『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

141 / 291
本日投稿4話目です


第139話

パァン!

 

「おっしゃあ!」

 

青道高校のブルペンにて威勢の良い声を上げるのは、新しい変化球に

挑戦をしている伊佐敷である。

 

「伊佐敷、身体を開いて曲げようとするな。シュートとナチュラルシュートは別物だぞ。」

「はい!」

 

落合の指摘を改善しようと伊佐敷は少し身体を動かしながら確認する。

 

(伊佐敷の持ち球を考えれば利き腕とは逆方向の変化球が欲しかったんだが、

 これはこれでありだな。)

 

顎を上げて片手で髭を扱きながら伊佐敷を観察する落合は、伊佐敷の現状をそう評価する。

 

先程落合は伊佐敷の新変化球をシュートと言ったが、正確にはツーシームである。

 

ツーシームの握りの指を一本外して横方向の変化を大きくしたツーシームが、

伊佐敷の新変化球なのだが、同じ名称で紛らわしいと伊佐敷が言った事で、

クリスが提案して便宜上シュートと呼称しようとなったのである。

 

セットポジションから投げ込んだ伊佐敷のシュートが、真ん中付近から一気に

右打者の内角に食い込む様に変化する。

 

パァン!

 

伊佐敷のボールを受けるクリスも、伊佐敷のシュートのキレにマスクの奥で笑みを浮かべる。

 

「どうだぁ、クリス!」

「贅沢を言えば変化をもう少し打者よりにしたいな。」

「あん?どうすればいいんだ?」

「曲げようとする力よりも前に投げる…いや、伊佐敷の場合は叩き付ける力を

 メインにするべきだな。」

「おっしゃあ!任せとけ!」

 

クリスの助言に従って伊佐敷がリリースのイメージを変えてシュートを投げ込む。

 

すると、伊佐敷のシュートは変化がより打者に近寄ってから始まり、

落合をも驚かせるキレを見せた。

 

(いやはや…。単純と言えば言葉が悪いが、助言を素直に受け入れるこの向上心の高さは

 葉輪に勝るとも劣らないな。)

 

落合の頭の中に青道の投手陣のデータが浮かび上がる。

 

(伊佐敷の適正は抑えだと思っていたが、丹波と第2先発の座を競わせてみるのもありだな。)

 

後日に行われる紅白戦での起用に頭を悩ませる落合は、頭をガシガシと掻きながら

ブルペンを後にしたのだった。

 

 

 

 

成長の兆しを見せる者がいれば逆に伸び悩む者もいる。

 

その1人が青道高校野球部キャプテンの結城 哲也だった。

 

「哲さん、行きますよ!」

 

紅白戦に出れない分、打撃投手をする事にしたパワプロが打席に立つ結城に声を掛けた。

 

「あぁ、頼む!」

 

バットを構えた結城にパワプロが独特な投球モーションからボールを投げ込む。

 

すると…。

 

「…くっ!」

 

上体が突っ込んだ形で中途半端にスイングした結城が、パワプロのチェンジアップを

空振りしてしまった。

 

「葉輪!もう1球頼む!」

 

結城の要求でパワプロがチェンジアップを投げ込むと、結城はまたしても

空振りをしてしまった。

 

そう、結城が伸び悩んでいる原因はチェンジアップを打てない事だ。

 

現代の魔球と言われるチェンジアップの厄介なところは、一般的に速球と

腕の振りが同じところだと言われている。

 

だが、結城にとってそれ以上に厄介なところはチェンジアップの軌道であった。

 

変化球の中には一度、投手のリリースポイントから浮き上がる様な

軌道から変化を始めるものがある。

 

それと比較すると、チェンジアップはリリースポイントから途中まで、

速球と軌道が変わらないのである。

 

速球と同じ軌道で来ていたボールが途中から急に来なくなる。

 

この感覚に結城は苦戦を強いられていた。

 

そして夏や秋の大会で成宮のチェンジアップに翻弄された結城は、

次こそは打つと闘志を燃やしているのだ。

 

「御幸、お前はどう対処している?」

 

打席で思い悩む結城はパワプロのボールを受けている御幸に問い掛けた。

 

「そうですねぇ、グリップが残っていれば何とかなりますよ。」

「グリップか…。」

 

御幸の助言を実行する様に結城は打撃フォームを確認する。

 

「哲、待ってるんだから早くしてよね。」

 

そう言うのは常に微笑みを絶さない表情でバッティングケージの裏で見ている小湊である。

 

小湊はどちらかと言うと伸び悩む者ではなく、成長途上の者である。

 

元々バッティングにおけるカットが得意であった小湊だが、東のフルスイングによるカットに

刺激を受けて新たな境地に挑戦しているところなのだ。

 

「すまない、小湊。」

 

そう言いながらも結城は打席でバットを構える。

 

それを見た小湊は肩を竦めた。

 

「御幸、もっと厳しいコースを要求してよ。哲がバットを振りたくなくなるぐらいにさ。」

「望むところだ。」

 

そんな先輩達のやり取りに御幸はマスクの奥で苦笑いをする。

 

だが、先輩達の向上心に負けていられないと思った御幸は、

気合いを入れ直してミットを構えたのだった。




次の投稿は午後3:34の予定です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。