いよいよ俺の公式戦デビューとなったが、うちのチームが先行なので
今はベンチで応援をしている所だ。
一番の左バッターは緩い球を引っかけてセカンドゴロ。
二番の右バッターは速い球を打ち上げてサードフライ。
あっという間にツーアウトである。
だが、三番の６年生バッターが三遊間を抜くシングルヒットで出塁する。
そして、四番のクリスさんに打順が回る。
カキーン！
クリスさんは緩い球を狙いすました様に強く叩くと打球が外野へと飛んでいく。
そして、その打球は外野フェンスをノーバウンドで越えてホームランとなった。
クリスさんがゆっくりとベースを回っていく。
その姿にうちのチームのベンチは総立ちで声を上げる。
もちろん、先制点を取ってもらった俺も一緒に声を上げる。
うお―――！
ホームインしたクリスさんがベンチに戻ってきて防具をつけ始めた。
「クリスさん！ナイスホームランです！」
「葉輪か…絶好球だったからな。」
クリスさんは防具をつけながらクールに切り返してくる。
「何を打ったんですか？」
「真ん中に抜けたチェンジアップだな。お前もコントロールには気をつけろよ？」
「はい！」
その後は、五番の６年生がファーストゴロでうちのチームの一回の攻撃は終わりとなる。
いよいよ俺の出番だ！
俺は、逸る気持ちを抑えて小走りでマウンドに向かう。
マウンドにたどり着きプレートに足を乗せるとニヤニヤが止まらない。
クリスさんがキャッチャーボックスに座ったので投球練習を始める。
ボールとマウンドの感触を確かめる様にフォーシームを投げ込む。
…いい感じだ。
試合前のグラウンド練習では嵌まりきらなかった感覚がビシッと指先に返ってくる。
今日は絶好調なのかもしれない。
投球練習が終わり、内野のボール回しが済むと一番バッターがバッターボックスに入る。
審判の合図で試合が動き出す。
クリスさんのサインに頷き、俺は投球モーションに入る。
公式戦デビューの第一球目はフォーシーム。
相手チームの一番の左バッターの膝元一杯に目掛けて左腕を振る。
「ストライ―――ク！」
ミットの音をかきけす様に審判のコールが告げられると、俺は震えるほど歓喜したのだった。
◆
マウンドの上で葉輪が歯を見せて笑っている。
そんな葉輪にボールを投げると、葉輪は間をおかずに構える。
「やれやれ…。」
俺はマスクの中で呟く。
宣言通りに全力で野球を楽しんでいる葉輪に苦笑いするしかない。
「少しは緊張するものだろう…。」
そう言いながらも俺はサインを出してミットを構える。
要求したのは内角高めへのフォーシーム。
葉輪がサインに頷き投球モーションに入る。
投げられたボールは、ボール１つ分真ん中に寄り、ボール２つ分低い。
やや甘めのボールだが、ノビのある球質のフォーシームがバットの上を通過する。
「ストライクツー！」
審判のコールにバッターがタイムを取って打席を外す。
そして、打席の外で数回の素振りを始めた。
俺はボールを葉輪に投げながら次の一球を考える。
バッターの素振りを見る限り、狙いはフォーシームだろう。
カーブでタイミングを外すか？
バッターがヘルメットに手をやりながらバッターボックスに入ってくる。
…押しきるか。
俺はサインを出して外角低めにミットを構える。
そして、葉輪の投じたフォーシームはミットに吸い込まれる様にして入ってきた。
バシッ！
「ストライ―――ク！バッターアウト！」
見逃し三振の結果に相手チームのバッターが審判を見るが、黙ってバッターボックスを去る。
そして、ベンチに戻る前に次のバッターに何かを耳打ちしていった。
それを横目で見ながら俺はリードを考えていく。
まだ試合が始まって数球しか受けていないが、今日の葉輪はいつもよりもコントロールがいい。
これなら色々と出来そうだ。
マウンドで葉輪が「ワンアウト―――！」と声を出している。
初めての公式戦だというのに堂々とした奴だ。
「初めての公式戦か…勝たせてやりたいな。」
２番バッターがバッターボックスに入ると葉輪がサインを覗き込んでくる。
俺がサインを出すと、葉輪は直ぐに頷く。
外に寄ってミットを構えると、葉輪が投球モーションに入る。
そして、葉輪が投じたボールがミットに納まると、審判がストライクをコールするのだった。
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