目を見ている。

 

片岡の目に秘められた闘志は、現役時代のものと遜色無いものだった。

 

「改めて、我々青道高校野球部一同、胸を貸していただきます。」

「おう、今日はよろしく頼むで、片岡さん。」

 

深々と頭を下げた片岡は、踵を返して胸を張って去っていった。

 

そんな片岡の背中を見ながら、松本はポツリと呟く。

 

「やれやれ、相も変わらず熱い目をしとるなぁ、片岡さん。」

 

そう言いながら、松本は頬をポリポリと掻いている。

 

やがて、松本はフッと笑みを浮かべると、その大きな身体を揺すりながら、

楽しそうな様子で教え子達の所に歩いていくのだった。

 

 

 

 

「葉輪、今日の練習試合、スライダーは禁止だ。」

 

大阪桐生高校との練習試合が始まろうとした頃、俺は一也と一緒に

片岡さんに呼び出されていた。

 

「大阪桐生高校は甲子園常連の強豪だ。夏の大会で勝ち進めば戦う可能性は高い。」

 

高速スライダーを投げた時の、バッターの反応を見てみたかったんだけど、

ぶっつけ本番になっちゃったな。

 

まぁ、仕方ないか。

 

「大阪桐生の先発は、甲子園経験者の2年生のエース、館 広美だ。

 胸を借りるつもりで全力で行け!」

「「はい!」」

 

そして始まった大阪桐生高校との練習試合、俺は1回の表を三者三振で抑えたのだった。

 

 

 

 

回は進んで2回の表、大阪桐生打線は4番に座るエースの館を含めて、

パワプロに6連続三振をされた。

 

「葉輪君はまだ1年なのに、可愛げの無いボールを投げよるなぁ。

 流石は『怪物』といったところやな。」

 

松本は恰幅の良い顎を撫でながら、苦笑いをしている。

 

「けど、うちの館も負けてないで、青道さん。」

 

2回の裏のマウンドに上がった大阪桐生のエース館 広美も、決め玉のスライダーを使って、

青道打線を抑えていく。

 

館は2回の裏までに5三振を奪い、パワプロとの投手戦を演出していた。

 

「さて、3回からは少し動いてみよか。葉輪君には1年生らしい、

 可愛げを見せてもらいたいもんや。」

 

松本は3回の表の先頭打者である、7番バッターにサインを送る。

 

7番バッターはサインに頷いて打席に入る。

 

そして、パワプロがボールを投げ込むと、セーフティバントの構えをした。

 

パワプロは反応良く前に詰めたが、バッターはバットを引いて見逃す。

 

「うんうん、葉輪君は守備もええみたいやな。だからこそ、引っ掛かるんやけどな。」

 

そう言いながら、松本はまたバッターにサインを送る。

 

打席を外していたバッターは、サインをしっかりと見てから打席に入る。

 

パワプロが投じた2球目。

 

バッターは二度セーフティバントの構えをする。

 

パワプロはまたも反応良く前に詰めていく。

 

そして、バッターが構えるバットの角度を見たパワプロは、3塁方向へと一歩踏み出す。

 

だが…。

 

コツンッ!

 

セーフティバントされたボールは、1塁方向へ転がった。

 

これには、青道内野陣が驚愕した。

 

1塁手の結城が慌ててボールへと向かう。

 

そして、ボールを捕って振り向いた結城は、二度驚愕する事になる。

 

なんと、本来なら1塁のベースカバーに入っている筈の、パワプロの姿が無かったのだ。

 

何故なら、パワプロは3塁方向へと動いてしまっていたために、

ベースカバーに入れなかったのだ。

 

この事に気付いた2塁手の小湊が、急いで1塁ベースカバーに向かったのだが間に合わず、

大阪桐生のバッターは1塁を走り抜けていた。

 

「ははは、素直に表情に出し過ぎやで、葉輪君。」

 

驚いた顔をしながら首を傾げるパワプロを見て、松本は思わず笑ってしまった。

 

「さて、気持ち良く三振を取っていた状態から、セットポジションに変わったら、

 どうなるんやろうな?」

 

そう言いながら、松本はサインを送る。

 

サインを見たランナーがリードを取り、バッターはバントの構えを見せる。

 

そんな状況で、パワプロは1つ牽制を入れる。

 

1塁ランナーが滑り込んで戻る。

 

判定は…セーフ!

 

パワプロの牽制を見たランナーは、一歩リードを広げる。

 

「そうや、しっかりと揺さぶったれ。」

 

自ら考えて行動する教え子の姿に、松本は何度も頷く。

 

だが…。

 

「アウト!」

 

パワプロの二度目の牽制は、先程の牽制よりも鋭く、速かった。

 

その結果、1塁ランナーの帰塁は間に合わず、パワプロの牽制でアウトになってしまった。

 

「かぁ~、可愛げが無い。ほんまに1年生の投手なんか?」

 

帽子を取って頭を掻きながら、松本がそうボヤく。

 

「まぁ、手の内を1つ見せてもろたと思えば安いもんやな。」

 

その後、大阪桐生の後続のバッターは三振に抑えられて3回の表が終わった。

 

「ええ子が入りましたなぁ、片岡さん。」

 

御幸とハイタッチしながらベンチに戻るパワプロの姿を見て、松本は微笑む。

 

「さて、本番は夏の大会や。後はうちの子達に任せて、儂はゆっくりと

 勉強させてもらおかぁ。」

 

そう言うと松本は、恰幅の良いお腹を揺らす様にして、ドッカリとベンチに座ったのだった。




これで本日の投稿は終わりです

また来週お会いしましょう

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