『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です


第74話

関東大会の第2回戦、先発したパワプロは5回の表終了時点で10三振を奪った。

 

相手打線にヒットを1本も打たせないその投球は、まさに圧巻。

 

球場に試合を見にきた観客、そして試合をしている両チームが驚いていた。

 

だが、6回の表に相手チームが打ったショートゴロを、青道の3年生の遊撃手が

ショートバウンドの送球をしてしまい、そのショートバウンドを一塁手の結城が捕球出来ず、

相手チームに出塁を許してしまった。

 

相手チームのベンチは、完全試合を逃れた事で安堵のため息を吐いた。

 

だが、この出塁の記録はエラーである。

 

完全試合は逃したものの、パワプロはノーヒットノーランを継続して

6回の表を終えたのだった。

 

 

 

 

「クリスさん、今日のパワプロのボール、キレてますね。」

 

6回の裏の青道高校の攻撃の時、青道ベンチで御幸がクリスに話し掛けていた。

 

「あぁ、それにコントロールも、ボール半分もズレない完璧な投球だ。」

「かぁ~、そんなボールを受けられるなんて羨ましいですね。

 クリスさん、交代しませんか?」

「悪いが、機会を譲るつもりはないぞ、御幸。」

 

クリスの返答に御幸は頭をガシガシと掻いて悔しがる。

 

「おそらく、今日のパワプロはこのままノーノーをやるだろうな。」

「それは捕手としての勘ですか?」

「あいにく、まだ試合勘は戻っていない。これは葉輪への信頼だな。」

 

クリスの信頼という言葉に、御幸は口笛を吹いて笑顔になる。

 

「クリスさん、やっぱり交代しましょうよ。」

「さっきも言ったが、譲る気は無い。この試合も、これからの試合もな。」

 

そう言うと、クリスは強い意思を宿した目で御幸を睨む。

 

その視線を受けた御幸は、望む所と言わんばかりに笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

6回の裏、先頭打者のパワプロはあっけなく三振してしまったが、後続の青道打者達が

そのバットでパワプロを盛り立てていく。

 

5点のリードを貰ったパワプロは7回の表のマウンドでも躍動した。

 

ヒット1本を狙う相手打線を、フォーシームとカーブの2球種だけで抑えていく。

 

その姿は左右の違いはあれど、かつて高校野球で伝説となった、ある投手を思い起こさせた。

 

『怪物』

 

球場の誰が言ったのかわからないが、次第にその言葉が拡がっていき、

球場の人々はパワプロの投球に沸き上がっていった。

 

7回、8回とノーヒットで抑えたパワプロが9回の表のマウンドに笑顔で上がると、

球場には爆発した様な歓声が響き渡るのだった。

 

 

 

 

「お~、凄い声援だなぁ。」

 

9回の表、ツーアウトまで辿り着くと、球場の人達から「あと1人!」コールがされてる。

 

確かにあと1人だけど…なんでこんなに盛り上がってるんだ?

 

俺がマウンドで首を傾げていると、クリスさんがタイムを取ってマウンドまでやって来た。

 

「どうした、葉輪?」

「なんでこんなに盛り上がってるのかなぁって思いまして。」

 

俺がそう言うと、クリスさんは苦笑いをした。

 

「葉輪、気づいてないのか?」

「何をですか?」

「スコアボードを見てみろ。」

 

俺はクリスさんの言う通りに、バックスクリーンに目を向ける。

 

「あれ?ノーヒット?」

「そうだ。」

 

ノーヒット?

 

…ノーヒットノーランじゃねぇか!?

 

「ノーヒットノーラン目前なんですか!?」

「やっと気づいたか。」

「はい!よっしゃあ!絶対に達成してやりますよ!」

 

そう気合いを入れると、クリスさんがポンッとミットで俺の胸を叩いてから戻っていった。

 

リトルとシニアでもノーヒットノーランを達成した事はあるけど、やっぱりドキドキして、

ワクワクが止まらないんだな!

 

「行きますよ、クリスさん!」

 

俺はクリスさんのサインに首を横に振る。

 

出し直されたサインに笑顔で頷いて、投球モーションに入る。

 

そして、最後の打者を三振で抑えると、俺は青道の皆に揉みくちゃにされたのだった。




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