「次、沢村くん。」
「ワハハハ!待ってました!」
降谷の投球テストの次は沢村の投球テストみたいだな。
うん、相変わらず騒がしい。
「ボス!見ていて下さい!葉輪先輩を超えてエースの座を掴み取って見せますから!」
「始めろ。」
沢村の宣言に対して片岡さんは冷静に言葉を返す。
流石片岡さん、大人である。
沢村はマウンドに立つと、去年の学校見学の時に見せた足を大きく上げる投球フォームでボールを投げ込む。
うん、沢村のボールはやっぱり微妙に動いているな。
宮内さんも捕りにくそうだ。
「沢村くん、他に何かあるかしら?」
「ウッス!真っ直ぐ行きます!」
そう言うと沢村はフォーシームを投げ込んだ。
うん、ムービングボールを見た後だからか、フォーシームがより伸びている様に見える。
球速は…130km台ってところかな?
コントロールもストライクを投げ込めるぐらいはあるみたいだし、ムービングボールの変化を制御出来る様になったら面白いだろうなぁ。
そんな事を考えながら沢村のピッチングを記録していると…。
「葉輪、沢村のピッチングで何かあるか?」
降谷の時と同じように片岡さんにそう聞かれた。
「さぁ!遠慮せずにアドバイスを!」
沢村は『come on!』とでもいうように両手で招くジェスチャーをしている。
まぁ、気になるところはあったんだけどね。
「それじゃ、1つだけ。沢村、投げる時に身体が開くのが早いように見えるよ。」
「身体が開くのが早い?」
そう言いながら沢村は腕を組んで首を傾げた。
「多分だけど、降谷のボールを見て、自分も速いのをって意識したんじゃない?」
「うっ!なぜそれを!?葉輪先輩はエスパーだったのか!?」
いや、エスパーじゃないよ。
転生者ではあるけどね。
「それで、どうすればいいんですか!?」
「ん?投げるときに身体を開かない様にすればいいと思うけど?」
「そのやり方を!」
それを教えると投球フォームをいじる事になると思うんだけど…いいのかな?
「イメージとしては右手で壁を作るかな。」
「右手で?」
「そう、こんな感じで。」
俺が軽く実演して見せると、沢村が同じような動きを始める。
ん?周りを見ると他の1年生も左右は違っても同じ動きをしてるな。
暇なのかな?
「右手の使い方でコントロールが良くなったり、ボールのキレが良くなったりもするから、色々と試してみたらいいと思うよ。」
「オッス!」
元気よく返事をした沢村が少し動きを確認した後にプレートに足を掛ける。
足を大きく上げた沢村が踏み込んだ後、右手のグローブを潰す様にして身体に溜めを作る。
そしてその溜めを一気に解放すると、腕をしならせてボールをリリースした。
パァン!
沢村のボールを捕球した宮内さんが驚いて目を見開いてる。
宮内さんの目には沢村の投球フォームはどう見えてたのかな?
「おぉ…おぉぉぉぉおおおお!?」
今の一球を投げ込んだ沢村は自分の左手を見ながら声を上げてる。
いい感触だったのかな?
「キャッチャー!早くボールを!今の感触を忘れない内にボールを!」
沢村の要求で捕球姿勢のまま固まっていた宮内さんが返球した。
戻ってきたボールを左手に持った沢村は、ボールを見ながら笑みを浮かべている。
投げるのって楽しいよな。
その後、沢村は新しい投球フォームで2、3球投げ込んだんだけど、ストライクゾーンに投げ込む事は出来なかった。
どうやら新しい投球フォームはコントロールが課題のようだな。
それを見ていた片岡さんは、沢村に明日からタイヤを牽いて走れと指示を出した。
先ずはピッチングの基本となる足腰を作れだってさ。
指示を受けた沢村は「了解です、ボス!」って言いながら敬礼をしてる。
元気だねぇ~。
片岡さんはその指示を出した後、沢村の投球テストの終わりを告げた。
沢村はもっと投げ込みたかったみたいだけど、まだ東条の投球テストが残っているからな。
やる気十分なのに投げられない沢村は頭を抱えて悶絶し、沢村のピッチングを見ていた降谷が対抗心を燃やす様に右肩をグルグルと回したのだった。
次の投稿は午後3:34の予定です。