『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です


第137話

肩を作り終えたパワプロが投げ込みを始めようとしていた。

 

打席には東が入り、打撃練習も兼ねている。

 

パワプロは夏の大会以後に東を相手によくこの練習をやっているのだが、

この練習には1つだけルールがある。

 

それは基本的に3打席勝負で一区切りという事だ。

 

3打席勝負を終えたらそこでお互いに勝負の感想を言い合ったりする。

 

例えば、これが良かった、あれをやられて嫌だったといった感じにだ。

 

他にもキャッチャーを交えて配球の意図を話し合ったりもして

技術向上の糧にしていっているのだ。

 

「東さん!始めます!」

「おう!」

 

沢村と東条がバッティングケージの後ろで見守る中で始まったパワプロのピッチング。

 

その初球はインハイへのフォーシームだった。

 

パァン!

 

フルスイングする東のバットの上を超えたパワプロのフォーシームが、

御幸のミットに吸い込まれる様にして納まる。

 

この1球に沢村は目を見開いた。

 

先程、自分が打たれたコースに投げ込んで東から空振りを奪ったからだ。

 

東が振り向いて睨むようにして御幸を見る。

 

「さっきのお返しやろ?性格の悪い奴や。」

 

そんな東の一言に御幸はマスクを被ったまま歯を見せて笑っている。

 

「先日、クリスさんが受けていた時にパワプロからデカイのを打ったんですよね?

 なら、俺は東さんにデカイのを打たせませんよ。」

「おう、望むところや。」

 

1打席目はパワプロが東を三振に抑え2打席目の勝負が始まった頃、パワプロのボールの

キレや変化量にばかり注目していた沢村がある事に気付く。

 

(あれ?さっきから全然ミットが動いてないよな?)

 

パワプロはフォーシーム、カーブ、チェンジアップ、スライダーを次々と御幸が構える

ミットに寸分違わずに投げ込んでいく。

 

(…嘘だろ?)

 

沢村もピッチャーであるのでパワプロがやっている事の凄さを理解してしまった。

 

驚愕する沢村の前で、パワプロは3打席連続で東を三振に抑えるだけでなく、

全球を御幸の要求通りに投げ込んでみせた。

 

(何球連続でピンポイントで投げ込むんだよ!?)

 

3打席勝負が終わって一区切りとなりパワプロと東、そして御幸が話し合いを始めると、

沢村はプハァーと息を吐く。

 

「すげぇ…。」

 

そう呟いた沢村は、手が震えているのに気付いた。

 

そして震えている手を見詰める沢村の脳裏に東の言葉が甦る。

 

『追い掛けがいがある男やで。』

 

沢村は震えを止める様に拳を握り締めると、東の言葉を振り払う様に頭を振るのだった。

 

 

 

 

東さんと勝負を続けていると、いつの間にか東条と…えっと、沢…田?だったっけ?

 

とにかく、学校見学に来ていた2人が帰っていた。

 

そして三度目の3打席勝負が終わったところでノリも交じえて話し合いをしていた。

 

「さっきの打席のヒットやけど、あれは無しやな。」

「え?東さん、なんでですか?」

 

東さんの言葉に俺が疑問の声を上げると、東さんは腕を組んで話始めた。

 

「俺もスライダーを上手く運べたと思っとるが、あれは金属バットだったからや。

 あんだけ根っこで打っとったら、木製バットやったら間違いなく折れとる。

 そしたら打球には勢いが無くて内野の間を抜けへんやろう。」

 

既にプロでの打撃を考えている東さんの姿に、ノリが目を

輝かせながら拍手を送っている。

 

「なら、今日の勝負はパワプロの完封ですね。」

 

そう言う一也に東さんは呆れた様な目を向ける。

 

「よし、後で先日リードして打たれたクリスさんに今日の結果を自慢しよう。」

「性格が悪すぎるわ!」

 

東さんのツッコミで皆が笑った。

 

そして笑いが収まると、ふと東さんが思い出した様に話し始めた。

 

「おもろい奴やったな。」

「誰がですか?」

「沢村や。」

 

沢村?

 

俺が首を傾げると東さんが苦笑いをしながら教えてくれた。

 

「俺と1打席勝負をした奴や。」

 

あぁ、あいつは沢村っていうのか。

 

俺の反応を見た東さんが呆れた様にため息を吐く。

 

「相変わらず人の名前を覚えられん奴やな。」

 

なぜか昔から人の名前を覚えるの苦手なんだよね。

 

俺が頭を掻くと一也とノリが笑った。

 

「それで、東さんは沢村をどう思いました?」

「今んところポテンシャルだけで野球をやっとるな。せやけど、負けん気と

 投げっぷりはいい奴やった。」

 

一也の質問に東さんはそう答えた。

 

「沢村が来年、青道に来るのかはわからんけど、来たらおもろいやろうな。

 川上、うかうかしてられへんぞ。」

「はい!」

 

ノリがしっかりと返事をすると東さんは大きな声で笑った。

 

「それじゃ休憩は終わりや。川上、肩はまだ冷えてへんか?」

「はい、大丈夫です!」

「せやったら次は川上に相手を頼むわ。サイドスロー相手の経験も積んでおきたいんや。」

 

東さんの指名を受けたノリは笑顔になる。

 

そしてノリは東さん相手に1球1球を丁寧に投げ込んでいったのだった。




次の投稿は11:00の予定です

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