『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第172話

月刊野球王国にパワプロのインタビューが載った翌日、青道高校には多くの問い合わせの電話が掛かってきていた。

 

曰く、人材の損失云々。

 

曰く、あの貴重な才能は日本で育てるべし。

 

そう言った日本野球を憂いた言葉ならまだしも、中には罵詈雑言に等しい電話もあった。

 

無謀、恩知らず、裏切者といった電話は青道高校だけでなく、パワプロの家にも掛かってきた。

 

だが、事前にこれらの事を想定していた葉輪家と青道高校の対応は早く、青道高校野球部の練習には大きな支障は出なかった。

 

ゴシップ狙いの記者が無断で青道高校敷地内に入り込んだので、それが問題になった程度だ。

 

後はパワプロの練習の帰り道に張っていた記者連中が、不審者として貴子に通報されたぐらいだろうか。

 

そんなこんなで少しばかり周囲が騒がしくなったパワプロだが、両親や恋人、そして恩師達の連携によって、以前と大きく変わらない日々を過ごしていった。

 

まぁ、一部の後輩がパワプロのアメリカ行きに大きく反応していたのだが…。

 

 

 

 

「パワプロ先輩!アメリカに行くって本当ですか!?」

 

朝練前のストレッチをしている最中に大きな声でパワプロに問い掛けるのは沢村である。

 

彼は青道高校野球部に入部したその日に、パワプロからエースを奪うというライバル宣言をしたのだが、投球テストの一件から色々なものを吸収しようとパワプロに積極的に話し掛ける様になった。

 

そんな沢村はいつの間にか『葉輪先輩』から『パワプロ先輩』と呼び方が変わっていた。

 

「うん、本当だよ。」

「マジですか!?くそ~…負けねぇぞ!」

 

そう言ってストレッチを切り上げた沢村は用具室に向かって駆けていく。

 

彼愛用のタイヤを取りにいったのだ。

 

沢村がタイヤを牽いてランニングする光景は体力測定の翌日から見られる様になったのだが、沢村がタイヤを引いて走るその光景を誰かが『タイヤのエース』と呼んだ。

 

そんな沢村は今は2軍で必死に練習をしているが、あのタイヤを牽き慣れた頃には1軍に昇格するかもしれないと、落合コーチがその才能と練習熱心な様子を認めていた。

 

「葉輪さん、月刊野球王国には高校を卒業したらアメリカのトライアウトを受けに行くって載ってましたけど…。」

「それも本当のことだよ、東条。」

 

沢村だけでなく、パワプロと一緒に練習前のストレッチをしているのが東条である。

 

他にも降谷と御幸が一緒にストレッチをしているのだが、彼等はマイペースにストレッチをしていた。

 

「ドラフトで指名されても断るんですか?」

「うん、断るよ。」

「うわぁ…もし俺なら二つ返事でOKするのに…。」

 

もし自分ならと考えた東条は、プロ野球の誘いを断れる気がしなかった。

 

もっとも、東条はパワプロならマイナーリーグからメジャーまで駆け上がるだろうと、目の前の先輩を信頼していた。

 

そして、そんなパワプロの姿を見てみたいと思った。

 

「葉輪さん、俺は応援しますよ!」

「ありがとう、東条。」

 

パワプロのアメリカ行きの話が一段落した時、マイペースにストレッチをしていた降谷がパワプロに話し掛けた。

 

「葉輪先輩、スタミナロールをつけるにはどうすればいいですか?」

「スタミナロール?」

「あ、スタミナとコントロールです。」

 

降谷の言葉に、パワプロはやっぱり降谷は天然さんだなと思った。

 

「どっちも急に身に付くものでもないし、基礎練習を続けるしかないかな。」

「そうですか…。」

 

そう言って肩を落とした降谷にパワプロは苦笑いをする。

 

降谷はフォーシームの球速は速いのだが、コントロールが無い。

 

そして1年生の中でも1、2を争う程にスタミナが無かった。

 

その為、落合コーチが野球部の練習とは別に、降谷のトレーニングメニューを考えたのだが、その多くは地味な基礎練習ばかりで、降谷の投げたいという欲求を満たせていないのだ。

 

「降谷、疲れて投球フォームが崩れたらケガに繋がるって落合コーチに言われただろ?」

「…はい。」

 

肩を落とす降谷を諭す様に話したのは御幸である。

 

御幸がパワプロの近くにいるのは、パワプロのボールを受ける機会を1つも逃さない様にという見事なまでの自分本位な理由である。

 

例えクリスが相手だろうとパワプロのボールを受ける機会を譲る気は微塵も無い。

 

こういった図々しさもアスリートに必要な才能の1つと言えるだろう。

 

「お前、練習前はともかく、練習後のケアはしてないだろ?」

「…。」

 

御幸の指摘に降谷はプイッと顔を背ける。

 

「そういうケアの意識も出来ないと、パワプロを超える事は出来ないぞ。パワプロはリトル時代からずっと続けてきてるんだからな。」

 

御幸がそう言うと降谷だけでなく、東条も驚いた表情でパワプロを見た。

 

「葉輪さん、本当ですか?」

「うん、本当だよ。俺の父さんは野球経験者だったから、そこら辺はずっと言われてきたね。」

 

そう答えながらもパワプロは立ち上がる。

 

どうやら朝練前のストレッチが終わったようだ。

 

「よし!今日も楽しんで練習を頑張ろう!」

 

そう言いながら笑顔になったパワプロに続く様に、御幸や東条、そして降谷も立ち上がったのだった。




次の投稿は11:00の予定です。

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