『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です


第57話

「よっしゃ!行くぞ、クリス!」

 

肩を作った純さんが、マウンドの上で威勢の良い声を上げている。

 

「オラァ!」

 

純さんがセットポジションからボールを投げる。

 

だけど、ボールは大きく高めに外れてしまった。

 

「くっそ!クリス!もう一球だ!」

 

純さんがクリスさんに投げている間に、礼ちゃんが補足してくれた。

 

「伊佐敷くんの速球は130km台と丹波くんよりも速いのだけど、見ての通りに

 高めに外れる事が多いのよ。」

 

礼ちゃんの言う通りに、純さんが投げるボールのほとんどは高めに外れてしまっていた。

 

「葉輪、何かあるか?」

 

片岡さんの言葉に俺は首を傾げながら考えていく。

 

純さんの投球フォームにはこれといって変な所は無いと思う。

 

「問題があるとすればリリースですかね?」

 

俺の言葉に片岡さんが頷く。

 

「葉輪の言う通りだろう。だが、リリースの感覚は投手それぞれのものだ。」

 

片岡さんの言う通りで、リリースの感覚を言葉にするのは凄く難しいんだよね。

 

となると…。

 

「純さん!」

「なんだ、パワプロ!」

 

「ワンバウンドのボールを投げましょう!」

「ワンバウンド?何でだ?」

 

純さんの疑問に俺は考えながら話していく。

 

「ランナーがいる時に、上に外れてボールが後ろにいったら進塁されちゃいますよね?」

「…そうだな。」

「ですよね。なので、上に外しちゃうくらいならワンバウンドの

 ボールを投げちゃいましょうよ。」

 

俺の言葉に純さんが首を傾げる。

 

「クリスさんなら、ワンバウンドでも止めてくれるから大丈夫ですって!」

「おう!それもそうだな!」

 

俺がサムズアップしながら言うと、純さんもサムズアップしながら応えてくれた。

 

「という事で、ホームベースに思いっきり叩きつけちゃってください!」

「おう!任せとけ!」

 

俺と純さんのやり取りを、礼ちゃんが苦笑いしながら見ていた。

 

「行くぞ、クリス!」

 

威勢良く声を上げながら、純さんが投球モーションに入る。

 

「オラァ!」

 

気合いの声と共に純さんがフォーシームを投げる。

 

すると…。

 

パァン!

 

クリスさんのミットが大きな音を鳴らした。

 

コースは…真ん中低め一杯。

 

この結果にブルペンに少しの間、静寂が訪れる。

 

そして…。

 

「おぉ?おぉ…おぉぉおおおっしゃぁぁぁあああ!!」

 

静寂を切り裂く様に、純さんの雄叫びが響き渡った。

 

「クリス!早くボールを寄越せ!今の感覚を忘れねぇ内に!」

 

純さんが要求した事で、クリスさんがボールを返球した。

 

ボールを受け取った純さんは、笑顔で握りを確かめている。

 

握りを確かめた純さんがプレートに足を掛けて、またフォーシームを投げる。

 

パァン!

 

コースは横にずれたが、低めにしっかりとコントロールされている。

 

この結果に、純さんがまた雄叫びを上げる。

 

「伊佐敷!」

 

投球に夢中になっている純さんに、片岡さんが声を掛ける。

 

「リリースの感覚はどうだ?」

「えっと、こう、ホームベースに叩きつける為に、ボールを上から抑える様に

 してみたらいい感じになりました!」

 

純さんの言葉に、片岡さんが頷く。

 

「今は左右のコントロールを気にするな。その低めへのリリースの感覚をモノにしろ!」

「はい!」

 

純さんは片岡さんの言葉に返事をすると、マウンドで笑顔になった。

 

「たった一言でここまで変わるのね…。」

 

礼ちゃんは驚きながら純さんの投げ込みを見ている。

 

「葉輪くん、伊佐敷くんに代わってお礼を言わせてもらうわ。ありがとう。」

 

俺は礼ちゃんのお礼の言葉にサムズアップをする。

 

「葉輪、俺からも礼を言わせてもらう。」

「いえいえ、来年からは同じチームの仲間ですし、エースの座を争うライバルですから!」

 

俺は片岡さんの言葉にもサムズアップしながら答える。

 

「ふっ、待っているぞ。」

「はい!」

 

その後、しばらく純さんの投げ込みを見学していると、不意に一也が声を掛けてきた。

 

「なぁ、パワプロ?」

「どうした、一也?」

 

俺が一也の方に振り向くと、一也は何やら難しい顔をしていた。

 

「クリスさんなんだけど、何か変じゃないか?」

 

一也の言葉で俺はクリスさんに目を向ける。

 

すると、一也の言う通りにクリスさんの姿に違和感を感じたのだった。




本日は6話投稿します

次の投稿は9:00の予定です

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