今年の体力テストが終わって春季東京大会の日が近付いてきていた。
あの後、一也を相手に高速縦スライダーの感触を確かめていくと、奥村は悔しそうにしながらも一也のキャッチングを称賛していた。
そして体力テストの結果、今年の1年生で1軍に合流する選手は1人もいなかった。
礼ちゃん曰く、『キラリと光る才能を感じさせる選手もいたけど、やっぱり身体は出来ていなかったの。』だそうだ。
そういうわけで今年入部した1年生は皆2軍、3軍に合流した。
ちなみに俺が入部挨拶の時に注目した1年生達は全員2軍に合流している。
頑張れよ!
さて、春季東京大会が近付いているのもあって、今日の1軍の練習ではシートバッティングが行われている。
ただ、大会前に俺がシートバッティングで投げると、打席に立った選手のバッティング感覚が狂う可能性が高いと落合さんに言われ、俺はバッターに専念する事になった。
う~ん…残念!
そんなわけで打席に立つと、マウンドにいる沢村が意気揚々と宣戦布告をしてきた。
「パワプロ先輩を抑えて俺がエースになる!」
沢村の言葉に反応して、守備についている皆から沢村に野次が飛んだ。
「お前には1年早ぇ!」
「俺達が自主練している間にデートしてエースになるとか舐めてんのか?!」
「せめてノーノー達成してからにしろ!」
味方の筈の野手からの野次にマウンドにいる沢村がギョッと驚いている。
「ぐぬぬ…これがアウェイの洗礼か!」
いや、同じ青道野球部の仲間だから。
気を取り直した沢村が笑みを見せながらロージンバッグを手に取る。
「行きますよ、パワプロ先輩!」
今日のシートバッティングの相棒である小野のサインに頷いた沢村が初球を投げてくる。
初球はアウトコースにバックドアになるツーシーム。
俺はこの初球を見逃した。
判定はボール。
「くっ!紙一重か!」
やっぱり沢村の投球フォームはボールの出所が見えにくい。
そのせいでボールが打席の外で見たよりもキレがある様に見える。
俺は俺のバッティングの基本であるインコースに意識を置いたまま2球目を待つ。
2球目、沢村はアウトコースに外に逃げるカットボールを投げ込んできた。
沢村の特殊な投球フォームのせいでタイミングは差し込まれ気味。
だけど俺はバットを振り抜いた。
カキンッ!
特殊能力の『広角打法』の感覚に身を任せてバットを振り抜いた打球は、高々と逆方向に飛んでいって外野フェンスを越えていった。
マウンドにいる沢村は悔しそうに歯を食い縛っている。
「ドンマイ、栄純くん!」
「ヒャハッ!パワプロ相手ならしょうがねぇだろ!」
「大事なのは打たれた後や!気持ちを切りかえろ、沢村!」
春市、倉持、ゾノの言葉が届くと、沢村は大きく息を吐いた。
「ナイスバッティング、パワプロ。」
俺が打席の外に出ると、次に打席に入る一也が声を掛けてくる。
俺は一也とハイタッチをした。
イエーイ♪
「よく逆方向にあそこまで飛ばせるな。なんかコツとかってあるのか?」
「後ろの手の押し込みかな。後は肩を開かない様にして逆方向に引っ張る感じ。」
俺の『広角打法』の感覚を聞いた一也が、確認をする様に素振りをする。
「うし、それじゃ試してみるか。ちょうど今日の沢村はアウトコース中心みたいだからな。」
「そうなのか?」
「あいつはインコースには攻めるって意識はあるんだけど、アウトコースには攻めるって意識がないみたいなんだよな。その事で昨日、落合コーチと話しているのを見たからな。」
そう言えば沢村はインコースに投げ込んで真っ向勝負するのが好きだよな。
それを落合さんに指摘されたのか。
「練習なんだから程々にしてやれよ、一也。」
「沢村からホームランを打ったパワプロが言う台詞じゃないよな?」
「それはそれ、これはこれ。」
こうして俺達は春季東京大会に向けて練習を重ねていく。
もちろん狙うのは優勝だ。
やってやるぜ!
次の投稿は13:00の予定です。