紅白戦が終わり、部員達の所属が暫定すると、夏の大会を目標とした合宿が始まった。
合宿の終わりには他校との練習試合があるらしい。
その練習試合の結果で、夏の大会の1軍メンバーが正式に決まる事もあって、
この合宿では、部員達はギラギラとした目で練習に励んでいる。
特に最後の大会となる3年生達は、文字通りにグランドの砂にまみれながら練習している。
そして、その3年生の気迫に引き上げられる様に、2年生、1年生も合宿で頑張っているのだ。
もっとも1年生のほとんどは、初めての青道高校野球部の合宿の厳しさに、
毎日筋肉痛に悩まされてしまっている。
まぁ、俺は特殊能力の『鉄人』のおかげで筋肉痛にはならないんだけどな!
「いてて…パワプロ、もっとゆっくり押してくれ。」
「あ?悪い、一也。」
そんな合宿が始まって数日、今は練習が始まる前に少しでも筋肉痛を和らげようと、
入念にストレッチをしている所だ。
「しかし、シニアの頃も思ったけど、パワプロって筋肉痛で痛がった事ってないよな?」
「疲れてても、ちゃんとマッサージやストレッチをしてから寝てるからなぁ。」
本当は特殊能力のおかげだけどね。
「わかってるつもりなんだけど、いつの間にか寝ちまうんだよなぁ。」
「俺もリトルの頃はそうだったよ、一也。」
「へ~。」
そんな会話をしながらストレッチをしていると、程よく身体がほぐれて準備が整った。
「うし!大分楽になった!…ふぁ~。」
「眠そうだな、一也。」
「あぁ。やっぱり、疲れが残ってるんだろうな。」
大きな欠伸をしながら一也が身体を伸ばしていく。
「そろそろ監督も来るだろうし、整列しとこうぜ、パワプロ。」
「おう!」
そんな感じで進んでいく合宿の日々は、慣れている筈の3年生達も疲れ果てて、
グランドに倒れ込む程にきついものだった。
◆
今日の合宿の練習が終わり、食堂で食事を終えた東は1人でゆっくりと歩いていた。
「アカン。今年の合宿は、間違いなく去年よりもキッツイで。」
そんな事を言いながら、疲労で重くなっている身体を引き摺る様にして、
東は寮の自室に戻っていく。
東の感じている合宿の厳しさは間違いでは無い。
合宿の目的の1つに、夏の大会の日程の中で、疲労していても常と同じ様に
動けるようにしようという思いがあるのだが、翌日のパワプロがケロッとしているので、
片岡が意図的に厳しくしている面があるのだ。
「やけど、葉輪の奴は筋肉痛の様子も見せんとケロッとしとる…俺も踏ん張らなアカンな。」
そう言う東だが、東とパワプロと御幸、そしてクリス以外は、
疲労で食事が受け付けずに食堂で死屍累々となっている。
そんな中でも、いつも以上に食事を取ることが出来ている東の胃腸の強さは、
間違いなくアスリートとして貴重な才能といえるだろう。
「葉輪はなんかケアのコツでも知っとるんか?」
寮の自室に辿り着いた東は、バットを手に取って外に出る。
「明日辺り、葉輪に聞くとするかぁ。」
そう言うと、東は疲労での眠気に負けずに、日課である素振りを始めたのだった。
後日、パワプロに聞いたケアの方法は、後の東のプロ野球人生に活きていく事になる。
そして、合宿の日々は過ぎていき、いよいよ練習試合の日が訪れたのだった。
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