第6話
「フーくん、一緒に帰ろう!」
小学4年生になった貴子ちゃんが校門前で同学年の女の子と喋りながら俺の事を待っていた。
「うん、一緒に帰ろう。」
「それじゃ皆、またね。」
女友達に手を振ってから貴子ちゃんが俺の隣にやってくる。
そして、俺達は並んで歩き始めた。
「フーくん、いよいよ明日だね。」
「うん。」
貴子ちゃんの声に顔を向けると、そこには昔の美幼女から美少女へと
成長中の貴子ちゃんの姿が目に入る。
つり目と腰まで伸ばしている髪が特徴の貴子ちゃんは
俺達が通っている小学校でも1、2を争う美少女だ。
そんな美少女である貴子ちゃんと幼なじみである俺は最早勝ち組であると
言っても過言ではないだろう。
ビバ!美少女な幼なじみ!
「フーくんはどこのチームに入るんだったっけ?」
「色々と考えたけど、丸亀リトルにしたよ。」
丸亀リトル。
強豪と言われる丸亀シニアの下部チームである。
最初はチームを決める時に弱小チームで勝ち上がって俺ツエーをしようかと思ったのだが、
某ノ○ロー君の様な事はやめる事にした。
というのも、俺の目標は片岡選手の様にあの舞台に立つ事だからだ。
俺がこれから飛び込む場所はアマチュアだがアスリートの世界である。
天才と呼ばれる者達が争い努力を尽くしても辿り着けないかもしれない場所を目指すのだ。
そんな縛りプレイをしている暇などない。
努力をすれば実るチートがあれども、実るだけの努力をしなければ意味が無いのだから。
あの舞台に立つ為に俺は最善を尽くすつもりだ。
勿論、その中で野球を思いっきり楽しんでいこうと思う。
「フーくんの希望のポジションは?」
「勿論、ピッチャー!」
マウンドという球場の注目を一身に浴びる事の出来るあの場所。
俺にはピッチャー以外のポジションなど考えられなかった。
「フーくんはピッチャ―として私を甲子園に連れて行ってくれるのね。」
「あぁ!俺が貴子ちゃんを甲子園に連れて行くよ!」
幼なじみの美少女との約束。
これ以上に燃える展開などそうはないだろう!
チームに入る前から俺のテンションは上がりっぱなしだ!
「約束だからね♪」
「おう!約束だ!」
そう言って俺と貴子ちゃんは指切りをする。
美少女と触れあう小指に踊りだしたい気分だ!
「そう言えばフーくん?丸亀リトルってマネージャーの募集はしてるのかな?」
「う~ん…どうだろう?」
父さんが高校野球のマネージャーとしてベンチに入るのなら、スコアブックをつけられる様に
ならないとダメと言っていた。
なので貴子ちゃんは小学生になってからスコアブックのつけかたを勉強している。
そして、実際にスコアブックをつけて将来の為に練習したいので、
どこかの野球チームにマネージャーとして入りたいようなのだ。
「丸亀リトルに入ったら監督に聞いてみるよ。」
「うん、お願いね、フーくん。」
貴子ちゃんと話していると時間が過ぎるのが早く、気がつけば家の前に到着していた。
俺はランドセルを部屋に置いてジャージに着替えると家の外で準備運動を始める。
そして、いつも通りに貴子ちゃんが見守る中で練習をしていくのだった。
◆
「名前は白河 勝之…希望ポジションは遊撃手(ショート)です。」
今年、丸亀リトルに入る新入り達の挨拶が進んでいく。
そんな中で俺は拍子抜けをしている。
同い年の中で投手志望が俺しかいなかったのだ。
同い年のライバルとのエース争いに勝ってやるという俺の意気込みを返して!
「よぉ~し!皆、元気でいい挨拶だったぞ!そんな皆はまずは球拾い!」
監督の言葉に俺を含めた新入り達は「えーっ!」と不満な声を上げる。
「はっはっは!いい反応だ!だけど冗談だ、冗談!」
どうやらいきなり雑用は避けられたらしい。
「だけど、皆で練習する以上は君達にも球拾いをしてもらう時があるからな!
これは上級生も例外無く同じだ!」
結局は雑用をする事があるが新入り専門の仕事で無いだけマシだな。
「それじゃあ希望ポジションに別れて練習を見学、参加していってもらうぞ!
まずは野球の楽しさを感じ取ってくれ!」
ニッと笑って言う監督の言葉に新入り達が元気良く「はい!」と応える。
そして、待機していた上級生の案内に従い別れていく中で俺だけがそこに残った。
「お?確か…葉輪だったよな?」
「はい!パワプロって呼んでください!」
監督は俺の言葉に笑顔で頷く。
「元気があっていいぞ!よろしくな、パワプロ!」
「はい!」
まずは好感触。
首脳陣へのアピールは大切だからな!
「今年のピッチャー志望はパワプロだけだからなぁ…クリス!」
悩んでいた監督が1人の名前を呼ぶ。
「なんでしょう、監督?」
監督に呼ばれてやってきた人が小さな声で話す。
良く見るとクリスと呼ばれたこの人…目の色が違う?
外人さん?ハーフ?日本語でOK?
「パワプロに投手練習の見学、もしくは参加させてやってくれ。」
「…わかりました。」
「すまんが頼むぞ、今年は野手志望が多いからそっちをメインで見ないとならないんでな。
だから、ブルペンのコーチによろしく言っておいてくれ。」
そう言って監督は野手が練習をしているグラウンドに向かって行った。
え?この人、俺とそんなに年齢変わらないよね?
1つか2つ上ぐらいでしょ?
それなのに任せていいの?
監督の責任問題になったりしない?
俺がアレコレと考えているとクリスという人が歩き始める。
「ブルペンに行くぞ、ついてこい。」
そう言われたので俺も慌ててついていく。
しかし…この人、声が小さくて聞き取りづれぇ。
そんな俺の思いは届かずにクリスという人は無言で歩き続ける。
そして、上級生のピッチャー達が投げ込みをするブルペンへと到着したのだった。
本日は6話投稿します
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