『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第233話

青道と帝東の試合の2回の表が始まった。

 

帝東の先頭打者である4番バッターの乾が左打席に入る。

 

御幸のサインに頷いた降谷が振りかぶって投球モーションに入る。

 

(投球モーションはワインドアップのオーバースロー…タイミングは取りやすい。)

 

初球、しっかりと低めにコントロールされた降谷のフォーシームが決まる。

 

(球速は140km台中盤といったところか?ノビがあるいい真っ直ぐだ。)

 

1年ながら帝東のエースとなっている向井のサイドスローの軌道とは違う、降谷のオーバースローから投じられるフォーシームに乾は感心する。

 

(1年でこれだけのボールを持っていれば、向井と同じくエースになってもおかしくないんだがな。)

 

乾がチラリと目を向けた先にはレフトの守備位置にいるパワプロの姿があった。

 

(向井は葉輪との投げ合いを望んだが、勝つためには葉輪が登板する前に得点する展開が望ましい。)

 

怪物。

 

この世間でのパワプロの呼び名に、乾はどこかで疑問を持っていた。

 

同い年の高校生なのだからどこかに突破口がある筈だ。

 

だがそんな乾の思いは、国際大会決勝戦でのパワプロのピッチングを見て消え去った。

 

怪物の二文字。

 

乾はこれを否応なしに理解してしまったのだ。

 

(キャプテンとしては口が裂けても言えないが、うちの打線では葉輪を打ち崩せない。)

 

だからこそ、パワプロが投げていない今が帝東が得点するチャンス。

 

(試合の序盤、まだピッチャーを交代しにくい今の内に勝ち越さなければ、俺達は勝てない!)

 

乾はまるで試合終盤の勝負所の様な集中力でバットを構える。

 

2球目、高めの釣り球を乾は見逃し、カウントはワンボール、ワンストライク。

 

(おそらく、この1年投手は真っ直ぐに自信を持っている。決め球も真っ直ぐか?…いや。)

 

小さく息を吐きながら乾は思考を続ける。

 

(たしかこの1年生投手は高校野球で初めての公式戦。なら、まだ序盤の今の内に変化球の大切さを教える…俺ならそうする!)

 

真っ直ぐに自信を持っている投手に力の投球以外を教える。

 

これは乾自身も通った道だ。

 

(狙うはチェンジアップ1つ!)

 

球速のギャップでバットを巻き込まない様に、乾は逆方向への意識を強める。

 

3球目、御幸はもう1球高めの釣り球を要求した。

 

この1球を乾はあえて空振りする。

 

これでカウントはワンボール、ツーストライク。

 

カウントは追い込まれ、3球続けてのフォーシーム…。

 

乾が待つチェンジアップが来やすい状況が出来た。

 

しかし、御幸は今の乾の空振りに疑問を感じた。

 

一瞬だけチラリと乾に目を向ける。

 

マスクの奥で笑みを浮かべた御幸が降谷にサインを出す。

 

頷いた降谷がワインドアップの投球モーションに入った。

 

4球目、乾はチェンジアップにタイミングを合わせてステップを踏んだ。

 

しかし…。

 

バシッ!

 

「ストライクスリー!バッターアウト!」

 

低めのフォーシームが決まり見逃し三振。

 

乾は目を見開いて固まった。

 

「ナイスボール!」

 

御幸が1塁の前園に送球をして内野でのボール回しが始まる。

 

その光景を目にした乾は1つ息を吐いてから打席を去る。

 

(これみよがしにボール回しをする辺り、随分と性格が悪い奴だな。)

 

そう思いながら乾は御幸へと振り返ると、踵を返してベンチへと戻っていったのだった。




次の投稿は13:00の予定です

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