アメリカの中学生選抜チームとの練習試合を終えた翌日、俺達東京シニア選抜チームは、
台湾の中学生選抜チームとの練習試合をするのだった。
「なぁ、パワプロ。チェンジアップをコントロールするコツとかってあるのか?」
俺が試合前のアップとして一也とキャッチボールをしていると、成宮が俺に話し掛けてきた。
「どうしたんだ、成宮?」
「昨日のアメリカ選抜チームとの練習試合、俺は打ち崩されちまった。」
そう言いながら成宮は悔しそうに俯く。
「スライダーとフォークの変化、それとフォーシームの力勝負で勝てると思ってたんだ。」
少なくとも、成宮はそのスタイルでシニアリーグで多くの三振を積み重ねて勝ってきた。
「でも、四回の先頭打者には軽く当てられた様な打撃で、簡単に外野にまで飛ばされた…
だから、緩急としてチェンジアップを使ったんだけど、高目に浮いて連打された…。」
昨日の事を思い出しながら、成宮が悔しそうに歯噛みをしている。
「その後にフォークをホームランされた事には言い訳出来ねぇけど、チェンジアップを低めに
コントロール出来ていればと思ってるんだ。」
そう言って成宮は顔を上げて、俺を見据えてくる。
う~ん、教えてやりたいんだけど、俺も感覚的な事しかわかんないんだよなぁ。
「成宮、チェンジアップはどんな握りなんだ?」
「こんな感じ。」
そう言うと、成宮はボールをチェンジアップの握りで持つ。
人差し指と親指で輪を作るタイプの握りだ。
「それじゃあ、違う握りを試してみたら?」
「チェンジアップに違う握りがあるのか?」
「うん、フォークを投げる成宮ならこっちの握りの方が、いい感覚になるんじゃないかな。」
そう言って俺は、人差し指と薬指でボールを挟むようにボールを持った。
「この2本の指でフォークみたいに挟んで、後は親指と小指をフィット感の良いところに。」
「中指は?」
「力が入らないように添えるか、浮かしておけばいいんじゃないかな?」
成宮が俺の握りを見ながら真似をする。
「後は自分にとっていい感じのリリースを探せばいいと思うよ。」
「おう!」
そう言うと、成宮は一也にボールを軽く投げた。
いや、成宮?一也は俺とアップをしてるんだけど?
俺と一也は苦笑いをするしかない。
その後、成宮は監督に首根っこを掴まれてベンチに引き摺られていき、
練習の見学をさせられるのだった。
◆
東京シニア選抜チームと台湾の中学生選抜チームの試合が始まった。
先攻は俺達、東京シニア選抜チームだ。
一番バッターのカルロスが、台湾チームの眼鏡を掛けたピッチャーのボールに首を傾げている。
「どうしたんだろう?」
「う~ん…多分だけど、手元で動いてるんじゃねぇかな?」
俺の疑問に一也がそう答えた。
「手元で動く?」
「カットボールとかツーシームを投げるムービング使いなのかもな。」
カルロスはバットを振っていくのだが、あの眼鏡のピッチャーのボールを、中々前に
飛ばすことが出来なかった。
カウント、ワンボール、ツーストライクから投げられた六球目。
カルロスは高めのフォーシームに空振りをした。
「へぇ、カルロスを三振にするなんて、やるじゃん。」
ベンチのど真ん中にドッカリと座っている成宮が、台湾のピッチャーを称賛する。
「パワプロ!あんなのに負けんじゃねぇぞ!」
「鳴は昨日打たれたけどな。」
「うっせぇよ、一也!次は絶対に抑えるし!」
成宮と一也のやり取りにベンチでは笑いが起こる。
その後、粘り強く投げる台湾のピッチャーに、一回の表は三人で抑えられた。
そして、一回の裏。
練習試合とはいえ初めての国際試合に、俺は笑顔でマウンドに向かうのだった。
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