『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です


第59話

「葉輪、少しいいか?」

 

一也が防具を借りて純さんのボールを受け始めた時、俺は丹波さんに声を掛けられた。

 

「何ですか、丹波さん?」

「葉輪、ピンチの時はどうしている?」

 

ピンチの時?

 

俺が首を傾げると、丹波さんが続きを話し始めた。

 

「高島先生に聞いたかもしれないが、俺はピンチに弱い…だから、葉輪が

 ピンチの時にどうしているのか聞いてみたくてな。」

 

なるほどね。

 

「丹波さん。」

 

そう言って、俺は丹波さんの質問に笑顔で答える。

 

「ピンチはヒーローになるチャンスですよ!」

 

俺がサムズアップしながらそう言うと、丹波さんは目を見開きながら驚いていた。

 

「は、葉輪、打たれたらチームが負けるかもしれないんだぞ?」

「一打サヨナラの場面ならそうでしょうけど、それ以外なら逆転の可能性はありますよね?」

 

俺がそう答えると、丹波さんは言葉に詰まってしまった。

 

「丹波さん、憧れのヒーローっていますか?」

「あ?あぁ、いるが…それがどうした?」

「ヒーローってカッコいいですよね?」

 

俺の言葉に丹波さんが頷く。

 

「ピンチは憧れのヒーローみたいにカッコ良くなれるチャンス…そう考えたら

 楽しくなりませんか?」

 

俺が笑顔でそう言うと、丹波さんはまた目を見開いた。

 

「まぁ、ピンチにならないのが一番なんでしょうけどね。」

 

そう言って笑ったのだが、丹波さんは何かを考えている様で反応が無い。

 

「葉輪!そろそろ、バッティングピッチャーを頼むわ!」

「はい!わかりました!」

 

東さんのその一言で、俺達は打撃練習をする為に、グラウンドへ移動するのだった。

 

 

 

 

パワプロ達が去ったブルペンには、まだ丹波が残っていた。

 

「丹波。」

 

そんな丹波に、片岡が話し掛ける。

 

「片岡監督…。」

「来年から、葉輪とエース争いをする覚悟はあるか?」

「正直、わかりません…。」

 

片岡は丹波を急かさずに、言葉を待つ。

 

「葉輪が言っていたんです。ピンチはヒーローになるチャンスだと…そんな事、

 考えた事もありませんでした。」

 

そう言うと、丹波は拳を握り締めた。

 

「俺はピンチになると、どうしたらいいのかわかんなくなって自滅していました。

 それなのに、葉輪はそんな状況を楽しめる凄い奴でした。」

 

そこまで言うと、丹波は顔を上げて片岡の目を見た。

 

「葉輪みたいにピンチを楽しめる様になれるかはわかりません…でも、俺もヒーローに

 なりたいです!」

 

片岡は丹波の言葉に頷いた。

 

「なら、早く行け。葉輪のピッチングが見れなくなるぞ。」

「はい!失礼します!」

 

そう言うと、丹波は走ってブルペンを出ていった。

 

1人ブルペンに残った片岡は笑みを浮かべる。

 

そして…。

 

「一皮剥けたな、丹波。」

 

そう一言呟くと、片岡もブルペンを後にするのだった。

 

 

 

 

「だぁ―――!えぐいボールを投げるやないか!」

 

グラウンドに移動した俺は、グローブとスパイクを借りて、東さんを相手に

実戦を想定した打撃練習の投手をやっていた。

 

キャッチャーは先輩達を押し退けて一也がやっている。

 

一也は『例えクリスさんでも、パワプロのボールを受ける役は譲らねぇよ』と言ってた。

 

そして、青道野球部の先輩達は練習を止めて、俺達の練習を見学している。

 

礼ちゃん曰く、シニアMVPの投球を見るのは勉強になるからとの事だ。

 

ちなみに、貴子ちゃんも俺達の練習を雑用の合間に見てくれている。

 

おかげで俺のモチベーションは有頂天だ!

 

しかし、結城さんの熱視線が凄いな…。

 

結城さんも一緒に練習したいのかな?

 

俺は一也のサインに頷いて投球モーションに入る。

 

一也の要求は、バックドアのカーブだ。

 

前の一球でインハイのフォーシームを投げたからなのか、東さんは見送ってしまう。

 

審判をしている先輩の判定は…ストライク!

 

「葉輪!少しは先輩に花を持たせんかい!」

 

そう言いながら、東さんは打席を外してバットを振っている。

 

「東さん!その注文は一也に言ってください!」

「冗談や!冗談!」

 

東さんは打席に戻ると、笑みを浮かべながらバットを構えた。

 

…いいね!

 

マウンドで感じる東さんの威圧感に、俺も笑顔になる。

 

こうして俺は、強打者である東さんを相手に投げるのを楽しんでいくのだった。




次の投稿は13:00の予定です

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