『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

75 / 291
本日投稿2話目です


第73話

「え?投げる球種を俺が決めるんですか?」

 

関東大会の第2回戦、クリスさんとアップをしていた俺は、その時に言われた

クリスさんの提案にビックリした。

 

「あぁ、そうだ。だが、コースは俺の方で決めるぞ。」

「え?いや、でも…いいんですか?」

「正直な話、今の俺にはリードにまで気を回す余裕がないんでな。」

 

う~ん、クリスさんがそう言う程に、キャッチャーは大変なんだろうなぁ。

 

「クリスさん、球種ってどう決めればいいんですか?」

「その時の気分、もしくは握りのフィット感で決めればいい。」

 

え?そんなのでいいの?

 

「これまで、リードを考えた事は無いだろう?」

「はい!ありません!」

「なら、そう難しく考えるな。お前のボールなら、十分に相手を抑えられる。」

 

クリスさんはそう言うと、俺の胸をミットで軽く叩いてベンチに戻っていった。

 

残された俺は、これまでとは違うワクワクとした気持ちが沸いてきて、

試合が始まるのが待ち遠しかった。

 

ウォ―――!早く投げてぇ―――!!

 

 

 

 

「クリスさん。」

 

ベンチに戻ったクリスに、御幸がドリンクを渡しながら話し掛けた。

 

「片岡監督に聞きましたけど、今日のリードはパワプロに任せるって本当ですか?」

「あぁ、本当だ。」

 

クリスの返事に、御幸は不満気な表情を見せる。

 

「反対か?」

「正直に言えば反対ですね。でも、パワプロが変わるかもしれないからじゃないですよ。

 パワプロが成長する時に、受けるキャッチャーが俺じゃないのが不満なんです。」

 

御幸のその言葉に、クリスは吹き出してしまった。

 

「あー!?俺の素直な気持ちを笑うなんて、性格悪いですよ、クリスさん!」

「すまんな、御幸。だが、キャッチャーにとっては誉め言葉だ。」

 

そう言って2人は目を合わせると、どちらともなく笑い出すのだった。

 

 

 

 

関東大会の第2回戦が始まると、俺は1回表のマウンドで、バッターが打席に入るのを

ワクワクしながら待っていた。

 

早く、早く!

 

1球目は何を投げるのか決めてるんだから、早く!

 

バッターが打席に入ると、俺は待ちきれないとばかりにクリスさんのサインを見る。

 

クリスさん、それです!それが投げたかったんです!

 

俺はサインに頷いて投球モーションに入る。

 

俺が投げた1球目はフォーシーム。

 

モチベーションが高いからなのか、リリースの瞬間の感覚がビシッと嵌まる。

 

ボールは相手の膝元に構えているクリスさんのミットに、吸い込まれる様にして納まる。

 

「ストラーイク!」

 

クリスさんの返球を受けると、グローブの中で左手で持ったボールを転がす。

 

次はどうしよっかな~?

 

左手の中で握りがピタッと決まると、俺は自然に笑顔になってしまう。

 

クリスさんのサインを見ると、俺は首を横に振る。

 

違います!…そう、それです!

 

出し直されたサインに頷いて、投球モーションに入る。

 

2球目に選んだのは、1球目と同じフォーシーム。

 

リリースの感覚がビシッと嵌まると、ボールは寸分違わぬ同じコースへ投げ込めた。

 

「ストライクツー!」

 

主審のコールに、バッターが主審の方を振り向いた。

 

うん、よくわからんが今日は絶好調だ!

 

制球をSまで成長させても、ボール半分ぐらいは狙いがずれる事が多い。

 

だけど、今日は狙った所に投げ込める。

 

それに、フィット感の良い握りを選んでいるからなのか、ボールによく指が掛かってくれる

感覚があるんだよね。

 

うん、やっぱりピッチャーってすっげぇ楽しい!

 

クリスさんからの返球を捕ると、俺はまたグローブの中でボールを転がす。

 

よし!次のボールも決めた!

 

俺はクリスさんのサインに、また首を横に振る。

 

あれ?そういえば、自分から首を横に振るのって初めてだな。

 

そう考えると、なんか可笑しくて笑顔になってしまう。

 

出し直されたサインに頷いてボールを投げ込む。

 

俺が投げ込んだボールは、インハイへのフォーシーム!

 

パァン!

 

クリスさんのミットの音が、しっかりと俺の耳に聞こえた。

 

主審の判定は…?

 

「ストライクスリー!バッターアウト!」

 

主審のコールに、俺はマウンドの上で雄叫びを上げたのだった。




次の投稿は11:00の予定です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。