春季関東大会から十日後、青道高校野球部では数日に渡って紅白戦が行われる事になった。
これは夏の合宿前に暫定的に1軍メンバーを選出する為のものらしい。
夏の合宿での1軍メンバーの人数は40人。
そこから合宿後に半分の20人に篩い落とされて夏の高校野球選手権大会のメンバーが決まる。
青道高校野球部の皆、特に三年生達は最後の大会のメンバーになれる可能性があるとあってか気合いが凄い。
ただ、この紅白戦が行われる前に俺は夏の合宿の1軍メンバーに当確してしまっているんだよね。
う~ん…競い合いたかったなぁ。
一也は小野や狩場と競い合うからなのか、笑顔で楽しそうに紅白戦の準備をしている。
羨ましい。
「パワプロ先輩!今度こそエースナンバーを貰いますよ!」
沢村、俺も紅白戦で競い合いたいんだけどね。
残念ながら夏の合宿まで持ち越しなんだ。
そんな感じで夏の合宿の1軍メンバーの座を賭けた紅白戦が始まった。
ちなみに当確している俺は選手として参加せずにお手伝いである。
残念。
◆
紅白戦は怪我人も出ずに無事に終了した。
片岡さん、落合さん、礼ちゃん、太田部長が協議してメンバーを選抜するから、夏の合宿の1軍メンバーの発表は後日になるそうだ。
さて、連日の紅白戦の疲労を抜く為に今日の練習は休みだ。
しかも学校も休みなので完全休日である。
という事で…。
「お待たせ、フーくん。」
貴子ちゃんとデートだぜ!
自然に腕を組んできた貴子ちゃんと一緒に、街中に向かって歩きだす。
デートコースはいつもと同じで代わり映えはしないけど、それでも貴子ちゃんは楽しそうに笑顔でいてくれるのが助かるな。
俺はまだ学生だから交際費の捻出も大変なのだ。
貴子ちゃんとのデートの時間はあっという間に過ぎて時刻は昼。
俺と貴子ちゃんは昼食の為にレストランに入る。
「すいません、ちょっとお聞きしたいんですが。」
レストランに入ると貴子ちゃんが店員に色々と質問をしている。
俺の身体作りの為に栄養バランスなんかを考えてくれているのだ。
「ではこれとこれと…。」
質問を終えた貴子ちゃんが俺の分も料理を注文していく。
俺はもう慣れている光景だけど、周りにはどう映るんだろうな?
「フーくん、ベックから連絡きた?」
「細かい事はまだ決まってないけど、1月の終わり頃だってさ。」
実は勘違いしていたんだけど、メジャーのトライアウトを受けるのにプロ志望届を出す必要はないそうだ。
メジャーのトライアウトはプロアマ関係なく受ける事が出来るみたいなんだよね。
ただ、メジャーのトライアウトを受けるには個人証明の為に必要なものをメジャー側に提出する必要があるけど、それはもうベックが向こうに持っていってくれたから問題ない。
そんな感じで料理が来るまで貴子ちゃんと話をしていると、レストランに一組のカップルが入ってくる。
その一組のカップルは一也と夏川だった。
俺と貴子ちゃんは一也達と一緒に昼食をする為に店員さんに一言伝えてから席を移る。
「藤原先輩、この料理なんですけど…。」
現在鋭意勉強中の夏川は、一也が食べる料理について貴子ちゃんに色々と質問をしている。
貴子ちゃんはそんな夏川に笑顔で答えている。
そして俺と一也はというと…。
「パワプロ、ベックからトライアウトの事は聞いたか?」
「一也と夏川がくる前に、貴子ちゃんとその事で話してたよ。」
来年受けるメジャーのトライアウトについて話をしていた。
俺も一也もやるべき事はやっているので夏の大会を前に不安は残していない。
唯一不安があるとすれば怪我をしないかどうかだ。
なので俺と一也はメジャーの事について話をしていく。
「パワプロ、トライアウトに合格したら先ずはルーキーリーグからみたいだぜ。」
「合格した後の事を話すって、ベックも気が早いなぁ。」
「それだけ期待してるって事だろ?なら、応えなくちゃな。」
あれこれ話をしていると注文した料理が来たので俺と一也は食べ始める。
「食事にも色々と気をつけないといけないとはわかっていましたけど、スポーツ選手って大変ですね。」
「体重制限がない競技なだけまだマシなのよ、唯ちゃん。」
貴子ちゃんと夏川の会話をBGMに、俺と一也は料理を平らげていくのだった。
次の投稿は午後3:34の予定です。