「鳴でもスライダーを使えないときついか…。」
Uー18日本代表チームとUー18オーストラリア代表チームとの試合は5回の裏まで進んでいた。
現在は5回の裏のオーストラリア代表チームの攻撃中であり、先発の成宮がツーランホームランを打たれて失点をしたところで、DHでベンチにいる御幸が一人言を溢しているのだ。
「元々、鳴はフォーシームとスライダーで組み立てるピッチャーだから、スライダーでストライクを取れなくなると投球のリズムが崩れるんだな。」
カットボール主体のピッチングで抑えてきた成宮だが、ボールの違いとマウンドの違いでコントロールに苦しみ、カウントを悪くしてしまう状況が続いていた。
「まだ3ー2で勝ってはいるけど…この回で追い付かれるかもな。」
御幸の言葉通りに成宮はさらにソロホームランを打たれて、日本代表チームは同点に追い付かれてしまう。
「球数も67球だし、鳴はこの回までか。」
同点に追い付かれてしまった成宮だが、それでも大崩れはせずに5回終了まで投げ抜いた。
「この試合に負けても得失点差で1位通過は出来るけど、やっぱり全勝で勝ち進みたいよな。」
御幸はレフトからベンチに戻ってくるパワプロにチラリと目を向ける。
「監督はパワプロを決勝トーナメントまで温存したかったみたいだけど、今日は出番があるかもな。」
ニッと歯を見せて笑った御幸は、バットを持ってネクストバッターサークルに向かうのだった。
◆
Uー18日本代表チームとUー18オーストラリア代表チームの試合は5回までは緊迫した投手戦だったが、6回からは乱打戦となった。
6回の表に日本代表チームが2点を獲得すれば、その裏にオーストラリア代表チームは4点を叩き出して逆転に成功する。
しかし7回の表には日本代表チームが同点に追い付く。
7回の裏に満塁のピンチを迎えたが、継投策がハマってなんとかオーストラリア代表打線を抑え込んだ。
7回の表からパワプロが肩を作り始めたのだが、現地を訪れていたロジャーズスカウトのベックがパワプロがアップを始めたのを見て笑みを浮かべる。
8回の表の日本代表チームの攻撃は無得点に終わったが、8回の裏に日本代表チームは更に投手を交代してオーストラリア代表の攻撃をいなす。
9回の表、日本代表チームの主砲である轟がソロホームランを放って勝ち越すと、日本代表チームの監督は9回の裏のマウンドにパワプロを送り出したのだった。
◆
「『どうやらパワプロが投げるみたいだね。こいつはラッキーだ。』」
スタンドで試合を見ているロジャーズスカウトのベックが口笛を吹く。
「『それにキャッチャーも一也に交代か。こいつはますますラッキーだ。』」
ベックはカメラを回しながらメモ張を手に取る。
「『一人目はオーストラリア代表の4番で左バッターか…パワプロはアメリカのボールにアジャスト出来たかな?』」
パワプロが投げた初球にオーストラリア代表の4番は腰を引いた。
しかし、パワプロが投げたボールはまるで壁に当たって跳ね返った様に急激な変化をしてストライクゾーンへと入り込んだ。
「『ははっ、高校生とは思えないクレイジーなブレーキングボールだ。でも、一也はパワプロの変化球をしっかりと捕れないみたいだね。マスクの奥の表情が随分と痛そうだ。』」
メモ張を片手に双眼鏡を覗き込むベックは、御幸の表情を見て苦笑いをする。
「『まぁ、あのクレイジーなブレーキングボールを高校生に捕れというのも酷い話か。打てというのはもっと酷い話だけどね。』」
続く2球目、パワプロのインコースのカーブを仰け反って避けてしまったオーストラリア代表の4番バッターは、3球目のアウトローのフォーシームで見逃しの三球三振に倒れてしまった。
「『パワプロ、パーフェクトだよ。君のおかげで、僕の来年のボーナスに期待出来そうだ。』」
この後、パワプロがオーストラリア代表打線を三者連続三球三振に抑えて日本代表チームが勝利したのを見届けたベックは、笑顔で球場を後にしたのだった。
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