『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第200話

1軍と2軍の紅白戦は小野の負傷退場により一時中断されたが、御幸が2軍チームのキャッチャーとなって再開された。

 

(クリスさんは初球の縦スライダーを見逃した。これをどう読む?)

 

状況はツーアウト、ランナー2塁でノーボール、ワンストライク。

 

御幸は途中交代の経験はあるものの、こういった形での交代の経験は無かった。

 

(シートバッティングとは緊張感が違うな…これがクリスさんの読み、そして俺の読みにどう影響する?)

 

似たような状況で勝負がスタートする練習にシートバッティングがある。

 

しかし紅白戦とはいえ、試合独特の緊張感はあくまで練習のシートバッティングとは違っていた。

 

(ストライク先行の状況はありがたいけど…さて、どうするかな?)

 

チラリと横目でクリスを見た御幸はパワプロにサインを出す。

 

しかし、パワプロは首を横に振った。

 

(…マジか?)

 

パワプロが勘で打たれると首を横に振ったのを見て、御幸はマスクの奥で目を見開く。

 

(キャッチャーが交代した直後で読みがピタリ…。ほんと、とんでもない人だな。)

 

クリスの凄さに嬉しそうに笑みを浮かべた御幸はサインを出し直す。

 

頷いたパワプロがクイックモーションでカーブを投げ込む。

 

バシッ!

 

クリスがバットを振らずにボールを見送ると、御幸のミットが快音を鳴らしてストライクになる。

 

これでカウントはノーボール、ツーストライク。

 

(難しいのはここからなんだよなぁ…。)

 

長打力こそ高卒新人で既にプロ野球の1軍デビューを果たした東に劣るものの、クリスのバッティング技術は間違いなく現在の高校野球界でナンバーワンと呼べるものだ。

 

選球眼は小湊 亮介に、スイングスピードは結城に匹敵する。

 

パワプロが怪物と呼ばれているが、パワプロがいなければクリスが怪物と呼ばれていただろう。

 

御幸は僅かに悩んだが決断をしてサインを出す。

 

3球目、パワプロはバックドアの形でアウトローにボール1つ分外れるスライダーを投げ込んだ。

 

クリスが一瞬反応するが、見逃してボールとなった。

 

(今のを見逃せるのかよ…。)

 

御幸はファールを、あわよくばセカンドゴロを打たせる予定だった。

 

だが、クリスが見逃した事でリードに悩む。

 

(スライダーを待ってた?どうする…もう1球外すか?)

 

御幸は無意識にパワプロへと目を向けた。

 

そこには今の1球を見逃されて楽しそうに笑うパワプロの姿があった。

 

御幸は悩みを吐き出すように息を吐くと、マスクの奥で笑みを浮かべる。

 

(パワプロ、お前じゃなかったらこんな選択は出来なかったよ。)

 

御幸がサインを出すとパワプロが笑顔で頷く。

 

そして御幸はインコースに寄って高目一杯にミットを構えた。

 

パワプロと御幸のバッテリーはクリスとの力勝負を選択したのだ。

 

パワプロがクイックモーションでフォーシームをインハイへと投げ込む。

 

まるで浮き上がってくる様な錯覚をさせるキレを持ったパワプロのフォーシーム。

 

そのパワプロのフォーシームにクリスのバットが振り抜かれた。

 

カキンッ!

 

金属バットの快音が鳴り響いて打球はセンター方向に高々と飛んでいく。

 

フェンスに張り付いた2軍チームの中堅手と打球の行方をマスクを外した御幸が見守る。

 

高々と上がった打球はセンター深くで失速すると、フェンス際で落下を始めた。

 

フェンスを超えるか、否か。

 

打球は確かにギリギリでフェンスを超えていた。

 

しかし…。

 

2軍チームの中堅手が飛び上がると、ホームランボールを掴み捕った。

 

バランスを崩した2軍チームの中堅手がグランドに倒れ込む。

 

ボールは…?

 

スッと中堅手のグローブが上に持ち上げられた。

 

「アウト!スリーアウト!チェンジ!」

 

主審のコールに2軍チームのメンバー全員が歓声を上げた。

 

その歓声を聞きながら1塁ベースを踏んだクリスがベンチへと戻っていく。

 

そしてクリスはベンチに戻る途中の御幸とのすれ違い様に一言声を掛けた。

 

「いいリードだった。だが、次は完璧に捉える。」

 

この一言を聞いた御幸は笑顔を引き締めてクリスに返事をする。

 

「次は三振に抑えますよ。」

 

クリスは御幸の返事に振り返らずにベンチに戻っていく。

 

そんなクリスの背中を見送った御幸は引き締めていた表情を笑顔に戻して、マウンドを下りてきたパワプロとハイタッチをしたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

夏バテにより体調を崩している為、来週の投稿はお休みさせていただきます。

また8月にお会いしましょう。

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