俺のシニアリーグ公式戦デビューとなる試合が始まった。
俺は先発投手で打順は九番だ。
そして、先攻は丸亀シニアなので今はベンチで応援している。
「成宮の持ち球はフォーシームとスライダーって所ですかね?」
「あぁ、それをプレートの左側に立って横の角度をつけて投げているな。」
そんな感じで一也とクリスさんが白髪くんを分析している。
白髪くんは成宮って言うのか。
どうも人の名前を覚えるのは苦手なんだよなぁ…。
その成宮なんだが、彼は俺と同じ左投げの投手だ。
「内外はしっかりと投げ分けていますね。」
「そうだな。だが、高さは甘くなる時があるな。」
キャッチャーコンビの分析力すげぇ!
「クリスさんだったら何を狙います?」
「ベルト付近まで浮いてきたインコースのスライダーだな。」
そう2人が話している内に一番バッターが打ち取られてしまった。
そして、二番バッターの丸亀リトルからの同級生である白河が打席に入る。
あいつも1年ながらスタメンの座を勝ち取ったのだ。
白河はアウトコースのボールを流し打ってファーストの頭を越えるシングルヒットだった。
「フォーシームに比べてスライダーはコントロールが甘いみたいですね。」
「あぁ、狙い目だな。」
そう言ってクリスさんはネクストバッターサークルに向かった。
三番バッターの右打者はインコースのフォーシームを引っかけて内野ゴロに打ち取られた。
だけど、それが進塁打になってツーアウト、2塁のチャンス。
そしてバッターは四番のクリスさんだ。
キンッ!
綺麗な金属音がベンチにまで響いてくる。
打球は高々とレフト方向へと飛んでいく。
そして、打球はそのままスタンドまで届いてホームランとなった。
ベンチはクリスさんのホームランで大盛り上がりだ。
俺も一緒に盛り上がるぜ!
ウォ―――!
ホームランを打たれた成宮はマウンドをスパイクでガシガシと削っている。
踏み込んだ時に足でも滑ったのかな?
まぁ、いいか。
ホームランを打ったクリスさんを出迎えよう。
「ホームランお見事です、クリスさん!」
俺はクリスさんとハイタッチをする。
イェーイ♪
「何を打ったんですか?」
「インコースの甘いスライダーだな。予想以上に横の角度がきつかったが、ベルト付近の
高さだったからホームランにする事が出来た。」
狙うって言っていたボールを打ったのか。
流石っす!
「葉輪、わかっていると思うがお前もコントロールには気をつけろよ?」
「はい!」
その後、五番バッターは打ち取られて交代となる。
いよいよ俺のシニアデビューの時が来た。
よっしゃ!やってやるぜ!
◆
丸亀シニアと城南シニアの試合。
その試合を眼鏡をかけた1人の美女が、手帳を片手にスタンドから見学している。
「クリス君は流石はリトルMVPといった所ね。インコースのスライダーを上手く捌いて
ホームランを打つのだから。」
そう言いながらその女性は手帳に何かを記入していく。
「出来れば御幸君のプレーも見てみたかったのだけど、それは後日に丸亀シニアの練習を
見せてもらう事で我慢しましょう。」
球場のスタンドが僅かにざわつき始める。
「ふふ、本命の登場ね。」
そう言って女性は手帳を畳む。
「少しの間、1人の野球ファンとして楽しませてもらうわ。」
女性が見つめるマウンドには葉輪 風路の姿がある。
笑顔で投球練習をしている葉輪の姿を見ると女性が微笑む。
「本当に楽しそうに投げる子ね。」
そう言って女性がスタンドに応援に駆けつけた人々に目を向けると、先程の女性の様に
葉輪を笑顔で見ている光景があった。
「リトルの時に噂があったけど、彼は本当にこの世代の中心選手になるかもしれないわね。」
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