今日は春季大会の東京地区予選の、第3回戦だ。
いよいよ俺の高校野球デビューの日がやって来たぜ!
しかも、相手は成宮達がいる稲城実業なのだから、俺のモチベーションは
非常に高くなっている。
高くなっているのだが…稲実のベンチを見ても、成宮のあの特徴的な髪色が見当たらない…。
「どうした、葉輪?」
試合前の肩作りをしながら、稲実のベンチをチラチラと見ている俺に、
肩作りの相手をしてくれているクリスさんが声を掛けてきた。
「クリスさん、成宮達の姿が見当たらないなぁと思いまして。」
俺がそう言うと、クリスさんは苦笑いをした。
「葉輪、高校野球に限らずシニアとかでも、この時期の新入生は身体作りが基本だ」
「そうなんですか?」
俺はクリスさんの言葉に首を傾げながら返事をする。
「それと、春季大会前に片岡監督が言っていた様に、夏の大会前に、同地区の高校には
あまり情報を与えたくないという事情もあるだろうな。」
「なるほど。」
つまり、成宮達は秘密兵器という事か。
カッコいいじゃないか!
「納得したなら、アップを続けるぞ。」
「はい!」
そう返事をした後、俺は球場の雰囲気を楽しみながらアップをしていくのだった。
◆
「ほら!やっぱりパワプロは試合に出るじゃん!」
春季大会の東京地区予選の第3回戦となる、青道と稲実の試合が行われる球場のスタンド。
そこには、試合を見学する稲実の1年生達の姿があった。
そして今声を上げたのは、パワプロが稲実のベンチに目を向けて探していた成宮である。
「鳴の勘が当たったな。」
肩作りをしているパワプロを見ながら、成宮にそう返事をするのはカルロスだ。
「青道は打撃では有名だけど、投手はそうでもないからね。だから、パワプロに
投げさせるんじゃない?まぁ、パワプロなら夏の大会前に、ある程度情報を取られても
大丈夫とか思っているのかもしれないけどね。」
成宮達と並んで見学をしている白河が、言葉に少し皮肉を込めてそう言うと、
成宮が噛みつく様に声を上げた。
「俺だって情報を取られても大丈夫だし!」
そう言いながら成宮は、カルロスと白河に顔を向けるのだが、2人はパワプロの動きを
集中して見ているので、成宮が見ている事に気づかない。
そんな2人の様子に、成宮は面白く無さそうに鼻を鳴らすと、
自分もパワプロの観察を始めたのだった。
「先に高校野球デビューするのは譲ってやるよ。でも、甲子園には俺が行くからな!」
◆
さぁ、いよいよ稲実との試合開始だ!
だけど、試合開始の挨拶に向かう前に、俺は片岡さんにある制限を言われるのだった。
「葉輪、この大会、カーブ以外の変化球を使うな。」
カーブ以外の変化球禁止?
「よくわからないけど、わかりました!」
俺が片岡さんに敬礼しながら返事をすると、片岡さんの後ろにいた太田部長が
オロオロとしている姿が目に入った。
太田部長はどうしたんだ?
トイレにでも行きたいのかな?
そんな事を考えながら首を傾げていると、ベンチでスコアブックを手にしている
貴子ちゃんと目が合う。
貴子ちゃんは両手をキュッとして俺を応援してくれた。
行ってくるぜ、貴子ちゃん!
俺は貴子ちゃんの応援にサムズアップで応える。
「葉輪!整列や!」
おっと、東さんが呼んでるから急ごう。
こうして、俺の高校野球デビュー戦が始まるのだった。
お願いします!
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