「俺と1打席勝負しろ!それで、俺が勝ったらあの人に謝れ!」
「おう、受けたる。誰か、キャッチャー頼むわ!」
沢村が指差しながら言い放った言葉を東はあっさりと了承した。
「東さん、俺が受けますよ。」
ニヤニヤと面白そうに笑いながら御幸が立候補する。
「任せるわ。それと手を抜いたら、葉輪のボールはクリスに受けさせるで。」
「うへ、それは勘弁してくださいよ。せっかく丹波さんと純さんの相手を
クリスさんと宮内さんに押し付けて来たんですから。」
「なにやっとんねんお前。」
御幸の言葉に東は呆れた様にジト目を向ける。
そんな東の視線を軽く受け流しながら御幸は防具を着用していった。
「それじゃ、あいつに肩を作らせてきますね。」
「おう、素振りでもして待っとるわ。」
東は御幸を見送ると、自身の言葉通りに素振りを始めたのだった。
◆
「お~い、ノリ!こっちこっち!」
パワプロに呼ばれた川上がゆっくりとバッティングゲージの裏にやって来た。
「パワプロ、あいつ誰なんだ?」
「詳しくは礼ちゃんに聞いてくれ。」
パワプロが目を向けた先には高島と東条がいた。
「川上くん、まずはこの子を紹介するわね。」
高島に促された東条が、一歩進み出て背筋を正す。
「松方シニアの東条です!来年から青道でお世話になります!よろしくお願いします!」
「俺は川上、よろしくね東条。」
ニッと笑った川上に東条も笑顔を返した。
「それじゃ、あっちで御幸くんとキャッチボールをしている子を紹介するわね。
あの子は長野の中学校で軟式野球をやっていた沢村くんよ。」
「軟式?」
高島の言葉に川上は首を傾げる。
「実績では強豪の松方シニアにいた東条くんの足元にも及ばないわね。
でも、彼は面白いボールを投げるわよ。」
この高島の言葉に興味を引かれたパワプロ達は、御幸とキャッチボールをしている
沢村へと目を向けたのだった。
◆
「肩は出来たか?」
「おう!もう十分だ!」
「俺、先輩なんだけどなぁ…。」
沢村の返事に御幸は苦笑いをする。
「それで、お前の持ち球は何があるんだ?」
「男なら真っ向勝負!」
「…つまり真っ直ぐしかないわけね。」
御幸はこれでよく東に勝負を吹っ掛けたものだと逆に感心した。
「それじゃコースだけ指定するから、信じて投げてこい。」
沢村の肩を軽く叩いた御幸は駆け足でバッティングゲージに向かった。
(キャッチボールの時のあいつのボール、1球ごとに回転が違ったな。
真っ直ぐしかないって言ってたのに…。)
そう考えた御幸は薄く微笑む。
「なんや御幸、あの小僧になんぞ面白いことでもあったんか?」
「敵に情報は与えませんよ、東さん。」
「か~、性格の悪い後輩や。」
「キャッチャーにとっては誉め言葉ですね。」
打席に入った東が足場を作ってバットを構えると、御幸にも感じ取れる程の威圧感を放った。
(流石はプロ注目選手ですね、東さん。)
心の中で称賛を送った御幸は直ぐに意識を切り替える。
「さて、初球はどうしようかなっと…。」
この程度の囁きで集中を乱せる相手ではないと知りつつも御幸は東の反応を伺う。
御幸は初球をインコースのベルト付近に要求した。
御幸が構えたミットを見た沢村がワインドアップの投球モーションに入る。
大きく足を上げて踏み込んだ沢村がその左腕を振るう。
そしてリリースの瞬間…。
ゾクリ!
悪寒を感じた沢村はボールを地面に叩きつけたのだった。
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