試合の翌日、目を覚ました俺は能力画面を見てメチャクチャ吃驚した。
なんと、昨日の試合だけで3ヵ月分の経験ポイントを得ていたからだ。
これがノーヒットノーランのおかげなのかわからないが、
このポイントを使えば一回り成長する事が出来る。
だけど、俺は大会期間中の成長はしない事にした。
理由としては、能力を上げると感覚が変わってしまうからだ。
その感覚に慣れるには少し時間が掛かる。
なので成長は大会終了まで見送りだ。
さて、丸亀リトルは三回戦にも勝って準決勝となる四回戦に駒を進めた。
相手は因縁の松方リトルだ。
この試合の先発として俺が投げたのだが、江戸川リトルの時と違って
コントロールが定まらなかった。
いや、本来の自分のコントロールになったと言った方が正しい。
なのでボールは度々甘いコースに行ってしまう。
強豪の松方リトルの打線がそんなボールを見逃す筈もなく、アッサリとヒットを打たれる。
そして、出塁をすれば走って来たりと揺さぶりをかけてくるのだ。
まだクイックの出来ない俺では松方リトルの足を止める事は出来ない。
おかげで毎回の様に得点圏にランナーを背負って投球する事になる。
もっとも、そのぐらいで腕が縮こまる程俺の心は繊細ではない。
むしろ、その状況をビシッと抑えればヒーローだとウキウキで投げていく。
仕方ないやん!クイック出来へんのやから!
コントロールが定まらない事で球数は嵩むが、要所では抑えて得点を与えない。
そうやってなんとか三回まで無失点で抑えてきたのだが、俺が投げる最後の回である四回で、
俺は人生初めてとなるホームランを打たれたのだった。
◆
「お~、よく飛んだなぁ~。」
俺はレフト方向を見ながらそう言う。
ツーランホームランを打ったバッターが拳を上げてベースを回っている。
「葉輪。」
クリスさんがマウンドにやってきた。
「すいません、クリスさん。カーブが真ん中に行っちゃいました。」
「気にするな…いや、言うまでもなく大丈夫そうだな。」
「まぁ、悔しいですけど。それでもチームはまだ勝ってますからね。」
そう、現在は3ー2で勝っているのだ。
そう言う俺に、クリスさんがミットで軽く胸を叩いてくる。
「この回までだ。残りは抑えていくぞ。」
「はい!」
俺が元気よく返事をすると、クリスさんがキャッチャーボックスに戻っていく。
俺は気持ちをリセットしようと1つ息を吐く。
平然としているように見せたつもりだけど、実際はメチャクチャ悔しいのだ。
「失投を打たれるのはスッゲー悔しいんだな…。」
俺はロージンバッグを左手の上で軽くポンポンとして滑り止めをつける。
「大会が終わったらコントロールを中心に成長させるか。」
フーっと息を吹いて余計な滑り止めを左手から落とす。
目を相手ベンチに向けるとさっきのホームランで勢い付いているようだ。
「いいね!でも、俺も負けないぜ!」
ニッといつも通りに笑顔を浮かべるとクリスさんのサインを覗き込む。
そして、サインに頷いてクリスさんのミットに目掛けてボールを投げ込むのだった。
◆
四回戦の松方リトルとの試合。
結果はうちのチームの負けとなってしまった。
俺は四回を2失点でマウンドを降りたのだが、松方リトルも強豪の意地とでも言うべき
猛攻を見せて最終回である六回に追い付かれてしまった。
そして、延長戦に入るとハッキリと明暗が別れる。
追いついた勢いのある松方リトルは、延長のタイブレークルールによる
ノーアウト、1、2塁から始まる状況で打順はクリーンナップから。
対してうちのチームは七番からの下位打線だ。
延長戦の七回でキッチリとランナーを帰した松方リトルに軍配が上がった。
これでうちのチームの今年の公式戦は終わりとなった。
この大会で6年生の投手がいなくなるのだ。
そうなると、うちのチームで公式戦に出れる投手は3人だけとなる。
無理はさせられないと監督が秋の大会に出ない事を明言した。
俺達は来年のリベンジを誓って練習を続けていく。
そして俺は5年生、貴子ちゃんが6年生になって夏が来る。
夏のリトルリーグ選手権大会。
俺は5年生ながらエースとして大会に挑む事になるのだった。
本日は5話投稿します
次の投稿は9:00の予定です