春の高校野球選抜全国大会の1回戦を勝った青道は順調に勝ち上がっていった。
2回戦で先発した丹波は7回2失点の好投を見せてマウンドを降りた。
5点差の8回のマウンドに上がった川上は1イニングで2失点してしまったが、8回からクリスと交代した御幸に何度も声を掛けられた事で、落ち着いて1つずつアウトを重ねていった。
9回には伊佐敷がマウンドに上がって3人でピシャリと抑えて7ー4で2回戦を勝ち上がった。
3回戦は夏の甲子園の決勝で戦った巨摩大との試合で、この試合にはパワプロが先発した。
青道打線は巨摩大の継投策の前に中々得点を奪う事が出来なかったが、パワプロがノーヒットノーランの快投を見せて2ー0で3回戦を勝ち上がった。
そして準決勝となる4回戦は伊佐敷がマウンドに上がった。
試合前の練習中に丹波が指のマメを潰してしまったからだ。
突然のチャンスであったが、伊佐敷は甲子園での先発のマウンドで躍動する。
新たに身に付けた脱力する投球フォームで相手チーム打線に凡打を量産させていったのだ。
6回を投げて1失点の好投を見せた伊佐敷がマウンドを降りると、6点差を貰った7回のマウンドに川上が上がった。
川上は7回は三者凡退に抑えたのだが、8回にスリーランホームランを打たれてしまい、悔しそうに表情を歪めた。
スリーランホームラン被弾後、ツーアウトながらランナーを2人出してしまった川上はここでお役御免となってしまった。
一発出れば同点の場面でマウンドに上がったのはレフトの守備についていたパワプロだ。
パワプロがマウンドに上がると、相手チームは悲壮な表情を見せた。
必死に食らいつこうとする相手チームの打者をパワプロがあっさりと三振に抑えると、ここで相手チームは完全に力尽きてしまいゲームセット。
準決勝は9回の表に青道が追加点を加えた事で8ー4のスコアで青道が決勝戦へと進んだ。
そして午前中に行われた準決勝第1試合を勝ち上がった青道の皆は、午後から行われる準決勝第2試合の稲城と大阪桐生の試合を見学するのだった。
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稲城と大阪桐生の試合は9回まで進んでいた。
「まさかここまで縺れるとは思わなかったな…。」
御幸の言葉にパワプロと貴子が頷きながらスコアボードに目を向ける。
状況は9回裏の大阪桐生の攻撃で2ー2の同点、ツーアウト、ランナー3塁、バッターは4番の館。
「まぁ、鳴の球威も落ちてるし、敬遠だろうな。」
御幸の言葉にまたパワプロと貴子が頷く。
今大会、稲城の成宮は1人で投げ抜いて来た。
そして準決勝であるこの試合で、大阪桐生は成宮に球数を投げさせるべく待球作戦を用いた。
成宮の息が上がった後半に勝負と決めていた大阪桐生は試合の前半は0ー2で稲城に負けていた。
しかし、エースで4番の館が力投を見せてそれ以上の失点は重ねなかった。
そして7回、肩で息をする様になった成宮の姿を見て大阪桐生は反撃に出た。
だが、成宮も秋の大会で青道に勝った事で成長しており、逆転は許さずに同点で踏ん張った。
そして9回裏の今の状況となる。
稲城のキャッチャーである原田がマウンドからキャッチャーボックスに戻ると、座らずに立ったままボールを要求した。
誰の目にわかる敬遠の合図だった。
大阪桐生の応援団からブーイングが上がる。
成宮は大きく肩で息をしながら1球、2球と敬遠のボールを投げていく。
しかし、3球目のボールで悲劇が起きた。
「あっ!?」
誰かの悲鳴の様な声が上がる。
なんと、成宮が暴投してしまったのだ。
準決勝まで1人で投げ抜いて蓄積した疲労と、この試合での体力的、精神的な疲労が重なり、成宮は気力だけで投げていた状況だった。
その状況で敬遠を選択した事で、成宮の集中力は完全に途切れてしまった。
大きな疲労と集中力の欠如、この失投に繋がる土壌は出来上がっていたのだ。
大阪桐生の3塁ランナーが全力で走り出す。
成宮は本能的にホームカバーに入ろうとするが、足が縺れて転んでしまう。
そして顔を上げた成宮の目に、ホームベース上で拳を突き上げた大阪桐生のランナーの姿が映ったのだった。
次の投稿は午後3:34の予定です。