俺達、丸亀リトルは夏の大会を全国優勝という最高の形で終える事が出来た。
監督が交代する事もあって今年の6年生は秋の大会まで残らずに去る。
そして、監督が交代するので壮行会として紅白戦をする事になった。
これは監督代行をするコーチに試合の指揮経験を積ませる為だ。
という訳で紅白戦をするのだが、何故か御幸が俺達の紅白戦を見にきた。
「よっ!」
御幸が片手を上げて挨拶をして来たので俺も挨拶をする。
「どうしたんだ、御幸?」
「ちょっと聞きたい事があってな。」
聞きたい事?
クリスさんはいないぞ。
「お?御幸か、どうした?」
「監督さん、少し葉輪を借りてもいいですか?」
「いいぞ。」
監督、俺は物じゃないんだけど。
「というか、御幸?お前、江戸川リトルの方はいいのか?」
「誰かさん達に負けて夏が早く終わったからな。問題無いさ。」
御幸が肩を竦めながらそう言う。
「それで、葉輪。聞きたい事なんだけどな…。」
「御幸、俺の事はパワプロでいいぜ!」
なんだかんだ御幸とは縁があるからな。
だから皆が呼んでくれている愛称呼びを提案したんだ。
ビシッと親指を立てる俺を見て御幸が笑う。
「じゃあ、俺も一也でな。」
「おう!よろしくな一也!」
俺と一也は握手する。
「それで、一也は何が聞きたいんだ?」
「あぁ…パワプロ、お前はライバルってのをどう思う?」
うぇい?
「ライバル?」
「そう、ライバルだ。」
ライバルねぇ…。
「どういう事?」
「あ~…ライバルって味方なのか、敵なのかって言えばいいのか?」
ふむん?
「一緒のチームで競い合うのか、敵として戦うのかって事でいいのか?」
「だいたいそんな感じだな。」
う~ん…。
「あくまでも俺の考えになるけど、それでもいいか?」
「おう!」
一也が返事をしたので俺の考えを伝える。
「俺は一緒のチームで競い合う方がいいと思うな。」
「なんでだ?」
「だって、目に見える場所にいた方が頑張れるじゃん。」
一也が少し首を傾げる。
「敵として戦う方が燃えないか?」
「それもわかるけど、目標ってわかりやすい方が頑張れると思うんだ。」
一也が頷いて俺に話の続きを促す。
「負けたくない、勝ちたいって思える相手が近くにいればさ、相手より
1回でも多く練習するだろ?」
「…そうだな。」
「だろ?でもさ、相手が見えないところにいると『これだけ頑張ったからもういいや』って
思っちゃう事があるんじゃないか?」
一也が何度も頷く。
「だから、俺はライバルは近くにいた方がいいと思うぞ。」
「でも、パワプロってライバルいないだろ?」
「え?一杯いるけど?」
俺と一也はお互いを見ながら首を傾げている。
「え?一杯って…そんなにいないだろ。」
「丸亀リトルの投手、皆がライバルだぞ。」
俺の言葉に一也は眉を寄せる。
「去年までなら年上がいたからまだわかる。けど、今年は年下しかいないだろ?」
「そうだけど、あいつらは俺が投げられない変化球を投げるからな。」
一也が驚いた様に目を見開く。
「…それだけの理由で?」
「おう!」
一也が呆れた様にため息を吐く。
「俺が持っていないモノを持っている。なら、立派なライバルだ!」
一也が頭を掻きながら「たはっ」と笑っている。
嘘は言っていないぞ。
それに、そうじゃない奴も含めて皆がライバルだ。
マウンドに立てるのは1人。
なら、そこに立つには投手をやっている皆に勝たなくちゃならないからな!
◆
俺はパワプロの言葉を聞いて思わず笑ってしまった。
勝てないわけだ…。
パワプロはずっと誰かと競いあって成長をしてきた。
きっと、クリスさんもそんなパワプロに負けないように頑張っていたんだと思う。
対して、俺はどうだ?
4年生の頃から6年生に負けずにずっとレギュラーだった。
ハッキリ言って同じチームにライバルと思っていた奴はいない。
レギュラーの座は安泰だった。
だからという訳じゃないけど、たまに練習をサボる事もあった。
こんな事で勝てるわけがない…。
変えなきゃダメだ。
変わらなきゃダメだ。
だって…俺は野球が好きなんだから。
だから、パワプロの様に本気で野球を楽しめる様になろう。
「お~い、話は終わったかぁ~?」
丸亀リトルの監督が来た。
「はい、ありがとうございました。」
そう言って俺は監督さんに頭を下げる。
「はっはっはっ!礼はパワプロに言ってくれ。」
そう言った後、監督さんはイタズラをする子供の様な笑みを見せる。
…なんだ?
「ところで、御幸も紅白戦に参加しないか?」
まったく…大人ってズルいよなぁ…。
「お願いします!」
「おう!それじゃ、防具とミットを貸すからパワプロのボールを受けてくれ!」
監督さんの言葉にパワプロは吃驚しているが直ぐに笑顔になる。
あぁ…ほんとズルいわ。
この人、現役時代は絶対にキャッチャーだろ。
こうして俺は、丸亀リトルの紅白戦に参加してパワプロのボールを受ける事になった。
試合形式でパワプロのボールを受けた事で俺の腹は決まる。
レギュラー安泰なんて考えは捨てる。
俺は野球を本気で楽しむ為に挑戦する事を決めたのだった。
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