『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第180話

春の東京神宮大会の準々決勝である青道高校と市大三高の試合は、パワプロの先頭打者ホームランから始まった。

 

現在の状況はパワプロに続く2番バッターの小湊がレフト前ヒットで出塁してノーアウト、ランナー1塁となり、ネクストバッターサークルから3番バッターの結城が立ち上がるところである。

 

結城は打席に向かいながら小湊が見せてくれた天久のボールの球筋をイメージしていく。

 

(片岡監督からの指示は『自由に打て』か…。)

 

まだ初回で点差も1点である事を考えれば、最悪でもゲッツーは避けたいところである。

 

だが片岡は昨年の冬から今年の春先にかけてのオフシーズンで開花した結城の打撃を信頼して、この試合の全ての打席で結城には自由に打たせるつもりだった。

 

結城は主将に任命されてからそれまで青道で1、2を争う練習量を更に増やしていたが、それでもその打撃はクリスの影に隠れて目立つものではなかった。

 

しかし、昨年のオフシーズンにパワプロが打撃投手を行った打撃練習で殻を破った結城は、今大会でクリスに並ぶ程の打撃成績を残していた。

 

準々決勝に至るまでの3試合で打率5割、ホームラン5本と試合を見に訪れていたプロ野球関係者を驚愕させる打撃を見せた。

 

この活躍に青道野球部の者達は両手を上げて結城に歓声を送った。

 

皆、結城の努力を目にして来たからだ。

 

そして今も主砲であるクリスを超える程の歓声がベンチから送られている。

 

そのメンバーの中にはパワプロの姿もあった。

 

(葉輪、お前には感謝する。だが感謝は言葉ではなく、打撃で示す!)

 

夏、春と甲子園を連覇した青道高校野球部だが、青道高校生徒の中にも妬み嫉みの声はあった。

 

曰く、パワプロにおんぶにだっこ。

 

曰く、パワプロのお荷物。

 

これらの言葉に青道野球部のメンバーは歯を食い縛って耐えた。

 

秋の選抜東京地区大会の決勝戦での敗退は、まさにその妬み嫉みの言葉通りだったからだ。

 

妬み嫉みの言葉を跳ね返すには結果を出すしかない。

 

胸を張ってパワプロの仲間だと言う為に…。

 

打席に入った結城はゆっくりと息を吐いてからバットを構える。

 

その構えを見た天久は1塁に1つ牽制を入れたのだった。

 

 

 

 

牽制を1つ入れた天久はロージンバッグを手に取る。

 

(雰囲気のあるバッターじゃん。思わずプレートを外したのを誤魔化すのに1塁に牽制しちまったよ。)

 

ロージンバッグを置いた天久はプレートに足を掛けると、セットポジションに入る前にチラリと1塁の小湊に目を向ける。

 

(でも残念だったな。右バッターじゃあ、俺のスライダーは打てねぇよ。)

 

クイックモーションに入った天久はフロントドアとなるスライダーを投げ込む。

 

(スイングの始動が遅ぇ。詰まってゲッツーってね。)

 

しかし、天久の予想は最悪の形で裏切られる事になる。

 

カキンッ!

 

天久の認識では明らかに遅かった結城のスイング始動だったが、結城がバットを振りきると、打球はレフトの守備についている市大三高のエースである真中が、一歩も動けない弾丸ライナーでレフトスタンドに突き刺さった。

 

あまりの打球の凄さに球場が静まりかえる中で結城がゆっくりと走り出す。

 

すると、球場にはざわめきが起き、やがてざわめきは歓声へと変わった。

 

パワプロに続いて結城にもホームランを打たれた天久は、結城がベースを回り終えるまで呆然とレフトスタンドを見続けたのだった。

 

 

 

 

この後、天久は次のバッターであるクリスにもホームランを打たれた事で、初回に1つもアウトを取れずにレフトにいる真中と守備交代をする事となる。

 

天久 光聖。

 

市大三高野球部の監督である田原に『ジーニアス』と称される彼だが、その彼の高校野球公式戦のデビューは生涯忘れられない苦い記憶となったのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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