パワプロと伊佐敷が呼び出された場所に到着すると、そこに待っていた落合が話を始めた。
「葉輪、伊佐敷、外野守備をやってみないか?」
「「外野守備?」」
パワプロと伊佐敷は異口同音で声を上げる。
「あぁ、勘違いするなよ、ピッチャーを止めろっていうわけじゃない。」
落合のその言葉にパワプロと伊佐敷はどこか安堵した様な笑みを浮かべる。
「青道の投手事情はお前達もわかっていると思うが、葉輪と丹波の先発2枚と
川上と伊佐敷のリリーフ2枚って感じだ。」
落合は確認をする様にパワプロと伊佐敷に目を向けると、2人は揃って頷く。
「黒士館との試合で経験したと思うが、継投をした時にリリーフが崩れると、
現状の投手起用では対応しきれなくなる時がある。そこで、お前達が投げない時に
外野を守れる様になっていれば、ベンチに下げずにいつでもマウンドに送れる様になる。」
落合は一端言葉を区切るとパワプロと伊佐敷の反応を伺う。
伊佐敷の反応は悪くない。
だが、パワプロの方は良くない。
「わかりやすく言えば、市大三高の真中の様な感じで起用出来る様になるんだが…。
どうだ?外野守備をやってみないか?」
「はい!俺はやります!」
伊佐敷は直ぐに返事をしたが、パワプロは腕を組んで悩んでいた。
「なんだ、パワプロはやんねぇのか?」
「純さん、俺は投手練習の時間が減るんならやりたくないですね。」
そう言うパワプロに落合は「ほう。」と息を吐く。
(練習嫌いの奴は腐る程見てきたが、練習が減るのを嫌がるのは珍しい。)
落合はパワプロに感心しながらも話し出す。
「葉輪、練習は減らないぞ。外野守備練習が増えるだけだ。」
「そうなんですか?ならやります!投げるのが一番好きですけど、他も好きですから!」
そう答えるパワプロの姿に落合は頭を掻きながら考える。
(葉輪は練習のし過ぎに注意しなければならんな。疲労蓄積で怪我とかシャレにもならん。)
余談ではあるがパワプロは特殊能力があるので、どれだけ練習しても怪我はしない。
間違いなく多くのスポーツマンが羨む能力であろう。
こうしてパワプロと伊佐敷の練習メニューに外野守備練習が追加された。
そして、青道野球部の外野陣はポジションを奪われない様に更に練習に励んでいくのだった。
◆
パワプロ達が落合と話をしていた頃、稲城実業の野球部の部室で成宮が愚痴を言っていた。
「雅さん、大丈夫だよ。練習出来るって。」
「成宮、お前は秋の大会を1人で投げ抜いたんだ。秋の神宮大会も控えている。
しっかりと疲労を抜かなければ投げさせん。」
「ちぇっ。」
秋の選抜東京地区大会に優勝した瞬間に成宮が泣いた事は稲城野球部の皆が知っている。
それ故に成宮は燃え尽きたりしないかと考える者が少なくなかったのだが、
当の成宮はやる気に満ちていた。
「成宮、葉輪に勝っても満足してないのか?」
原田の問いに成宮は不満気に眉を寄せる。
「雅さん、青道には勝ったけどパワプロには勝ってないよ。」
成宮の言葉に原田は驚くが、同時に納得も感じていた。
「あいつはノーヒットだったのに俺は4本ヒットを打たれた。
どう見ても投げ勝ってないじゃん。」
「ただ試合に勝つだけじゃ満足出来ないか?」
「当たり前じゃん!俺の方がパワプロよりも上だって証明出来ないし!」
成宮の負けず嫌いに原田は笑ってしまいそうになるのを堪える。
「その割には青道に勝った瞬間に泣いていたみたいだがな?」
「あれは!その…、ちょっと砂が目に入っただけだって!」
成宮のその言い訳に原田は堪えきれずに笑ってしまった。
「あ―――!?雅さんヒデェ!」
「ぷっ!クク…すまん、成宮。」
原田は笑いながらも安堵する。
俺達のエースは大丈夫だと…。
「雅さん、神宮でも優勝するよ。」
成宮の宣言に原田は頷く。
「大会に出るからには当然だ。」
「うん。優勝して、春の選抜に青道を引っ張り出す。そして、甲子園でパワプロに投げ勝って
俺の方が上だって証明してやる!」
そう宣言する成宮に原田は拳を差し出す。
そして拳を合わせた2人は、気合い十分な表情で練習に向かうのだった。
「成宮、お前は見学だ。」
「くっそ―――!!」
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