春の東京神宮大会の準決勝で明川学園が稲城実業に勝利した日の午後、準決勝第2試合を行った青道高校は、パワプロが先発をして7回コールドで決勝戦へと駒を進めた。
そして1週間後、春の東京神宮大会の決勝戦となる青道高校と明川学園の試合が始まるのだった。
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決勝戦では俺が先発として楊と投げ合う事になった。
準決勝で成宮はリリーフしたけど、本当にケガをしたのかな?
まぁ、今日の決勝戦の相手は稲城実業じゃなくて明川学園なんだから、そっちに集中しよう。
「パワプロ、いいぞ!」
おっと、一也の準備が出来たみたいだからキャッチボールをして肩を作ろう。
今日の決勝戦でマスクを被るのは一也だ。
クリスさんは今日の天気が雨のせいなのか肩に違和感を感じたらしい。
なので片岡さんに申告してスタメンを回避したそうだ。
残念そうにしていたクリスさんだけど、これから先も付き合っていかなきゃならない事だからと、苦笑いをしながらも受け入れていた。
クリスさんは大人だなぁ。
さて、キャッチボールで肩も出来てきたから少し力を入れて投げるか。
俺が力を入れて投げると、一也のミットがいい音を鳴らす。
「パワプロ、ナイスボール!」
雨がパラパラと降ってきたけど、今のところはピッチングに影響は無いな。
リリースの特殊能力を持っているからか、ボールが濡れても問題無く投げられるからな。
まぁ、マウンドで踏み込んだ時に足が滑らない様に気を付けよう。
「一也、カーブいくぞ!」
「おう!」
そんなこんなで小雨が降ってきている中で、俺は一也と一緒に試合前の練習をしていったのだった。
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「降ってきたか。」
雨が降る空を見上げて呟いた楊は、試合前の練習をしているパワプロに目を移す。
「今日の試合は、この雨の中でどれだけボールのキレとコントロールを維持出来るかの勝負になるな。」
楊は雨を吸って状態が変わり始めてきたグランドの土の感触をスパイクで確かめていく。
「投げ急がず、一球一球を丁寧にいこう。」
そう呟いた楊は力強くバットを振る青道の打者達を見て闘志を燃やしたのだった。
◆
青道と明川学園による決勝戦が始まった。
先攻は俺達だ。
1回の表、1番バッターの倉持が左打席に入った。
準々決勝では俺が1番バッターだったけど、今日の俺は先発ピッチャーだからピッチングに専念するために9番バッターなんだってさ。
左打席に入った倉持なんだけど、倉持は楊のフロントドアのツーシームで見逃し三振に抑えられた。
電光掲示板には135kmって表示されている。
秋の時に比べてフォーシームだけじゃなくて、ツーシームも球速が上がっているなぁ。
倉持を見逃し三振に抑えてリズムに乗ったのか、楊は1回の表を三者凡退で抑えた。
よし、俺の出番だ!
俺はグローブを手にしてベンチから出る。
「フーくん、頑張って。」
「うん、行ってくるよ、貴子ちゃん。」
貴子ちゃんの応援で気合い満タンだ!
今日の試合も楽しんでいくぜ!
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「楊 舜臣か…元々コントロールが良くいいピッチャーだったが、140km台のボールを投げられる様になって1つブレイクスルーを果たした感じがあるな。」
雨合羽を着てスタンドで試合を見ている落合は楊をそう評する。
「カーブとフォークも厄介だが、一番の問題はあのツーシームだな。あれをどうにかしないと中々点を入れることは出来ないだろうな。」
落合は顎髭を扱きながらマウンドに上がったパワプロに目を移す。
「さて、雨の日の葉輪の試合は初めて見るが、どういったピッチングをするのかな?」
青道高校は雨の日でも練習をするが、室内練習場もあるので雨の中で練習する事は、他の強豪校に比べれば少ないだろう。
その事がこの試合にどう影響するのか、落合の興味はそこにあった。
「青道のコーチで飯を食っている以上は葉輪の勝利を願うが、少しはピッチングが乱れて高校生らしい可愛気があるのを見たいというのはワガママなんだろうな。」
そう呟いた落合は自身を戒める様に片手で頬を叩くと、試合の見学に集中するのだった。
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