『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です


第134話

青道高校の学校見学に訪れた沢村と、後輩の指導をしていた東の1打席勝負。

 

カウントはワンボール、ノーストライクの状況。

 

沢村のボールを受ける御幸はアウトコースにミットを構えた。

 

(沢村の制球力がどの程度かわからないからな…。とりあえず、アウトコースで

 しっかりと腕を振らせて様子見だな。)

 

御幸が構えたコースに投げ込むべく沢村が振り被る。

 

そして右足を胸元まで大きく上げ、爪先立ちになった左足に体重を乗せると、

しっかりと踏み込んで左腕を振った。

 

バシンッ!

 

沢村のボールを捕球した御幸のミットが心地好い音を響かせる。

 

(あれ?俺のボール、走ってる?)

 

御幸のミットが鳴らした音に、沢村の気持ちが高揚して口角がつりあがる。

 

「入っとるか?」

「入ってますね、東さん。」

「そうか。これでワンボール、ワンストライクやな。」

 

ボールを受けた御幸の判定を冷静に受け入れた東の様子に、御幸は複雑な心境になる。

 

(このワンストライクは予定通り。でも、しっかりと球質を見られたな…。)

 

次の1球に思い悩む御幸の耳に沢村の声が届く。

 

「わはははは!絶好調!ボールを!早くボールを!」

 

左腕をグルグルと回すリアクションをしながらボールを要求する沢村の姿に、

御幸はマスクの奥で苦笑いをした。

 

(ったく、その元気が頼もしくてなによりだよ。)

 

ボールを返球した御幸は、横目で東を観察しながら次の1球を決断するのだった。

 

 

 

 

(生意気な小僧やが、ええ投げっぷりやないか。)

 

沢村の2球目を見逃した東は、沢村が投げ込んだ1球をそう評価する。

 

投球モーションに入った沢村にタイミングを合わせた東は、

アウトコースに投げ込まれた3球目のボールに対してバットをフルスイングする。

 

カキンッ!

 

金属バットの快音が鳴り響いてボールはライト方向へと飛んでいく。

 

沢村が打球の行方に勢いよく振り向くと…。

 

「安心せぇ!ファールや!」

 

東の言葉通りに、打球は切れていってファールとなった。

 

だが東が打った打球の飛距離は、球場ならば間違いなくスタンドインする程の大飛球だった。

 

「うおぉ!ゴリラだ!ゴリラがいる!」

「アホか!力だけで逆方向に飛ばせるわけないやろ!」

 

沢村の言葉にツッコミを入れつつ東は打席を外して素振りをする。

 

(2球目はカット、3球目はツーシームの様な変化をしよった…。

 中々ややこしいボールを放るやんか。)

 

素振りを終えた東は打席に入るとニヤリと不敵に笑う。

 

「やる気出てきたわ。大人気ないかもしれんけど、本気でやらせてもらうで。」

 

そう言ってバットを構えた東は、実戦の如く集中を高めたのだった。

 

 

 

 

カウントがワンボール、ツーストライクとなった沢村と東の勝負は、

そこからファールの連続となった。

 

沢村の球質を活かそうと御幸が左右に巧みにコースを散らしていくが、

東はその全てをバットに当ててみせた。

 

一見すると紙一重の勝負に見えるが、東は余裕を持って沢村のボールをカットし続けていた。

 

夏の大会が終わって青道高校野球部を引退した東は、引退した後も

青道高校野球部で練習を続けている。

 

そして機会さえあればパワプロに打撃投手を頼んで、自らの打撃技術を磨き続けているのだ。

 

そんな東のパワプロとの勝負成績は良くない。

 

いや、ハッキリ言えば悪い。

 

打率で言えば2割を下回ってしまっているのだ。

 

パワプロのボールは東から見ても全てが一級品である。

 

そんなパワプロのボール全てに対応しようと思っても中々バットは快音を鳴らさない。

 

そこで東はバッティングにおけるカットの技術を磨く様になった。

 

東の信条であるフルスイングを変えずにカットの技術を覚える。

 

これはドラフト上位指名確実と言われている東をして至難の業だった。

 

一時期はパワプロとの勝負における打率が1割を下回ったことすらある。

 

だが東は飽くなき向上心でバットを振り続けた。

 

そして先日、遂にパワプロからホームラン級の打球を打つ事が出来たのだ。

 

東が沢村のボールをカットし続けていく中で沢村も負けじとボールを投げ込んでいく。

 

だが次第にボール球が増えていき、カウントはスリーボール、ツーストライクの

フルカウントまで進んだ。

 

もう後が無い状況。

 

ここで御幸はこの対決で初めてインハイにボールを要求した。

 

この御幸のリードに沢村は今日一番の心の高揚を感じる。

 

その心の高揚のままに沢村が大きく振り被る。

 

そして大きな投球モーションでボールを投げ込んだ。

 

沢村が投げ込んだボールは御幸が要求したインハイに伸びていく。

 

投手の本能なのか、沢村が投げ込んだこの1球は今日初めて投げるフォーシームだった。

 

今日初めて投げるコースに初めての球種。

 

偶然が重なった結果かもしれないが、勝算は十分なはずだった。

 

だが…。

 

カキンッ!

 

東が迷わずフルスイングをして放った打球は、綺麗な放物線を描いて

高々と飛んでいったのだった。




次の投稿は午後3:34の予定です

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