沢村の投球テストが終わって、最後に東条の投球テストが始まった。
東条はフォーシーム、チェンジアップ、ツーシーム、スライダーをコントロール良く投げ込んでいく。
コントロールの精度はノリと同じぐらいかな?
フォーシームの球速は…130km近い?
うん、いいピッチャーだ。
でも、なんか投げ込む姿に違和感というか物足りなさがあるんだよなぁ…。
なんというか…ボールを置きに行っている感じ?
そんな事を考えながら東条の投球テストを記録していると、三度片岡さんに話を振られた。
東条が期待の眼差しで俺を見てくる。
俺は苦笑いをしながら東条に話掛けた。
「東条、あくまで俺が感じたものだけどいい?」
「はい!葉輪さん、お願いします!」
そう言うと東条は綺麗な姿勢で頭を下げた。
そこまで畏まらなくてもいいんだけどなぁ。
「東条、なんというか…ボールを置きに行ってないかな?」
「ボールを置きにですか?」
「うん、コントロールはいいんだけど、なんかしっかりと腕を振っていないというか、リリースの時に強く叩かずに優しく押し出しているというか…はっきり言えばボールに今一つキレが無いって感じかな。」
俺は上手く言葉に出来なくて頭を掻く。
俺の言葉を聞いた東条は肩を落としてるな。
「取り合えず、次はコントロールを気にしないで、強いボールを投げる意識をしてみたらどうかな?」
「は、はい!やってみます!」
肩を落としていた東条がバッと顔を上げて返事をした。
少し動きを確認した東条がプレートに足を掛ける。
そして投げ込んだ東条のフォーシームはさっきまでより質が良くなっているように見えた。
「うん、リリースでしっかりと叩けてたと思う。次はフォロースルーも意識して腕をしっかりと振りきってみようか。」
「はい!」
返事をした東条がまた少し動きを確認してからプレートに足を掛ける。
そして東条がフォーシームを投げ込んだ。
すると…。
パァン!
宮内さんのミットは投球テストをしていた時よりもいい音を出した。
手応えが良かったのか、東条は目を輝かせているように見える。
「片岡監督!もう1球いいですか!?」
片岡さんは東条の申し出に腕を組みながら首を縦に振る。
「アウトローに行きます!」
東条がグローブでコースを指し示しながらそう言うと、宮内さんはコースに寄ってミットを構える。
一度息を吐いてから投球モーションに入った東条がフォーシームを投げ込む。
コースはボールゾーンに外れたけど、ノビのあるいいフォーシームだ。
「ありがとうございます!」
東条は帽子を取って宮内さんや片岡さんに頭を下げる。
そして最後に俺に頭を下げた後、顔を上げた東条は満面の笑顔になっていたのだった。
◆
1年生の体力測定が終わった後日、俺達2年生と3年生の体力測定が始まった。
去年よりもいい成績を出して笑顔になっている人もいれば、あまり変化が無くて落ち込んでいる人もいる。
俺は能力で成長が目に見えるから、他の人よりも強く成長を実感出来るのがいいな。
おかげで練習が楽しくて仕方がない。
もっとも、野球そのものが大好きだから練習は楽しいんだけどね。
そんな事を思いながら50m走や遠投に打撃テストを行い最後の投球テストが終わった時に、俺の脳内に例の機械音が鳴り響いたのだった。
◆
ピロン♪
体力測定の最後の投球テストが終わったその時、俺の脳内にいつもの機械音が鳴り響いた。
俺は能力を使って通知を確認する。
『一定年齢への成長と一定以上のポイント使用を確認しました。成長限界の一部を解放します。』
成長限界の解放とな?
今までは所属カテゴリー毎に決まっていたと思ったんだけどな。
俺は通知の詳細を確認していく。
『球速の成長限界が160kmまで解放されました。』
『変化球の第4球種目の取得が解放されました。』
おぉ!?160kmまでいけるのか!
それに第4球種目の変化球の取得も出来るのは本当に嬉しい!
これで余ると思っていたポイントを使いきる事が出来そうだ。
いや、150kmを超えてからの成長に必要な使用ポイントは跳ね上がっているから足りないかもしれない。
それに第4球種目の変化球でも凄いポイントを使うだろうしな。
まぁ、これからも練習や試合でポイントは手に入るからなんとかなるか。
俺はこれからの能力成長をどうしていこうかと考えると、自然に笑顔になったのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。